悪鬼襲来①
「出迎えはいいって言ったんだがな」
「いえ、それくらいはさせて下さいよ。命の恩人との最後の別れになるかもしれませんからね」
日が昇り始めた早朝。装備を整えた俺はミナリと共に村の入り口前に立っていた。そして目の前には俺達を見送る佐竹の姿があった。しかしその表情は昨日よりかは幾分とましだが、やはり軽く沈んでいる。
「気持ちは分かるが、あまりネガティブに捉えるなよ。『言霊』って言ってな、口に出したことは案外自分に帰ってくるもんなんだ。それは良くも悪くもな」
「そ。そうですよね。なんだか最初から最後まですいません」
「佐竹はん、これが最後やないやろ。今、クオンはんに言われたやんか」
「はは、面目ないです……」
俺達に論されて、ポリポリと頭をかく佐竹。だがそんな言葉が効いたのか、少しだけ顔に穏やかになっていた。
「それよりも足は大丈夫なのか?」
「いえ、まだまだ治りそうにないですね。昨日今日の事なので。ですが、むしろ戸谷少尉の方が深刻です。昨晩に、体調を崩されたらしく、夜の会議も無くなりましたし、夜の食事も喉が通らないらしく、今も医務室でうなされていますよ。はぁ……」
「あいつ、俺たちの部屋に来たときは何ともなかったのになぁ」
戸谷の事だから無理してでも、朝の出迎えにここに来てしまうと思っていたが、来なかったのはそういうことだったのか。そして佐竹の言葉から事情を聴いて、奴の心身の傷が相当なものだと思い知る。
「ずいぶんとしんどいはずやのに、昨日の夜はウチらの所に来てくれたんやなぁ。全く無理して……。どこかの大剣持ちの人と一緒やな」
「おい、あいつと一緒にするな」
やはり戸谷という女性は、どこまで行っても不器用すぎる、そして弱すぎる。と思ってしまう。もちろん、そんな考えは表には出さなかったが、やはり心の中では呆れてため息をついてしまう。
「お前らも、そして本人もわかっていると思うが、あいつはリーダーには向いてねぇ。使命感や義務感を掲げているが、節々に破滅願望が見え隠れしてる気がするよ」
「はは、やっぱりわかっちゃいますよね。少尉は昔からそうなんですよ……」
俺の指摘に佐竹も気まずそうに、苦笑いを浮かべながらそう返していた。
「俺たちも、目的を果たしたらちゃんと戻ってきてやる。だからこれまで以上に戸谷少尉を皆で支えてやってくれ」
「はい」
「じゃ俺達は行く」
そして俺は続けて佐竹にそう告げると、背を向ける。そうしてミナリと共に歩き始めた。
だがその瞬間、後方から衝撃音が響いた。
「「!?」」
あまりの衝撃音の大きさに俺とミナリは思わず、村の方を振り返った。
「あ、あそこは!? 基地の方角!?」
そして視線の先、音があったであろう場所からはもくもくと煙が立ち昇っていたのである。佐竹は顔を真っ青にして、そのまま声を上げて走り出しだそうとした。
「戸谷少尉!! あ、あぐぅ!?」
だが足にケガを負っていた彼が走れるはずもなく、その場で大きく転倒してしまう。
「お、おい!!?」
俺は倒れた佐竹に寄り添い、体を持ちあげた。だが今の衝撃で傷が開いてしまったらしく、足からは血がにじみ出ていた。そして彼の表情は今まで以上に泣き崩れていた。
「ぐぅ、かは」
「大丈夫だ。ここにいろ。俺達が行ってくる!!」
佐竹の気持ちを汲んで、俺は奴のその手を握る。そして佐竹を建物の側に運んだ後に、俺は大剣を構えた。
「クオンはん、行きましょう!!」
「あぁ!!」
俺はミナリに促されると、音がした方向に走り出した。




