これがトラツグの作り方⑤
「50年前……? 確か、トラツグが現れ始めた時期か。あの男、軍の人間だったのか……」
『ほぉ、聞いていたか。そう儂がこの世界に着手し始めたのは50年前だ。次元トンネルで時代を調整し、儂は50年前のこの世界で、当時の彼に接触したのだ』
50年前か。それは確かトラツグと呼ばれた存在がこの世界に現れた時期だったか。戸谷や東京であった魚屋の親父からそのこと聞いていたが、次々と判明するこの世界の歪んだ歴史に、俺は驚愕していく。
次元トンネルは『時空間を行き来する機能』があるのは何度も触れた。そして空間ではなく、『時間軸』をずらして転移することも可能なのだ。下手すれば昨日の自分に出会う事も出来る。とはいえそれは実はかなり難しいのだが。
『アカギリ君は当時、疑問を感じていたようだ。人間というのは弱い、それ故に些細な争い事ですぐに死んでしまう。治安を守る仕事を行う上で、彼は無様に死んでいく場面に何度も直面し、辟易していたみたいじゃな。そんな彼に強化人間の話を持ち掛けたら協力してくれた。まぁすんなりとはいかなかったがのぉ』
「…………っ」
俺はその忌々しい声を聞きながら、その場からゆっくりと立ち上がる。
『だがアサギリ君は良い仕事をしてくれた。彼は実験体の第一号でもあり、初めての試みだったが、暴走もなくトラツグへと覚醒した。そして多くの部下たちを懐柔して仲間に引き入れたのだ。よほど人望があったのじゃろうな。おかげで手頃な人間をすぐに集められた。ハハハ、研究で最も労力がかかるのは、サンプルの採集なのだ。それがここまで楽に行えるのは最高の実験場であった』
「ちっ!!」
流石に胸糞悪くなりすぎた俺は、大剣を振るい、斬撃をスイセンに向かって放った。しかしこの老人はただ立体映像。その衝撃波はそのまますり抜けて壁へと激突する。
『儂はここにはおらぬぞ?』
「勝手に体が動いた」
俺はそう告げるとスイレンをさらに険しい表情で睨みつけた。そしてここまで案内してくれた岡元少将にも視線を移し、同様に睨みつける。
「お前、こんなやつの言いなりになってんのか? こんな屑野郎に」
「確かにその方の言動や理念は褒められたものではない。だがこのトラツグの力を与えてくれた。人以上の驚異的な生命力、身体機能。そして多くの技術も学んだ。倫理はともあれ、彼の行いはワタシたちに利益を与えてくれたのだ」
『そういうことだ、クオン君。50年前から軍の上層部だけをじっくりとトラツグへと変えていったのだ。そのかいもあって今この世界に残っている人間たちに詳細を知られることなく大量のトラツグ達を生み出せたのじゃよ』
二人の言葉を聞いて、俺は余計と虫唾が走った。全身の毛が逆立ち、すぐにでも暴れだしてしまうそうだ。
『50年。これだけの月日があればすべての人間を変えるのも造作ではなかった。だが人が残っていないと、トラツグ達の戦闘データが取れないのじゃよ。バランス調整は大変だった、ハハハ』
「てめぇ……」
『ところで「トラツグ」という名は儂が考えたのだ。君の世界には「キメラ」と呼ばれる空想上の合成獣がいるだろう? 同様に「鵺」という合成獣もいる。儂はこれらからうまく名前を取ろうとしたんだが、なかなかいい名前が思いつかなくてのぉ。そこで鵺の声と呼ばれている「トラツグミ」いう鳥を思い出した。そしてそれを名前に当てたのだ。なかなかいいだろう?』
「そんなことどうでもいいんだよぉ!!」
スイセンの言葉の一つ一つが、あまりにも理解しがたく、言動を発するたびに気が狂いそうになるほどの怒りに駆られる。それほどまでにこの男は性根から腐ってる。
『ただ、儂がトラツグの実験をする中、『トワ』君が現れたのだよ。ひょんなことから入手できたのだが、彼女はとてつもない素質があったのじゃ。そうして合成獣トラツグとしてはまさに最高峰の力を手に入れた』
「お前、既に『トワ』をトラツグに……したのか……」
『ここに厳重に入れていたのだ、既になっているという事はなんとなく察せるじゃろう?』
「てめぇぇえぇ!!!!!!!!」
その瞬間頭が真っ白になり、完全にブちぎれていた。ここに来てから何回怒ったのか分からないが、こればかりは度を越えて切れてしまった。雄たけびをあげて、大剣を構える。そして培養槽へと攻撃を放とうとしたその瞬間だった。
ピシ!!
という音が響く突如として響き、培養槽に亀裂が入る。その亀裂は中央から広がっていき、全体へと達する。そして中にいる『トワ』を見ると、目は見開いており、瞳が紅色に染まっていた。
さらにトワの体にある異変が起きる。なんと紅い鱗のようなものが、体の一部に鎧のように覆いだし、背中には蝶のような大きく紋様のある羽が生え始める。
「な!?」
するとそのまま轟音を立てて、培養槽は破壊された。
覆っていたガラスは飛び散り、中の液は溢れ出す。そして『トワ』はその場を浮遊し始めたのだった。
『ああぁぁぁあぁぁぁぁああぁああああああ!!!!!!!!』
そして咆哮のような機械音のような特殊な声をあげていた。
「ト、トワ……」
変わり果てた『トワ』のその姿を見て、俺はただ立ち尽くすしかなかった。




