別に君のことなんて皆覚えてないよ。
かけていい言葉が見つからずに少女の重すぎる沈黙を飲み込んでいると、全く自分とは違うはずで自分なんかより明らかな理不尽に覆われているはずなのに、なのに母が死んでだれにもその悲しみを打ち明けられないでいた自分とか重ね合わせてしまった。その時なぜか自然と心が口を動かした。
「たぶん僕には君のことを救ってやる力もなければ、君の親父を倒す武力もない、だけどこんな僕でも話し相手くらいだったら務まると思う、こんなときですら受け身になってしまう自分が恥ずかしいな、話す言葉もうまくまとめれないけど
要は「逃げればいいじゃないか」僕だってここへは逃げてきたみたいなもんなんだ。正直十年たったら君のことなんて皆忘れている。
君もみんなも君の父親だって一部品に過ぎない、そんな奴らのことをいつまでも覚えておくことはない僕のことも嫌いになったら忘れていい、どうせたかが部品なら少しでも、ほんの少しでも健気に自分の与えられた境遇で頑張るのも大事かもしんないだけど、部品だって逃げてもいいじゃん正直僕らの代わりなんてどこにでもいるよ,だって僕らはたかが一部品に過ぎないんだから、一緒に大家出しよう。」自分で言って、実に現代人的で最低で怠惰な言葉のオンパレードだと思った。
彼女顔を徐に上げると、ひとりぼっちのイルカが家族を呼ぶみたいに、叫んだんだ僕に向かって、
「うるさいよばか!なにもんなのあなた!何が「これは僕の推理だ」だよ、かっこつけないでほしいなほんと。
人の触れてほしくないところを無断で土足で踏み荒らして、その上逃げようって誘ったと思ったら、君の代わりはどこにでもいるよってあなた人間史上最低だよ、
あなた綺麗だけど恋愛とか苦手だよ多分、もうわからないわからないんだけど」
少し涙目になっていた、彼女のつやリンゴみたいにきれいな赤い目がより光った。
「最初は散歩気分でもいいんだよ、帰りたくなったら帰ってもいいし」
「あなたこんな大事なこと提案しといて、それはないよ!」彼女に冷静さが少し戻った。
しばらく考えたふりをした後彼女は
「なんかあなた一人じゃ心配だしついていきます。私も旅に同行します。」
その時、少し鼻をすすった気がした
言おうかとも思ったが怒られそうなので言わなかった。