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ディメンション・レコード  作者: ギルガメ
トラツグの世界
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剣偽(けんぎ)相まみえる④

「が、あは、はぁあ……、ぐう」


 俺はうめき声を発しながら口から血反吐をばらまいていた、そして足の力がふっと抜けてしまい、そのままその場から倒れ伏せた。


 体全身が痛すぎて一体どこがどうなってるのかも分からなくなっている。だがそれでも歯が砕けるくらいに歯を食いしばり、体を無理やりにでも動かしていた。


 そんな俺を見下しながらカイキは言葉を告げる。


「俺が持っているこの鎧は素早さ向上の能力と飛行性能を持ち合わせている。一方でお前は素早さ向上と筋力向上の力を持っている。どちらの鎧もメリットだけを見たら優劣はつけにくい」


 そう言いながら、奴は俺と同じく汚れた鎧を手で軽く払った。そして再び言葉を続ける。


「とはいえ俺とお前の鎧は力を使うと使用者に『負担』がかかる。だがクオン、てめぇが持っているそれは俺の持っている鎧と比べてあまりにも代償がでかい。そんな風に汚らしく血反吐をばらまき、こっぱずかしく這いつくばってしまう程にな。お前の鎧は失敗作だ、使用者のリスクが大きすぎる欠陥品だ!!」


「はぁはぁはぁ……」


 カイキが装備している鎧は、奴自身が今説明した通り、俺の物と同等のスペックを有している。


 俺の鎧は、『素早さ向上の青のモード』と『筋力上昇の赤のモード』。そしてカイキの鎧は『素早さ向上の黄のモード』と『飛行能力』である。そしてどちらもランクごとに能力上昇量が変わる。


 大きく違う性能ではあるが、こと素早さ向上の度合いに関しては全く同じなのである。ただ、能力向上の代償としてかかる負担は俺の鎧の方がかなり高いようだ。それは今の状況を見れば一目瞭然だろう。はっきり言ってこの状況はまずい。


 奴の言っていることは確かに正しいだろう。


 だが気に食わないこともまた事実。俺はこいつの言葉など受け入れたくない一心で、全身にまた無理やり力を入れて、大剣を突き刺してながら直立した。


 ずっと口の中は血の味がして、尋常なく汗が垂れている。そうなりながらも俺はカイキに言葉を放った。


「戒めだ」


 そう言いながら口元に垂れた血を腕で拭う。


「戒め?」


「そうだ。この強烈なリス……クは、俺にとって、はぁはぁ……戒めになってんだよ。自分を超えすぎた……、力は自惚れや過信を生み、精神的に……心を破滅させていく。だがこうやってな、はぁはぁ……文字通り痛みを知れば、これは無理やり付け加えられた力ってのが……自覚、できる。だから俺はこの仕様が欠陥とは思ってねぇな……、がはぁ……」


 はっきり言ってこんなのは強がりだ。自惚れや過信を生むのは確かにそうだと思うが、こんなリスクは当然嫌である。だが奴の言葉を認める方がもっと嫌なのだ。


 俺はまた次元トンネルの渦を一瞬だけ視線を向けると、大剣を両手で持ち上げて前に構えた。


「それに俺は……お前とこんなどうでもいい会話をしてる暇はないんだよ……。はぁはぁ……」


「ふん、そんなにあの先が気になるか。だがてめぇは行かせねぇよ。そんなボロボロの状態で俺にどう勝つんだ?」


「はぁはぁ……。勝ち負けなんてのは最初はなから、……はぁはぁ……。どうでもいいんだよ、ボケぇ!!」


「ちっ」


 最後の罵倒が効いたのか、カイキは怒りがこみ上げながら、共に両手の剣に力を込めていく。すると黄色いラインが発光し始め、さらに剣自体に電流が帯びていく。そしてそのまま両手に持った剣を前に振りかざした。


「おらよぉお!!!」


「くっ!!!」


 剣を振るった瞬間、そこからは巨大な雷撃が放たれる。俺は瞬時に青のラインを二本起動させて、高速移動でそれを回避した。


「まだだ!!」


 だがその電流の攻撃は何度も何度も放たれる。俺はそれらをなんとか寸前で躱しながらカイキのいる場所にまで接近していく。


「くそがぁ!!」


 攻撃が当たらないことに苛立ちを覚えながら、奴は声を荒げる。そしてさらに剣を振り上げている。だが俺はその雷を避け続けて、カイキとちょうど真正面の直線状に並ぶことが出来た。


 目の前に悠々と走ってきた俺に対し、さらに怒りを覚えたのか、奴は武器に力を込め、かなりどでかい雷撃を作り出していた。そしてそれが放たれる。


「ふっ!!」


 だがそんな攻撃も既に見越している。俺はそのまま雷撃の柱を避けながら、斜め前へと大きく飛び上がった。


「空中逃げたってなぁ、躱せねぇぞ!!」


 確かにその通り、空中では自由な移動が不可能。さらに高速移動と言っても、それは地に足を着け、しっかりと蹴り上げているからであり、空中ではそれがままならない。


 カイキのようにジェット噴射による空中制動ができない俺にとってはまさに格好の得物だ。大剣による防御も電気の前ではほぼ無意味である。


 だからだろう、カイキはこれで止めを刺そうと考えたのか、今までと比べ物にならない程のありったけの力を両手の長剣に込め、そして雷撃を放った。


 だがそれでも勝機はある。


「躱す手段はまだあるんだよ!!」


 俺はそう言葉を言い放つ。その瞬間、俺は鎧に走る二本の青色のラインが赤色にへと変えた。


 この赤のモードの特徴は『筋力向上』、そして『重量は著しく上昇する事』である。つまりモードを切り替えたその瞬間、俺の空中からの落下速度は急変するのである。


「な!!?」


 電撃が当たる一歩手前、俺は急落下によってそれを紙一重で躱したのである。


「おらあああああ!!!!!」


 そしてそのまま俺は床に向かって大剣を叩きつけた。


 今までにない、ガゴンという鈍くて、すさまじい衝撃音が辺りに響き、そしてそれと同時にカイキに向かって床に亀裂が入った。


「な、クオン!! てめぇ!?」


 思い切り攻撃をぶちまけてやったから当然だ。さらに崩壊は続き、奴の足元も半壊してしまう。そしてカイキはバランスを崩していた。


「今だな!!」


 まさにチャンスだ。俺はこの隙をついて、一気に次元トンネルの渦に向かって走り出した。


 そう、今の俺の目的はこいつを倒すことではない。あの渦の先に進むことだ。確かに俺にとって邪魔で憎たらしい障害ではあるが、この男と勝負をつける意味はないのだ。だから俺はあの先に向かう。


「ふざけるな。俺が空を飛べるのを忘れてねぇか!?」


 しかしカイキの鎧は飛行機能がついている。そう、いくら足元の床が崩れようが、あいつには関係がないのだ。奴は鎧の力を開放すると崩れる足元から抜け出して、一気に飛行する。そして俺に向かって突撃してきたのだ。だがそれも読んでいる。


「ずりぃよな。空飛ぶ上に、電撃を放つ遠距離攻撃もしてくる。だがな『遠距離攻撃』なら俺も出来るんだぜ」


 俺はカイキにそう言いながらニタリと不敵な笑みを浮かべてやった。そして大剣を持つ腕に力を込める。すると大剣に青く輝くラインが浮かび上がる。


 そして俺は、一瞬だけ体を回転させながら振り返す。そして大剣を左から右へと全力で振り払う。


「らああぁぁぁっぁああ!!!」


 すると振るった瞬間、大剣の刃からは青い衝撃波が放たれた。


 これも俺の武器の力の一つだ。剣を振るい、ため込まれたエネルギーを斬撃にして放つ技。物理的なものではない、純粋なエネルギー波の塊だ。当然、威力はお墨付きだ。


「なにぃ!!? ぐぅううう!!!」


 そしてその斬撃がカイキを襲った。


 奴は二本の長剣を交差させ、なんとか斬撃を受け止めることを試みていた。しかしながら、この技の威力は伊達ではない。それが証拠に加速能力とジェット噴射の応力で進んでいるはずのカイキを体の動きを止めてしまっているのだからな。


「舐めるなぁあ!!!」


 ただ馬鹿正直に正面から完全に受けきれないと判断したカイキは体を傾けて、受け流すように斬撃を斜め後ろへと弾き飛ばしていたのだ。直後、斬撃は壁にぶつかり、そのまま轟音と共に壁を破壊してしまった。


「はぁはぁ、くそが。斬撃を放ってくるとは……」


 息を荒げて、額から出る汗をぬぐうカイキ。


 しかし時は既に遅い。俺はあいつが斬撃を受け止めている間に、俺は次元トンネルの目の前へと到達していた。


 そしてトンネルの目の前にまで迫ると、俺はカイキの方を振り返る。


「じゃあな、カイキ!! ここで留まってろ!!」


 そう言い放ってやると、その瞬間に次元トンネルを生成している機械に向かって再び斬撃を放った。破壊されてしまえば、渦の生成が出来なくなり、あいつは追ってこれない。


「てめぇ!! クオン!!」


「じゃあな!!」


「くそがぁあああああ!!!!!」


 そして奴の怒れる咆哮に、俺はほくそ笑みながら、掻き消える直前の渦にへと一気に潜り込んだのであった。

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