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ディメンション・レコード  作者: ギルガメ
トラツグの世界
8/64

トラツグ④

「はぁ、しんどねぇ……」


「うぅん……。ウチも久々の変身はめちゃくちゃ疲れんたわぁ~~」


 地面に叩きつけられた鷲の大男たち。そいつらを眺めながら、俺とミナリはそう呟いていた。


「ミナリさんよぉ、いつまで狐の姿でいるつもりだよ?」


 俺は横目で白い狐の姿に変わっているミナリを見ていた。そしていつまでもその姿でいる彼女にぼやいていた。


「こっちの姿もなかなかに心地いいんや。ウチのことよりもクオンさんや。さっき口から赤黒いもん垂れとったで。その装備のレベル2は体の負担が高いんやから、あんまり使ったらあかんのに」


 しかし、ミナリは逆に俺が使った鎧の力の事を言い返してきたのである。


「ふん」


 尻尾をふりふりしながら、ミナリは俺をじとーと睨んでくる。その鋭い視線は自分の体をいたわれとの意味を込めてだろう。だがそんなことに気にしない。


 そんな俺とミナリのやりとりを、軍服の男女は呆然としながら遠くで見ていた。そんな視線に気づいた俺は、そのまま二人の元へと近づいた。


「驚かせて悪かったな。お前ら大丈夫か?」


 そして負傷していた二人に声をかける。


「あ、あなたたちはいったい!?」


 男の方は目を広げて、怪訝な表情を浮かばせる。そして横にいた女の方は息を切らせながら、不審な目でこちらを見ていた。特にその矛先は狐姿のミナリへと向いているように感じる。


「お嬢はん、そんな怖い顔せんでもええやで。その美人な顔が台無しや!」


「こいつはあいつらとは違う。だから安心しろ」


 『安心しろ』と言ったが、ここまでの激しい戦いを見せられた上に、ミナリの今の姿を見ていると無理だろうなとは感じる。


 まぁ、自分たちのせいではあるのだが、ミナリに対して、そんな怯えられた表情を向けられるのは、流石に良い気分ではない。むしろ腹も立ってくるというものだ。なので俺が彼らに次に向ける言葉が少々荒っぽくなってしまう。


「てか、お前らこそ何もんだよ。あの鳥男どもに襲われてたが……」


「わ、私たちは……」


「ま、まて佐竹……。見慣れないよそ者に、我々の素性を言うべきではない!!」


「し、しかし、少尉。我々はこの方たちに助けてもらったのですよ」


 問いただそうとするクオンであったが、喋ろうとする男を傍らの女は制止していた。その行為に俺は苦い表情を浮かべてしまう。この女なんとも堅物や奴だ。


「まぁ、お節介だったかな。確かに俺らはよそもんだ。警戒するのは当然だわな。だがよ……」


「こんなとこに、ほったらかしにするわけにはいかないんとちゃう?」


 ミナリは俺の言葉に被せて、彼女たちに話しかける。するとミナリは自分の姿を再び人の女性へと戻して、彼女を抱きかかえていた。


「ちょ、ちょっと」


「はいはい、落ち着いて。傷が痛んで動けんのはわかってるんやで。ウチの背中にお乗り、お嬢はん」


 そしてミナリはそのまま彼女を背中に担いだのである。


「ほら、お前も手かしな」


「は、はい……」


 一方で、俺は男の手を取ってその場から立ち上がらせた。ただその時、俺はこの男が足を負傷していたことに気がつき、そのまま肩を貸すことにする。


「お、降ろしてくれ。わ、私は、お前たちを信用できていないのだ。ふ、二人で、ここから出る、だから……!!」


「戸谷少尉、ここは素直に応じましょうよ。どうせ我々二人だけではもうこの森を安全に出ることなど、到底無理です。日も暮れてしまいます……」


「ほら、部下の方がよくわかってるじゃねぇか。別にお前らを煮て食おうとは思ってねぇよ。人の好意はありがたく受け取っておくもんだぜ、少尉殿」


「くっ……」


 抵抗しようにも、どうすることもできない女は悔しそうに歯ぎしりをしていた。


 そんな彼女に俺は深くため息を、ミナリは少々苦笑しながら、4人で森の出口へと向かうのであった。











★★★★★★★★★★










「まさか我らトラツグがあそこまであっさりやられるとはね。まぁ、不出来なあいつらの始末が省けたので、そこはいいのですがね」


「ふん……」


「ただ最下級の部類とはいえ、あそこまで圧倒的な戦力差とは恐れ入りますよ。しかもどうやらあなたの口ぶりからすると、彼を見知ってるようですが? しかも『スイセン様』も警戒されていた。彼らは一体何者なんですか?」


「俺とあいつの関係なんてどうでもいいんだよ。とりあえず、奴はその『スイセン様』とやらが言うようにかなり警戒しといたほうがいい。俺からの意見はそのくらいだ。今はただあんたらに従うだけだ。そして見返りにあいつを解放してくれれば、それでいい」


「ふふ。あの娘はなかなかの極上品、それ引き渡すとなると相応の働きをしてもらうことになりますがね。ふふ、それまでの間ですが、どうぞよろしくお願いしますね」


 遠くの木の上。そこには、森を歩くクオンとミナリと軍服の男女4人を見つめる二人の男がいた。


 一人は黒いコートに赤い翼を持つ男。もう一人はクオンに似た鎧を身に着けており、被っているフードで、顔が隠れている。


 そしてフードをかぶった男は、特にクオンを怒りを込めて睨みつけており、歯ぎしりしていた。



「クオン、お前はあいかわらず癇に障る男だ……」

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