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異世界から帰りたい  作者: 鉛銅 錫
第1章 鉛沢充は異世界から帰りたい!
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第6話 初めての魔法授業&近接戦闘訓練

 夜が明け、目が覚めた。


 全身の(かゆ)みと強烈な空腹感を覚える。


 歯を磨き、顔を洗い、昨日作った浴槽(よくそう)の調子を見てみる。


(……うん。もう大丈夫じゃないか?)


 (のり)特有のべたつきは無く、完全に木の感触だ。


 浴槽の1/3ほどに水を張る。お湯は無い。


 石鹸と冷水で体を洗い、髪は水で流すにとどめた。


 タオルで全身を拭く。


 冷水だった分寒いが、身体の痒みは無いし、朝ご飯を食べれば体温を上げようと身体は頑張ってくれるだろう。


 制服に身を包み、食堂に向かう。


 朝ごはんは昨日の残りなのだろうが、カレーだったのでカレーライスを食べる。


 邪魔は入らずに、全てを食べきることができた。


 まだ満腹とは言い難いが、お替りはできないので、食堂を後にして、口をゆすぎ、運動着に着替え、少しランニングをすることにした。


 朝の澄んだ空気はこの学校が緑に囲まれているのも相まって非常に空気が美味しい。


(太陽光が気持ちいいな……大気中のCO2と水蒸気もあるだろうし、酸素とブドウ糖を生成できたらいいのになぁ……まぁ植物じゃないしなぁ……)


 なんとなく力が湧き、空腹が紛れた気もする。


(……まさか本当に光合成してる?)


 検証のために思いつく限りの光合成についての知識を頭の中で再生する。

 ついでに光合成することを強めに願ってみる。


 空腹は少し改善されるし、視界が何となく緑がかっていく。


(……魔法の影響か? しかし、特殊なことは何もしていないのにこんなことがあるのか? ……まぁ、良いか)


 これから学んでいけばよく分かることだろうと思った。


 部屋に戻り、汗を拭いてから制服に着替え、教室に向かった。






 教室に入り、外界との関係をシャットアウトするかのごとく机に突っ伏していると、担任の先生が教室に入ってきた。


「遅刻、欠席は今日もいないな。よしっ。いいことだな。今日は魔法製作が2時間、剣術、理科、自習が2時間だ。今日も励むように!」


 朝のホームルームが終わった。

 早かった。何より理科があるらしい。非常に楽しみだ。






 魔法製作は1,2時間目を使って行われる。


 この世界の魔法には、魔法陣を使用する魔法と、使わない魔法陣がある。


 実は、この世界の魔法のほとんどがどちらでも良いことになっている。もちろん例外はあるが。


 魔法陣を描くと、より魔力消費が抑えられたり、より高い効果を得やすいという。


 何よりも、それをすることによって魔法を使う難易度が下がるというのだ。


 では、魔法陣を描かないとどうなるのかといえば、要求される消費魔力、要求魔力操作精度は上がるし、効果は下がってしまう。


 ただし、発動までにより短い発動時間でそれが可能である。


 それから、詠唱魔法と無詠唱魔法がある。


 これも同じく、どちらでも同じ効果を得ることができることが多い。


 呪文詠唱をした方が、魔力消費を抑えたり、威力が上がることが期待できる。


 そして、この魔法製作の授業では主に魔法陣を使った魔法を生み出すことや、そのための知識を学ぶ。


 詠唱も考えることがあるようだ。


 1時間目は座学、2時間目は実際に魔法を作ることになる。


「今日は特別にヘレン先生が来ています。先生お願いします!」


「はい。皆はこれまで多くの魔法に触れ、魔法陣を描き、魔法を作ってきたと思いますが、今回は戦場でも使える魔法製作についてお話していきたいと思います」


 クロムの記憶はもちろんあるが、実際に触れた感覚が無いので周りと差があると思って周りを見渡すと、周りの生徒達も少し困惑している様子だった。


「先生! 質問です! 戦場には準備してきた魔法で戦うのではないのですか? 戦場で魔法製作とはどういうことでしょうか?」


「いい質問です。もちろん複雑な魔法陣を戦場でいきなり組むのは不可能ですし、よく使う魔法に関しては当然暗記します。しかし戦場では何があるかわかりません。例えば後衛なら、前衛が全滅したら自分が剣を握る必要があるかもしれませんし、前衛では、相手が特殊な魔法を使って攻撃してきたら、それに対応した魔法を使わないと自分の身を守ることすらできません。そういうときのために魔法術式には公式が存在します。ちなみにこれを知ると、戦場で魔法術式を変更してより相手にダメージを与える魔法にすることもできます。私もやったことありますよ? 格段に威力が変わった攻撃魔法で敵味方を驚かしたのはいい思い出です」


「マジか……俺もやるしかねぇなぁ、それ……」


 周りの生徒目がキラキラし始めた。


 そして、魔法陣の講義が始まるのだが、中一のときから彼らは魔法陣製作の授業を受けているのに対し、この世界に来て2日目の(みつる)にとってはかなり難しい授業だった。


 しかし、基本的なことの復習から入ってくれたので2日目の充でもかろうじて魔法陣を組めるようになった。



 問題は2時間目である。


 自由に作って良いということだが、なにを製作しようか、どう製作しようか皆目見当(かいもくけんとう)もつかない。


「あ、魔導書やその他、調べたいことがあれば本貸すからね!」


 周りは同じように何を作ろうか悩んでいる人と、すでに考えてあったかのように先生に参考文献を借りに行く人で半々であった。


(……光合成、光属性と地属性、吸収と変換……ありかもしれんな)


「先生。植物の細胞、葉緑体のことについて書いてある本ありますか?」


「ん? お、クロム君じゃん。なんで植物の細胞の本が必要かは分からないけれど……はい、これで良い?」

「ありがとうございます!」


 本には、求めていた情報が事細かく書かれていた。


 それは葉緑体やミトコンドリアの構造についてである。


 クロムはすぐさまそれを紙に書き写し、情報は頭に入れて本を返した。


「あ、もう良いの?」

「はい。必要な情報は得られました!」

「そっか、なら良かった!」

「ありがとうございました!」

「いーえ」


「あいつヘレン先生に近づきたかっただけだろ。かっこつけて何もわからなかったオチなんだろうよ」


(葉緑体はここがこういう機能で、ミトコンドリアはここに繋がってて……ならここにこの式を入れて、ここはこうで……うーん、まぁここはこうか?)


 段々と形になってきた。


 クロムは本物をかたどって式を描いていくことで魔法陣にしていくことにしたのだ。


 詠唱はとりあえず『6CO2+12H2OがC6H12O6+6H2O+6O2』である。


 光合成の反応式をそのまま流用している。


 ヘレン先生に見せると何となく引いてる雰囲気がある。


「……これ、今考えたの?」

「まぁ、はい」

「使ってみて良いかしら?」

「あ、はい。お願いします」


 会話の後、ヘレンの指から光が発現し、指を動かせばその軌跡通りに魔法陣が描かれる。


 楕円(だえん)を1つ、その中に3段の螺旋(らせん)を4つ書いた後、長軸で線対称な楕円を直交するように描く。

 反応式、効果時間を側面に書いて魔法線でヘレン自身に繋ぐと魔法陣を描くことを終える。


 ちなみに、つなぎ目とか少し面倒くさいつなぎ方をしているし、一筆書きになるようにしているため少し面倒な魔法陣である。


 魔力を込めるとヘレンが緑色の光を纏っていた。


「確かにこれは光合成できてるわね……この授業で立体魔法陣描く奴なんていないでしょ……」


「えっと……先生? これはどうなんですか?」


「成功ではあるわ。魔法を1ミリも知らない科学者に今日の授業を受けさせた結果作ってきた魔法って感じね。そりゃ成功するわよ」

「身体に異常はないんですか? どんな効果なんですか?」

「安心して良いわ。植物みたいに一時的に光合成しているだけだし、身体に害はないわ」

「なんだよ、立体魔法陣描いておいてその程度かよ! しょうもな!」


 笑い声が響き渡る。


(……全く。光合成ができる素晴らしさが分からないとはとんだ残念な奴らだ……ほんまにせやろか?)


 自問自答をしつつ、この魔法陣の改良を考えていたらチャイムが鳴った。


 結果、魔法線を繋がずに栄養を分配することはできるようになった。






 10分間の休憩の後、クロム達R組は3時間目の剣術のため、体操服に着替え、木剣を持ってグラウンドに出た。


 そこには昨日筋トレを共にしたチタンがいて、チャイムと同時に口を開いた。


「授業を始める! ……全員いるな。よしっ、準備運動だ! トラックを一周して各自体操をしておけ!」


 目測で大体500mくらいのトラックを走る。


 最初はゆっくり、徐々に早くして体を慣らしていく。


 その後、屈伸や伸脚(しんきゃく)等の一般的な準備運動をしていく。


「よしっ! そろそろ身体も温まってきただろ! じゃあまずはペアで対面打ち合いだ! このクラスは一人余るから……クロムは俺と組め!」


 他の生徒からは嬉々とした声でペアを組みに行っている様子が分かる。


「うわぁ……先生も可哀そうなことするなぁ……」

「まぁ、誰とやってもボコボコにされるんだろうけどさぁ……」

「ま、本来ならいない人だし良いんじゃないか?」

「まぁ、うん。それはそう。何より俺らじゃなくてよかった……」


(聞こえてるが?? というよりあの脳みそぎっしり筋肉やってくれたなぁ……)


「さて、クロムさっそく頼むぞ!」

「あ、はい。よろしくお願いします」


 チタンが持っている木剣は人間の上半身ぐらいありそうな大きさである。長さも幅も。


 そして、厚さはクロムが持っている木剣の3倍くらい。


 クロムが持っている木剣は、長さ85cm、幅10cm、厚さは最大でも5cmくらいだろうか。


 周りが使っている普通の木剣とあまり遜色(そんしょく)ない。


 まぁ、クロムのイメージと少し違うのは騎士が使うような両刃の剣だからだろう。


 この剣は片手でも両手でも扱えるような物ではあるのだが、片手なら突き、両手なら斬る動きが基本になる。


 斬る動きというのは剣を合わせる可能性が高いが、あんな質量のありそうなものに剣を合わせてしまっては逆に吹き飛ばされてしまうだろう。


 突きならば点で捉えることは難しいはずだし、最短で剣先を届けることができる。


 最も有効な先制攻撃に成り得ることだろう、きっと多分。


「それでは準備は良いか?始め!!」

 左足で跳躍し、右足を踏み込み、右手に持った剣でチタンの左胸を刺しに行く。

 左胸なら心臓や肺を攻撃できる位置になる。

 刃があったと仮定したときに致命傷になったら強制終了のルールだからね、狙うよね。


「お前は素直だな」

 チタンは剣の腹でその突きを受け、角度を変えることによってその攻撃を逸らせた。

 全体重を乗せた攻撃を逸らされるということによってたたらを踏まされるが、右膝を内側に入れて、勢いに任せて転がる。

 その頭上を大剣が通り過ぎる。

 立ち上がって距離を取ったクロム。


「ほう。今のを避けるのは意外だったな。まぁ、それぐらいやって貰わなくちゃならないがな」


 昨晩見たチタンとはまるで違う人かのような冷静さ、どんな人柄であれども二つ名に神の字が入っているだけはある。


 全く隙も無ければ、攻撃が通る気もしない。


「では、こちらからもいくぞ」

 普段より一層低い声のチタンがそう宣言すると、同じ位置めがけて同じように突きをしてきた。

 地面から振動を感じる。

 それは、チタンが少し踏み込んだだけなのだが、それを振動として感知できるくらいには強い踏み込みである。

 クロムは右足を軸に身体を反時計回りに回転させる。

 両手で剣を持ち、お腹の前で剣を立てて、巻き込むように打ち合わせていく。

(よっし!……ってやば!)

 チタンは突きの後に剣道で言えば引き面のような動きをする。

 右足を軸に逆回転。右手だけで剣を持ち、右手首と左前腕部を合わせ、頭だけは守る。

 剣と剣が合わさりすぐに離れる。

 無理やり剣をねじ込んだが、まだ無傷。


 チタンの方に向き直ると、すでに突きの態勢に入っている。

 また同じように反時計回りに回転し、一撃を防ぐ。

 すると今度はチタンがクロムにもう一度踏み込み、突きを放つ。

 左手に持ち替えて放たれた突きは、クロムの右肩に吸い込まれていく。

 手元の操作だけで剣の腹を右肩の前に滑り込ませる。

 できるだけ、左足に重心を移し替えたいが、そこまではあまりさせてもらえずに接触。

 身体が時計回りに回り、後方に吹き飛ばされていく。

 なんとか受け身を取り、チタンの方を見ようとした時には既に攻撃態勢に入っていた。

 突きに来た剣を転がって避ける。

 振り下ろされた剣を右手に持った剣を左前腕で押さえながら、受け止める。

 骨が悲鳴を上げている。


「ここまで、だな」


 右手は痺れ、左前腕は打撲しているだろうが、良く生きて帰ってこれたと思う。


「ありがとうございました」

「あぁ、回避は結構うまいな。しかし、攻撃は愚直すぎるし、もっと積極的にやらなくてはだめだ。防御の感性は悪くないからこれから訓練にしっかり励むように」

「はい!ご指導よろしくお願いします!」

「おうよ!」


 何名かがこちらを見ていた。


「チタン先生と対面してあの程度で済んでいる……だと?」

「いやまぁ、そりゃ手は抜いてるでしょ。実際あんな速度じゃないしね」

「手抜いてあのレベルまで追い込むのか……あのレベルの人たちはよくわからないわ……」

「ちぇっ……何だよ、先生はクロムに手抜きやがった。面白くねぇ」

(手を抜いてもらわなかったら死んでるよ……手が痺れた……)


 そんな会話が聞こえる。

「お? なんだお前ら。俺と手合わせしたいのか?」

「い、いえ! とんでもないです!」

「む、無理ですよ! そんなの!」

「じゃあ、自分の剣を磨くの全力を尽くしな! 人を馬鹿にして得れる剣なんてないぜ!」


 左腕はまだ痛むが、右手の痺れは取れてきた。


「やめっ!!! それでは、まず型の訓練からだが、その前に休憩を与える。3分間待ってやる」


 水を飲み、返ってきたら訓練再開だ。


 型の訓練とは所謂(いわゆる)素振りである。


 王国騎士団入隊には一定以上のレベルで『王国流剣術』が求められる。


 ちなみに、剣術のこの時間だが、実際は近接戦闘を学ぶ。


『王国流剣術』が最低限出来るようになると、次に『王国流組討(くみうち)術』を学ぶ。


 その後は、剣、組討、盾、槍、拳、蹴りなどの自分の特性に合わせた近接戦闘を学ぶことになる。


 新学期始まって一番最初の授業ということもあり、全員が王国流剣術をやった。


(……知識として動きを知っていてもなかなかうまくいかないな)


 しかし、丁寧に心構え、動きの一動作から、力のかけ方まで、じっくりと教えてくれた。


 周りも、すでに知っていることだからといって、手を抜いたりはしない。


 それはひとえに、王国騎士団への憧れとチタンに対する畏怖(いふ)と尊敬からくるのだろう。

組討術:柔術や合気道みたいなやつ。戦国時代などでは重宝した武術で、相手を組み伏せて短刀で鎧の隙間から刺すなどしたらしい。

光合成:植物が行う二酸化炭素と水分を使って酸素と養分を作り出す反応。太陽光などの光エネルギーの存在が不可欠である。葉緑体を使って反応する。

ブドウ糖:単糖類。グルコースともよばれる。脳が大好きな栄養。

王国騎士団:アルベルト王国の騎士団の中でもNo,2の組織。主に王都内の警備や、他国との軍事衝突の際、貴族領での事案に対し、出動する機関。国内最大規模の騎士団。

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