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幕間2

有名受付嬢、カズハのお話です。

 ハンターギルド外市街第七支部、そこに勤務する名物受付嬢、鈴蘭の二つ名をもつカズハというギルド職員がいた。


 見習いハンターを契約でハメ、借金漬けにした挙句、ギルドの犬に仕立て上げるという彼女の手腕は、当ギルドを利用するハンターの間では有名な話だった。

 それでも一定数のハンターが餌食となるのは、その情報を知らない無垢なハンターの卵がいるからだ。

 そして、彼女の詐欺行為を周囲が咎めない理由はひとつ。

 放っておけば荒野の塵となりそうな彼らを借金漬けにして自由を奪い、ハンターとして生きる術を強制的に学ばせ、借金返済を完遂する頃には一人前のハンターとなるシステムが評価されたためだ。

 

 そんな風に、借金漬けにされた見習いハンター以外からは評価の高い彼女ではあるが、それはそれとして、人を意のままに操るということに興奮を覚える悪癖があった。現状は悪癖に結果がついてきたというのが実情である。


 そして現在、カズハはイラついていた。スラム出身で事前情報をもたない格好の獲物、もとい保護すべき人材だったエヌを取り逃がしたことが原因ではない。監査の準備があるからだ。


 カズハはノート型端末を前にため息をついた。

 画面には十二桁のIDが表示されており、その他にもモンスターの討伐状況なども記載されていて、彼女がため息をついた理由もそちらの情報が原因だ。


 磨製ラビット。

 毛皮は鋭い刃もライフル弾も通さない鉄壁。殺傷するためには露出した感覚器官へのピンポイント攻撃が必要となってくる。感覚器官はいずれも小さく、銃の名手でなければ狙撃は難しい。

 そのため、一般的な討伐手段は接敵した状態で口内に銃口を突っ込むか、火炎瓶による酸欠を狙うかの二択となっている。

 補足すると、接敵する場合は後ろ足にある毒針が非常に厄介で、その効果は即効性の麻痺毒。しかも普段は体内に隠れており、不意打ちによる死亡ケースは見習いハンターの死因でもトップを争う。

 そして火炎瓶は酸欠に追い込むほどの燃焼力と持続力を併せ持つ必要があり、安価なものでは話にならず、見習いハンターが携帯するには現実的ではない。


 つまり、この磨製ラビットというモンスターは、銃の腕も高価な火炎瓶も持たないスラムの一少年が討伐できるモンスターではない。


(なのに、この討伐数はなに!?)


 カズハが睨む画面上では、磨製ラビットの討伐数が20以上カウントされていた。しかも半数以上は未報告のままとなっていて、死亡したのかと思えば、毎日順調に増えている。


 カズハを悩ませるのは討伐数が単純な数字で終わらないためだ。


 討伐クエストには報酬金額とは別にギルド評価が付随するランクポイントが存在する。本物のハンターになるためには、このランクポイントを貯める必要があり、割に合わないと評価されるモンスター程、このランクポイント付与が大きい。


 当然、磨製ラビットは倒しづらいモンスター扱いのため、ギルドが付与するランクポイントも絶大だ。本来ならば一ヵ月ほどはかかるランクポイントの水準を一週間程度に短縮するほどには。

 ギルドレコードとまではいかないが、スラム育ちの中では群を抜くスピードである。


 カズハは才能の塊ともいえるこの個人IDに対して、指導する機会を失ったことを残念がった。ちなみに、画面に表示されている十二桁の個人IDはエヌのことを指している。


「おや」


 カズハは振り返らず、肩越しに画面を覗き込む気配にゲンナリとした。

 背後の男はタチバナといって、ギルドでもそこそこの立場にいる人物で、カズハの所業をいち早く見つけ、特例を認めた人物でもある。なお、この外市街第七支部には在籍していないにも関わらず第一発見者だった。


「面白そうな戦闘履歴ですね」

「監査はまだ先ですよ。こんなところに来る暇はないんじゃないですか? 本部長殿」


 カズハが牽制を兼ねた嫌味をぶつけたが、タチバナは動じる様子はない。


「愉快な子が現れたという噂を聞いてね。そしたら面白そうなものを見かけたので、つい声を。あとここに来たのはゴートの件で調整が必要だったからだ。遊んでるわけじゃない」


 私に話しかけたのは、完全に遊びじゃないか。と心の中で呪怨を吐きながら、受付嬢の極厚スマイルを備えた有能カズハは思考を回す。


「外縁が随分騒がしいようですね」

「十年前のモンスター侵攻以来、ずっと元気がなかったからな。無事、復興して何よりだ。それよりもこのハンターに関して報告がなかった件について詳しく聞かせて貰えるかな?」


 タチバナの圧を受けてカズハは引き下がる。ゴートの件は機密事項らしく、気軽に漏らせる情報ではないようだ。無論、カズハもゴートがどの程度やらかしたかは把握している。そして背後に立つ人物は、カズハが把握していることを把握したうえで煙に巻いた。故に、この件はこれでおしまいになる。


「ハンターギルドのビジネスプランは知っているだろう。優秀な人材をリクルートし、軍もしくは運営、そして企業へと売却する。実績を上げた見習いハンターを隠匿するのはギルドへの背任行為になるぞ」


 そして、変につついたせいか、タチバナの口調も心なしか厳しい。カズハはこの場を乗り切るための言い訳を考える必要があった。


「っと……、誤データとして処理されるのが目に見えていたので初動を遅らせていただけですよ。他意はありません。証拠に、こうして残業をしてまで報告書を作成してるじゃないですか」


「ふむ」


 滝のように流れる冷や汗。

 カズハが沈黙したままの背後の男に集中していると、ぬっと背後から伸びた手にカズハの右手を奪われる。正確にはノート型端末のGUIをだ。


 タチバナは端末を操作してエヌの討伐情報のさらに詳細を開く。


「討伐場所が都市内部だな。区画的には外縁部ではあるが」

「封鎖指示を出しましょうか?」

「やめておこう。予算がない」


 タチバナがさらに操作を進めれば、外縁部の地図とその位置情報が重なった。


「……それに、どうやらここは面倒な人物の管理下にあるようだ。実害が出ていない以上、手を出すにはリスクが勝ち過ぎている」


 地図情報との照らし合わせで、討伐場所の解像度が上がるにつれて、カズハの表情は渋いものに変化した。そして視線が向かう先はギルド内にある掲示板――、その依頼書の一枚。


”モンスターの回収依頼

 外傷の少ないモンスターの死体を回収してきてください。生きたままのモンスターであれば報酬増。

 依頼者、ドクターインティ


以上です。

続きについてはたまにツイッターなんかで報告することにします。


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