幼馴染の理子の場合 その2
「理子、本気だよ」
付き合いがなまじ長いからこそ俺にははっきりと分かる。
これは冗談なんかじゃない。
「いや、だけど……」
そこで俺は言葉に詰まる。
だけど……なんだ?
今まで俺は理子のことを恋愛対象として見たことなんてなかった。
友達……とはまた違うけれど、特別な存在であることは確かで。
しかし一人の異性として明確に意識したことは無かった。
理子の天真爛漫な性格のせいでドキドキさせられることは今まで何度もあったが……。
「理子ね、子供の時からずっとずっとまーくんのことが好きだったの。だから少しでも可愛いって思ってもらえるように女の子らしくなろうと思ってメイクも始めたし、一緒の高校に行けるように勉強も頑張ったの」
理子は俺の両手をぎゅっと握りしめ、潤んだ瞳で上目遣いに俺のことを見上げてくる……くっ、可愛いっ。
「まーくんは理子のこと、きらい?」
「別に嫌いじゃないが……」
嫌いだったら幼馴染なんて続けてはいない。
だが俺の“好き”は理子が言う“好き”とは違う気もする。
「嫌いじゃないなら……いいよね?……大丈夫! 肩書きとか立場で人間は変わっていくの、だからまずは理子のことを彼女にして?」
そんな強引な……。
しかしどうしてだ、こう迫られるとNOと断るのはそれはそれで理子を傷つけてしまう気がする。
「……俺なんかでいいのか」
そうだ、俺は陰キャ。
こうして美少女に告白されるなんて陽キャイベントの真っただ中にいるが、本来は日陰でひっそりと生きていく影の者。
俺と理子では……その、釣り合わない気がする。
「理子はまーくんじゃなきゃダメなの……他の男の子にはこんなこと言わないよ?」
くっ……、あざといっ、あざとすぎる!
こいつは分かっていやがる、どう言えば男が喜ぶかという物言いを。
こんな美少女にうるっとした瞳で見つめられながら「貴方じゃなきゃダメなの……」なんて言われてその気にならない男子高校生なんてこの世にいるのだろうか?
「そこまでいうなら……その……い、いい……け、ど……?」
いませんでした。即堕ち2コマである。
しかし恥ずかしさのあまりシドロモドロな言い方になってしまった。
「まーくんはカワイイなぁ……そーゆーとこもね、理子はだいすきだよっ」
「おまっ、ば、ばか、恥ずかしいだろっ……」
つい誰かに聞かれてやしないかと思って周りを見るが誰もいなかった。良かった……。
「ねーねーまーくんっ、ちゅーしよ?」
「ちゅっ、ちゅー!?」
思いがけず声が上ずった。
ちゅーって何言ってんだこいつは!?
そういうのには段階があるだろ! 恋のABC知らねえのか!?
……俺もよく知らねえけどな!
理子は準備万端といった様子で目を閉じて俺を待っている。
やべえ、理子のキス顔なんて初めて見たから……その……可愛いすぎる……。
なんて俺があまりの可愛さにボーっとしていると、理子はおそるおそるといった様子で片目を開けてぽつりと一言
「……だめ?」
俺……陥落。
理子という可愛さの暴力に屈服してしまった俺はそれ以上の反撃の手段を持たず、言われるがままに初めてのキスへと手筈を整えていく。
目を閉じて、理子の柔らかい肩に手を乗せて……って、本当にこれであってるのか?
待て、目を閉じて唇を近づけたら相手の口の場所が分からないぞ、下手すれば口ではなく鼻に突撃してしまう。
しかしドラマなんかで見るキスシーンは両者しっかりと目を閉じているし……。
ええい、どうすりゃいいんだ!
「ぷっ……まーくん何でそんなにオロオロしてるの?」
「しょうがねえだろ! キスなんてしたことねえんだよ!」
キョドってる俺のことがおかしくてたまらないと言った様子で理子は笑いだす。
「まーくんは本当にカワイイなぁ……目つむって?理子がしてあげる……」
その言葉にドクンと心臓が跳ねた。
理子がしてあげる……なんだ、この言葉の破壊力は。
理子が(キスを)してあげるなのに、そこはかとなく違う意味を連想させてしまって……。
ドクンドクン、と心臓が今までに体験したことのないくらいに鼓動を高鳴らせる。
目を閉じていて視界に何も映ってこないせいで五感が研ぎ澄まされる。
理子から発せられる甘い匂いに嗅覚が支配され、彼女の顔がゆっくり近づいてくるのをはっきりと脳が理解していく。
「……」
互いに言葉を発さず、息遣いだけを交わし合い。
それから俺の唇と理子の唇は優しく重なり合い、そのファーストキスの余韻に浸ることなく……
ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオォオォォォオオオオオオウウウウウウッゥン!!!!!!
俺は爆発した。