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ディメンション・レコード  作者: ギルガメ
トラツグの世界
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その意図とは②

「戸谷の姿を見て、そう思ったか。馬鹿かお前は。罪悪感ってのが本当なら遅すぎるんだよ」


 俺は岡元少将に対して、そう言葉を発した。すると奴はまた口を開いていく。


「確かにな。それは分かっている。だからこそ、今からお前たちに我々の事をきかせようと思う。この世界に起こったことをな。せめてもの償いとして」


「償いねぇ。気に入らねぇが、全部吐き出してくれるんならとっとと喋ってもらおうか。本当にその誠意があるならな。ただし嘘を付いたそぶりを見せたらぶった切る」


「あぁ」


 あくまでも俺の怒りは収まってはない。ただ、こいつから知りたいことが聞けるのだ、それならそれでいい。そう納得しながら俺は奴の肩に当てていた大剣を手元に戻して、話を続けさせた。


「元々この世界は、とりわけこの国は地方で様々な小さな争いはあったが、それなりに統治されて東京を軸にして文化は栄えていた。とはいえ50年ほどまでは激しい紛争は至る所で起こっていた。そんな中、スイセンという男がその50年前の世界に現れたのだ。そして民間人のあまりの悲惨な死に絶望していた当時の幹部の『アカギリ』に接触した。それが事の始まりだ」


「なんやて!? あの男、人間の軍にいたんかいな。しかも50年前って……、あんな若そうな見た目してんのに」


 ミナリは初めてその話を聞いた俺と同じ反応をしていた。俺はスイセンからその話を聞いていたのでそこまで驚かなかった。とりあえずミナリに顔を合わせながら「そうみたいだな」と答え、また岡元少将の元に視線を向けた。


「あぁ、そこでアカギリは初めてのトラツグになった。トラツグはスイセンが作り出した人間に獣の因子を与える人造人間だ。トラツグになると、身体能力も上がり、老う速度も下がる。あの外見はそのためだ」


「またけったいなことで……」


「そしてアカギリはトラツグになった後、軍の上層部や部下を取り込んでいき、秘密裏に東京から遠く離れた未開拓地に拠点を作り始めた。そして人間とトラツグの対立構造を作り、戦闘データの収集の傍ら、負傷した者をトラツグへと変えていった。軍部のトップに立ち、人間側の情報を掴みながらな」


「ちっ……」


 相変わらず胸糞悪い話だ。思わず舌打ちをしてしまう。


「もちろんトラツグにする対象はそれだけではない。孤児やはみ出し者、そして捕まえた犯罪者、いなくても分からない者達をも次々に変えていったわけだ。あのガエンはまさしく後者だ。元々は戦闘狂の殺戮犯だった」


「なるほど、確かにあの凶暴さは伊達やないと思ったわ」


「ふん、はみ出し者ねぇ……」


 はみ出し者。それを聞いてふと戸谷たちの村を襲ったかまいたちの三人組の事を思い出す。言葉の節々に妙なコンプレックスを持った発言を繰り返していたが、奴らもそうだっだのかもしれない。


「ただ、この事実は人間の軍に入隊しても一部の者しか知らない。ワタシもこの階級になってから伝えられ、そして文字通りその身で受け入れた……」


「なるほど、それであんさんもあの熊さんみたいな姿になったんやね。けど話を聞いてると、ウチにはその『スイセン』とかいう奴に利用されてるとしか思えんわ」


「そんなものはアカギリも、そしてワタシを含む上層部も承知の上だった。この男には話したが、利用されようが確かに利益はあったのだ……。あの次元トンネルはその一つだ。様々な重要な地点に設置してあり、移動ポイントは自由に変更できる機能はあり、何かと便利だった」


「けっ、前言った事と同じ答えかよ」


 俺もさっきの施設で同じ質問をしていたが、何度聞いてもむかつく答えだ。


「トラツグの軍は近代の技術力、片や人間側は今までの営みのみの文化そのもの。そうなると『人々への情報操作』も容易い。東京の周りに点在する集落をいくら襲っても、移動手段も乏しく、伝達能力も低いこの文明では、トラツグの詳細な情報は東京まで伝わらない。東京の住民には会っただろう? まるで危機感のない認識の者達を……」


「…………ふん」


 こいつの言葉を聞いて妙な引っかかりが次々と取れていく感覚があった。戸谷達の村と東京の住民たちの認識が違いすぎるのはそういうわけか。


「何とも言えん、ため息しか出ん、ひどい話やなぁ」


「だがそのひどい話も、『トワ』という少女、そしてお前たちの出現で崩壊したがな……」


「あぁ?」


 むかつきながら話を聞いていたが、急にトワの事が飛び込んできて俺は、少し息をのんだ。どういうことかと、俺は気を失っているトワの方を眺める。そしてそのまま再び視線を戻した。


「お前の妹のトワは偶然、この世界のある村に来ていたようだが、トラツグの軍がそこを襲ってスイセンが彼女を手に渡った。そして強力な『吸血鬼』と呼ばれる幻獣の因子に耐えうる素質が分かり、実験されていたわけだ」


「てめぇ、そんな理由でトワをあんなことになったのか!!!」


 俺は言葉を聞いて、動かない体を無理やり立たせると、岡元少将の胸ぐらをつかみかかった。相手は表情も変えないままで余計に腹が立ったが、そこにミナリの声がかかる。


「クオンはん、話聞くんやろ!? せめて最後までや。しかもその人に当たってもやっぱり意味あらへん」


「ちっ!」


 俺はミナリに言われて、胸ぐらから手を離した。そして俺はその場にまた座る。奴は乱れた胸元の襟を直し、また話を続けていく。


「だがその娘が来た後に、どこから情報を得たのか『カイキ』という男がその娘を助けに来た。ただ我らの軍勢を前に敵わないと踏んだのか、時期が来るまでトラツグの軍に従事することになった」


「カイキの野郎、だから従ってやがったのか。ふん臆病者が」


「そして、異世界からの侵入が続き、それを重く見たスイセンは保険のために『オシリス』という男を雇ったのだ。これまた異世界からな」


「あの男もそうだったのか……」


「ウチは一瞬対面しただけやったけど、確かに異質やったなぁ、あの男は」


「後はお前たちがそこに侵入して来て、今回の通りになったわけだ」


 岡元少将は少しため息を吐き、また気絶する戸谷を眺めていた。そしてまた話は続いていく。

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