変わり果てた絶望と復活した狂気
~視点は再びミナリとフィオネに戻り、時系列はクオンとオシリスの相対と並行する~
「はぁはぁ、こいつらなかなかに邪魔くさいな」
「しかし、殲滅は9割方終わっています」
ウチとフィオネちゃん。ウチら二人は忌々しい観客の声援を浴びながら、多数のトラツグと交戦していた。
敵のトラツグはフィオネちゃんが言った通り、ほぼ片づけた。しかしながら、問題はまだ目の前に脅威と絶望が残っとる。
『ぐおおおぉおおおおおおおあぁぁああぁあ!!!!!!!!』
耳がきしむほどの咆哮を叫び、ウチらを威嚇する巨大なワイバーン型のトラツグ。その正体である『戸谷少尉』がいるからや。
「ミナリ様、あれは自我を失い暴走しています。もう倒すしかあしません」
「大丈夫、それはもう覚悟の上や。それよりもあの動作や。またくんで!!」
緑色のワイバーンと化したトラツグは、しっかりと地に足を着け、ウチらを睨みつけながら、首を後ろに反らして息を吸う。これは戦っている最中に何度も見た仕草で、あの厄介な技の前兆や。
「いかん!!」「来ます!!」
そして次の瞬間、ワイバーンは息を吐きだすと同時に、巨大な炎を放った。厄介な技とはこの事。
ウチが放つ『狐の灯』とほぼ同等な威力。ただ巨体故か、ウチのよりも広範囲に広がり、周りにいた雑魚のトラツグ達も被害を受けている。
「「は!!」」
だがウチらはそれらを躱すように、その場から高く飛び上がった。ウチはただの大ジャンプ、フィオネちゃんは足元からジェット噴射させて飛んでいる。まさにロマンの一言や。
「フィオネちゃん、ちょっとウチを空中で支えてくれへんか?」
「了解です、ミナリ様!!」
そしてそのまま落下していく寸前に、空中でフィオネちゃんの手を右手で掴み取り、空中で留まった。
「戸谷はん、情けはかけへん。なんでそうなったかは分からへんけど、こっちも命が危なくなるんや、突破させてもらうで!!」
そう言うて、ウチも対峙するワイバーン相手に向かって思い切り息を吸う。そして首を左から右へ払うように動かして、口を開いた。今、繰り出す技はいつもと違う技や。
「必殺『狐の業炎乱舞』ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!!」
ウチはその口から、螺旋状に旋回する炎の柱を三つ繰り出した。狐の灯と違い、範囲は広くない。しかし、スピードと威力は申し分ない技や。
『ぐおああぁあぁああああああ!!!!!!』
それは見事にすべてぶつかりあの巨体を押し崩す。やられる声まで怪物そのもので、心の中が息苦しゅうなってまう。
『おおおぉおおっと!!!! 異世界からの来訪者が、竜のトラツグに一撃を与えた!!! これはすごいぞ!!!』
「「「わああおおぉおおおあああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」
「ちっ」
しかしそんな光景を本当にゲームのように楽しむ観客達と軽快に解説するアカギリの声も響き渡る。思わず舌打ちしてしまう、何とも腹立たしい限りや。
ただやはりこれだけの攻撃ではやられんようや。ワイバーンはなんとかその場から踏ん張り、体勢を元に戻していた。ただぶつかった個所は黒焦げて相当のダメージが入ったことが分かる。
『があああああああ、うごぁぁあああああ!!!!!』
「自我を失っても、怒っとんなぁ。とびきりに」
「ミナリ様、奴の翼が動いています。おそらく飛び上がりますよ」
「あぁ、わかっとる」
ワイバーンはウチらをぎろりと睨むと咆哮を上げながら翼をはためかせて飛び上がる。そして今度は突っ込みながら口を開ける。そしてそのまままた火炎を放ってきた。
「ミナリ様、行きます!!」
「よろしゅうな」
フィオネちゃんと合図を交わすと、そのまま空を移動する。そしてうまいこと相手の攻撃をかわしながら、ウチも炎を幾度も吐いて応戦する。
「はぁああああ!!」
『ぐおぉおおおおお!!??』
激しい空中戦やけど、相手の攻撃は鈍足であり、軽々避けることが出来る。
ただ威力が高い灼熱の火炎が何度もぶち巻かれて、周りの電撃の檻がどろどろに溶けてしまっている。他のトラツグ達も既に殲滅してしまったようや。
もちろん、攻撃を難なくかわせるのはフィオネちゃんの移動能力が優れているんやと思うけど、もしかしたら戸谷はんは力をコントロール出来てへんのかもしれない。
「流石に見てて虚しくなってくんなぁ。もう止めをさしたる!! 戸谷はん!!」
『ごがぁああああぁあああ』
ウチの攻撃を当たるたびに悲鳴を上げて弱っていっとる。
これで終いや。止めを刺すためにウチは携えていた長い黒刀を開いていた右手で抜刀する。
しかしまさにそのタイミングやった。
「ハハハアァァァアハーーーーーーー!!!!! フハハハハハアァァアハハハーーーーーー!!!!!! いい戦いをやってるじゃねぇかぁぁぁぁああーーーーーー!!!!!」
突然、聞いたことがある狂った声が聞こえた。
「「!!??」」
ウチらは思わず聞こえてきた方向を向いた。
すると視線の先、檻の外側にあの鴉のトラツグがいたのである。
「な、なんで、あいつがここにおるんや!!??」
「あ、あの男も来ていたんですか……」
このトラツグの登場に思わず唖然としてしまう。しかし相手はそんなことは意にも返さず、戸谷はんに向かって声を投げかけていた。
「おいぃいいいいい!!!! 新入りぃぃいい!!!! その女狐と小娘は、俺の得物なんだよぉぉーーーーー!!!! 勝手に戦ってんじゃねぇえよぉおおおぉぉおぉーーーーーー!!!!」
そして怒りながらなのか、笑いながらなのか、よく分からない感情のまま、電流が走る檻にへと頭からタックルをかます。当然ながら、あいつに電流が走るはずやけど、そんなことはお構いなしに、ぶつかり続けとる。
そうしてそのまま檻は力に押し負けて変形していき、そのまま破壊される。電流を浴びながら檻をぶち壊すとは、無茶苦茶を通り越しとる。本当に狂っとるで。
「とっとと、去ねやぁぁああああーーーーーーー!!!!!」
鴉のトラツグはそのまま翼を高速で羽ばたかせると、再びあの強烈な衝撃波を放つ。そしてそれはワイバーンになった戸谷はんに命中する。そしてそのまま地面へと叩き落されてしまうた。
『ぎぃいがあぁあああーーーーー、あうぅう』
そして地面に落ちたワイバーンは、力を使い果たしたのか、そのまま元の戸谷はんの姿に戻っていた。それを大鴉のトラツグは確認すると、こっちを見つめてきよった。
「あの男はいねぇえええようだがなぁぁ、フハハハハハアァァアハハハーーーーー、お前らだけも十分だぁぁああ!!! このまま祭りの再演といこうぜぇえええええーーーーーー!!!!!」
その狂った叫びは、会場の声を打ち消すほど、響きまくっていた。




