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11話:勇者の残照

◆あらすじ

拾ったメイスを鑑定してみたら最強装備だった件。

「勇者……生誕の、地ぃ……?」

「そういえば、このオーキー村でかの勇者が生まれたんだったか」


 看板の文を見て反応する二人。

 カイはこの村の話題を思い出し得心顔だったが、逆にアッシュは怪訝な表情で看板をジロジロ見ていた。


「前にも思ったが、勇者の話に良い顔しないよな」

「う~んあの男はねぇ……ちょっと」


 何か言おうとしたが、村の中から誰かが近づいてきたため会話は途切れた。

 馬に乗ったその人物は気配に隙が無い。弓などで武装した姿からハンターだろうかと検討がつく。


「お二人さん旅人かね?」

「ええ。あなたはこの村のハンター?」

「そうだ。普段は見回りのようなことをしていてな、村に入る奴を見張っている」


 そのためカイとアッシュのこともチェックに来たが、カイの服装からすぐに聖火隊とわかるため、いくつか確認しただけで村に通された。


「だがあんたら、タイミングの悪い時に来たな」

「何かトラブルでも?」

「なぁに、内輪もめで宿が取れないってだけだ」

「宿が?」


 ハンターは村を案内しながら事情を聞かせてくれた。


 先月、村で最大の宿屋を経営する男が急病で亡くなってしまったのが始まりだ。

 男には一人息子を除いて家族は無く、その息子も「冒険者になって広い世界を旅する」と言い出し、大喧嘩の末に村を出て行方知れずという。


 宿には数名の従業員がいたが、そのうち古株ニ人がそれぞれ宿を受け継ぐと主張し始め争いとなった。主人の葬儀が終わってすぐのことである。


「おかげで宿は休業状態さ」

「えぇ……その息子さんは見つからないの?」

「村を出て数年経つし、今この御時世じゃ長生きするのは難しいからな」


 一応訃報を知らせようと探してはいるが、結果が出るには時間がかかる。

 見つかった息子が宿を継ぐ意志を持っているかは不明だが、場合によっては跡継ぎ争いが二人から三人に増えるだけともなりうる。


 だが通りすがりのカイたちがそこまで心配する必要は無いだろう。


「どこか泊まれるところはあるんですか?」

「小さな宿もあるにはあるが、商人とか旅人で埋まっているだろうな」

「テントが張ってある……宿からあぶれたら人たちか……」


 村の一角に旅人やキャラバンの集まったテント村が出来上がっていた。

 見たところ焚き火などは共有し、共に料理を作りつつ情報交換などもしている様子だ。夜になれば魔性が湧き出るやもしれず、集団で備えることは合理的でもある。


「たくさんの人で焚き火囲んだりしててさ、あれはあれで楽しそうだけど」


 アッシュはそう言うが、カイとしては昼間に怪我したばかりの彼女を一度落ち着ける場所で休ませたかった。




「おや、その人らは今来たところかな?」


 声がした方を見てカイとアッシュは一瞬ギョッとした。そこには片手に大鉈を持ち、作業服を血に染めた老人が立っていたのだ。


「村長、あなたも解体に?」

「あぁ、手伝っとったのよ。すごいぞあのサーベルボア、肉が引き締まっとってな。今晩さっそく料理してみるわい」

「村長……?」


 ハンターとの会話からこの男がここオーキー村の長であるらしい。


「村長。この旅人は聖火隊のモンだそうで、宿が無いって話をしていたんだ」

「ほぅ聖火隊。間の悪い時に来てしまいましたな……おおっ、こいつは美人さん!」

「はぁい美人です♪」


 調子の良いアッシュは置いておき、カイは村長にも折り目正しく挨拶する。


「役目の途中で通りかかったのですが、困った状況なようで……」

「ええ、交易路にある我が村としては宿が使えないのは痛手ですわ。あなた方にもご迷惑をかけてスイマセンなぁ……」


 申し訳無さそうにした村長だが、すぐにポンと手を打ち何か考えついたようだ。


「ならワシらの家に泊まるといい」

「えっ、そんなこといいんですか?」

「二人ぐらいなら泊められるし、聖火隊の隊員なら身元も心配いらんだろう。妻と二人暮しで大したもてなしはできんが」



 ***



 村長の家へ案内される道すがら、カイは先程から気になっていた血まみれの衣服のことを尋ねてみた。


「サーベルボアが村に紛れ込んできましてな。知ってますか、あの牙が鋭い魔猪ですな。村のハンターが仕留めたので、皆で解体していたらこの有様ですわ」


 村長の言うサーベルボアといえば熊のように大きく獰猛なイノシシだ。毎年山に入った人間が死体に変えられる事件が起きている。


「なるほど、このあたりの山なら多く住んでそうですね」

「村に魔物が入ってくるのって怖いね……」


 アッシュは懸念した様子だが村長は笑って応じる。


「なんの、ご馳走が飛び込んできたようなもんですわ。あのイノシシ一頭で村のもの皆が一日食べれる量の肉になりますから」

「へぇ、そういうものなんだ……」

「今夜はサーベルボアの肉をご馳走しますよ。さあ、あれが我が家です」


 見えてきた村長の家は、大きさ、造りこそ地位に相応しいものだったが、やけに生活感があった。


 庭はほとんど農園として活用されなけなしの野菜を育てている。小屋からは鶏の鳴き声が響いてきた。

 納屋の周囲は何か作りかけのガラクタが、収まりきらないのだろう外に山積みにされたままである。


「散らかっていてスミマセンなぁ。ワシ自身、村の作業員のようなもので毎日働かないと」

「いえいえ、立派な家じゃあありませんか」

「まあ見ての通り田舎建築ですが、実は秘密がありまして」

「秘密?」

「ええ」


 村長はすぐに答えを出さずもったいぶる。仕方なく期体に応えて事情を聞いてみることにした。


「どんな秘密があるのか教えていただけますか?」

「フフ、実はこの家は“勇者が育った家”でもあるのです」

「ここで勇者が!?」


 その答えにカイは素で驚いた。


「え……勇者が……ってことはまさか、村長は」

「ハハハよく聞かれるのですが、ワシは勇者の父親ではありませんよ」

「あ、やっぱり」




「勇者……彼は『イサミ』という名の少年でしたが、拾い子でしてね。村で余裕のある我が家で預かることにしたのです。

 今思えば子供の頃から普通ではありませんでしたな。幼い頃から力があり、山に入って自分で動物を捕まえてくるようになりました。

 もしかすると大変な子を預かったのかもしれんと思い、ターミンの町まで行かせて剣術を学ばせてみましたが、すぐ止めてしまいましたわ」

「長く続かなかったと」

「いいえ、学ぶことが無くなってしまったのですわ。読み書きもよくできましたし、才能ですかのう」


 家に入ると奥さんが料理をしているのだろう、食欲をそそる良い香りがしてきた。


「あらま、おもてなしの用意をしなくちゃ。あなたたち夫婦? 部屋は一つ、二つ?」

「二部屋お借りできますか?」

「ゴメンね部屋は一つしか空いてなかったわぁ」

「なんで聞いたんです?」


 奥さんは村長に劣らず陽気な人で、笑顔が絶えない家庭の雰囲気があった。


 正確には、部屋は二つあった。だが一方は使われなくなった家具類が押し込められていて、見た目から子ども用の物品が多いとわかる。

 カイとアッシュはこれらの部屋をどのような人が使っていたのか、尋ねることは控えた。




 二人は旅の垢を落とした後で食卓に招かれた。テーブルには質素だが温かい料理が並んでおり、村長夫婦と共に祈りを捧げてからいただくこととする。


「これがサーベルボアの肉ね、うん美味しい!」

「一緒に煮込んだ野菜も独特な風味がしてますね」

「フフ……」


 舌鼓をうつ二人を見て村長が不敵な笑みを浮かべる。アッシュは嫌な予感がした。


「村長さん、この野菜……いや、野菜じゃない?」

「実はこれ、村で養殖しているマンイーターの蔓なんですわ」

「マンイーター?」


 それは食虫植物のような見た目をした魔物である。

 ただ食虫植物と呼ぶにはあまりに大きく、人を飲み込むこともあるということから名前がついた。


「そいつを村の中に捕らえてあるんですが、口に生ゴミでも入れてやれば中々育つのですわ。そして我々を見ると蔓を伸ばして捕まえようとしてくるので、千切って収穫すればできあがりというわけで」

「魔物の養殖は噂で聞いていましたけど、これがそうですか……」

「コツは二番目から刈り取った蔓のほうが柔らかくなることです、ハイ」


 次は横から奥さんが瓶に入った液体を勧めてきた。

 アッシュが警戒するためカイが一口味見する。


「んん、ちょっと苦いけどほんのり甘みがしますね」

「こちらは人面樹の樹液です。森に棲む大人しい樹を選んで、手入れする代わりに樹液を取らせてもらったんですよ」


 人面樹、木の精とも言われる種族で、人間と敵対するものもいれば共生できる種もいる。樹液まで取らせてもらえるならよほど良好な関係が築けているようだ。


 他にも外の鶏小屋にいたのはオニニワトリという大型の鳥型モンスター。農耕用に大型牛のグレートホーンを飼いならしている。

 寒冷下にあっても魔物は比較的元気に育つため、通常生物の代替として活用しているようだ。


「ハンターにも協力してもらって村おこしを頑張っとるわけです」

「村おこしですか……この村は一時期栄えたとも聞きましたが」


 カイの問いに神妙な面持ちとなる村長。

 確かにここオーキーには大災厄より前、バブルとも言うべき黄金期が存在した。


「そうです。この村は勇者の台頭と共に繁栄し、勇者の消失と共に衰退しました」


 村長は時を遡るように遠い目をしていた。カイは次にくる言葉をゆっくりと待つ。




「勇者、イサミは15になる頃にはもう一端の戦士となり、『広い世界を見てくる』と言い出して村を出ました。

 もう自分の人生は決められるだろうと見送りましたが、折しも時代は魔王の出現により魔族の侵略が激化した頃。

 突如この国に天を衝くほど高く壮麗な塔が現れ、『天の塔』と呼ばれるようになりました」


「『天の塔』!?」


 席から腰を浮かせたアッシュが大声を上げたため、周りの一同は面食らってしまった。


「……コホン、すいません続きをどうぞ」


「はぁ……オホン。天の塔は“試練を乗り越え頂上に至らば、神が特別な力を授ける”という噂が広まると、各地から腕自慢の者が集まり塔に挑みました。

 しばらく経っても頂上まで登る戦士はいませんでしたが、ついにその塔を踏破する若者が現れます」

「それがイサミさん……」

「はい、あのイサミでした。頂上で何が起きたかは伝わっていませんが、戻ってきたイサミは『勇者』の称号と数々の力を得て、魔王軍に戦いを挑み始めました」


 人並み外れた力を示した勇者はたちどころに魔王軍を退け、その名は世界に轟いた。

 多くの国が、人々が彼を歓呼の声で迎え後押しした。


「金回りが良くなった勇者は故郷のことを忘れてはおらず、村に気前よく大金をつぎ込みまして……。

 ワシらはその金を元に村を興そう、豊かな暮らしを得ようと様々な事業展開を始めました。産業を増やし、人を呼び込み、観光客を招き入れ……」


 おかげでオーキー村は一時、確かに栄えた。村が町に、やがて都市にもなるのではないかと人々は夢見た。


 だがそれも『大災厄』で全てが台無しとなる。そのダメージは物理的なものに限らず心情的にも痛手だった。


「どうも勇者は、イサミのやつは各地で強引なことをしていたようで、ぶっちゃけ評判が悪く……。魔王と共に消えてしまうと、勇者に募っていた不満が表に出てくるようになりましてな」

「じゃあ、この村への風当たりもあったでしょうね」

「ヘヘ、観光客はさっぱり来なくなり、事業も次々と撤退。元の田舎に逆戻りですわ」


 そんな辛い思い出も苦笑いを交えながら話す村長。今も諦めずに村を興そうとする気概に感心するカイ。

 そして会話を聞きながら、アッシュは何か考え込んだ様子だった。



 ***



「天の塔、そこに行けば天界に帰れるのよ!」


 部屋に入るなりアッシュが踊りだしそうなテンションになった。


「待て待て落ち着け」

「その塔は私が創ったの、勇者を選び出すために! 中に天界へ通じるエレベーターがあるからきっと帰れるわ!」

「天の塔か……」


 ともかくアッシュにステイステイしながらベッドに腰を下ろすと、カイは言いにくそうに所見を述べた。


「あの塔は今『メサイア教団』の総本山になっている」

「へ? あのよくわからん宗教の?」


 天の塔は見た目が神聖さを醸し出すだけでなく不思議な塔だった。

 というのも、結界でも張られているのか塔の周囲には魔物も死霊も近づくことができない、さながら聖域となっていたのだ。

 また、かつての大災厄では世界中を地震が襲い、高層建築の中には倒壊する建物もあった。

 そんな中、世界一高いであろう天の塔は地震に小揺るぎもしなかったという。


 人々は、この塔こそまさに神が地上に下ろした奇跡と囁きあった。

 折しも地上の混乱から多くの難民が発生したが、塔のお膝元は魔性も寄り付かないため、自然と難民が身を寄せ合うようになる。


 彼らは厳しい情勢に打ちのめされたが絶望はしなかった。その手には何もなかったが、天の塔という象徴は彼らの心に神を宿らせ、やがて『メサイア教団』が形作られていく。


「そして今では小国にも匹敵する勢力となって天の塔を取り囲んでいる」

「へぇー……」

「……というか、その塔から天界に行けるのなら、教団が天界に押し寄せてこないか?」


 神に焦がれる人々ならば狂喜乱舞する情報だろう。だが実際にはそうなっていない。


「勇者を選びだした後、あの塔は封鎖したからね。私が許可しないと扉も開かないよ」

「へぇなるほど」

「しかし、う~んそうかぁ。そのメサイア教団の人たち、塔まで通してくれるかな?」

「どうだろう、聖域扱いされているようだからな……」


 その塔は都合よくカイドゥ王国の北部に存在する。向かう分には問題無いが信者以外の者が塔に近づけるかどうか。


「情報が足りない。まず王都に行って腰を据えてから、伝手を借りて調べてみよう」


 情報は不足しているが明確な目標はできた。そういう意味では有意義な話を聞けたが、カイには他にも気になる点がある。


「天の塔で、そのイサミという戦士が勇者に選ばれた。それは確かなわけか」

「うん。私が造ったトラップに強敵全部突破して、頂上まで来た最初の人物ね。そこから天界に導いて、色々あげて、魔王と戦うようにお願いしたんだけど……」


 だがその勇者は、地上に戻ってから天界や女神のことについては特に語ることは無かった。

 もし勇者が見てきたことを伝えていれば、女神ディーヤの存在は地上でも認知されていたのだろうが……。


(だが同時に宗教論争が巻き起こったかもしれないな)


 勇者がその辺りをどう判断したか、今となってはわからない。


(あるいは何者かが秘匿した? そういう力が働いたのだろうか……)



 ***



「聖火隊さん大変じゃあ!」


 翌日、村長のけたたましい声が部屋に響き渡った。カイとアッシュは朝食を終え、村を発つ支度を始めようとしていたところだ。


「ハァハァ……聖火隊さん、困ったことになりました」

「どうしました、魔物でも出ましたか?」

「いえ違います、ハァハァ……」


 息が整わない村長に奥さんが水をあげる。

 考えてみれば魔物が出れば対処するのはハンターだろう。カイに急いで知らせるほどではない。


「悪霊でも現れましたか?」

「いえ……」

「じゃあ何が……」

「村の者が……死にまして……」


 この場にいる全員に緊張が走る。


「これは……これは殺人じゃ! 誰かが殺したんじゃ!」

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