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異世界から帰りたい  作者: 鉛銅 錫
第1章 鉛沢充は異世界から帰りたい!
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第2話 異世界転移

ドイツ語と英語を含みます。

雰囲気で読んでください。


 意識が戻ってきた。




 次第に感覚器が働き始める。



 まず、背面に異常を感じる。

 聴覚もおかしい。

 寝ている場所は石のように固く、冷たい。

 周りにまるで人だかりができているようなそんな騒々しさ。



Huh? (ん?)Warum(なぜ) nicht() versch(えな)winden?(い?)


 間の抜けた声はより近く、大人の男であると感じた。


 目を開けると、天井のステンドグラスが目に入った。


 周りには制服を着た人たちが辺りを埋め尽くしている。


(……ん? どういうこと?)


 とりあえず状況が良く分からないので起き上がることにした。


Du(お、) bist(起き) auf()gestanden(がったぞ)! !(!!) Bereite() dich a()uf den() Kampf vor()! !(!!)


 剣を抜いて構えている騎士風の大男が周りを囲む。


 おそらく高低差もある中、攻撃を当てるのは不可能だろう。


 ただ、一人の男は目の前にいる。


(……はて? どうするべきか?)


 ここまで落ち着いているのには理由がある。


 周りを囲んでいた制服を着ていた人たちが悲鳴を上げて、外に逃げ出そうとしている。


 さらに、囲んでいる大人たちからも殺気があるようには感じない。


 ちらちら外の方を見ていることから逃げ出したいようにも見える。


(つまり、なぜか僕に怯えている……?)


 戦ったら勝てない。

 逃げ出そうとしたら串刺し。


 ならすることは一つ。


 おもむろに膝をつき、両手を上げて


Don't kill(殺さないで) me!!(くれ!!)please!!(頼む!!)


 相手は一歩引いた。

 半身になり剣先がこちらに向けられている。


You can() understand(せば) by() speaking!!(かる!!)


Was sagst(な、なんて言って) du!?(るんだ!?)

Vielleicht(魔法) magisches(詠唱かも) Singen! !(しれん!!)

Der Ang(攻撃)riff begin(開始)nt!(だ!)


「ちょい待てぇー!!!!」

 フェンシングの要領でちょうど眉間の辺りにきそうな剣を、体を倒して避けた。


「ちょっと待って!! 話せばわかるから!!」


 ざわざわしている。

(日本語ではない。英語でもない。……知っている言語か?)


 突きや横凪ぎの剣を夢中で避ける。

Scheiße!(クソッ!) Vermeide(避けやがっ) es!(て!)


(……? ドイツ語?)


 (みつる)は大学時代に第二外国語としてドイツ語を履修していた。


 よく聞けば巻き舌がたまに交じっているし、聞いたことある発音でもある。


 そして、この男の話す言語は確かにドイツ語に似ていた。


Bitte hör(やめてくだ) auf!!(さい!!)

Sprach die(同じ言) gleichen(葉を話) Wörter! ?(した!?)



 どの言語で喋っているかが分かり、その言語を知っているならば、それはもう実質その人と円満にコミュニケーションが取れるといったものだ。

 もちろん、厳密にはそうとは限らないが。

 ということでここからは日本語で表記します。



 攻撃の手が緩む。そこに一人の男子が歩いてきた。


 まだ少し幼さが残る男の子は金髪で顔立ちは悪くない。


 一部の逃げようとしていた女子の中には、彼に見惚れているような人もいる。


 なによりも、こちらに向けた瞳からは強い決意とエネルギーを感じる。


「先生。俺に任せてください。アンデットぐらいこの手で葬り去って見せましょう!」

「やめとけ!アンデットというのは見かけによらず危険なんだ!」

「一般人じゃい!」

「いや!どう考えてもアンデットやんけ!」

「アンデットじゃなくて人間じゃい!!」

「やかましい! とにかく行きますよ! 【レーザーキャノン】」


 細い光が充のちょうど心臓のあたりに照射される。

 その光線は徐々に太くなる。

 光線は加速的に太くなり、照射された箇所が熱を感じる。

 その光線に身の危険を感じた充は横っ飛びをもって回避。


 回転しながら見えた光線の先では壁を突き破っていた。


(……え?強すぎ……)


「やっ……てない?!」


「何事だ!!」


 太く威厳のある声が講堂に響き渡る。


 目を向ければ筋骨隆々で白髪な壮年の騎士が講堂の入り口から声を上げていた。


「校長! 危険です! 避難を!」

「やかましい! 俺はこれでも騎士団長並に強い男だぞ! 悪魔だろうがアンデットだろうが関係ないわい!」


(頼もしい……いや、ピンチだねぇ!)


「助けっ……うっ」

 めまいと頭痛に襲われ、冷や汗が止まらない。勝手に脳が動き出し記憶を漁っている感覚。

 周りが騒々しくなっている気がするが、そんなことより頭が痛い。鼻血も出ているようだ。


(これは……記憶? 一体誰のだ……?)


 突然他人の記憶が走馬灯のように脳内に流れていく。


 おもむろに自分の身体を見る。

 充は身長187cmである。


 しかし、今の身体は何か全体的に小さい気がする。

 思い返せば、先ほどまで立っていたわけだが、妙に地面が近いような気がしたのだ。

 具体的に言えば160cmくらいな気がする。


 そういえば、大学でかじった程度の似た言語でここまですんなりと会話をしているのも変ではあった。

 いくら充が優秀でも、使わないドイツ語を、ついでの感覚で、何単位かとっただけのドイツ語がこんな滑らかに出てくるわけがない。

 そもそも、充は"とても優秀"な人間とは言えない。少なくとも自己評価ではそうなのである。


(……なるほどね。信じられないけど『入れ替わった』というのがとても合理的か?)


 入れ替わって、その人の記憶が脳に残っていたら、スムーズな会話にも納得がいくというものである。


「……つまり、術に失敗したんだな」

「申し訳ありません!」

「構わん。彼の検査と魔法陣の解析をするのが先だ」

「御意!」



(安全……そうだな。これ以上意識を保つのはきつい……か)



 その場で充、いやクロムは意識を手放した。








 目を覚ましたクロム。


 腕には計測器具のようなものが取り付けられていた。


 天井は白く、カーテンにより仕切られた空間でベッドに寝ていた。


(……保健室……かな?)


 頭は重いが身体には違和感はない。


 おもむろにカーテンが開かれる。


 そこには白衣を着た眼鏡の女性がいた。


「起きたね。調子はどうだい?」


 琥珀色の髪に負けない透明感のある綺麗な声でそう聞かれる。


「頭が重たいですけど、それ以外は特に……」

「会話はできそう?」

「問題ないです」


 ベッドから起き上がり、奥の部屋に通される。


 すると、さっきの校長と騎士風な男、それともう一人女性が入ってきた。


 校長は灰色のスーツを着ているが、その下には筋肉が隠れていそうな盛り上がりがある。


 実際に体は大きく、色素の薄い各部の毛と優しそうな眼差しをもってしても彼の強さというものを隠し通すことはできていない。


 騎士風な男は、校長ほどではないものの姿勢や所作から洗練された何かを感じ得る。


 そして、腰まである水色の髪を歩くたびに揺らす彼女は美しく、それでいて迫力のようなものを感じた。


「体調はどうだい?」


「……悪くはないです」


 相変わらず頭は重いが、ただそれだけ。


 むしろ頭痛と引き換えに得た知識に興味があった。


「一つ聞いても良いですか?」


「……まぁ構わん」


「ありがとうございます。ここはどこですか? 記憶を確かめたいので」


「……どこだと思う?」

「アルベルト王国、その中の軍隊養成学校アルベルト皇軍学校、でしょうか?」

「正解だ。確認はとれたかな?えぇと、クロム君?」


「……えぇ。それで今後の話ですかね?」


 この記憶は、間違いなくこの身体の持ち主である、クロム・マンガンのものである。

 そのことの確認を取りたかった。


「察しが早くて助かる。でもその前に『君は誰』かな?」


「……一旦、他言無用でお願いしたい」

「保障しよう」


 それから、元々鉛沢充だったり、そこでは魔法が使われてなかったりを一通り話した。


「それは(まこと)か?」

「はい。真実であります」

「ヘレン。そんなことってあるのか?」


 騎士風の男が水色の髪の女性に問いかけた。


「んー、まぁないことは無いかな?転移系の魔法って結構似てるし」

「【異世界転移】か? それなら入れ替わりについてはどう説明する?」

「魔法陣見たこと無いからわからないけど似ている魔法陣なら結構作用するからねぇ……」

「そうか……関係ない貴殿を巻き込んでしまったのだな。申し訳ない」


「……いえ、それはまぁタイミング的には問題ないですけど」


「……あぁ、退職したとか言ってたな」


「えぇ、しかし、向こうには彼がいるわけですよね?」

「まぁ、そういうことになるかもしれないな」

「申し訳ないけれど、その子のことを考えるよりも自分のことを考えるべきよ」

「そうだな……選択肢としてはこの学校でまたやっていくか、やめて家に帰るかだと

 思うが」


 この学校でやっていくとなるとまた虐められるようだ。


 記憶の中にはそこそこ強烈ないじめの風景が浮かんでいる。


 しかし家に帰るとなればどうだろう。


 変わってしまった息子を見て父親はどう思うのだろうか。


 母親は病に倒れているようだし。


 学校をやめて、家に帰らないという選択もあるにはあるが……現実的ではないだろうな。


 学費はあまり豊かでもない農家の家から出してもらっているし、そもそもこの年で何をして稼ぐのだろうか。


「この学校でやらせていただきたい」


 この選択しかない。学生間のいじめくらい耐え抜いて見せよう。


「……分かった。厳しい道になるだろうが頑張ってほしい。……1年だ。1年やってダメならまた飛ばす」

「わかりました。期待に沿えるよう精一杯やらせていただきます」

「それじゃ、私はこれで」

「始末書を作らなくてはならないので僕も失礼するよ」

「もう少しお話良いかしら?」

「大丈夫ですよ?」

「転生の途中なにか見た?」


 水色の髪の人が問う。


「いえ、特に何も……」


「そう……そんなもんか……さて、君に一つ、提案がある」

「なんでしょう?」

「君に魔法を教えたいな、と思うんだ」


「……良いんですか?!」

「ん、だってこのままだと間違いなく君は1年後に飛ばされちゃうよ?」

「そりゃそうですよね……」


「と言うことで、私が放課後に魔法を教えちゃうよ!」

「本当にありがたいです……!」


「目標くらい決めといた方が良いわよ?際限なく強くなっちゃうし」白衣の先生が言う。


「際限なく……?」


「この大陸で最強の魔法使いっていえば言いたいことは分かるかしら?」


「なるほど。でも、僕が強くなるとは限らないですよ?」


「この世界で魔法に関して右に出る者はそういないわ」

「ま、そういうわけだから目標を決めよう! 何がしたい?」


(……何がしたい? なんだろう……?)


「ゆっくり考えて良いよ」



(……花菜に会いたいよなぁ)


 水瀬花菜(みなせかな)。充が中学生のころから片想いしている女友達である。


 すでに何回か告白はしているが全敗。


(花菜に会うには……帰るしかないよなぁ……帰りてぇなぁ!)


「……元の世界に帰りたいっすね」

「へぇ……結構大変だよ? それ」


「……出来るんですか?」


「……できるかできないかで言ったらできる。でも……めっちゃ大変」


「まぁやれるだけやってみたいです」


「……分かった。でもとりあえず魔法が使えないことには始まらないしそこから始めようか」


 するとヘレンはクロムの手を取って目を閉じる。


 すると、体の中で何か力が(うごめ)いているように感じた。


「……分かる?今、君の魔力を動かしているんだけど」

「多分……これですか?」


 勢い良く動く力の逆方向に引っ張るイメージを持つ。


「……え? 今、阻害した?」


「あ、まぁ止めようとはしましたけど……」


「そう……その感覚忘れないでね?じゃあ次は今みたいに魔力を自分で動かしてみて?」


 止めようとした時のように魔力を掴み、それを動かす。


「……初めてにしては上手いね。じゃあそれを具現化しよう。剣とかなんかそんな感じの出してみて」


 目を閉じて魔力の流れを水のようにイメージする。


 胸の前で腕をバットを握る形にしてそこにバットを出すイメージをする。


 おもいっきり魔力を流して目を開けると、そこには銀色に輝くバットがあった。


「おー、じゃあそれを限界まで具現化してて」

「はっ……はい!」


 気の抜けた雰囲気で言われたが初心者にはこれはなかなか厳しいものがある。


 1分間クロムはバットを具現化し続けた。


 ついに魔力が切れ、バットの面影が消えると、クロムはその場に倒れ込んだ。


 水たまりができていて、触れた皮膚からその液体を吸収していった。


 魔力切れ特有だという頭痛や吐き気は無くなり、体のだるさだけが残った。


「初めてにしてはすごいわね」

「そうだね!結構期待できそうかも。クロム君、とりあえず明日の放課後に職員室で待ってるね!ヘレン・ネオンだよ!」


「……まぁ怪我したらいつでも保健室に来て良いからね。ちなみに私は保金理知子(やすがねりちこ)


「はい……よろしく……お願いします……!」


 息も絶え絶えだったが、無事師匠を作ることができた。


「……そろそろ良いかい?」


 扉の前に立っていたのは先ほどの騎士風の男。


 我らが担任。デオキシ・リボース。


「部屋に案内しようと思ってね」

「ありがとうございます」


 理知子とヘレンに一礼をして保健室から出て歩きはじめる。


「……すまなかった」


「……え? 何がです?」

「罪のない人間を無意味にこの世界に連れてきてしまった……」


「……知らないと思いますけど、僕の元の世界では結構異世界を題材にした小説は結構あるんですよ。ある意味で憧れの地に連れてきてもらったわけですし、罪悪感なんて感じないでくださいよ」


「……そう言ってもらえると嬉しい。君が生き残れるように僕は全力を尽くそうと思う」

「ありがとうございます。せっかく来たんですから頑張りますよ!」


「……ハハッ、頼もしいな。……無理はするなよ?」

「もちろん。死んだら意味無いですからね」

「その通りだ。……ここだな。明日は8時30分からだ」

「わかりました。ありがとうございました!」

「あぁ。じゃあな」


 デオキシ・リボースを見送り、部屋を見る。


 六畳くらいの部屋にベットと勉強机、洗面台がある。


 学校の経路図が描かれた紙を見て場所を覚える。


 窓が付いていて外はすでに夜のようだ。


(明日もあるし、寝るか)

ちなみにドイツ語も英語もGoogle先生による翻訳です。

Google先生、いつもありがとう。


では、用語解説いきます。

第二外国語:英語の他に学ぶ外国語。大学生になってから手を出す人も多いかもしれません。かくいう私もドイツ語を選択しました。英語が分かると分かるんだろうなぁと思います。私は分かりません。

【レーザーキャノン】:光属性魔法。光線で貫くのを目的とした魔法。ただし、実際に光の照射ではなく、微粒子のエネルギーを高めたもののため、光速には達していないし、頑張ればよけれる。真っ直ぐに飛ぶ。

騎士団長:騎士という組織のトップでとても強い。ただ、今作では様々な騎士団が存在しているので、どの騎士団長のことを校長が指したのかは不明。

転移系の魔法:非常に難しく、日常的に使っている人はそう簡単には見かけない。

【異世界転移】:異世界に飛ばす魔法。身体ごと飛ばすので大変コストの重い、運用のしにくい魔法。

いじめ:よくない。

始末書:仕事でミスをしたり事故が起きると書かなくてはいけない文書。とても面倒くさいらしい。

魔力欠乏症:魔力切れのときに起きる症状。頭痛、吐き気、めまい、倦怠感など。ひどくなると気絶する。貧血みたいな症状みたい。


鉛沢充

29歳男性。187cm/80kg。黒髪黒目。

高校時代は野球部で控え選手だった。ずっと水瀬花菜に片想いしている。博士号(理学)を持っているが、一般企業に勤めていた。1話でリストラされた。


クロム・マンガン

14歳男性。160cm。黒髪

いじめを受けている強くない中学生男子。


ヘレン・ネオン

目測170cm腰まである水色の髪を先の方で結ぶ。

最強の魔法使いらしい。魔法を教えてくれる。学校の先生をやっている。美人。


保金理知子やすがねりちこ

目測160cmより少しあるかな?琥珀色の髪は肩までの長さでポニーテール。

保健室の先生。優しく、美人でかわいい。白衣を着てる。


デオキシ・リボース

目測180cm茶色の髪に青色の瞳。眼鏡を付けている。

クロムの担任の先生。騎士服が決まってる。優しい男。


水瀬花菜(みなせかな)

29歳女性。黒髪で胸くらいまである長さを片寄せポニーにしている。

身長は155cm

充が中学生の時同じクラスになり、惚れた人。高校以降は違う学校になったが、充の片想いはいまだに続いている。小説を書いたり絵を描いたりしていたことは知っているが……

ちなみに充いわく「めっちゃ可愛い、好き。美人になった、性格も真面目で丁寧で良い子。すき……」とのこと。作者がそれ以上のことを聞こうとしても、ふざけているのかそれ以上を答えなかったので、ストーカーにだけはならないようにしてほしいと思いました。

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