女狐の剣②
『ガエンが押されている?』
『何者なんだ、あいつらは!!?』
『とっとと、殺せ!!』
『オレたちが見たいのはそんなものではない!!』
ガエンという狂った奴をウチが吹っ飛ばした後、周りで見ている観客席に座るトラツグ達がそう騒ぎ始めよった。怒りの表情を浮かべて、罵詈雑言が至る所から響きまわっている。
なんともあほらしい光景や。ウチはそんな言葉を無視して、ダメージを喰らったフィオネちゃんの元へと駆け寄った。
「大丈夫か? フィオネちゃん?」
「は、はいなんとか。ワタシ自体は電脳の意識が本体なので、なんとか。ただ今の感電と衝撃で、目の熱線や腕のロケットを使うのが少々危険になってしまいました。暴発の恐れがあるかと……」
「いや、強がらんでええから。戦闘が無理やったらウチにまかせ」
「そんなことも言ってはいられません。そもそも大量のトラツグ達に囲まれているこの状況は、ガエンを倒しても解決できるものではありません。ここで戦線離脱はできません……」
フィオネちゃんの体は今の攻撃で少々故障してしまったようや。立ち上がろうとする動きもぎこちないし、無理をしている感じがある。戦闘用の体やから頑丈に作ってはいるはずやけど、相手が馬鹿力がよう分かる。
休ませたい気持ちは山々やけど、ここはフィオネちゃんの意思を尊重するしかない。本人は認めたがらんけど、妙に踏ん張るところはクオンはんに似とるわ。
「そぉか、なら気張るしかないなぁ」
ウチはフィオネちゃんの気持ちを受け入れると、まず自分の体を人間の姿に戻した。そして手を取ってフィオネちゃんをその場から立ち上がらせる。
「おいおいおいおいおいおいぃぃぃ!!! なんでオレに勝った前提の話まで行ってんだぁぁあああ!!?? オレはまだ暴れたりねぇってのによぉおおお!!!!!! ハハハハアハアアア!!!!」
しかしその直後、吹っ飛ばされていたガエンはうっとうしい声を出して起き上がっていた。そして翼を羽ばたかせてその場から飛び上がっていた。
「当たり前や!! あんさんの相手をしてる暇はないねん!! ウチはクオンはんを来るのを待たなあかんし、こっからも脱出せないかん!!」
「フハハハハハぁぁあぁ!!!! むかつくなぁぁああ!!! むかつくぜぇえええああ!! どうせ、あの男はくたばってる!! 俺らに力をくれたお偉方と、その番人がいるところに送られたらしいからなっぁぁぁぁあああ!!」
「なんやって!!?」
それを聞いてウチは驚愕した。クオンはんが別の所にいる?
しかも『力をくれた人物の所』ってこいつは言いよった。まさかクオンはんがあのカイキとか呼ばれていた二刀流の奴に負けて、掴まったんか?
頭に嫌な想像が浮かんでまうけど、クオンはんが簡単に負けるなんてあり得へん。きっと勝ってるはずや。その上でウチらとは違う場所にいるんやったら、それはそれで大問題や。
ウチは不審の目をぎろりと上空にいるアサギリの方向へ向けた。
「ガエン!! 余計なことを言わないで頂きたいですね。お前が乱入してきただけで、相当な迷惑なのに、これ以上失態をさらさないで欲しい」
しかし、先程まで煽ってばかりいたアカギリの顔色は少しこわばり妙に焦っていた。ウチに目も向けず、ガエンを睨んでいる。どうやらこのガエンという男が言った事は本当の可能性がある。
「へ、オレが来るまでは負けまくりだったじゃねぇか。こんなので、士気が上がるかよぉおおぉおおおお!!!! 戦いこそが生物の本質だ!! 勝たなきゃ意味がねぇえええぇえ!! 今から本当の宴の時間だぁぁああああぁぁああ!!!!」
「ミナリ様!! まずい、またあの男、風圧のカッターをばらまこうと!!」
「あのイカレ鳥!!」
ただそんなアカギリの忠告など無視した。そして奴はまたあのすさまじい風圧のカッター攻撃を放ってきた。
「くっ!!?」
ウチはフィオネちゃんを掴むと、その場から一気に横に飛び上がって回避する。すると飛んできた風圧は後ろの鉄格子へとぶつかり、一気に切断された。しかも威力は衰えずそのまま観客席の壁にまでぶち当たった。
「ミナリ様すいません!!」
「ええって。そんなことよりも相変わらずなんちゅう威力や!!」
「ハハハアハっぁぁぁぁあああ!!!! まだまだいくぜぇええ!!!!」
「しつこいやっちゃ!!」
ただ避けてもガエンは翼を広げ、再び風圧カッターをお見舞いしてくる。だがその攻撃も何とか回避して、また後ろの鉄格子と壁に激突した。度々衝撃音と地ならしが発生してその威力の異常さが感じられる。
「このままじゃ、拉致あかん!!」
「はい、しかも鉄格子も破壊されて一気に崩れてくる可能性もあります!! このまま奴の攻撃を許してたら……ここが持ちません!!」
フィオネちゃんの言う通り、相手の攻撃の凄まじさのせいでこのドーム状に覆われた鉄格子そのものが崩れかねへんものになっとる。何度も思ってるけどほんまに無茶苦茶すぎる。
あんな屑みたいなアカギリには同情したくはないけど、なんとなく相手の気持ちが分かってしまう。しかもこの攻撃をいつまでも避け切れるとも限らん。
「このまま何とか近接に持ち込むしかあらへん!! フィオネちゃん、次の攻撃を避けたらウチを思い切り前に投げてくれへんか!!」
「ミナリ様何を!?」
「奴が風圧カッターを放つ直前に一気に詰め寄ったる!!」
「わ、分かりました!」
奴の攻撃を止めるにはそれしかない。そうして意見をまとめた所で、またガエンの攻撃が飛んできた。
「ハハハアハぁぁぁぁ!!!! まだまだいくぜぇええ!!!」
相変わらずの脳筋プレイや。ウチはまたフィオネちゃんを抱えると何とかその場から飛び上がって回避する。
「ミナリ様行きます!!」
「頼むわ!!」
そして攻撃を躱した瞬間、体勢を変える。
フィオネちゃんはウチの両足を掴みダイナミックなジャイアントスイングを行う。そして最高速度に達するとウチをそのままガエンの方向にへと放り投げる。
「はぁああああああああ!!!!!!」
投げ飛ばされた瞬間、ウチは口に黒刀を咥えると白狐の姿に即座に変身をする。
「なぁあ!!?」
そしてその投げ飛ばされた速度を用いて、瞬く間にガエンの懐へと潜り込めた。
「てぇやあああ!!!!」
「くそがぁあああああ!!!」
ただガエンも先ほどのように斬られるわけではなく、今度は爪でウチの刀を受け止めてきよった。途端、周りにぶつかり合いの衝撃波が広がる。
「ま、まさか止めよるとはぁあ!! ぐぅう……」
「あいにくなぁあぁあああ!!! 何度も斬られるわけにはいかぇんだよぉおおぉおおお!!!! 女狐がぁぁぁぁああああああ!!!!」
ぎりぎりとウチとこの男の攻撃がかち合う。本当にこいつの力はどないなっとんねん。しかしながらその時、後ろで見ていたフィオネちゃんが声を上げていた。
「ミ、ミナリ様!! 横です!! 気を付けてください!!」
「「!?」」
その言葉に、ウチとそしてガエンも反応し、視線を一瞬だけ横に移した。
「なぁ!?」
「こ、こいつはぁぁ!?」
「うごぁああぁあ…………」
なんと横には、その場から立ち上がり、獣のような奇声を上げる戸谷はんの姿があった。そして次の瞬間、更なる咆哮を上げた。
「あがかあああぁっぁあああぁぁぁあぁあああ!!!!!!!!!!!」
そして戸谷はんは再び、緑色のワイバーンへと姿を変貌させる。体は元の人間形態よりも肥大化し、その姿を見上げることになってまう。タイミングが最悪すぎる。
「こいつまだ息がありやがったかぁ!!!!!」
「う、うそやろ戸谷はん。こんな時にあかんて!!!!」




