狂い者の矛先
戸谷と佐竹が拠点にしている村。その上空には二人のある男たちがその街を見渡していた。
「ここか……」
「えぇ、そうです」
この男たちは以前にクオン達一行が森を抜ける様子を眺めていた二人であった。
一人は黒いコートに赤い翼をもつ男。その赤々とした翼を広げて不敵な眼差しで街を見下ろしている。
そしてもう一人の黒いフードを被り、鎧を身に纏った男だ。
彼が装備している鎧は形だけでなく機構そのものもクオンのそれと酷似しており、全体に黄色く光るラインが走っている。そして鎧の後ろには翼のようなものが展開されており、内部からは全身に走るラインと同じ黄色の燃える炎が噴出している。ジェット噴射の原理で飛行しているようだ。
「既に先陣として三人のトラツグを送り込んだのですが。どうやらやられたようですねぇ……」
「みたいだな」
「あのクオンとかいう男たち、なかなかの手練れです。『スイセン様』が危惧されるのも頷ける。とはいえ村はかなりダメージを受けているし、その肝心の者達もいない。さらに追撃をすれば一気に落ちるでしょうね。この村の皆さまにも早く我が同志として迎えなければ……」
「…………」
黒フードの男は、相方の男に言葉には反応せずただ黙り込んでいる。そんな態度を少々不満げに感じた黒翼の男は彼の方に視線を向ける。
「どうしたのですか? 不満ですか?」
「不満……か。そうじゃないと言えば嘘になる。俺も『人間』だからな、同じ人間として良心も少々痛むわけだ。戦いに死は付き物だが、あれは少々やりすぎだ。反吐が出る」
「ふふ、彼らも少し欲望が過ぎましたね。ただワタシが既に人ではないからか、それにあなたがおっしゃったことに同情の気持ちもあまり浮かびませんね。我々『トラツグ』になると、寿命も延び、身体能力は他の生物を凌ぎます。そしてこうやって空も飛べる便利な身体にもなれますすね。まぁ君は人間のままでそれを可能していますが……」
「『人間』は欲望の化身だ。望んだことを果たすまで、どこまでもやり通す。この鎧もそしてあの男がしている鎧もそれの賜物だ。あんたは発言からは人間を見下しているように聞こえるが、お前たちの存在自体も『ある人間』が望んだ欲望の果ての姿だと思うが」
「我々の存在が、人間の欲望の成れの果てだと? はは、これは一本取られましたね。確かに私の姿は人間の頃の夢の形ですね、ふふふ」
赤の翼の男は感情豊かに会話を繰り広げるが、黒フードの男は淡々と言葉を切り返す。そして会話が一段落すると今度は黒フードの男が言葉を切り出した。
「そんなことよりもクオン達を追った『あの男』は大丈夫なのか?」
「あぁ、『ガエン』のことですか。あいつは我々の中でもかなり強力な部類です。この村を襲った者達よりも次元が違う強さですからね。ただかなりの戦闘狂でね、こちらも手を焼いていたんです。だから今回のはいい仕事を与えられました」
「お前、そんなやつを行かせたのか?」
「『スイセン様』も警戒されていましたし、何よりもあなたがクオンとかいう人間を油断するなと仰ってたでしょ? だから私は行かせたんです。異端者には異端者を。『ガエン』は色々と規格外で頭のねじも飛んでる。勝敗がどうなるにせよ、その人間をうまく追い詰めてくれるでしょう」
「ならいいがな……」
黒フードの男はその言葉を聞きつつ、クオン達が向かった方角に視線を向けていた。




