幕間
別キャラの視点になります
20220122:アシストウェアの説明追加
輸送用の装甲車が錆びついた金属音をたてながら停止する。
ノーヴィは揺れが治まったを確認すると、座席からゆっくりと立ち上がり己の装備を改める。
まずは地肌に直接身に着けているアシストウェア。これは人工筋肉とナノマシンを編みこんだスキンスーツの呼称で、ノーヴィが着用するのはゴードンキーパーと呼ばれ、主に荷運び業者が利用している。
身体能力の強化を目的とし、性能は生身であれば持ち運びにも一苦労する銃と弾倉一式(30キロ相当)を文庫本程度の負荷にまで軽減する。
続いて、アシストウェアの上に着用したdef.ジャケット。荒野向けに誂えた頑丈な衣服で、ノーヴィの着用するザントマンは耐刃、耐衝撃性能に優れている。あくまで荒野での作業服という位置づけだが、口コミではモンスター相手でも実用レベルと評価されている。
そして最後にアサルトライフル。SHE18というモンスターハントを目的として中期に開発された量産品の銃だ。威力は申し分ないが、生身で扱うには反動が大きすぎる為、アシストウェアや機械化での利用が前提となっている。当然、人に向けて扱うものではない。
ノーヴィは銃にセーフティがかかっているのを確認してから肩にかける。車内にはもう誰もいない。装備の確認を行っている内にみんな降車してしまったようだ。
慌てて降車すると、先に広場についていたハンターによって構築された拠点が視界に広がった。
ノーヴィは肌にまとわりつく粘り気のある空気にある実感を抱いた。モンスターの生息域である荒野へと来てしまったというある種の後悔だ。
「来てしまった。本当に来てしまったぞ。僕が選んだんだ。僕が選んでしまったんだ。まだ、まだ後戻りだって出来る。そうさノーヴィ、軍に入るなんて馬鹿げた夢を捨て……、捨てれないな。はぁ~」
なけなしの貯金をはたいて買ったSHE18を筆頭とした装備の数々。それを体に引き寄せて大きなため息をつく。ノーヴィは既に荒野に来てしまった。己の身を守る唯一の手段に知らず力がこもる。
視界には降車した傍から我先に駆けていくハンターの姿が見て取れる。どちらかと言えば身なりの小汚い連中が多く、その武装もハンドガンが中心だ。
駆けていく先は大型の建築物で、ノーヴィがいる場所はその建築物に併設された駐車場と言ったところだろう。拠点に築かれている遮蔽物や設置された機関砲から、この場所も絶対安全と言う訳ではないと分かる。
「あーあー。ヒヨコちゃんたちは元気だねぇ。モンスターは逃げたりしないっていうのに」
車の陰から声が聞こえる。ノーヴィが声のした方へ振り返ると、ヒゲ面の男が気怠そうな態度で車にもたれかかっていた。
ノーヴィは男の気の抜けた態度にむっとして、思わず反発して口を開く。
「しかし、モンスターの数に限りはありますし、討伐数を満たさないと報酬は貰えない。車の中でも早い者勝ちだと発破をかけられました」
「ん? その認識であってるぜ。早い者勝ちだ」
「ではなぜ? あなたは見学にでも来たのですか?」
男の態度が腑に落ちない、とノーヴィは一服しようと煙草を取り出した彼に問いかける。
男はそれを無視するように煙草をくわえ、紫煙をくゆらせる。
男の視線を追えば、拠点内で仲間を集うハンターたちの姿が見える。即席のチーム編成と言ったところで、数で攻めてくるタイプのモンスターへの一つの対抗手段だ。
「チームのメンバーでも待っているのですか?」
「まあ、そうだな。丁度いいからあんちゃん、組むか?」
咥え煙草のままニカっと笑う男に、ノーヴィは即答はせず改めて彼の姿をまじまじと見つめた。
カウル社製のdef.ジャケット(120万はする)に身を包み、大きめのリュックと対モンスター用のアサルトライフルを一丁。上半身に巻き付けたガンベルトにはハンドガン、サバイバルナイフ。腰に佩いた剣帯にはスレッジハンマーをぶら下げている。文句のつけようのないハンターの出で立ちだ。
「……なかなかの手練れと見受けられます。僕はこの通り、素人だ。申し出はありがたいが、足を引っ張るだけだと思う。せっかくだが――、」
「おらぁ、馬鹿が好きでな」
「は?」
言葉を遮る唐突の男の告白にノーヴィは不機嫌な声を漏らした。
「スタートダッシュするほど短慮でもねぇ。見ず知らずの連中とチーム組もうなんて真似もしねぇ。臆病風に吹かれて蹲るほど現実を見てもねぇ。そういう中途半端なバカの背中を押すのが好きなんだ」
「勝手にしてくれ」
へらへら笑う男の相手はこれ以上していられないと、ノーヴィは会話を打ち切ってその場を離れようとするが、男がそれを許さない。がっちりと肩を掴まれ、ノーヴィは身動きが取れなくなる。
「おいおい、つれないな。お前さんはベテランの薫陶を受けながら討伐依頼をこなせる。おれは初々しい新人の笑えるショーを特等席で見れる。ウィンウィンだろうがよ」
「撃つぞ」
「冷静になりなさんな。クソの役にもたたないプライドなんて捨てちまえば、アンタがどれだけ恵まれた状況か分かるだろう。どーする?」
ノーヴィは一度はトリガーに掛けた指を放すと、不承不承と言った様子でゆっくりと銃口をおろした。
男はにやっと不敵な笑みを浮かべると、たばこの先に伸びた灰を落とす。
「おーけー、契約成立だ。ジョン・ドゥとでも名乗っておこうか。アンタはノーヴィだろ? よろしくな」
ノーヴィは名乗った覚えのない己の名前を言い当てた、ジョン・ドゥなんてふざけた名前を自称する男と関わったことを深く後悔した。
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「まずはアンタの獲物を教えてもらおうか? ちなみにおれは断頭クワガタを20匹だな」
たっぷり一本分の煙草を吸い終わる間、ノーヴィを交わし続けたジョンは悪びれる様子もなく親し気にノーヴィに話しかけてきた。
ノーヴィはすっかり人気の少なくなった拠点内を見渡しながら、苛立たし気に自分の討伐チケットを取り出した。
「へえ。手招きドッグを10体。ずいぶん欲張ったな。やっぱ新人はそうでなくっちゃ。ははは、出だしから笑わせてくれるとは、アンタ生粋の芸人だな」
「数が少ないのを選んだんだよ」
ノーヴィは不貞腐れた様子で乱暴に依頼書をしまい込んだ。
「なんだ、数が少ないのを選んだのか。じゃあ、磨製ラビットは何故選ばなかった? ギルドの悪意ともいわれるトラップモンスターだが、3体も倒せばハンコが貰えるだろう?」
「そいつの悪評はスラムの端まで広がってるよ」
ノーヴィが肩をすくめた。
「まあな。刃物は通らねえ。銃弾は弾く。接近すれば見せ武器の角、潜り抜ければ本命の後ろ足から飛びだす即効性の麻痺針。遠近共に隙なしのクソモンス筆頭だ。それでもスラムのガキに人気なんだぜ。あいつらは文字が読めねえから可愛い可愛いシンボルで選ぶんだ。ギルド様も最高にくそったれな性格してる」
「もし磨製ラビットを選んでたら、アンタは即縁を切ってたっていうくらいの言い様だな」
「そんなことはしないよ、ブラザー。火炎瓶で焼いちまえばいいだけだからな。対処方法さえ知ってればやれない相手じゃあない。割がいいかは別として」
ジョンがこつんと鳴らすのは、剣帯に吊り下げられた試験管だ。コルクで硬く封じられており、中身が漏れだすということは無さそうだ。
ノーヴィはジョンの装備の豊富さに頼もしさを感じるとともに、疑問が浮かぶ。
「即答だったな。やはり、そういう経験もあるのか?」
「ないね。だが、ハンターは最悪に備えるべきだとオレは考えてるよ。こっちは選んでモンスターを狩れる上等な身分じゃないもんでね。自衛は大事だよ」
ジョンがそう言ってにやにやと下衆な笑みを浮かべた。ノーヴィはそれが自分の準備不足を嘲笑っているのだと感じ取って、口元をひん曲げた。
「おしゃべりもいいが、そろそろ行こうか。おれ達はあの建物をモールって呼んでる。せせこましい区画が並んでいるんだ。一階はまだいいが、二階以上に上がるのはオススメしない」
「なぜ?」
「そりゃ、モールの設備が生きてるからだ。モンスターもいるにはいるが、ほとんどは駆逐されている。見つけたところでおれレベルじゃ手に負えない化物ぞろいさ。つまり、用がない」
言い終えたところで、建物の二階の小窓が明滅した。ジョンの言う通りであれば、迷い込んだハンターが設備とやらに処理されたことになる。
「アンタがその情報を出し惜しまなければ、死なない奴もいたんじゃないのか?」
「そいつは無理な相談だ。おれは話を聞かない馬鹿が一番嫌いなんだ。嫌いな奴の世話を焼くほど人間が出来て無くてな。なんなら、今からアンタがひとっ走り行って伝えてやりなよ。少しくらいなら待っててやるぜ?」
にやにやと笑うジョンはノーヴィがそうしないと確信しているようで、追い立てるように両手でジェスチャーを繰り返す。
「……悪かったよ」
「素直な子は嫌いじゃないぜ。やっぱり、自分がされて嫌なことを他人に勧めるのは悪行だよな。坊さんじゃないが、新人君にはついつい説法しちまうな。悪い癖だ」
「そうかい。なら、もっと頼むよ。アンタが知ってることを気持ちよく吐き出してくれ。そのどてっぱらに大穴があかないうちにな」
「新人君が言うねえ。気に入ったよ、2割増しでサービスしよう」
くっくっと、喉を鳴らしながらジョンはノーヴィの肩を叩く。
そうして彼らは拠点から出てモールを目指す。銃声と断末魔で騒がしくなったそこが静寂を取り戻すにはまだまだ時間がかかりそうだった。
一旦、投稿終了です。
二章が書き終わったら、また連続投稿します。
それでは




