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異世界から帰りたい  作者: 鉛銅 錫
第1章 鉛沢充は異世界から帰りたい!
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第7話 ひと狩り行こうぜ!

 剣術の授業が終わり、10分後には次の授業が始まる。


 教室で理科の授業だ。


 教室に入ってきた先生は、新緑(しんりょく)色の髪を揺らして教壇の前に立つ。


「授業を始めるわ。今年もこのクラスの理科を担当する、名取菜乃葉(なとりなのは)よ。今日は私が出す問題に答えて貰う。問題によっては答えられなかったら減点にするかもしれないし、答えられたら加点するかもしれないから心して答えるように」


「「えぇぇ……」」


「それでは、第1問目。まずはファット君。雷とはナニモノ?」


「えぇ……俺かよ……分かんねぇけど……魔法!」


「……減点ね。ちなみにクロムはどうこたえる?」


「……何かといわれると難しいですけど、地上と雷雲(かみなりぐも)との間、または雷雲同士での電位差による真空放電。静電気の代表的な現象の一つですね」


「……そこまで言われると加点せざるを得ないわね。じゃあ次はライト君。私達が住むこの惑星は二つの回転をしているわ。この惑星の名前と二つの回転の名前を答えて」


「惑星の名前は『アース』回転の名前は自分が回る自転と、太陽の周りを回る公転の二つ」


「……正解。加点候補に入れとくわ。次、優菜(ゆな)さん。この星がどこかに飛んでいかずに公転できるのも、手から物を離すと下に落下するのも何の法則のお陰かしら?」


「万有引力の法則です。アイザック連邦国出身のニュートン博士が見つけた、全ての物は引かれあっているという法則です」


「うん、正解。加点しとくわ。クロム、この星に生物が住める理由を()()()に説明して?」


「んー……まず、公転する場所。『ハビタブルゾーン』なんて呼ぶ人もいるけれど太陽と惑星の距離がちょうどいい。おかげ様で気温が大体、生物にとっての適温であること。次に惑星の質量。万有引力の法則によれば、星の質量が大きければ大きいほど空気を離さない力があるということなんだが、この惑星はその点で十分な質量を持っている。つまり大気が存在するということ。あとは、水があることですかね」


「うん。大体そんなところでしょう。加点を考えときます。では、炭谷(すみや)君。人間の身体はどれほどの割合を水分が占めているでしょう。ただし成人男性とします。」


「約60%です」


「正解。次は桜坂(さくらざか)君。力とは何でしょう?」

「力とはパワー! 力こそパワー! パワーイズフォース!!」


「……私は嫌いじゃないよ。次、クロム。PV=nRTとは何の式?」

「理想気体の状態方程式ですね。Pは圧力、Vは体積、nがモル数、Rが気体定数で8.31くらいのやつで、Tは温度です。熱力学や理論化学なんかで用いられる式で、圧力によって温度が変わったり、温度と圧力によって体積が変わったりすることを表せる式。個人的にこの式はすっきりしていて結構好き」


「……ちょっとわかる。加点。しかし、君はそんなに物理学ができる人間だったかしら?」


「日頃の先生のご指導の賜物(たまもの)ですね!」

「うん。授業でやって無い事ばっかり言われてるのよ。周りみてみなさい。誰もわかって無い」


「……しかし、生徒に自主的に自習させることができる先生はすごいのでは?」


「……そう? まぁ、そう言ってもらえてうれしくなくもないけど」


 その後も他の生徒に問題を出し、たまにクロムに(中学生にしては)難問を振られ、それを答える授業が続いた。






 昼ご飯は生姜焼き定食。5分で食べ食堂を後にした。

(もっと食べたい……)


 昼休みは図書室でサバイバル術の本を読む。


 火おこしや野営の仕方などを書いてある本だが、目的は動物の血抜きの仕方である。


 他にも、動物図鑑、植物図鑑、魔物図鑑を流し読みしていく。毒を食べたくはないのである。


 本を返したところで予鈴が鳴った。




 5、6時間目は自習である。


 この学校ではなんでもありで、本を読む、魔力トレーニング、筋トレ、組手などもありである。


 クロムは何をするのかといえば、狩りをするのである。


 校庭に隣接した森に入っていく。


 早速鳥がいる。

 試しに石を拾い、斜め上方向に向けて、野球のフライを投げるような感覚で石を投げる。


 すでに魔力の込め方は昼休みに学んだ。


 リリースの瞬間に魔力を込めて加速させる。


 投げた後はもう、お祈りである。


 鳥は危険を察知したのか飛び立つ。


 飛び立った方向に石は変化したのだが、さすがに当てることはできなかったようだ。


 石が変化したり、そこそこ惜しいところに投げ込めたのは、知らぬうちに【魔力撃】と【誘導】を使っているのだ。


(結構惜しいな……地上の獲物でもう一回やってみるか……)


 諦めて、周りを見渡すとシカが見えたのでまた石に魔力を込めて、振りかぶって投げる。


 地上の対象に投げる分先ほどよりも弾速の出た石は見事にヘッドショットを決めて、気絶させることに成功した。


 部屋に合った支給品のナイフを使って頸動脈を切り、頭を逆さまにすることで放血(ほうけつ)させる。


 他の獲物を探すためにも近くの木にぶら下げておく。


 結果として、兎と鹿合わせて5匹ほどの狩りに成功した。


 そのうち1匹の兎は魔物化していたようだ。一本角があったからね。


 ナイフを使って、食べられない内臓を摘出して、食べられる肉の部分だけにする。


 支給品の魔力袋にそれらを積めて、部屋に持って帰る。


 魔力袋は中身の状態が変わりにくくて冒険には重宝(ちょうほう)する。


 軽く穴を掘って、摘出した内臓を埋めておく。


 手を合わせているのはせめてもの(とむら)いである。


 大きい物は干し肉にし、良さげな部位は新鮮に食べたいので冷蔵庫を作る。


 兎の魔物から出た魔石に冷風が出るように魔法陣を描いて、木箱に一緒に入れる。


 血抜きのため、肉を水につけるために浴槽を使う。


(……これでヨシッ! ……さて、この後は魔法でもやりますか)


 その後は、ヘレンに渡された初級魔法指南書を読んでいく。


 6時間目の終了と同時に読み終えた。まだ、理解は甘いかもしれないが充実した自習だったといえる。




 予鈴が鳴り終わった後、図書室に向かう。


 図書室に着くとヘレンがなんかストレッチしていた。


「こんにちは!」

「ん? お、クロム君ヤッホー!」

「あの本とりあえず一周しましたよ」

「え?早くない?」

「まだ、完璧に理解したとは言い難いですが、とりあえず一周はしました!」

「そう。なら次はこれも読みな!」


 渡されたのは『中級魔法指南書』


「ありがとうございます。ところで、少し相談なんですけど良いですか?」

「ん? 何でも言ってみてよ!」

「僕、元の世界に帰りたいんですけど、その際に元の身体で生活を送りたいんですよ」

「当然そう思うだろうね」


「その……可能なんですかね?」


「んー……結論から言えば、できないことは無い。そういう魔法の組み合わせもあるにはあるよ」

「ホントですか!?」

「うん。それ自体はホント。でも、それをしようと思ったら私でも魔力が足りないよ。そっちの世界では魔力が無いことも考えられるからね」

「なるほど……僕に実現可能ですかね?」

「それは君の頑張り次第だね。まぁ、できなくは無いと思うよ」

「ちなみにどんな魔法の組み合わせなんですか?」


「私が思いついたので言えば、指定の時間と空間に転送される魔法と入れ替わりの魔法かな」

「ありがとうございます。それと、もう一つ、お願いがありまして」

「ん? なに?」

「魔法を教えて欲しいのもそうなんですけど、恐怖心を取り除く訓練とかありますかね?」

「恐怖心かぁ……」


「心当たりありますか?」


「……覚悟は?」

「あります!」


「すっごい辛いと思うけどそれでも?」

「頑張ります!」


「わかった。今からやってみよう。ただし、やると決めたからには絶対に逃げないでね?」

「はい! お願いします!」


 やり方は簡単。【気迫】のオーラを(まと)ったヘレンが強迫系魔法をクロムに掛けて、それをクロムは耐えるだけ。


 1回目から怖くて気絶してしまう。


 人間も所詮は動物。


 格上の存在に対し本能的に恐怖する。


 そんな恐怖心を強制的に刺激してくるのである。


 気絶しては起き、また気絶しては起き、4回ほど失神したが、5回目でやっと意識が保てるようになった。


「お疲れさま。立てる?」


「はい……何とか…………」


「しょうがないなぁ……ほいっ!」


 恐怖に身体が固まっていたのが、ゆっくりと緩んでいく気がした。


「精神安定魔法みたいなもんだね。私達になるとこんなもんでは済まない相手じゃないと今の君みたいにはならないからあんまり効果なくて、おまじない魔法とか言われてるけどね」


「ありがとうございます。なんとかマシになりました……」


「うん。じゃあ気を付けて帰ってね!」


「はい。ありがとうございました。」


 図書室を後にして部屋に戻った。



 ……まだちょっと足が震える。





 若干の恐怖心を残したまま、クロムはジム(倉庫)に向かうことにした。


 運動着に着替え、顔を洗って心を少しリセットしてからであるが。


 倉庫に着くと既にチタンはベンチプレス、ラドンはダンベルを持ち上げていた。


「お! 来たか!」

「はい! 5時間目に狩りをして、兎と鹿の肉があるんですけど食べます? 今、血抜きのために水につけているんですけど」

「お! マジで? それはありがてぇけど本当に良いのか?」

「むしろお前は貴重な自習の時間にそんなことしていてよかったのか?」

「戦闘において身体を作ることは早急な課題ですが、身体づくりには食事が大事ですからね!」

「なるほど! 力こそパワー! だなっ!!」

「そういうことですねっ!」


「しかし、これは誰が調理するんだ?」


 とても大事なことである。

 せっかくだし美味しくいただきたい。


(まぁ、塩焼きとかで良いかなとか鍋に入れとけばいいでしょとか思ってたけれど……)


 (みつる)は鹿や兎を調理した経験はない。


「え? クロムが調理するんじゃないのか?」

「え? ラドン先生とかできるかなぁと思っていたんですけれど……」

「いやまぁ、食うことぐらいはできるもんは作れるだろうけれどさぁ……」


(ここで、チタンに聞くのは愚行だよなぁ……生で喰いちぎりそうだもん……)


 それは流石に偏見が過ぎるだろう。……やらないよね?


 なんとも微妙な空気だが、それを破ったのは昨日も聞いたような気がする綺麗な声。


「もう! チタン! いい加減にしてよね! 今日は職員会議があると何回も言ったよね!? なんなの? 脳みそ筋肉なの!? もう!」

「うぇっ!? ラムダ!? ごめんて……そんな褒めないでくれよ」

「どこがよ!!」

「え? 脳みそ筋肉って言ったじゃん? 最高の誉め言葉かと……」

「褒めてない!! 早く行くよ!!」


「あ、ラドン。今日はあなたも出る会議なんだけれど?」

「あれ今日だったか? そうか、すまない。すぐ準備するから待っててくれ」


 チタンを呼んだのはラムダ、ラドンを呼んだのは理知子(りちこ)だ。


 筋肉達はジムの奥にあるシャワーを浴び、騎士服に着替えるようだ。


「まったく……いつになったら私が呼ばなくても会議に出てくれるようになるのかしら……?」

「それは、無理な相談だわ。別にあなたそんなに嫌じゃないでしょうし良いじゃない?」

「はぁ!? いきなり何言ってるのよ! そんな、別に、嬉しくなんか……」


「……へぇ、嬉しいんだ」

「違う! 違うもん!!」

「良いんじゃない? 目の前しか見えない盾師と最も周りが見える術師。良いコンビだと思うけれど?」

「うるさいよっ! 別に私好きなんかじゃないし!」

「可愛いねぇうちの歌姫は……」

「うるさい! やめて! 頭撫でるなぁ! ばかぁ! あほ! 『勝利の女神』!!」

「ちょっと! その呼び名は止めてよ」


「……準備できたぞ『死者蘇生者(ネクロマンサー)』」


「……うるさいわよ? 『武神魔槍(ぶしんまそう)』」


「お待たせ『戦律の奏者(せんりつのそうしゃ)』」


「やめてよ『堅守絶破(けんしゅぜっぱ)』」


 なんか気恥ずかしい空気が4人の中に流れている。


「ちょっと? 遅すぎないかしら? イチャイチャしてるのも大概にしてほしいわね」


 ヘレンもこのジム(倉庫)に来た。


「お? 『魔弾終炎(まだんしゅうえん)』も来たじゃん」


「その二つ名一番恥ずかしいんだからやめてよね! ほら【転移】するよっ!」


「お、頼むわ!」


 ヘレンが魔法陣を手早く描き、その魔法陣の上に5人が乗ると光に包まれて、光が消えるとそこには既に5人はいなかった。


「え? 俺は? 色々突っ込みたいけど、俺は?」


 空しくも一人の男の声は虚空に消えてしまう。


 筋トレの道具を片付けようにもあまりにも重すぎてびくともしない。


 むしろ筋トレをすることから敵わない。



「……飯でも食うか」


 食堂に向かうことにした。

解説、始まるよっ!


ニュートン博士:決して現実にいた、『サー・アイザック・ニュートン』とは関係は無いが、こちらのニュートン博士も微積分学を発明し、力学を発展させ、光学の研究をしていた。化学の研究中に重金属中毒にもなったことがあるし、発表した論文の半分は神学や哲学に関してだ。……決して現実にいたニュートンとは関係ないよ。本当だよ。

【魔力撃】:魔力を載せた一撃は、何もない一撃よりはるかに重い一撃となるだろう。つまり、物理攻撃の威力が上がるだけ。ちなみに無属性魔法という分類らしい。

【誘導】:遠距離攻撃時に、進んで欲しい軌跡や、当てたい場所に当てるために使う魔法。弓術師の弓が不自然に曲がったら間違いなくこれ。魔力を通して、自分の意思で変化する。これも無属性魔法。

血抜き:とても大事な工程。これをしないと血生臭い、獣感が出てしまうらしい。小説で読んでいる分には余裕そうだけれど、実際の工程を調べると結構面倒くさそうで気持ちばかりの修正をこのシーンに入れましたね、えぇ。

【気迫】:相手に自分の強さを見せつけるような魔法。オーラのような何かが出る人は出る。この分野は、精神系魔法と言われる。

ハビタブルゾーン:恒星と惑星の距離で生物が住むのにちょうどいい範囲のこと。だったかな?


名取菜乃葉(なとりなのは)

新緑色の髪はミディアムで緩く巻かれている。紫のようなピンクのような色の瞳。

クロムの理科の担当。


ヘレン・ネオン

魔法の教科書を貸してくれる人。水色の髪の毛が綺麗。

とても親身になって色々教えてくれるのだが、強迫系魔法を使われると怖い。

充いわく「4回失神したけれど、5回目は正直ちびった」とのこと。……あんまりかっこ悪いことは言わないでもろて。

『魔弾終炎』の二つ名を持っている。恥ずかしいみたい。


チタン・アイアン

脳みそが筋肉で出来ている。好きな言葉は「脳筋」なのか。

『堅守絶破』の二つ名も持っている。ちょっと気恥ずかしい。


ラムダ・オキシジン

魔法使いで付与術師であることから『術師』という呼ばれ方もする役割の人。

『戦律の奏者』の二つ名を持つ。嫌いじゃないけど恥ずかしいらしい。


保金理知子やすがねりちこ

回復術師。琥珀色の髪が、なんというか、良いですね……

『勝利の女神』『死者蘇生者』などの二つ名を持つ。勘弁して欲しいらしい。


ラドン・ハイドラント

魔槍士。金髪蒼眼イケメン王子様系ムキムキマッチョマン。

『武神魔槍』の二つ名も持つ。


怒涛の3連続投稿。2日もサボるなという所でありますが、実は本来これくらいのペースであげていく予定でした。作品内1年分書いてからのデビューだと思っていたのですが、なぜか3日目までしか書けてなかったんですよね……ホラー現象です。怖いですねっ!

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