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妹の綾の場合 その2

 

片付けを終わらせた後、自分の部屋で漫画を読んでいるとピロン、とスマホのメッセージを知らせる着信音が鳴った。


【父さんも母さんも今日は仕事で家に帰れません、綾のことをよろしくお願いします】


 父親からだった。

 まあいつものことである。


 同じ職場で年中忙しい父と母は、こうして泊まり込みで仕事をするせいで家に帰ってこないことが多々あるのだ。


 おかげで俺の家事スキルは日に日にレベルが上がっていくばかりである。

 将来専業主夫にでもなれるんじゃなかろうか、働きたくないし……。


 なんてことを考えていると再びスマホがピロリンと鳴った。


【まーくん、明日は7時に迎えにいくね♡ それから日曜日は一緒にパルコへ理子のお洋服を買いに行こー

(๑˃̵ᴗ˂̵) /約束だゾ♡】


 ……こいつは全く、いつもいつもこうだ。


 俺の意見なんて聞いちゃいない。


 だけどまあこんな感じの距離感の理子を、俺はやっぱり嫌いなんかじゃなくて。


 ……だからこそ、今日の夕方、神社で理子から彼女の気持ちを告白された時は驚きと喜びを覚えた。


 今までも理子は俺に対して“勘違い”をさせてしまうような言動が多かった。


 そのたびに俺は『こいつ、さては俺に気があるんじゃね!?』と一人で悶々としていたものである。


 しかし今日みたいに改まって彼女にしてください、と告白されるのは初めてで。


 ゆえに俺は今日はっきりと理解してしまったのだ。

 理子は俺のことが好きなのである、と。


 しかしその後の出来事を思い出す。


『リア充は爆発しろ』と俺が神に願った結果。

 

 俺は本当にその後に起こった理子とのキスによるリア充イベントの果てに爆発して、()()()()()……。


 リア充爆発の呪い。

 死に戻り。


 今日この身に起きた不可思議な二つの現象に俺はそう名前を付けた。


 まだ仮説の域を出ないが、前者は文字通り、俺がリア充になると爆発してしまう。


 そして後者は、爆発によって死んだ俺が、神に祈りを捧げた直後、拝殿の前へと時間が巻き戻ってしまうことを指す。


 理子の家の神社はああ見えても歴史ある由緒正しき神の社である。


 この2つの事象は、そこで何とも罰当たりなことを願ってしまった俺に対する神の天罰なのだろうか……?


 なんてことを考えながら宿題を終わらせていると、時刻はいつの間にか夜中の0時。


 外は真っ暗で、どうやら雨が降っているようだった。


 そういえば天気予報では雷雨と言っていた気がする。


「よし……終わった。さーて寝るか……しかし結構降ってるな」


 部屋の中にいてもザーザーと大粒の雨が屋根を打ち付ける音がする。


 窓を見やれば眩い光がピカっと光り、そして少し遅れてゴロゴロゴロ……と音が鳴る。


 予報通り本格的な雷雨らしい。

 明日の朝には晴れてくれると助かるのだが。


 そんなことを考えながら学校の準備を終えた俺はベッドに入ることにしたのだが。


「……なかなか酷いな、これ」


 外がうるさいのである。

 雨音は次第に激しさを増していき、時々遠くで雷の音がする。


 そして不意に一等眩く外が光ったかと思うと、間髪入れずに今度は雷がどこかへと落ちる音がした。


 ガーンッ! とさっきまでとは比べ物にならないくらいに激しい音だった。


 続いてドタドタと、今度は廊下を走る音がする。


「お兄ちゃんっ! 生きてる!? 落ちたよ、今雷が降ってきたよ!?」

「落ち着け綾、降るのが雨で落ちるのが雷だ」

「うわっ!? ねえまた光ったよ!? こわいっ……」


 綾は俺の部屋へと駆け付けてきていた。


「うわっ! また鳴ったよっ……怖いよ……お兄ちゃん……」


 そう言う綾の表情にはありありと恐怖の色が滲んでおり、目元にはうっすらと涙を浮かべていた。


「大丈夫か綾……雷、怖いのか?」

「ぐすっ……怖くなかったらお兄ちゃんの部屋に来てないよぉ……」


 そう言いながらもちゃっかり枕だけは持ってきている。

 しかし、雷が怖いのは事実だろう。綾はこう見えてかなりの怖がりなのだ。


「今日はここで寝る……お兄ちゃん、私のことを守ってね」

「守るって雷くらいで大げさな……」

「大げさじゃないの! 怖いのは怖いの! ほらまた光ったよ……ひぇっ!」


 素っ頓狂な声を上げながら綾は器用に俺のベッドへと潜り込んでくる。


 このベッドのサイズ的に2人で入ると結構狭いんだが……。


 というか倫理的にいいのか!?この状況。


 相手は妹だぞ。いや、逆に考えろ、思考を反転させるんだ。


 妹だからこそセーフなのだ。

 兄妹であれば一緒に寝ても間違いなんて起こるはずがない。


「もしものときは兄妹でも血の繋がりがないからOKってことにしちゃえばいいの」

「お前がそれを言うな!」

「ふぇえ……お兄ちゃんが綾のこといぢめるよぉ……」


 ……まったく、こいつはどこまで本気でどこまで冗談なのか分からないからな。


 しかし先ほども言ったが相手は妹、しかもまだ中学生である。

 そんな相手に俺が変な気を起こすわけが……。


「お兄ちゃん……すごいおっきくなってるよ?」

「ば、ばか! どこ触ってんだお前!」

「どこって……胸のとこだよ?心臓の音が大きいねって」


 さっきまで浮かべていた涙はどこへやら。

 狭いベッドの中でニヤニヤ笑う綾の表情はいたずらっ子そのものだった。


 しかし綾と一緒に暮らすようになってそれなりの時間を過ごしてきたが、流れとはいえこうして一緒に寝るのは初めてのことである。


「その……いいのか?お兄ちゃんって言っても男だぞ?」

「ん……お兄ちゃんだからいいんだよ……?」


 誤解の無いように言っておくがこれは一緒に寝ていいのか?という質問である。


 至近距離で向かい合っている俺たち、近くでこうして見ると……やはり綾は可愛い。


 理子が派手系の見た目だとするのなら、綾は見た目だけなら真逆の清楚系と言える。


 髪を切るのにわざわざ外に出たくない、という理由で腰まで伸びた黒髪は艶やかで。


 これまた外に出ないせいで真っ白な肌と、病的なまでに細すぎる体つき。


 ……うちに来たばかりの頃の綾は全然ご飯を食べなかった。

 あの頃に比べれば今ではあんなに美味しそうに俺が作った料理を食べてくれる。


「……お兄ちゃんはさ、理子さんのことが好きなの?」

「なっ……!」


 それは余りにも急すぎるタイミングの質問であった。

 思わず俺は狼狽えてしまう。


「理子さんはさ、可愛いもんね……私なんかと違って……内面もすごく可愛い」


 普段は外に出ることのない綾だが、理子が俺の家に押しかけてくる兼ね合いで二人は知り合いである。


 最近はそんな機会なんてないが、昔はよく3人で一緒にゲームしたりなんかして遊んでいた。


「……綾だって十分可愛いさ。お前は外に出ないだけで、ちゃんと学校に行ったら学年一の美少女レベルで可愛いんだからな?」

「そんなこと……ないもん……」


 否定的な言葉を述べながらも、綾はどこか嬉しそうに枕へ顔を埋めていた。

 お調子者の綾のことだから、きっとその下ではニヤニヤ顔を浮かべているのだろう。


 ……ドゴンッ!


 まるで高い場所から重たい鉄球を激しく打ち付けたかのような音が響いた。


「わっ!? こわいよ……」


 再び大きく轟いた雷鳴に綾は驚き、そして俺をその小さな細い体躯で強く抱きしめてくる。


「怖いか?大丈夫だからな……」

「おっきい音がするのね……凄く怖いの……」


 そう言う綾の表情はまるで捨てられた子犬のように怯えたものだった。


「お兄ちゃん……ぎゅってして、よしよしして……?」


 綾は器用に顔だけを俺の胸から出して、うるうるとした瞳で上目遣いに見上げてくる。


 その表情にえもいえぬ庇護欲がそそられる。


 怖がってる妹のお願いを聞くのはセーフだよな……?


 と誰に取るわけでもなく免罪符を得た俺は、縋ってくる綾を優しく抱きしめ……頭を撫でてあげた。


「お兄ちゃん……ありがとう、だいすき……」


 綾のその不意打ちすぎる言葉に心臓がドクンと跳ね上がり、そして次の瞬間。








 ドッラグオオオオオオオオォォォォォオオオオオオオオウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッゥン!!!!!!




 俺は爆発した。


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