表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/16

4_あっけなく死ぬ

エヌが酷い目に遭います。

「拾えッ!」


 エヌは手加減なしに右頬を殴られた。痛みと衝撃で後退るが、どうにか倒れずに踏みとどまった。

 地面にはエヌが投げ捨てた現金が落ちていた。


「そんなんどうでもいいからもう行こうぜ。オレが拾っとくよ、な?」

「ザマさんもそんなにキレなくていいでしょ、大金だぜ?」


 息を荒くするザマを取り巻きが諫める。エヌを視界から遮るようにして間に割って入ると、しっしと追い払うようなジェスチャーで追い立てる。


『行きましょう』


 エヌはしばらく取り巻きの背中越しにザマを睨んでいたが、執拗に追い立てられ、アライメントにまで促されると、渋々と言った様子でその場を後にする。


『報酬は彼らに渡す必要がある。確かに渡したけれど、それにしたって渡し方というものがあるでしょう? キミは揉め事を起こさないと気が済まないの? それとも死にたがりなの?』

「ごめん」

『相手にお金を投げつけるとか、ひとつ間違えていれば大怪我を負うことになっていたのよ? キミが動けなければ私にだって出来ることが限られるの。すべてが台無しになるところだったのよ?』

「ごめん」

『あのねえ……。まあ、エヌの事を理解しきれてない私にも責はあるけれど。今度やるときはきちんと相談してね。キミの行動を悪いとは思ってないから。やるならやり方があるのよ、もっとうまいやり方がね』


 ヒヒヒと笑うアライメントに毒気を抜かれたようにエヌが見惚れていた。


『どんなやり方かって? 奴ら一人ずつに差額をつけてお金を渡すのよ。任せて、彼らのヒエラルキーについては完璧よ。殺し合い一歩手前までは持ってけるわ』

「そ、そういう物騒なのはいいや」

『そ。考えが変わったら言ってね。いつでもウェルカムよ』


 アライメントの提示した計画にエヌが応じた日。それから数えて三日が経っていた。今日が報酬をザマらに渡す初めての日で、案の定問題が起きた。

 エヌがギルド外市街第七支部で討伐チケットを換金して家路につく途中、どこで嗅ぎつけたのかザマ達は最初と同じように裏路地で道をふさいだ。ただ、襲ってきたその場所もアライメントの想定通りで、エヌもこんなにも簡単に他人を躍らせられるのかと驚愕した。


 そのアライメントの思惑を軽く飛び越えたのがエヌだった。現金の受け渡しの段階に至って、エヌが短慮から挑発行動に出たため被害を被った。今もエヌの右頬を腫らしている痛みの原因だ。大人しくしていれば、無傷で切り抜けられただろうと簡単に予想出来たのも手伝って、エヌも今は反省している。


『やってしまった事は覆らないし前向きに行きましょうか。さっきの一件で褒めることがあるとすればエヌがきちんと相手のパンチの軌道を見切っていたことと、私の指示に従って避けずに行動を抑制出来たことね。咄嗟とはいえ、指示通りに行動出来たことは評価出来るわ』

「おお」

『でも、行動指定が無いと私の予測範囲を軽々と飛び越えることはやめてね』

「善処します……、あれ?」


 エヌが首をかしげる。

 ちょうどエヌの寝床に着いたところなのだが、視界に広がる見慣れた光景に違和感を覚えたからだ。


『お客さんかしら? お友達?』

「……アライメントは意地悪だ」


 エヌは孤独の因果によって誰とも友情をはぐくむことが出来なかった。当然友達どころか知人もいない。それを知っているはずのアライメントの言葉はエヌにとって結構な皮肉だった。

 しかし、その雑談は未知への怖気に囚われていたエヌの気持ちをリセットするのに丁度いい塩梅で、気負いせずに寝床を覗き見ることが出来た。

 どうやら遠目に荒らされているように見えたのは、周囲を遮る役割を果たす布切れが外れて落ちたからで、その布が散逸している様子が違和感を生んでいたようだ。


「なんだ、風でも吹いたみたい――」


 エヌが声を失う。暗がりに目が慣れて視界が明瞭になるにしたがって見える異物があったからだ。エヌはとっさに後ろに飛びのいた。異物は寝床の奥に横たわった男だった。


「な、なん――」

『へえ。相手は意識がないみたいよ。今のところは無害だわ』


 警戒するエヌをよそに、アライメントがつまらなさそうに言った。

 アライメントの言葉に信を置いているエヌはそれだけで平静を取り戻す。目を凝らしてみれば彼女の言う通り、男はこちらに勘づいた様子もなくただただぐったりと横たわったままだった。


「無害」


 エヌが疑わし気な視線で男の方を再度見た。

 男は浅く呼吸をし苦悶の表情を浮かべていた。周囲の布をかき集めて己を隠そうとした痕跡から厄介ごとの匂いが漂う。エヌは先ほどの言葉の真偽を問うようにアライメントを見る。


「無害か?」

『さて、ね』


 煙に巻こうとするアライメントをエヌが追求しようとしたところで、外的要因によって中断させられた。背後から物騒な足音が聞こえてきたのだ。


『あら、お客さんよ。エヌのお友達かしら?』

「アライメントがアライメントらしくて助かるよ」


 エヌはアライメントの気の抜けた態度に、身の安全は保証されていると判断、嘆息して振り返った。


「――っ」


 振り返った先にいたのは武装した二人組の男性達。モンスター相手に活躍しそうな物々しい銃と頑強なプロテクターを身に纏った、スラムではオーバースペックの武装した男性、それも二人。エヌは表情が強張っているのを自覚しながら彼らの動向を見守る。


「坊主。この辺に傷だらけの男がいなかったか?」

「おい」

「既にタクティカルエンジンに問い合わせ中だ。こいつぁセカンドオピニオンってやつだよ」

「あまり素人を巻き込むな。まったく」


 エヌはこの二人の言う傷だらけの男が背後にいる男と同一人物であると思い当たった。どうするのが最善か、助言を求めようとアライメントへ視線をやれば、見世物でも見るような態度でにやにやしている。こいつは当てにならないと直感した。


 エヌは目を閉じて長く息を吐いた。それが奇異に見えたのか、目の前の男達の注目を集める。


「で、坊主。どうなんだ?」


(後ろの男は他人)(武装集団と敵対する真似は馬鹿だ)(これ以上、問題は抱えたくない)(アライメントの指示は無い。つまり、命に関わる危機ではない)(そういえば殴られた)(理不尽が過ぎる)(処世術ってものがある)(引き取ってもらおう)


 エヌは顔を上げて男達を見据える。


「見てない」(ああああああああああああああ)

「そうか、邪魔したな」


 くるりと最初に話しかけてきた男が踵を返した。

 エヌが安堵の表情を浮かべたと同時に、パパパっと銃撃音が響いた。もう一人の男が銃口をエヌの背後に向けてトリガーを引いたらしかった。


 ぎょっとしてエヌが振り返る。


「無駄骨だったか。坊主、迷惑賃だ」


 地面に硬貨が跳ねる音がする。エヌは反射的にかがんでそれを確保する。男たちに表情を見られないように俯いたまま、その状態を維持する。一秒か、十秒か、それとも十分か、エヌにとっての体感は一時間以上にも感じたが、男たちの足音が聞こえなくなり、気配も消えて、アライメントが見かねて声をかけるまで、ずっとエヌは蹲っていた。


「はあ……。どうしてこんな」


 愚痴りながら寝床を覗く。片づけをせねばと思い描いた光景はなかった。男が前と変わらず横たわっている。新たに外傷が増えたとか、顔に新しい穴が増えていたりしていない。


「あ……れ……? オッサン、撃たれたは……ず?」

『銃弾は防いでおいたわ。携帯バリアを1秒消費よ』

「は……? はあああ!?」

『エヌが選んだのよ。私はその意思決定を尊重するし、なるべく期待に沿うよう協力はするわ』

「いや、もうなんか……。ありがとう、アライメント」

『どういたしまして』


 どっと押し寄せてきた疲労からエヌがその場に蹲った。

 床についた手先が触れる硬質感は銃弾で、先ほどの出来事が夢ではなかったという確たる証拠だった。そして手の中にも一連の出来事で得たものが握られている。


「色々あったけど、お金貰ったし収支はプラスかな。……ん?」


 エヌが視線を感じて顔をあげた。男がこちらを見ていた。


「みずを……」


 エヌは何度目かのため息と共に寝床に備え付けていたペットボトルを男に差し出す。

 だが、一向に受け取る気配はない。男の様子を見るに体を動かす余力もないようだ。エヌはもう一度ため息をつくと、キャップを外して男の口元にペットボトルを押し付けた。


 乱暴に傾けたペットボトルは男の口元だけではなく上半身を派手に濡らす。ひとまずペットボトルを半分くらい減らしたところでいったん止めて様子を見る。再び意識を失ったのか、男は目を閉じたまま反応は無い。胸は上下しており、死んではいないようだった。


『また意識を失ったみたいね』

「そうか」


 エヌは気持ち程度に男の姿を隠すと、ゆっくりと寝床を抜け出す。


『どこか行くの?』

「経緯はどうあれお金を貰ったからな。なにか旨いものでも、と思って」


 エヌは握った硬貨をはじいてニヤリと笑った。





 翌朝、エヌは視線を感じて目を覚ました。ぼんやりした頭でアライメントの事だろうと思い当たって二度寝しようとし、昨日のことを思い出して跳ね起きた。


 慌てて寝床の奥を見ると、男が目を覚ましてエヌの事を見ていた。エヌが警戒を解かずに様子を見ていると、男が口元を緩めてからだを捩って上体を起こす。


「世話になった」

「いや、なんも」


 男が床に散らばった銃弾に視線を向ける。


「覚醒者か」


 男が小さく呟き、その視線を再びエヌへと向けた。


「すまないが手を貸してくれないか? 一人では起きられそうにない」

「ん、ああ」

『あ』


 求められ、素直に手を伸ばすエヌを見て、アライメントが声を上げた。何か問題でもあるのかと、エヌが反射的に手を引っ込めようとするが、それよりも早く男に掴まれる。


 その手を握る力強さに思わず顔を顰める。エヌは男の体重がかかることを警戒するが、それほどの負荷なく男は立ち上がる。

 エヌはひょっとしたら手を貸す必要もなく自力で立ち上がれたのではと疑問を持ったが、立ち上がった男を見て思い直す。男は至る所に血痕を残し、破損した服は血で黒く汚れている。常識的に考えれば、死んでいてもおかしくない出血量だ。昨日の今日で全快はあり得ない。


「アンタ、頑丈だな」


 エヌの男を見た素直な感想だった。ひょっとしたらエヌが服用した回復薬、そのずっと性能の高いもののおかげで命を長らえたのかもしれない。しかし、エヌから見ればそれら含めて頑丈、が感想だった。


「いずれ礼はしよう。今は持ち合わせがないが」

「スィートに一泊だからな。高くつくぞ」


 男がエヌをまじまじと見つめる。その表情は落胆しているようにも見えた。


「それは怖いな。延長料金を取られないうちに去るとしよう」


 男に道を譲るようにエヌが壁端に身を寄せる。

 男がエヌの横を通り過ぎて外に出て、立ち止まり振り返る。


「ああ、そうだ。名を聞こう。支払いの時に必要だからな」

「エヌだ」

「エヌ。悪くない名前だ。覚えておこう」

「あんたは?」


 男は曖昧に笑みを浮かべると、手を挙げて通りの方へゆっくりと歩き去っていく。


「……さてと、討伐クエストでも受けに行くか」


 男の姿が通りの奥に消えるのを見届けると、エヌは大きく伸びをした。朝から緊迫した状況を強いられていたので、ようやく人心地といったところだ。


 上着を取りに戻ろうと寝床へ足を向けたところでエヌが立ち止まる。寝床の入口にはアライメントが立っており、怖い表情でエヌのことを見つめていた。


「アライメント?」

『エヌ。こちらに来て横になりなさい』


 アライメントが指さすのはエヌの寝床で、その表情は珍しく真剣だ。エヌは圧倒されてその指示に従うと、困惑した表情のまま腰を下ろす。

 アライメントは困惑するエヌをお構いなしで、無言のまま寝床をさらに指さす。仕方なしにエヌが横たわり仰向けに寝転がると、その上にアライメントが馬乗りになった。


「へ、アライメント?」

『動かないで! じっとしてなさい』


 アライメントがエヌの腰の上に下半身を押し付け、前傾になった上半身を支えるために彼の胸に指先を添えた。言うまでもなく、アライメントは実体を持たない。エヌがその気になれば、この状況を脱するのは簡単だが、それは出来ない。出来なかった。


『エヌ』


 アライメントの指先がエヌの胸先を妖しく這う。


「な、なに?」

『顔が赤いわよ。えっちな事でも考えた? ふふ、すけべ』

「っ~~~~!!」


 アライメントに煽られて、エヌが酸欠の金魚のように口をパクパクと動かす。

 これ以上付き合ってられるかと、からだを捩じろうとして、エヌはそこで初めて気づく。体が金縛りにあったようにピクリとも動かなかった。動くのは首から上くらいだった。


 どういうことかと、アライメントに問いただそうと彼女の顔へ視線を向けて気付く。エヌの予想ではいつものにまにました表情だったが、彼女は真剣な眼差しを自分の手元へと向けていた。


「……なに、してる?」


『右手を見なさい』


 アライメントの言葉と共に、ピクリともしなかったエヌの体が右手に限り軽くなる。エヌは右手を引き寄せて顔を顰めた。記憶のない傷が手の平に広がっていたからだ。


 エヌが驚いて右手を握り締めるが、追随する痛みは無い。問題なく動くことを確認してから、エヌはアライメントの意図を尋ねる。


「これはアライメントの仕業?」


 以前、工場跡地でモンスター討伐をする際にアライメントがサポートと称して視界に様々な情報を表示したことがあった。その経験から、右手のキズもそれと同様だとエヌは思い当たったからだ。


『そ。で、これからが本題』


 アライメントがあっさりと認め、エヌがその理由を聞き返すよりもはやく、彼の体に異変が起きた。頭のてっぺんから足のつま先まで、全身を駆け抜けるような電流が彼を襲った。

 しかし、エヌが気にかけたのはそんなことよりも、その後に生じた右手の違和感だった。右手から何かが流れ出ている感覚を覚えたのだ。幻覚である右手の傷からは血が流れているのだが、その幻覚とエヌの感覚がかちりと噛み合った。幻惑と現実の合致に戸惑いが生まれる。


「アライメント。これはなんだ?」

『エヌを強引に覚醒者にしたの。キミが今感じている右手の痛みは魂の痛みよ。痛みは体に危険を知らせるシグナルなのだけど、さっきまでエヌはそれを感じ取れなかった。それがどれほど危険な事か理解出来るかしら? ちなみに、そのままそれを放置するといずれ死ぬわ』


 エヌはアライメントの突飛な言葉を笑い飛ばせなかった。

 アライメントの言う魂がどうとかは頭が理解を拒んだが、右手を通じて伝わる喪失感は本能的にヤバいものだと悟ったからだ。理屈を飛び越えて本能で理解を得てしまい、自分の中での辻褄合わせが追い付かないことが混乱に拍車をかけていた。


「……わかった。どうすればいい?」


 しかし、エヌの結論はアライメントの言葉に盲目的だった。アライメントによって得た、幾たびもの常識を覆すような体験がエヌをそうさせた。


『グッド』


 アライメントが満足げに呟くと、エヌの胸に這わせていた指先をつぷりと中へと沈めた。

 エヌにしてみれば、見ていてあまり気持ちの良いものではない。表情を強張らせてその行動を見守っていると、胸の中に違和感を覚えた。コリコリとしたものが自分の胸の中にあって、アライメントがこちらへ視線を向ける度に、それをいじられる感覚がするのだ。


『エヌ。生き物が行動を起こすための意思、私はそれをAPと呼んでいるわ。多くの人間は気付かないままその命を終えてしまう存在。コレがそうよ。キミはいまからコレを操る術を学びなさい』

「ぐっ……!?」


 途端、エヌはあまりの不快感に嗚咽を漏らす。体を内側からかき混ぜられる感覚が全身を襲ったのだ。体験したことのない不快感から逃れようと反射的にからだを捩ろうとしたが、金縛りになったエヌの体はピクリともしなかった。


 エヌは苦しさから呻き声を漏らしながら、唯一自由に動く右手でアライメントの腕を、エヌの胸に埋まった腕を引き抜こうと手を伸ばすが空を切る。彼女に実体はない。


『はやく自分でやりなさい』

「ぐがっ……、……ぁっ」


 体の内側がさらに派手にひっくり返されたような錯覚がエヌを襲う。その衝撃はエヌを首の力だけで全身を跳ねさせるほどだ。そんな風にエヌが暴れたとしても、アライメントは動じずエヌの胸から腕を引き抜くことは無い。


「アライメント、無理だよ。止めてくれ」


 エヌの必死の懇願するも、アライメントからの返答は無い。それどころか体の内側を削る速度が跳ねあがり、滅茶苦茶に荒らしていく。


 エヌは何とか不快感から逃れようと、どこか他のところへ意識を集中させる。

 偶々、目についたのは自由になる右手だった。アライメントに見せられた傷が痛々し気に手の平に広がっているが、先ほどのような喪失感は失せていた。


(アライメントのこれ……か?)


 いまもぐるぐるとエヌの内側を蹂躙するナニカ。アライメントがAPとやらを操作したことで、エヌの右手から致命的なナニカの流出を留めていたことに、エヌは気付いた。


 エヌはこの気づきが正しいかどうか確かめるために。アライメントへと視線を向ける。


『はやくしなさい』


 アライメントは答えない。冷ややかな目でエヌの事を見下ろすだけだ。


 エヌは体の内側から体を突き破ろうとするAPへと意識を向けた。

 これを自分で再現しようとするなら、それは己の腹を切り裂き、その傷口から腕を突っ込んで内臓を引っ掻き回すような覚悟が必要だ。控えめに言って自殺行為だった。


『ほら』


 アライメントが苛立たし気な声で急かす。

 これ以上、この拷問染みた所業を受けていては気が狂うと判断したエヌは、覚悟を決めてアライメントが最初に触れたコリコリに意識の手を伸ばす。それこそ、先ほどの例えのように自傷してその傷から手を突っ込むようなイメージで、だ。


「ふっ……ぬぅ……んっ」


 エヌは触れるイメージを抱くだけで意識を手放しそうになった。

 触れたそれをぐるりと回転させるだけで失禁しそうになった。

 実際に意識を何度も飛ばしたが、その都度アライメントが引き戻した。


『ほら、もう一度』

「がっ!」


 どれだけ失神と覚醒を繰り返したか、分からない。

 気づけば寝床から垣間見える空は真っ暗になっていた。


「あ……、あ……」

『ふふ、よくできました』


 ごろごろと耳の内側から響く異音に混ざって、アライメントから讃える言葉が届く。

 エヌは笑って見せた。それがちゃんと笑顔だったかどうかはアライメントにしか分からない。ただ、彼女の返答は珍しく毒のない笑顔だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ