自転車
よくわからないけど、自転車に乗った僕はサラサラと流れていく川を眺めていると、突然走り出したくなった。
自転車の上で背を曲げて、なんかこう、遠くを見据える感じで目をキリッと細める。
河川沿いには動く障害物がいっぱいだ。それぞれが釣りをしたり、そして子供を連れたり、僕と同じように自転車に乗ったり。
「よしっ。」
汗と泥で汚れたユニフォームの半袖をさらに捲りあげて、タンクトップみたいにする。
けど暑いんだ。
だから走る、僕は。
位置について………
よーい。
ドンッ!!
まるで自分はオリンピック選手化のように自転車を漕ぎ出す。
子供連れのおじさんの笑い声、河のザーッとしたせせらぎ。犬の鳴き声。そして自分の顔めがけてやってくる突風。
お腹も鳴った。
匂いなんかどうだろう。
僕の汗の匂い。河の匂い。民家からのご飯の匂い。
自分が横切っていくすべての音と匂いが重なって、まるでオーケストラのようで気持ちよかった。
一日中の疲労なんて笑い飛ばしてくれるくらい気持ちよかった。
時に盛り上がって、訪れる静寂。そしてまた奏でられる音色と香り。そしてラストスパートの寺の鐘の音と親ガラスの鳴き声。デクレッシェンドの入った蝉の声。
みんな帰るんだ。
そして、僕も。
風に負けない、と精一杯開いた視界の向こうの真っ赤な夏の太陽は、ウトウトして地平線の布団に潜り込もうとしてる。
今日も一日お疲れ様。
また明日。