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ディメンション・レコード  作者: ギルガメ
トラツグの世界
32/64

潜入

「静かにな。主人さんがもう寝てはるからな」


「おう」


「いきましょうか」


 さらに時間が進み、深夜になった頃。


 俺達は主人にばれないように外へと出ていた。そして全員が出たのを確認すると、俺はゆっくりと扉を閉めた。


 外に出るとさらに街が静まり返り、民家の明かりは完全に消灯していた。残っているのは街灯の光のみである。


「この感じやと誰も見てへんねぇ。じゃあ姿を戻しましょか……」


 俺の横でミナリをそう言いながら、辺りを確認する。そして完全に人がいないことが分かると、軽く体に力を込め始める。


 すると人間の耳は消え去っていき、そして狐の耳と尻尾がにょきんと生えたのであった。そして両腕を上げて、軽く体を伸ばしていた。


「ふぅ。やっぱりこれが落ち着くわぁ。そういえばクオンはん、外に出たのはええけど。どこに向かうんや? あの資料室に行くんか?」


「いや。もう、この街の軍の総本部に行こうと思う。昼間にフィオネが言ってたろ? この街の軍部は役割ごとに点在してると。でも別れていようと、その中で一番重要な施設は必ずあるはずだ。そこに向かってみる」


「確かに昼間の解析によると、敷居面積と総人口共に一番多い場所はありました。おそらく何かしらの重要機密等も集約してそうですね。とはいえ妹を探す目的からは随分と回り道しますね、クオン?」


「急がば回れっていうだろ。たまには遠回りしないとな」


「それ意味違うでクオンはん。知らへん近道を行くより、きっちりと知ってる遠回りの道を行った方が目的地には早く着けるって意味や」


「私たちは今まさに、全く知らない遠回りの道を進もうとしてますからね。迷子になってしまいますよ、やれやれ」


「野暮な総ツッコミやめろ。言葉のあやだ。全く……」


 俺が軽く例えただけなのに、情け容赦ない二人のダイレクトの突っ込みが襲い来る。


 なんでここまで言われるんだ。と俺は思わず辟易してしまう。そしてむかっ腹も立てながら、俺は先に前を歩き始めることにした。そしてクスクスと微笑しながらミナリも後に続く。


 しかし、なぜかフィオネだけはその場で足を止めていた。俺は不思議に思い、フィオネに声をかける。


「どした?」


「いえ、ちょっと待ってください。3人? いや2人。なにか空に生命反応があります」


「え?」


「なに!?」


 その一言を聞いて、俺とミナリはすぐさまフィオネの方向を振り向いた。するとフィオネは上空に目を向けており、俺達も続いてそちらに視線を向けた。


 するとだ、その瞬間に赤い翼が生えた男と黒いフードを被った男が高速で空を飛行する姿が見えたのだ。


 片方の男は黒いコートを羽織って、その背中に生えた赤い翼を大きく羽ばたかせている。そしてもう一人の男は俺と似た鎧を纏っており、そこから黄色い炎がジェット噴射して飛行している。さらに鎧の男は、翼を生やした体中が傷だらけの男を雑に運んでいた。


 しかしその二人は俺達に気が付かないまま、ある施設屋上へと降り立ち、中へと入っていった。


「なんやあの真っ黒な連中……。しかもあれって『トラツグ』やんな。でも横にいる鎧の男はなんなんやろ? クオンはんのと似たような鎧着けてたけど」


 当然ながら、何も知らないミナリは二人を神妙な表情で見ながらそう言葉をつぶやく。しかしだ、俺はその二人の男の片割れ、鎧を身に纏った奴の事は知っていた。


 そして思わず俺は顔をこわばらせて、歯ぎしりをしながら言葉を漏らす。


「あいつ、なんでここにいやがる」


 何とも言えない感情。とてつもない嫌悪感のような、呆れというか。とにかくあまりいい気分では無くなってしまった。


「クオン、あれは知り合いですか? クオンと似たような鎧を身に着けていましたが」


「まぁ、行ってしまったら幼少期の腐れ縁だな。まさかあいつがいるとは……。この世界は、案外、いや『かなり』こじれてるかもしれねぇな」


 俺はフィオネの質問に答えると、頭を抱えながら大きなため息を吐いていた。


「なんか訳ありのようやな。まぁあまりそこんとこを突っ込むのは控えとくわ。でもクオンはん、もう一人は立派な『トラツグ』やったで。すっごく悪い予感が大当たりやないか」


「全くだな」


 そして個人的感情を抜いてもやばいことは、その男と一緒にいた黒のコートを着ていた黒い翼を生やした男だ。この街にはトラツグはいないと聞いていたが、奴は間違いなくトラツグだった。明らかにおかしい。


 だが、とりあえず奴らが入っていった所に関して調べるのが無難になりそうだ。俺はフィオネに二人が向かった施設を聞くことにする。


「なぁフィオネ、あいつらが向かったあの建物は何かわかるか?」


「運がいいのか、悪いのか、今まさにクオンが向かおうとしていた軍の総本部ですね。しかも昼間には感じ取れなかったのですが、今は妙な反応もあります」


「はぁ、そうか……」


 話が少しづつ繋がり、しかもそれが悪い方向に向かっているのがよく分かる。表情もさらに悪くなっていく。


「あともう一つ嫌な知らせがあります。あの鎧の男が運んでいた人物ですが、昼間に戦ったあの大鴉のトラツグの人型の姿です。呼吸や体温、あの手キズ、おそらく本人で間違いないかと……」


「おいおいおい、あいつまだ生きてたのか!? くそ、完全に倒しておくべきだったな。だぁ、なんでこんなに嫌なことが連鎖するんだよ!?」


「でもむしろチャンスやない?」


「なんでだよ!?」


「だって、この世界の旅も行き当たりばったりの計画性のないもんやったんや。それがものの数日でここまで核心に迫っとる。この『嫌なこと』の連鎖は偶然とは思えへん。あそこに行くことが本当に『急がば回れ』になってそうな、そんな気がするわ。妹さんに繋がる確証はまだ全然ないけどなぁ」


「モノは考えようか。まぁ少し気分がましになったよ」


「気にしんといて」


 確かにミナリの言う通りである。ある意味今の状況はチャンスになり得る。少しだけだが、やる気もみなぎってきた気がする。そんな俺の様子を見て、ミナリとフィオネは軽く微笑んでいた。そしてフィオネは俺に声をかける。


「ではクオン、向かいますよ」


「あぁ」


 フィオネの合図とともに、俺達三人は一斉にその建物へと走り出した。


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