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2話

「ミリアは大丈夫なのか?」


 私が訴える気は無いと思ったのか、シリウスが心配そうな顔を作って話しかけてきた。


 怒りで顔が歪みそうになるので、私は下を向いた。


「私は大丈夫です……心配をおかけして申し訳ありませんでした」


 丁寧に礼をするが、ドレスからは水が滴り重い。


 飾り付けられた頭も、濡れて崩れてしまっているだろう。

 綺麗なレースも無残な姿になってしまった。


 ストレインが守るようにそっと私の肩に手を回してくれる。


 その心配する手に、気持ちが和むなあと思ったすぐ後に、とんでもない言葉が聞こえてきた。


「ミリアは聖女になりたいとよく言っていた。今のままでは私には釣り合わないと……。今回このような行動に出たのもそのせいだろう。レオノアに対しても嫉妬で悪口をよく言っていた……私が追い詰めてしまったのかもしれない。あなたに相応しい人になると外に出た時に、気が付けば良かったのだ」


 朗々とよく響く声で、シリウスが後悔するように言い募る。


 そして悔しげにその顔を押さえながら、何故か隣に居たレオノアの肩を抱く。


 どうやら想い人だというのは私の勘違いだったようで、恋人だったようだ。


 レオノアも悲しそうな顔をしながら、彼に寄り添う。


 婚約者が飛び込み自殺をしたという状況で、よくその態度が取れると感心すらする。


 私には穴だらけだと思えるこのシナリオで、二人はゴリ押しするようだ。


 くらくらする。


 倒れそうになる私をストレインが支えてくれる。

 そして、彼はキッとシリウスを睨んだ。


「何が追い詰めてしまったかもしれないだ! ミリアはそんな弱い女じゃない! お前がそういう行動を取らせるような何かしたのではないか?」


 そんな彼の行動を鼻で笑い、更にシリウスは言葉を重ねた。


「次期王である私の隣に立つのは、彼女には重荷だったようだ。確かに実力が伴っているとも言い難い。……私の隣に立つのは、レオノアのような聖女の方がいいだろうと思う」


「なっ……!」


 とんだ発言にストレインは声も出ないようだった。


 断っておくが、レオノアは聖女ではなく白の魔法の使い手だ。


 白の魔法の使い手は回復魔法や補助魔法が得意で、確かに聖女のようだと言われるが、聖女ではない。


 そして白の魔法の使い手自体は他にも居る。その中でレオノアは最も優れていると言わざるを得ないが。


 かつての聖女は国を救ったといわれ、聖女を重要視するのはわかる。


 それでも、この行動はあり得ない。


 ストレインもそう思ったようで、厳しい顔でレオノアに尋ねた。


「レオノア様は、どうお考えですか?」


 レオノアはシリウスの腕にそっと触れながら、震える声で答えた。


「私が聖女かどうかはわかりませんが……シリウス様がそうおっしゃるなら、私もそのようにしたいと思います。シリウス様のご期待に沿えるように、頑張っていきたいと」


 弱そうに見せかけながら、何気に図々しいことを言っている。


 聖女かわからないじゃない。

 白の魔法の使い手で聖女ではないだろ!


 という突っ込みは何故か誰もしない。


「本気なのか……シリウス様」


 衝撃から立ち直ったのか、ストレインが尋ねる。

 ストレインは私を守るように、前に出てくれた。


 問題ないと思っていたけれど、視界からシリウスが消えると、ちょっとほっとした。


 泉に突き飛ばされた衝撃もあり、怒りで他の気持ちなどは感じないと思っていた。

 だけど、やっぱり怖かったようだ。


 それをストレインの優しさが溶かしてくれるみたいで、なんだか嬉しい。


「本気も何も、この通りだ」


 何故か勝ち誇ったように笑って、シリウスはレオノアの手を取った。

 レオノアも手を握り返し、照れたように微笑んでいる。


 なんだこの二人の世界は。


 そして二人して私の事を馬鹿にしたような顔で笑った。

 いい気になっている二人を見て、私は心の底で笑う。


 今に見てろ。

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