その意図とは①
「かはっ!!?」
「うわ!?」
「あう!?」
次元トンネルを通過しきった俺達は、順番に個人個人で驚きの声を上げて、外へと放り出されていた。
「いててて、くっそ」
うつ伏せになりながら顔が地面に触れると、草の青臭い草と土の香りを感じる。一体ここはどこなのか、俺はそうも考えると、上半身だけを上げて座りながらそれを確認した。
「ここは……」
日は既にうっすらと上がっており、目の前のよく見えた。そして周りを見上げるとここがどこなのかすぐに分かった。
「東京の門の前じゃねぇか……、げふっ……」
自然と口から血を吐き出しながらそう呟く。
「いつの間にか、日も上がってやがるな。出口が軍のあの部屋とは違うな、やはり転送先が変わってやがったのか……」
色々と思う事があったが、しかし周りの皆がどうなったかの方が気になり始めて、俺は辺りを確認した。
するとそこには疲れ果てたミナリとフィオネ、それから気絶している戸谷とトワがしっかりといた。そして起きている二人と目が合うと、軽く微笑んでいた。
「何とか抜けれたみたいやね。クオンはん、体大丈夫か?」
「ミナリ様、大丈夫なはずがありませんよ。こんな血だらけで。鎧の力を多用しすぎですよ、クオン」
「はぁ、生きてるからいいだろ……」
相変わらずの憎まれ口を吐くフィオネに、俺はため息をつきながらそう返す。まぁフィオネの言う通りではある。逃げきってほっとしたからか、全身が脱力して、手先も感覚もほとんど無くなっているくらいだからな。
しかし、とんだ戦いになったものだ。
「クオンはん、落ち着くのはちょっと早いで……。ほら、ウチらが抜け出してきた次元トンネルがまだ開いとる……」
「うえ!?」
身体を寝ころばせようとした瞬間、ミナリから注意を受ける。そして指で刺された方向を見ると、次元トンネルの起動装置と生成された渦が未だに動いていた。
「てかなんで、まだ動いてんだ!? やばいぞ!! あの施設は大爆発するんだろ? 下手したら爆風がこっちまで来やがる!!」
俺は急いで、今開いている次元トンネルを破壊しようと考えた。この世界の次元トンネルは機械が置かれている出入り口どちらかを壊せば渦は閉じるはずだ。
あちらが爆発したら確かに渦は消えるが、爆風の一部がこちらにまで及びかねない。だから俺はすぐさま立ち上がり、機械に手をかけようとした。
「待て、ワタシが通ってからにしろ!!」
が、その矢先だ。聞き覚えのある野太い声が響く。そして次元トンネルから先ほど、ホッキョクグマへと姿を変えた岡元少将が現れたのであった。
「お前……!?」
この男を見た瞬間、俺とミナリとフィオネは、地面に腰をかけながらもすぐに構える。だがこの男はそれを制止した。
「お前たちと戦う気はない」
そう言った瞬間、岡元少将はその場から振り向き、自身の腕を装置に向かって振るう。熊の姿での一撃、機械は一瞬のうちに破壊されて、そのまま渦は消滅した。
「お前、何して……」
直後に行った行動に疑問を感じて言葉をかけようとしたが、それを遮るように岡元少将は言葉を重ねてきた。
「忘れ物だ! しっかりと生死は確認しろ」
「どわ!?」
更にはこの男は、すぐに振り返ると持っていた何かを俺に投げつけてきた。かなり大きく重いものだったので、受け止めきれず、思わず声を出して後ろにのけ反ってしまった。
「いててて、ってあれ……、さ、佐竹!?」
「あがぁ……、ク、クオンさん……?」
「お前、生きてたのか!? おい、しっかりしろ」
投げ飛ばされたのは死んだと思い込んでいた佐竹であった。
だが少し言葉を発したと思うと、気絶したのかすぐに目を閉じてしまった。
ただそんな佐竹に対して、彼がトラツグの拠点に来ていたという事実を知らないミナリはそれを俺以上に驚いていた。
「佐竹はん!? なんでここにいるんや!! クオンはん、なんか知ってるんか……?」
「少しは知ってるが、俺も色々とありすぎて混乱してる。その質問も含めて、ちょうどいいやつが目の前にいるぜ。俺も疑問だらけだからな」
俺はミナリをあしらいつつ、変身しているこの男に対して鋭い視線で睨みつけた。すると岡元少将は一呼吸を置き、そのまま姿を人間に戻り始めた。
「戦う気はないって言ったな。お前なんで俺達を助けた? そもそもお前は敵側だよな。そこの次元トンネル壊しても良かったのか?」
そして当然の疑問をこの男にぶつけていた。そしてその言葉をかけるとしばらくの沈黙のうち、奴は重い口を開き始めた。
「我々が使う次元トンネルは、いくつもの場所に転送場所が設置されている。今ここを壊したのは、余計な追手が来れないようにするためだ……」
そう話すと岡元少将はそのままその場に胡坐をかいて座り始める。殺気もまるでなく、どうやら本当に戦闘の意思はないように感じた。
「まぁ確かにワタシの行いはお前たちからすれば意味不明だろうな。ワタシ自身も戸惑っている。お前たちを助けた理由は、おそらく罪悪感からだろうな……」
「あぁ、罪悪感だ? 俺はこの戸谷と佐竹の村の現状をまじまじと体感した。そしてあの研究施設の数々をな。それに関わっていたお前が、今更罪悪感だと……?」
当然の感情に起伏だった。あそこまでトラツグ達の仕事をしていたこいつが罪悪感などと、呆れて物も言えなくなってしまう。
俺は鎧に力を入れると、座りながらではあるが、そのまま大剣を振るう。そしてその刃を、奴の肩にまで当てていた。
「ク、クオンはん……!!?」
「罪悪感とか寝ぼけたこと言ってんじゃねぇぞ。今回の事で、戸谷も俺の妹のトワも戸谷も俺の妹もトラツグにされちまったよ。ふざけた言うと叩き切るぞ!!」
「クオンはん、落ち着きぃな。気持ちは分かるけど、なんにせよ助けてもらったんやし。どうも敵さん側みたいやけど……」
「助けてもらったことはそれは感謝するが、それとこれとは別だ。ミナリは敵側としてのこいつから話を聞いていないからそんな冷静でいられるんだ。散々クソみたいな話を聞かされたからな」
俺の言い方がきつかったと感じたミナリは、少しばかり注意をしてきたのだが、問答無用で跳ね返えしていた。
「お前の言う通りだ。今更、弁解の余地はない。罪悪感という言葉で片づけるのもおかしいのは分かっている。だがやはりそれが本心なんだ。かつての部下のその姿を直に見て痛感してしまった。目を背けてきた我々の行いをな」
そう言って岡元少将は気絶している戸谷に視線を合わせる。そしてどこか悲しそうな表情を浮かべていた。




