旅の終わり
「フィオネ、こっちはOKだ。戸谷に飲ませた」
「了解です。トワさんの方にも飲ませましたよ」
東京からバイクで少し離れた場所、そこで俺達は休憩を取っていた。
そして別れ際に岡元少将から渡された、『トラツグの用の精神安定剤』を飲ませていた。かなり怪しいものだったが、詳しくフィオネが分析した結果、おおむね害はないようだったので、飲用させていたのである。
トワの方はまだ意識が戻らないが、戸谷の方はもう意識を取り戻しており、口からは薬を飲ませた際に、少しばかしむせていた。
「だ、大丈夫か? 自分が分かるか?」
「あぁ、だが大丈夫かと、問うべきはあなたの方じゃないのか?」
「…………」
その指摘をされて俺は自分の体をまじまじと見る。血は止まっていたようだが、鎧はすでに真っ赤に染まり、顔の傷もさらに増え、体の外も中もそこら中が痛い。生きてるのが不思議かもしれない。
「少し寝たからな。まぁ大丈夫だろ」
しかし無難に返答し、茶を濁す。しかし離れてやり取りを見ていたミナリは呆れた眼差しでこっちを見ている。『どこが大丈夫なんや』とでも言いたいのだろう。そんなことは流石に分かってるよ。
「でも、お前の方が心身ボロボロだろ? お前自身と部下はトラツグにされた。しかも俺はお前の部下を斬っちまってる。色々と余計なことをしてしまった」
「謝らないでくれ。それはすべてワタシの不甲斐ないからだ。だがあなたが佐竹だけは救ってくれた。しかも元上司から、色々と聞けたからな。それだけでも満足だ」
「お前、あの時目を覚ましてたのか?」
「流石にあの状況では起きにくかったからな。まぁあの時は裏切られたという感情が強すぎて顔を合わせたくなかったというのも理由だが。けどあの人とはやはりしっかりと二人で話したいな」
「そうか……」
戸谷の言葉に納得して、俺は彼女を支えながら、近くの岩場に座らせる。
「今回の事は俺達が引っ掻き回した結果でもある。お前たちの村に戻る予定だったが、今考えるとかなり惨いことになってると思う。しばらく野宿でもいいぞ。うぐっ……」
そしてフォローの言葉を言い終わった直後に、咳き込んで少し吐血してしまった。聞いていた戸谷は苦笑いしてしまっていた。
「そんな体で……、あなたも自己犠牲が過ぎるな。いいんだ、ワタシの家はあそこだ。ちゃんと弔いたい」
「……そうか。でもこれからお前はどうする?」
「ワタシはもう人間じゃない。もし村に生き残った者達がいても、こんな存在など受け入れてくれないだろう。せめて手に入れたこの力で、旅でもしながら他のトラツグ達の討伐でもしてみるかな、ハハハ……」
「恐くないのか?」
「そりゃ、こわいさ。だがそれが生き残ったワタシの宿命だと思う。ただ一人だと寂しくはあるな……」
軽く微笑むその笑顔の底に感じ取れる深い絶望。俺はそれを肌で感じ取り、何とも言えない気分になってくる。ただ俺には彼女をどうすることも出来ない。
「ちょっと佐竹はん、いきなり起きたら!!」
戸谷と話している最中、急にバイクの整備をしていたミナリの声が聞こえる。振り向くとバイクの近くで、もたれて寝ていたの佐竹の姿があった。そしてミナリの制止も聞かずに、そのまま体をふらふらと引きずりながら戸谷の前に立っていた。
「戸谷少尉……」
「佐竹……」
「私は……、あなたの努力を知っている。皆も真実を知れば変わらず、あなたを慕ってくれるはずだ。私は無力です、だけど少しはあなたを支えることは出来ます。少尉は、あなたは我々にはなくてはならない存在だ。これからも、我々の家を守ってほしい、だから、そんなことは言わないで下さい」
「佐竹……」
二人の会話を聞いて俺は思わず口元が緩む。
「いい部下がいるな。俺は前に言った言葉を訂正しないといけねぇ」
そしてそんな言葉を呟くと、二人は怪訝な表情を浮かべていた。まぁこんな意味深な発言をすれば当然だろうな。
「実は俺は戸谷、あんたはリーダーには向いてないって前に佐竹に言ってた。使命感や義務感が強すぎて、破滅願望も見えるってな」
「ふふ、そんなことを。だがそうはその通りだ」
「いや、でもそれは違うって今ようやく分かった。こんだけ慕ってくれる奴がいるんだ。お前はやっぱり最高のリーダーだよ」
そして俺は服の中をまさぐり、あるものをそこから出した。
「このお守りもかなりご利益があった。ありがとな……」
取り出したのは、以前に拠点を出る前にもらった戸谷を証明するバッチだ。当然、色々あったから少し汚してしまったが、それでもまだきれいに輝いている。それをしっかりと戸谷の手に重ねて手渡した。
「お守りしては少々、金ぴかすぎるの玉に瑕だがね……」
戸谷はそう言いながら、微かに顔を緩ませていた。
★★★★★★★★★★
この後の俺達の行動は次の通りだ。
バイクで戸谷達の拠点に到着後、想像した通りそこはほぼ壊滅状態であった。生き残った者はわずかであり、精神的にショックを受けたもの、瀕死の者達ばかりであった。
ただ戸谷と佐竹の帰還は皆に喜ばれたし、二人とも泣いていた。そしてそのあと出来る応急処置や最低限出来る建物の整備を行った。
とはいえ流石に俺もそして戸谷、佐竹も体は動かせず、フィオネも動作不良が起こっていたため、実際には大半の事はミナリが行ってくれていた。
そして一部の拠点の者達には、軍の東京本部の正体や戸谷自身のトラツグ化などの事を説明し、それが終わると俺達は宿を取り、そして明け方、本当の別れを告げた。
そしてバイクでその場から駆け出して、適当な所で『Drメロン』に連絡をすることにした。
「クオンはん、大丈夫か?」
「うん?」
ガタゴトと、前を運転するミナリの問いかけに俺は、軽く反応する。
「いや、戸谷はんの事とか心配してたやろ? 本当に大丈夫なんかて」
「この世界は本来、俺達の生きる世界じゃない。薄情のようだが、俺達はやっぱり部外者だよ。目的は果たせたが、結局空回りばかりだった」
「まぁ確かに部外者やけど……」
「迷惑をかけまくった俺達が言うのはなんだが、この世界に起こったことはもう、この世界の生きる者の問題だ。心配しても戸谷達の行く先祈るしかないだろう。まぁ『スイセン』、『カイキ』っていう懸念はあるがな」
「そうやね」
「お話の所、悪いのですが、メロンさんと連絡が付きました。もう座標は送りましたので、後は次元トンネルの展開待ちです」
「あぁ、わかった……」
会話の最中、フィオネから声がかかる。
俺は軽く返事をすると、横で眠るトワの髪をなでながら、次元トンネルが現れるのを待つのであった。




