トラツグ②
森をかき分け、俺達は声のする方向に走る。
すると数秒も立たないうちに、遠くの方でにボロボロに傷ついた男と、でかい男たちに捕まっている女性を発見した。
「く、くそぉ。少尉を離せ、化け物共ぉぉぉ!!」
「に、逃げろ、佐竹。わ、私はいい。本部に報告して、顛末を説明しろ……こいつらのことを」
そして二人の上げた声が全力で走る俺達を導く。遠目からだが、大男達が男女をいたぶっているのが分かった。負傷した二人は軍服を身に着けている。
一方で大男たちは、スキンヘッドと長髪の二人組であり、山賊のような身なりに、でかい斧を持っている。 だが何より不気味なのが、背中に妙な『鷲のような翼』が生えていることだ。
「クオンはん、どっちを助けるんや?」
「決まってんだろ? あの不細工面の二人だよ!」
「そりゃそうやな。じゃウチはあのかわいい女の人を捕まえてる坊主頭をしばいてきたるわ」
「見た感じ、あいつらは人じゃなさそうだ。なら容赦はいらねぇか」
標的が決まると、俺は鎧と大剣の光のラインを青に変化させる。そしてミナリと共にその場から加速する。その上で、二人とも自身の得物を構えた。
「ふへへへ、いい女だぜぇ。色々と弄びたいねぇ」
「それは後にしろよ。今はこの野郎から始末するのが先だぁ。さて、とどめを刺すかぁ」
大男たちはにやにやと醜く口を吊り上げる。そして長髪の男は動けなくなっていた軍服の男に向かって斧を振り下ろした。
「佐竹ええぇぇぇ!! やめろ、おまえらぁぁ!!」
「うわあああああぁぁぁぁぁ!!」
そんなことさせるかよ!
「ごあああぁああああ!!」
俺は、なんとか長髪の大男の懐にまで間合いを詰めた、そして大剣を腹に向かって振るう。
鎧と大剣の発光は青色の一本線。剣先は男に直撃し、そのまますさまじい轟音と金属音が鳴り響く。そして長髪の大男はうめき声を上げながら、大きく吹っ飛び、遠くの木へと激突した。
「ちっ!? あんまり切れた感触がなかったぞ。こいつ硬てぇな」
「な、何だ一体!?」
相方が吹っ飛ばされる姿を見て、スキンヘッドの大男は何が起こったのかわからず驚嘆の声を上げた。拘束されていた女性も口を開けて呆然としていた。
「女の子に手ぇあげるなんて、しょうもない連中やなぁ!!」
「へぼぉおおあぁ!?」
そして次にミナリの声が傍らで響く。ミナリも既にスキンヘッドの大男の側まで接近しており、下に潜り込むと、そのまま足を男の顎に向かって強烈な蹴りをかました。
「うわ!?」
「おっと。べっぴんさん、大丈夫?」
蹴られた拍子に、手を離したスキンヘッドの大男から開放された女性をミナリはお姫様抱っこで保護した。
「さて、もう一発お見舞いや!!」
「ごばはああ!?」
ミナリは彼女を抱えたままで、間髪入れず、男の腹を思い切り飛び蹴りをかます。長髪の男も勢いよくふっとばされ、同じく遠くの木へとぶつかった。
「あぁ? なんなんだこいつらは? わかるか、ミナリさんよ?」
「うぅん、分からんなぁ? 獣人の類やないかな?」
俺とミナリは吹っ飛ばした二人組の奇怪な男たちを見ながら、体を軽く首や腕を振ってほぐしていた。
「そっちの若いお人も大丈夫かぁ?」
そしてミナリは負傷した軍服の男性に視線を向けると、抱きかかえていた彼女を彼の近くまで運び、その場にゆっくり降ろす。
「あ、あなたたちは一体?」
だが突如として現れた俺達に対して、二人の男女は何が起こったのか分からず、困惑している。とはいえ今は説明している場合ではない。
「それは後だ。今はそこでじっとしてろ。とっととケリをつける」
こんな反応には慣れている。俺は気にせずに、スキンヘッドの大男の方向に大剣に構える。ミナリも同じく自身がふっとばした長髪の大男の方向を見ていた。
「ち、ちくしょう。なんだお前らはぁ!?」
「うぐ、いてぇよぉ。こいつらぁ……」
ふっとばされて、砂煙が舞っていた大男たちの周辺は次第に晴れていく。そして苦痛の表情をしながらも立ち上がる男たちの姿があった。
「ほぉ、タフだなこいつら。傷跡がみえねぇぞ」
「まぁ、みるからにヒトやないからねぇ」
俺はこいつらの頑丈さに感心しながら、淡々とミナリと会話をする。だが襲われていた男女二人組は俺達のその余裕ある態度に驚愕していた。
『この二人。この世界では『トラツグ』と呼ばれている種族らしいですね』
俺達の会話に続けるように耳元にフィオネの声が届く。そしてフィオネは彼らの詳細を語り出していた。
「トラツグ? なんだそりゃ? けったいな名前だな」
「それって、ウチとおんなじ感じの種族なんか?」
『ミナリ様と同等に扱うに値しない獣達ですが。ヒト型や獣型に変化できる点が似ていますね』
しかし呑気に会話をする俺達の様子を見ていたトラツグと呼ばれた大男たちは、声を荒げながら口を挟んだ。
「何をべらべらと話してやがる!!」
「俺たちをコケにしやがって!!」
立ち上がってきた大男たちの顔には血管が浮かび、目元がぴくぴくと震えている。わかりやすくぶち切れているのが分かる。彼らからすれば、自分より図体が小さい者たちにいきなりふっとばされたのだ。当然だろう。
「ふざけやがって、嬲り殺しだ! 人間風情がぁぁぁぁ!!」
「あぁ、あぁぁ。そうだなぁ!! 舐め切ったやつにはなぁ!!」
大男たちはまるでテンプレのようなセリフを吐くと、呼吸を荒げて体に気合を入れ始める。すると彼らの身体から大量の毛が覆われ始め、身につけていた衣服も吸い込まれていく。
「うごぉおおおあがああ」
「ごおおおああがおおお」
そして奇声を上げながら体格はみるみると変化していき、数十秒も立たないうちに、大男達は『大鷲』にへと姿を変えたのであった。