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3話

 ストレインはそんな二人を見てため息をついた。


「シリウス様の気持ちはわかりました。それなら……」


 何かを決意したように呟き、ストレインが私の方に向き直った。


 その顔は真剣で、なんだか急にドキドキしてしまう。


 ストレインは私の幼馴染で、魔法騎士団の団長だ。


 若く、才能も有り私は昔から尊敬し憧れていた。


 いつも見ていたきらきら光るような茶色の瞳が、私の事をじっと見据える。


 じっと見つめられて、急に濡れそぼった自分の姿が恥ずかしくなってくる。

 何もかもが台無しになっているはずの今の姿。


 婚約者に捨てられ自殺をした、馬鹿な女。


 それを見ても笑うこともなく、ストレインはそっと私の前に跪き、手を取る。


「ミリア、私はずっとあなたの事が好きだった。しかし、あなたは王妃になることが相応しいと思っていた。あなたには才能があり、優しさがあり、強さがあった。そして、そのための努力もしていたのを知っていた。なので、恋心を封印しあなたを応援していた。でも、こんな扱いを受けてまで、そうする必要はない」


 ストレインはぎゅっと目をつむる。そして再び開かれたその目は切望を映していた。


 まさか。


 本当に?

 これは現実なの?


「こんな事になったので、この国にいるのは難しくなるかもしれない。でも私の実力なら、他の国でもやっていけると思う。お願いだ。幸せにしたいんだ。私と結婚してほしい」


 いつも冷静な彼の顔が、不安に満ちている。叶うはずがないと思っているかのように。


 そんな顔をして私の手を取らないでほしい。


 嘘みたいだ。


 私は目が覚めてから、シリウスに仕返しすることしか考えていなかったのに、こんな夢のような展開が待っているなんて。


「本当に? ストレイン。ねえ、私、こんな幸せになってもいいの?」


 私はずっと我慢していた。


 シリウスが他の人を見て、私の事を蔑ろにしても。


 自分にも愛情がないことを言い訳にして、気にしてないと言い聞かせていた。


 本当はストレインが好きだった。しかし、許されないことはわかっていた。

 ただ、二人でお茶を飲む時間が幸せだった。


 それだけでいいと思っていたのに。


「私の手を取って頂けますか?」


 ストレインが、そっとつぶやく。

 私は夢のような気持ちで答えた。


「もちろんです……」


 私の手にキスが落ちる。


 こんな幸せなことがあるなんて。信じられない。

 ストレインが私を好きだったなんて、考えてもみなかった。


 嬉しい。本当に嬉しい。


 すっかり幸せに浸ってしまった私に、現実的な声が届く。


「何を言ってるんだ。こんな女の為にお前は私に仕えるのを諦めるというのか?」


「シリウス様が、レオノア様を選びましたので……。それに、私は国に仕えています」


 ストレインがきっぱりと伝えると、シリウスは激高した。


「馬鹿にしているのか! おい! 誰かストレインとミリアを連れていけ! ミリアも私と婚約中でありながら、ストレインとできていたとは!」


 自分たちの事を棚に上げて言いたい放題だ。

 しかしそれでも王太子の言葉だ。


 あまりの展開に呆然としていた周りもハッとし、動き出した。


 ストレインは私の事を守るように、肩を抱いた。


 わー幸せだなあ。


 肩を抱かれた私はすっかりふわふわした気持ちになった。


 でもこの状況はまずい。


 シリウスはにやにやと笑っている。

 レオノアも隣で、勝ち誇った顔で微笑んでいる。


 それはそれは楽しそうな二人だ。

 

 私はストレインの腕から抜け出し、一歩前に出た。


 展開は決まっていたけれど、ストレインのおかげでさらに勇気が出た。


「シリウス様。私は聖女にはあこがれていませんでした。でも、この国ではとても聖女が重要視されていますね?レオノア様もまるで聖女だと」


 私はゆっくりと告げる。


「そうだ。レオノアは聖女だ。残念だったな。この国に必要なのは聖女なのだ」


「そうですね。聖女が居ればこの国は安泰という話でしたものね」


「聖女に選ばれた私こそ、王の中の王といえるだろう」


 その言葉を聞き、私は二人ににっこりと笑いかける。


 二人は私の笑みに不愉快そうな顔をした。


 二人に見せつけるように、私は片手をあげた。


「ねえ、シリウス様とレオノア様。聖女とはこういうものではありませんでしたか?」

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