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     挿絵(By みてみん)



最初に無限の闇があった。


女神は闇を宇宙と名付け、その中に星々を浮かべた。


女神が星の一つに降り立つと、天と地を分け、昼と夜を定めた。


天には雲を浮かべ海には水を満たす。


風が吹き渡り雨が地を濡らす。


大地が緑に覆われると、鳥が歌を歌い、獣が野を駆け回った。




それから色々あって女神は人を創った。


人は火を起こすことを知り、文字や道具を生み出して文明を築いた。


それを見届けた女神は「疲れた」と言って寝た。




久々に目を覚ました女神は世界を見下ろした。


すると地上には凶暴な『魔物』が蔓延り人々を苦しめていた。


女神は試作した魔物を処分しておくのを忘れていたのだ。


女神は魔物を倒せる『武器』を人に与え身を守らせた。


疲れた女神は再び寝た。




久々に目を覚ました女神は世界を見下ろした。


地上では悪虐な王が、絶大な力を持つ剣によって人々を虐げていた。


女神が創った武器の一部が、数値設定がイカれていたのだ。


女神は剣に打ち勝てる『魔法』を人々に教え身を守らせた。


疲れた女神は再び寝た。




久々に目を覚ました女神は世界を見下ろした。


地上では狂った魔法使いたちが生体実験を繰り返していた。


女神は自然法則へのアクセス権を制限していなかったのだ。


女神は実験で生まれた生物に『知恵』を与え自由をもたらした。


疲れた女神は再び寝た。




久々に目を覚ました女神は世界を見下ろした。


地上ではかつての実験生物たちが『魔族』となり、世界を侵略していた。


女神は彼らに具体的な目的を設定していなかったのだ。


女神は人々の中から選びぬかれた戦士に『勇者』の称号を贈った。


勇者には数値のイカれた武器と、自然法則を捻じ曲げる魔法と、生き抜くための知恵が与えられた。


疲れた女神は再び寝た。




女神は強烈な爆発音で飛び起きた。


見れば女神の世界に大穴が空き巨大な炎が吹き上がっていた。




地上では人類を代表した『勇者』と、魔族を率いた『魔王』の決戦が行われていた。


勇者は狡猾だった。


大義の名の下、人々から物資を徴収することは当たり前。


錬金術で資金を無尽蔵に増殖させ世界経済を狂わせる。


装備システムの粗を利用して武具を多重装備し、それら全てに魔法を付与していた。


異次元を旅した勇者は規格外の性能を持つ武具や魔法を世界に持ち込むこともした。


能力や持ち物の所持枠も上限を破ると、いつしか勇者の存在は重くなりすぎ、彼が歩くだけで周囲にラグが発生するようになった。




勇者の能力はすでにチートじみていたが、魔王も同レベルの脅威だった。


計算式を狂わせて自己をカンスト強化するなどは些末なこと。


自然法則を改変して配下の魔物を無限増殖させ、


あるいは魔物を合成して更に強力な怪物を生み出しまた増殖させる。


必要となる物資、食料もシステムを違法改造してカンストさせ、それらを高速で転移させることもできた。




勇者が魔王の城に乗り込み決戦である。


数十億を超える魔物の群れが勇者を襲うも、その動きは処理落ちが激しく統率など皆無であった。


勇者が剣を一振りするたび魔物の群れが大量死し、負荷が軽減してラグが少し収まった。


魔王軍四百万天王も迎撃するが勇者を止めることはできない。


これら時間のかかる作業を勇者は一分の集中力も欠くこと無くやってのけた。


かくして勇者を阻むものは魔王一人となった。




戦いは壮絶なものとなった。チートな二人が動くたびにラグが発生し世界の法則が乱れた。


魔王の放つ魔法は一撃で島一つ消し去るが、勇者は無敵時間やテレポートを利用してこれを避ける。


勇者の剣は空間ごと魔王を切り裂くが、魔王は残機が無尽蔵にあるためその程度では死なない。


次第に二人は力を解放していき過負荷を受けた世界が悲鳴を上げた。


空のテクスチャが剥がれ稲光が奔る。世界が熱暴走し火山から溢れ出す。


それでも二人の戦いは終わらない。二人とも動きがラグだらけでグダグダになってきたのだ。




やがて死闘が終わる前に星そのもののがクラッシュした。


勇者と魔王が最大の必殺技を放った瞬間、星にかかる負荷が限界を超えたのだ。


二人を中心に大爆発が起きた。その炎は天を灼き衝撃波が世界を駆け巡った。


大地が鳴動し海が猛り狂い、そして空が涙を流した。


それが、女神の目に映った世界の様相だった。




かくして地上は災厄に見舞われた。


女神は方々手を尽くしたが星の悲劇を食い止めるので精一杯だった。


山が崩れたか。森は焼かれたか。大地も流されたろう。


家がなぎ倒されたろう。町が燃えたろう。多くの生命が失われただろう。


だが巻き上げられた粉塵が空に舞い上がって雲を成し、天上からでは観測することも出来なくなった。


確かなことは、世界から勇者と魔王が消え、後には大きな傷跡が残ったということ。


女神は「もうマジ無理」とこぼしたあと頭を抱えながら布団にくるまった。




……




それから少し経ち。


女神はふと目を覚ました。


地上を見下ろすと、彼女の創った星は灰色に包まれている。


かつて美しかった海の青、豊かだった地の緑も今は厚い雲により見えない――そう思われた。


雲にいくらか切れ目が生じていた。あれから時が経ちいくらか薄れたのだろうか。


今は隙間隙間から大地の様子が垣間見える。


女神は地上を観測しようと身を乗り出した。


すべっ




「――あ」




視界が回転した。手足が空を切る。女神の身体は宙に放り出されていた。


視界には灰色の雲。遥かなる下界。


身体が引力に引っ張られているのを確かに感じた。


女神は今、彼女自身の創った星に落下していた。


(――これが)


雲間から覗く大地の姿。


(私の)


未だ傷跡が生々しい世界。女神は手を伸ばし虚空を掴む。


目に涙が滲むもすぐに飛ばされていく。やがて身体は大気の摩擦熱に包まれ――

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