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ディメンション・レコード  作者: ギルガメ
トラツグの世界
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トラツグ③

 目の前の二人の大男はそれぞれの姿を鷲に変える。そしてスキンヘッドの男が茶色の毛並みで長髪の男が紺色の毛並みになっていた。


「おいおいおい。あいつら鷲の姿になったぞ!? どうなってんだよ」


「まぁ、身体能力は多少上がってそうやけど。こらたいしたことないやろ」


「あぁ、そうだな。見た目が変わっただけだ」


 二人の変身を見ても俺達の別段、驚きも動揺もしない。こういう場面に出くわすのも慣れっこだし、こいつらの力だそこまでたいしたものではないのがなんとなく察することが出来た。


 だがそんな俺達のその舐め切った態度に、大鷲の二人は頭に血管を浮かべてさらにぶち切れていた。


「てめえらああぁぁぁあぁぁ!! ほざけぇえぇえ!!」


「人間風情がぁあああ!!! トラツグ様を舐めるんじゃなぇえええええ、うおぉがぁぁあおおおおおお!!」


 そしてスキンヘッドの大鷲はミナリの元へ、長髪の大鷲は俺の元へ、それぞれ咆哮をあげながら突進してきた。巨大な体格に見合わないすさまじい速さで飛行し、辺りに衝撃波が巻き起こる。


「うわ!?」


「くうぅ!?」


 傷ついた軍服の男女の二人は、声を出しながらもその風圧になんとか耐えながら踏ん張っているのが横目で確認できた。


「「死ねえぇえぇえええええええぇぇぇぇぇぇ!!」」


 そしてもはやありきたりすぎるセリフを吐きながら奴らは分かりやすく突っ込んでいく。そしてぶつかる直前に足を広げて鋭く大きな爪を二人に向けた。


 確かにこいつらの一連の攻撃スピードはかなり速かった。だがいくら素早くてもその単調な動きは俺にはすぐに見切ることが出来た。もちろん隣のミナリもだ。最も常人では無理があるかもしれないが、ともかく敵の動きが分かりやす過ぎたのである。


 俺とミナリは体を反らし、首を少しひねる程度の最小限の動きをして奴らの攻撃をあっさりと避けることが出来た。


「うえ!!? な、なんだと!?」


「俺達の攻撃が避けられた!!?」


 避けられるとは思っていなかった大鷲の二人は、突進の勢いのままその場所を通過してしまう。そして驚きの声をあげながら首だけ後ろへ振り返っていた。


「怒りに任した直線的な単調な動き。当てるとなると俺達よりももっともっと速く動こかねぇとな……。まぁ無理な話だがな」


 俺は奴らを煽るようにその言葉をかける。そして自身の意思で、持っていた大剣と鎧に変化を起こす。


 そして鎧全体に、青い光のラインが『二本』浮かび上がる。実はこのラインの本数は一本の時と比べて、素早さと跳躍力の向上がさらに起きるのである。一本の時は『レベル1』、二本の時は『レベル2』などと呼称しており、俺の鎧の能力は現在『レベル2』となっている。


 そして俺は奴らを見据えてそのまま口元をにやつかせた。


「ほんまやね。じゃ、このおバカさん達も冥土の土産や。うちのとっておきも見せたるわ。はああああああぁぁぁぁぁ!!」


 一方のミナリは、声を荒げながら、持っていた黒刀を自分の真上に放り投げていた。こいつの悪い癖が出ている。また何か派手にやる気だ。


「行くで、変!!! 身!!!」


 そしてミナリは右手を上空に掲げて、大げさな変身ポーズを取り始めた。


 するとミナリの体が輝き始めて、尻尾が肥大化して、何本にも分かれていく。それが全身を包み隠す。そして数秒も立たないうちにその包まれた尻尾は華のように開くと再び一本の尻尾に戻り、現れたミナリの姿は美しい白狐へと変わっていた。


 そうして上空から落ちてきた黒刀を変身を終えた直後に、タイミングよく口でキャッチしたのである。


「な、なななんだ、こいつら!? あの女も、き、狐に変わった!?」


「男の鎧も何か変わったぞ!!?」


 鷲の男たちは俺達の変化を見て慌てふためいていた。しかし、もうこいつらの声を聞くこともないだろう。なにせもう既に勝敗は決するのだからな。









「ぎゃぐおおぁあぁぁぁぁあぁあぁぁああぁぁあ!!??」


「ごぉがはぁあぁぁあああああぁあぁあああぁ!!??」


 瞬間、鷲の大男たちのうめき声が辺りに響いた。さらに衝撃が地鳴りとなり、そして轟音となって地面へと伝わる。


 俺達は、あの一瞬の間に超加速をしたのである。そしてそれぞれの得物を振るって鷲の大男達を地面に叩きつけていた。


「うごぉおあぁああ……」


「うがぁあおごぉお……」


 そして数秒も立たないうちに砂埃が消え、地面にたたきつけられた鷲の男たちの姿が視界に映し出される。そして既にこいつらの身体が人型のものに戻っていた。


 スキンヘッドの男と長髪の男、両者とも上半身と下半身が断裂しかけており、つぶれていた。白目をむいて、泡も吹き、もはや虫の息となっていたのである。

 

「ったく、『レベル2』の速さで斬っても完全には斬れねぇか。本当に硬てぇ皮膚だな」


「そうやねぇ……」


 俺達はいつもの雑務をこなすが如く、あっさりと勝利を収めていた。そして俺は鎧についた汚れを軽く払う。


「でもクオンはん。その鎧のレベル2はあんまり使わんほうがいいってウチは忠告してたんやけどなぁ。そこんとこ、どう説明するんや?」


「興が乗っちまったんだ。男はな、いろいろとカッコつけたがりなんだよ……」


 軽く睨むミナリをよそに、俺の口からは血が垂れており、それを拭っていた。

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