第21話 研究学校の女の子
時刻は大体12時。
「この後の予定は?」
「お昼食べて、買い物して……かな?」
「なるほど」
学校の正門から出て、石畳で出来た道を歩いていく。
学校の裏側が森であることを考えると町の中央の方に向かって行っているのだろう。
馬車や人力車、牛車なども走っている。
「いつ見ても王都は賑やかね」
優菜が言うとおり、ここは王都。
その中でも冒険者や騎士が多く集まる国防区などといわれる。
王宮から軍学校まで一直線にメインストリートが敷かれていて、それに隣接するように冒険者ギルドや騎士の庁舎、武器屋に飯屋が並んでいる。
さらに枝分かれして、鍛冶屋や武器屋、宿屋に飯屋、騎士の分舎や傭兵ギルドに至るまでが集結して扇を形成している。
では、王都のほかの地域はというと、研究区、生活区、商業区に分かれている。
そして、それぞれの区域でメインストリートが存在し、それらはすべて王宮の周りにある中央区に接続され、王宮に向かって伸びているのである。
つまり王都の構造は、王宮、王宮の周りに中央区、中央区を囲むように国防区、研究区、商業区、生活区が扇を作り、円形の都市としているのである。
ちなみに各区域の面積は中央区を除く4区は同じである。
そして、各区域に騎士団の庁舎が存在する。
本庁は中央区に存在し、本庁のトップが王国騎士団の騎士団長ということになるのである。
ちなみに、王宮の中はまた別の騎士団が存在し、それを王宮騎士団という。
王宮騎士団の団長は騎士の、それから子供たちの憧れの的である。
さて、他愛もない話をしながら歩いていき、途中でメインストリートを外れ、研究区に入る。
当然区域が変われば雰囲気も少し変わる。
国防区は冒険者や騎士、傭兵の人たちが多かったのでワイワイガヤガヤと、騒々しさを感じる。
しかし、研究区はかなり静かである。
国防区メインストリートから緩いカーブを抜けて、研究区のメインストリートに出る手前のお店に優菜が入ったので、クロムは後を追うように入る。
入るとそこは、暖色の優しい光とコーヒーの香りに包まれた空間であった。
いわゆる喫茶店というやつである。
「いらっしゃいませ」
テンポの緩やかなジャズのような曲が流れる店内で、明るく、しかし雰囲気を壊さない店員さんの声が鼓膜を揺らす。
「先客がいるのですが、大丈夫ですか?」
「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ」
優菜は何の迷いもなく窓際の席で紅茶が入っているであろうカップを傾けている少女のもとに足を運ぶ。
「お待たせ、りっちゃん」
「ん。大丈夫」
その少女は、金色に輝く髪を胸までの長さで揃え、赤縁の眼鏡の奥には磨き上げられたタンザナイトの宝石のような群青がクロムと優菜を映す。
カチャリと紅茶のカップを置くその指は細く、新雪のように白い。
「隣は?」
その声を聴くまで見惚れていたと認めざるを得ない。
「りっちゃんに、というよりも研究者に興味があるらしくてね。クロム君」
「初めまして、クロム・マンガンと申します」
「……金上律子です。よろしく」
「よろしくお願いします」
席に着くと、メニューを見ることもなく店員さんを呼ぶ優菜。
「お待たせいたしました。ご注文はお決まりですか?」
「はい。オムライスとレモンティーで」
「私も紅茶お替り、あとオムライス」
「えっと、じゃあ僕もオムライスとストレートティーで」
「かしこまりました。オムライス3点、レモンティー、ミルクティー、ストレートティーでよろしいですか?」
「はい。お願いします」
「かしこまりました。しばらくお待ちください」
「……さて、クロム君。どういう用件で研究者に興味があるの?」
「先に言っておくけれど、研究の詳細を教えることも、あなたと男女の関係になることもあり得ないということは言っておくわ」
「……えぇ、ちなみにどのような分野の研究をされていらっしゃるのでしょうか?」
「なぜ、あなたに教えないといけないのかしら? 私にメリットがありませんけれど」
「……そうですね。今のところ僕が提示できるメリットはありません。ですが、そこをなんとか。僕にも成さねばならないことができまして、そのためにはなりふり構っている場合ではないのです」
「左様でございますか。ですがそれはあなたの問題で、私がそれを助ける必要性はないでしょう。最低限、私が得になることを提示してもらいたいものですが」
「……そうですね。数字の扱いと物理学には多少の覚えがあります。助けにはなりませんか?」
「軍学校中等部の理科ができるからと言って、私の研究の助けにはなりませんね。却下です」
「では、軍学校の大学院レベルだとしたらどうでしょう?」
「……たいそうな自信をお持ちですね」
「クロム君。さすがにそれは無理だと思うよ?いくら理科が得意だからって」
「まぁ、試してみるだけ試してみましょうか。そうね……じゃあまず楕円を描く方法を言ってみて」
「焦点となる2点を決めて、そこにひものようなものを固定して、それをピンと張って描くだけだね」
「……じゃあ、光の速度を私が出したらどうなる?」
「ブラックホールが生まれるな。この星はなくなる」
「……あなたは魔法を物理学に落とし込むならどのような説明をする?」
「……難しい質問だね。……そうだな、質量を持たない素粒子を意思という力を働かせて、大きなエネルギーを生み出させる……とかどう?ざっくりだけど」
「……なるほど。面白い仮説ね」
「りっちゃん、どうなの?」
「うん。正直かなりのものだと思う。興味は生まれたかな」
「お眼鏡にはかないましたかね?」
「想像以上だとは思いますよ。今度研究室に来てみますか?」
「良いんですか!?」
「まぁ、たぶん大丈夫だとは思いますよ。先生には聞いておきますけれど」
(いやぁよかった!)
「お待たせいたしました! オムライスと紅茶です」
ケチャップの甘酸っぱい匂いに誘われて視線を店員さんに向けると、その手には綺麗に卵に包まれ、ケチャップがかけられたオムライスと、それぞれの紅茶があった。
「……めっちゃ美味そう」
思わずつぶやいてしまった。
というのも、学食ではご飯が綺麗に盛られていることはほぼないといって良い。
よく考えれば当然で、K~Rの8クラスに40人程度の生徒がいて、中等部だけでも3学年ある。
さらに上級のクラスが何クラスかあり、高等部や大学部まである。
当然、作りやすさ、盛り付けは楽なことが要求される。
だが本来食事というものは味覚のみで楽しむものではない。
一方でここの喫茶店のようにお金を払い、それに見合ったサービスを受けられる場所では盛り付けや味、香りなどに作り手は多少のこだわりがある。
ここの料理は 嗅覚、聴覚、視覚、触覚そして味覚の五感で楽しむものである。
「でしょ? こうやって英気を養わないとやってらんないからね」
「……研究室では食事の楽しみも忘れそうになる。ここはそういう意味でもオアシスかもしれない」
「……また偏った食事をしてるんじゃないの? りっちゃんはすぐに自分のことより研究のことを優先するから」
「うっ……たまに食べられない時があるだけ。科学的にも十分な食事をしている……つもり」
「もーっ! ちゃんと3食栄養のバランスを考えて食べなきゃダメでしょ!」
「うー……でもぉ……」
「でもじゃないのっ! もう、いっつもこうなんだから……クロム君もなんか言ってやってよ」
「え!? え、えぇと……体調を崩したら研究も手を止めなきゃいけないし、良い研究もできないだろうから……ね?」
「……確かに」
そんなことを言いながら、オムライスにスプーンを差し込む。
トロトロの卵の中にはケチャップライスが顔をのぞかせ、まとめてスプーンですくえばケチャップライスはほろほろと零れ落ち、卵はプルプルとスプーンの上で踊っている。
一口運べば、ケチャップの酸味を卵の優しさで相殺する。
「……うめぇ」
「でしょ? ここは結構良いお店なの。中央区より安くて、落ち着く空間と美味しいごはん。ここは結構二人で来るの」
「……ここにいると荒んだ心が癒される」
「荒んだって……どんな生活してるんですか……?」
「考えても見てほしいんだけれど、研究学校というのは男子の方が在籍者が多いの。座学をして、研究してという身体を動かすことなどない私達は当然ストレスがたまって仕方ない」
「……なるほど?」
「しかも周りは思春期真っただ中の男子。多少気持ち悪い目を向けられることも、稀にある」
「あぁ、まぁなるほど」
「そんでもって、私の研究に意地でもケチをつけてくるめんどくさい女子もいる」
「……うん」
「私は少し優秀だからよく標的にされる」
「……みんな大変なんですね」
「……多少のツッコミはしてほしかった」
「アハハ。りっちゃんがこんな軽口を初対面でたたくのも珍しいんだよ?」
「……それは優菜が紹介した人なら信頼できるとは思うから」
「もう、かわいいなぁ! りっちゃん」
「む。優菜の方が可愛い。これは譲れない」
「えぇ? でも私なんか周りの男子に女子として認識すらされてないよ! みんな研究学校の女を紹介しろーってうるさいんだからっ!」
「それは周りの男子たちの見る目がないだけ。安心して良い」
「まぁ、あんな奴らどうでもいいんだけれどね。それよりもさぁ努力しないで私に嫉妬する人間の嫌なこと嫌なこと……」
「む。優菜に嫉妬するなんて数万年早い。むしろこんなに可愛くて強い女の子は崇めて敬うべき」
「それは言いすぎだよー。でも、本当に強いのはりっちゃんのような子だと私は思うなっ! 一つのことに集中して取り組み続けるのはすごいことなんだよっ!」
「エヘヘ、嬉しい。優菜は優しいし、可愛いし、しっかりしていてすごい。将来絶対良いお嫁さんになる」
「ふぇ!? いきなりお嫁さんとか変なこと言わないでよ、もーっ」
「クロムもそう思っているはず。でしょ?」
「え? まぁ、確かに。白金さんと結婚する人は幸せ者だろうけども」
「ふぇ!? や、やめてよ……恥ずかしい……」
「むぅ。優菜が他の人と結婚しているのを想像すると微妙な気持ちになる……私と結婚するべき。クロムもそう思うでしょ?」
「ん? うん。二人がそれでいいならいいと思うよ」
「も、もう! 二人とも! 馬鹿なこと言ってないで、食べ終わったなら出るよ?」
「むぅ……結構本気だったのだが……優菜が言うならそうする」
「……まぁ、二人が出るなら出るか」
(もう少し、二人のイチャイチャを見ていたかったな……)
やや頬を紅潮させている優菜と少しむくれた律子、口角が上がったクロムが会計をして店の外に出る。
「ありがとうございました! またお越しください!」
店員さんの明るい声に負けない日差しが三人を照らしていた。
投稿遅れた上にこんなことを言うのも申し訳ないのですが、1か月くらい投稿をお休みさせてください。
というのも、最近執筆作業をするのに頭がうまく回らず苦心している部分がありまして。
4月の新学期に向けての勉強をさせてください。
数学や物理学、英語を勉強する予定でして、大学の単位や院試などに向けたものでもあるのですが、この作品を書くうえでも頭はよくなった方が役に立つと考えています。(頭悪い人並み感)
少し期間をあけてしまうのですが、再開する暁にはより良い作品作りと速い更新頻度が実現できると思います。……たぶん。
勝手ながらこの判断をお許しください。
(でも、猛烈にこの作品が書きたくなったら書きますけどねw)
さて、いつもの解説集です!
王国騎士団:アルベルト王国の正規軍であり、警察組織でもある、騎士団。国内で最も在籍する騎士の数が多く、王都のみならず各地に庁舎を持ち、国内の治安を維持している。王都の中央区に本庁が存在し、そこに騎士団長がいる。
王宮騎士団:アルベルト王国の王宮内の警備を行う組織。国王直属の騎士団であり、騎士の模範となることも求められる。中でも騎士団長は騎士はもちろん、王国民の憧れであり、模範となる人物である。
金上律子
金色の髪を胸までの長さでおろしている。赤縁眼鏡を付けた青色の瞳を持つ女の子。
白金優菜やクロム・マンガンと同じく14歳で身長は160cmほど。
落ち着いていて、やや表情に乏しいがはっきりとした言葉を使う、意志の強い人。
優菜が好き。二人でなら大抵の困難には負けないと思ってる。優菜もそう思っている。
自分のことを後回しにしてしまうこともあり、よく優菜に注意されている。




