これがトラツグの作り方①
~視点は再び、クオンの元へと戻る~
「がぁはああっっ!!!!??」
声が漏れ、鎧が地面をこすり、金属音が辺りに響く。そしてそのまま壁にぶつかり、体に雑な痛みが走った。
「いててて……」
俺はクロツギとの戦闘からうまく逃げ切って次元トンネルを通過していたのだった。
「はぁはぁ、う、うまく通れたようだな……」
次元トンネルをうまくくぐり抜け、そして奴らが言っていたことが事実ならここはどうやらトラツグの本拠地らしいが。
俺は辺りを少し見渡しながら、倒れこんだ体を無理やり起こす。膝をつくとまたズキンと全身に激痛が走り、バランスを崩しかけたが、耐えてその場から立ち上がった。
そしてそのまま後ろを見ると、次元トンネルの出口を担う場所に装置が置かれており、渦は消失していた。
「なんとか出口は塞げたようだな」
俺は東京で『カイキ』という男と戦うわけになったわけだが、最後は向こうにあった『次元トンネル』の機械を破壊して、逃げおおせたのだ。そしてうまく成功したらしく、完全に出入口が無くなっていたのを見て少し安堵する。
「はぁ、しかしここが本当にトラツグの根城なのか? 着いたのはいいが、ここはどの地点なんだ?」
俺がいた場所は、『次元トンネルの装置』が置いてあるだけの狭い部屋。薄暗い電球が個室を照らし、目の前には金属製の扉がある。窓などは一切ない。
まるで前に進めてと言わんばかりだが、後退する余地は無く、そうせざる得ないのもまた事実だった。
「とりあえずミナリとフィオネと合流しねぇとな」
この先にミナリとフィオネがいるかもしれない、だから二人を探すために前の扉へと足を進める。
ただ一応、何か仕掛けがないかを確認した後に、ゆっくりとドアノブを捻って扉を開けた。
「あ? なんだこれは……?」
扉を開けると、そこには独特な通路が広がっていた。通路の壁の一部が強化ガラスになっており、通路と隣接する部屋の内装が見える構造になっている。
そしてその通路や部屋には明かりが灯されているが、人がいる様子はない。ただ部屋の内部には『人が入れるほどの液体が入った培養槽』やそれにつながる『パソコンのような機材』、『シリンジやフラスコなどの容器』、『乱雑にばらまかれた書類』などが置かれている。
先ほどまでいた東京の人々が暮らす文明とはかけ離れた雰囲気に圧倒されてしまう。そしてそれに驚きながら、部屋の内部が気になって、とりあえず適当に右手の部屋に入ることにした。
「何かの実験か?」
部屋の扉は同じガラス状の物であったが、それには鍵はかかっておらず、そのままあっさりと中に入り込むことができた。そして培養槽の前に立ち、置かれていた資料やまだ映し出されていたPCの画面をのぞき込む。
「Toratsugu 試験体No50326? あぁ? 他はよくわからん数字ばかりだな……」
映っていた画面には、よく分からない内容の言葉と数字群の羅列が表示されている。そして手に取った資料にもほぼ同様なことが記されている。だがそんな時、そこに載っていたある男の顔写真に目が行った。
「お、おい。こいつ。俺たちが初めてこの世界に来た時にぶった斬った鳥野郎の片割れじゃねぇか」
そこに写っていたのは、スキンヘッドが特徴の鷲の『トラツグ』の一人であった。ただその写真では普通の人間の姿をしている。まさかと思い、俺は他の資料や機材の画面を操作してみる。するとその相方の長髪の男の人間姿の写真もすぐに発見することができた。
その二人を見つけてから、持っていた資料をさらに深く読み解くことにする。すると衝撃的な事実が書かれていた。
「試験体No50326の高適合生物を確認。配合を開始し、翌日に終了。『トラツグ』の生成に成功。知能、人格共に初日での動きは……。っておいおいおいおい……」
その文章を読んで俺はそこでようやく『トラツグ』とは何なのかを理解する。
「こ、これは、まさか……。トラツグは……」
俺はさらに資料を漁ると、今度は戸谷達の村を襲ったあのかまいたちの三人の姿まで確認できた。もはや疑いようのない事実がそこにはあったのだ。
「人をベースにした人造の化け物だったのか……」
その理解と同時にふと妹の『トワ』のことが脳裏に浮かんだ。
元々ここに来た理由は『トワ』がここにいるかもしれないからだ。もし本当にこの施設に連れてこられていたのなら、同様の事をさせられているかもしれない。
「おい、まさかいねぇよな……」
そんな考えたくもないことが脳裏に浮かび、嫌な汗が噴き出てくる。そして俺はすぐさま他の部屋にも入り、資料などを漁り始めた。
紙の資料を何枚もめくり、パソコンの画面を操作する。すると恐ろしい数の人間の変わり果てた姿が発見される。それだけでもかなり気が滅入ってきてしまう。
だが、ある人物の名前と顔写真を見つけてしまった途端、頭の思考が数秒止まってしまった。
「と、戸谷……だと……!!?」
 




