第13話 最強の師匠たちの集結
帰りのHR中に頭にヘレンの声が響いた。
『ヤッホー! ヘレンです。HR終わったらジムに来てね!』
少しびっくりしたが【思念伝達】という魔法であることは分かったので過剰な反応はしないでいられた。
HRを終えると、ジムに向かう。
ジムに着いたとき、既に5人、ではなく9人の成人した男女がいた。
「お、来たか。良いタイミングだ」
「……えっと、これはどういう集まりで?」
「……伝えてなかったのか?」
「まぁ、中々【思念伝達】でいっぱいの情報を伝えるのも大変だしね」
「俺たちは全員集まって一つのクランなんだよ」
「クランっていうのはギルドで活動する冒険者の集まりの区分のひとつで、パーティーより大きい分け方をするものだね」
「僕たちはこの国最強と呼ばれたクラン『Über alles hinaus』なんだ」
(……だいぶ大物じゃねぇか、いや案外そうでも無いのか? なわけ無いよな?)
クロムが明らかに困惑の表情を浮かべている。知らない単語にそれの中の最強と言われてもどうしろというのだろう。
「あ、自己紹介をしないと。僕はクランリーダーのデオキシ・リボース。クラン運営とか雑事とかを基本にしている」
「軍勢を率いたりすることは雑事とは言わないぜ? 『軍師』さん?」
「良いんだよ。戦略を決めたり、戦況を見たりするのも、会計とかもまとめて雑事といえばすっきりするだろ?」
どうやら、僕の担任は結構すごい人らしい。
そういえば担当科目も戦術とかの担当だったような気もする。
茶髪の髪の毛に優しそうな眼付きではあるがその眼の奥には思慮深さを感じるような気もする。
後、身体の線が(主にチタンと並んでいるせいで)細い。
「じゃあ、次は俺、クランサブリーダー兼パーティーリーダーのラドン・ハイドラント。中衛で魔槍士をやってる」
身体がデカい。2mくらいありそうだし、厚みも尋常ではない。
そのうえで、雰囲気は柔らかく、その金髪のショートの髪と顔の良さ。
白馬に乗ったら女性憧れの白馬の騎士様の完成ではないだろうか?
……理想からすればちょっと筋肉が大きすぎるかもしれないが。
「私は同じクランでサブパーティーリーダーのヘレン・ネオン。後衛で魔法使いだよ!」
腰ほどまである水色の髪と女性にしては少し高めの背丈、女性としての魅力の主張はローブを纏った程度では削がれはしない。
並大抵の男だったら色仕掛けで落ちるんだろうが、そもそも並大抵の男ではこの女性に指一本触れることなく爆裂させられてしまうだろう。
一分の隙もない女性。高嶺の花とはまさにこのこと。
「同じクラン、パーティーで回復術師の保金理知子」
透き通りそうな琥珀色の髪をポニーテールにして肩の高さまで伸びている。
白衣と眼鏡を違和感なく着こなしている。
これが手を取り治療してくれるというのなら、並大抵の男が恋に落ちるのも頷ける。
「私も同じクラン、パーティーで後衛、付与術師兼魔法使いのラムダ・オキシジンです」
栗色の髪をショートにしている、華奢で肉付きが少ないようにも思うが、修道服にも見える装飾の少ないローブを着ている姿はまさに清楚。
これが戦場に出ているなら男どもは見るだけで2倍頑張れるかもしれない。
「んで、俺はそこの盾士チタン・アイアンだ!!」
筋肉の塊。それが騎士服を着ている。
こいつに喧嘩を売る奴はもう頭が悪いなんてもんじゃない。
しかし、顔をよく見れば結構優しそうだし、実際多分いい人である。
ただ、金髪の刈上げは少し怖いとだけは言っておこう。
「……情報担当の炭谷定常」
黒髪黒目のその男は何となく主張が薄い。
むしろ影が薄いとまで言ってもいいかもしれない。
ただ、その顔は十分に整っている。
むしろ精密にできた仮面なのかもしれないし、なんなら体温を感じさせない。不思議な存在である。
「軽戦士のベリル・ミスリールだ! 専任鍛冶師でもあるぜ!」
銀髪のこの男は身長はそこまで高くなく、170cmくらいだろうか。
しかし、その腕の筋肉を見ればこの男が十分に強いことがうかがえる。後、顔が良い。
「えーと、食料担当のカーク・カーボンですぅ」
割烹着を着た赤髪のお姉さん。
鮮やかな赤色の髪の毛をお団子にして一つにまとめている。
すごく優しそうなのと、包容力が雰囲気からにじみ出ている。
こんなお姉さんから食事を受け取れる食堂がどうやら学校にあるらしい。
塩の在りかを教えてくれた人と同じだからね。
そもそも、クロムは今、一学生に過ぎない。
いや、少し特殊ではあるけれども。
そんなクロムに何をしようというのだろうか。
それに、クロムが提供できるものが彼らにとってあるのだろうか?
「これがクラン『Über alles hinaus』の全メンバーだ」
「そして、彼らを呼んだ一つの理由は君をもとの世界に帰すために何か情報を貰えないかと思ってね」
「……えっと色々聞きたいことがあるんですけれど、僕のためになぜそこまでしてくれるのでしょう?」
「それは、もし帰れないとするならば君には違う人生を送る選択をしてもらう必要があるからだね」
それはそうだ。帰れないことが絶対的に決まっているのに、帰ろうとするのは滑稽である。
「結果としては、まぁできなくは無さそうというのが我々の見解だ。もちろん、前例はない」
「成功したかどうかに関して、記録を残せないからね」
「そもそも、違う身体に入った二人をもとに戻したとき、それは元の人間と同じなのかという問題はあるが、まぁそれ自体はできるといっておこう」
「術式は神聖魔法というジャンルで、この国ではあまり流通してないんだけど、お隣の『テレス教国』という所は結構盛んにやっているみたいだからそこに行くのはありかもね」
「だとすれば、Sクラスに転入するのが一番の近道だろうな。あそこなら留学制度をやってて、結構な時間を他国で過ごすことも多いぞ」
「転入するには最短で夏の『学内魔闘祭』を勝ち抜くのが良いな」
「そのためにはお前自身が強くならなきゃいけないな!」
「ということで君は強くなる気はあるかい?」
話が急に進んできた。
しかし、話を簡潔にすると早く強くなるための方法を指示しただけに過ぎない。
そして、国が一国だけでないというなら他国は他国なりの強さを持っているはずだ。
何故なら、弱い国は淘汰されるだろうから。
であれば、他国も強いとみて良い。
そして、学ぶべきものがあるともいえる。
そこに行くためには強くならないといけない。
強くなると、元に戻れるかもしれない。
可能な限り早く戻るべきである。
充はすでに30歳の壁が迫ってきている。
可能なら結婚したいし、その相手のことも考えると時間に猶予なんてあまりない。
故に答えは決まっていた。
「強くなりたいです」
「良く言った!」
「では、詳しく話を詰めようか。まず、君には悪魔が住んでいて、これと1か月後に戦闘をするんだよね?」
「はい。1か月後にこの身体を賭けて」
「では、それまでに悪魔殺しが出来るようになるのが第1条件」
「その次にSクラスへの編入が第2条件かな?」
「あとはできれば魔王に会えると良いけど……」
「今、魔王の状態は非常に不安定だ」
「ならテレス教国がどれくらい協力してくれるか……」
「いや、厳しいだろうな。そりゃ修行をしに来たとなれば歓迎はしてくれるが、知識や技術を持ち帰ることにあまりいい顔はしないだろう」
「湯川国はどうなんですか?」
「まぁ、確かに神話の国だとか言われているが、そもそもが遠すぎる。じゃないにしろ、あの国は分からないことが多すぎるんだよ」
「ハイエルフは?」
「……あそこもなぁ、だいぶ排他的だからなぁ」
「と、他国は厳しい。だがお願いするだけはタダだと思うぞ。あと、他の国も見た方が面白いだろうしな」
「駄目でも観光はできるからね」
「まぁ実をいえば、悪魔さえ殺せれば、後は君がどれだけ頑張るかだけだったりするのかもしれないけど」
「はい。頑張ります。ところで、その悪魔殺しは僕に可能なんですか?」
「んー……行けるんじゃない?」
「そんなもんなんですか?」
「俺らが指導して、お前がちゃんとやりゃあな」
「まぁ、大船に乗った気持ちでお前は自分のやることに集中すればいい」
「はい!」
「で、計画を立てるんでしょ?どうするの?」
「そうだな……実際どれくらいできるもんなんだ?」
「魔法に関して理論は中級くらいかな。操作は良い調子。あとは魔力量がなぁ……」
「近接戦闘は、剣術は微妙だ。防御はできるんだが攻撃は正直微妙だな。組討は良い筋してるけど、それが武器になるというレベルでは決してないな」
「今から武術を極めるのは難しいしなぁ……魔法使いとしてやるか?」
「後衛?」
「いや、ソロとして戦う場面が多いと思うから中衛魔法使いの方が良いと思う」
「それは私も同感。多分クロム君の魔法の発動速度は結構早いはずだし、適正はあると思う」
「魔法使いとしてはそうかもしれんがなぁ……」
「この場合は必ずしも剣じゃないといけないわけでも無いんだけど、それでも?」
「クロムは経験したことある武術はあるか?」
「いや、無いですね……」
中高と野球部だったし、大学は部活はおろか、サークルにすら入ってなかった。
体育の柔道を含めて良いのかどうかも疑問だが、それはすでにある程度組討の方で考慮されるだろう。
「ふむ……中衛って他だと何を使うんだ?」
「剣、薙刀、槍、徒手空拳、小太刀……かな?弓とか、投げナイフの人もたまにいるか……」
「手を離れる武器を使う意味は無いと思うよ?付与術の観点から見てもそれなら剣の方が百倍効果が高いよ」
「とはいえ教えることを考えると剣か槍か大盾かだろ?」
「中衛で大盾はねぇだろ? どっちかなら剣だな」
「そりゃそうだな。レンジが遠ければ魔法で良いし、剣の方が近いところは捌きやすい」
「じゃあ、剣術はラドンで良いか?」
「まぁ、最低限は仕込むことにしよう」
「魔法はヘレンでしょ?」
「もち! あ、でもラムダの力も借りるよ?」
「うん。それは良いよ。あとは?」
「筋肉担当はいらないのか!?」
「この脳みそぎっしり筋肉が……」
「そう褒めるなよラムダ!」
「褒めてないと思うけど……まぁ、でも体力と筋力に関して最も優れているのも事実だしね。人間の範囲を逸脱しない程度に頼むよ?」
「任せろ! 怪物程度で済ませてやる」
((……不安だ))
「食事に関しては、カークがいつも通り余り物持ってきてくれればいいかな」
「任せてぇ! どうせあれ捨てちゃうらしいからぁ」
「怪我したら理知子頼むぞ」
「まぁ、死とトラウマ以外はなんとかするわ」
「……トラウマはダメなの?」
「あれは時間がすごいかかるから無理よ。このクランのメンツなら治せるだろうけど、他は無理。時間が足りない」
「まぁあの治療は年単位でやったりするものだって聞いてるし、それは仕方ない」
「そっちの時間が足りなかったら俺が剣をうってやる。使えるかは保証できないがな」
「……それは何故?」
「だって、魔剣になるんだからしゃあないだろ?」
魔剣とは特殊な剣で、魔力を帯びていたり、魔力を発していたりする剣で、実力の高さより、相性が重要になってしまうのでどんなに強くとも扱えないことがあるそうだ。
「……引き続き情報を集める」
「あぁ。いつも通り頼む。そうだな、クロム君育成作戦以外は通常通り動くからそのつもりで」
「おうよ! ここまでで質問はあるか?」
「いや……あえて言うならなぜここまで僕に力を貸してくれるのかなとは」
「そりゃ後継者を育成しなきゃいけないだろ?」
「だとしたら僕以外でも良いんじゃないですか? それこそSクラスでも」
「そりゃそうだがな。君はもっと自分のポテンシャルに目を向けるべきだとは思う」
「まぁ、可能性の話をしたら誰でも当てはまるんだけれどね。それでも君は他よりも可能性がある」
「それはまぁ分かりますが、それでも僕は元の世界に帰りますよ?」
「元の身体を取り戻すんならその身体はこっちに戻ってくるだろうし、それが出来たら後継者として十分だろ? もし失敗してもここには俺たちが鍛えたお前がいる。だから俺らにとってはやる価値がある」
「なるほど。では、ありがたく鍛えさせていただきます」
「おう! そうしろそうしろ! 強くなりすぎるぐらい強くしてやるよ!」
「弱かったころに戻りたいと言ってももう遅い! みたいな?」
「何言ってるの? フフッ……でも、このメンバーに鍛えられたらそりゃとんでもないのが生まれるのは間違いないね」
「期待に応えられるよう頑張ります!」
「おう! そうしてくれ! で、早速だが筋トレでもするか?」
Über alles hinausと書いて、「ウーバー アレス ヒナウス」という感じの発音をします。意味は「全てを超えた先へ」です。
用語解説だ。受け取ってくれ。
【思念伝達】:自分の任意の思念や、思考を任意の相手に送ることができる魔法。精神系魔法の一つ。『魔法の糸電話』という別名がある。
パーティー:基本的に6人1組で役割分担をし、冒険をするグループ。前、中、後衛と分かれているし、ポジション以外にもそれぞれの特性に合わせて役割を分けられている。
クラン:複数のパーティーをまとめた一つの派閥という見方もできる。パーティーの中心にいる戦闘要員と後方支援をする要員がいる。
ギルド:冒険者に仕事を回す役所。各地によって特色があったりもする。
あとがきの表記は日本語を優先します。ドイツ語は分かりにくいし、ルビが入るかは不確定なので……
ということでクラン『すべてを超えた先へ』のメンバーを紹介するぜ!
デオキシ・リボース
茶髪で蒼眼、眼鏡付き。
クラン『すべてを超えた先へ』リーダー
役割:戦略、クラン運営、クラン内での最終決定権、会計、事務作業など……
二つ名:『軍師』……クラン合同の任務などの指揮力を見た周りの人が言ったりした。
クロムの担任で戦略の授業の担当。護身で剣が使える程度で、本人の強さはそうでもないのだが、彼が指揮した軍勢は統制、戦果共に半端ではない。
ラドン・ハイドラント
金髪蒼眼イケメン王子様風ムキムキマッチョマン。
クラン『すべてを超えた先へ』サブリーダー兼パーティーリーダー
役割:中衛万能型魔槍士、パーティー内での最終決定権。
二つ名:『瞬鬼魔槍』『武神魔槍』……槍、魔法両面で速く、鬼や神のようだということから
中衛という前衛の補助と後衛の安全を守る役割を担いつつ、自らも強力な攻撃の手段を、槍術と魔法の二つで確保している。どうでもいいかもしれないが、街行く人に聞いたこのパーティーの人気ランキングで第1位らしい。
ヘレン・ネオン
腰まである水色の髪、女性にしてはやや背が高く、ルビーのような瞳を持つ。
クラン『すべてを超えた先へ』サブパーティーリーダー
役割:後衛火力型魔法使い
二つ名:『魔弾終炎』『獄炎神水』……あまりの火力の高さ故。
後衛で、高火力の魔法を使い敵を殲滅するのが得意。街行く人に聞いた、憧れの女性ランキング王妃の次点で2位。普段は学校の図書室にいる。
そして、非常に重要なことだが、胸が大きい。ローブでは隠せていない。
保金理知子
琥珀色の髪を肩にかからないようポニーテールにしている。サファイヤのような瞳、眼鏡&白衣。
役割:回復術師。
二つ名:『勝利の女神』『死者蘇生者』……いたら勝てる。死んだだろうなという人を生き返らせたから。
普段は学内の保健室にいる。学内にも3つの保健室があるのだが大体中等部にいる。他の保健室には医師がいるのでその点は安心。ちなみに、医師免許も一応所持している。
ラムダ・オキシジン
栗色のショートヘア、琥珀色の瞳、修道服のようなローブを着ている。
役割:付与術師、セカンド魔法使い
二つ名:『戦場の歌姫』『戦律の奏者』……付与術行使の際に歌うため。
普段は学校で音楽と音魔法を教えている。ヘレンの大規模詠唱の間の繋ぎや、味方の能力向上、敵の能力低下などを一手に請け負う。戦場のど真ん中で歌う姿は、強さと儚さ、美しさがあるため、それを見るとファンが増える。冒険者の上位層ほどその姿を見ているので強い男がファンになっていることが多い。
華奢であるため、ある人からは「一番護りたい」とのこと。いったい誰なんだろ?
次回に回します。9人のまともな紹介は結構文面が……




