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異世界から帰りたい  作者: 鉛銅 錫
第1章 鉛沢充は異世界から帰りたい!
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第1話 充と解雇

初投稿です。

頑張りますので、気軽にコメントしていってくださいね!

『願い』はそんなに簡単には叶わない。


 皆さんもそんな経験ないだろうか?


『大金持ちになりたい』『あの人と付き合いたい』『幸せになりたい』etc……


 子供も大人も生きとし生けるもの、人間なら誰しも一度くらい『願い』を持ったことはあると思う。


 叶うこともあれば、叶わないこともある。


 僕だってそう。研究者になりたかったから博士号まで取ったけれど結局望んだものには遠く及ばなかった。


 ------------------


「これ、やっといてね」

「あ、これも頼んだわ」

「よっしゃこれで私の仕事終わりっ! Hay Sori! 良い感じの飲み屋探して」

『こちらでどうでしょう』

「さすが人工知能! 最高だよ! やっぱ時代はこうでなくっちゃ!」


  私、鉛沢充(なまりざわみつる)! 29歳! 好きな食べ物は唐揚げと白いご飯!


 ……冗談はさておき、現在時刻は15:00。

 今年度最後の仕事の日で、どうやら充の周りは飲み会でもするようだ。


 仕事をしているのは充と部長だけのようだ。


 部長にイヤホンを付けて良いかサインを出すと、うなずいてくれた。


 就業時間は残り2時間。必ずそれまでに終わらせて帰らねばならない。


 いつも通りやったのでは4時間はかかるタスク。追加の分も合わせ5時間くらい。


 この場でイヤホンを装着するのは本気を出すというのと同義だ。


(周りがうるさい……これくらい自分で出来ないとか無能か……??)


 ハッカ飴を一粒口に含み、キーボードをたたく。


 普段から本気を出すと余計な仕事を回されるのは知っているため、なかなか進んでいませんよというアピールをしているのだがそんなものはくそくらえ。


 こんな時にやってもしょうがないのだ。


(理解ある部長で本当に良かった……部長のためにも頑張ろう! どうせ最後だしな!)


『願い』なんて簡単には叶わない。


 博士号を持っていようが好きな人は振り向いてくれないし、恋人はできない。仕事の量は減らないし、同僚からの嫌味も減らない。


 外からの情報をシャットアウトするためのイヤホンから流れるゲームのBGMを聞きながらキーボードをたたく。


 まるでRTAをしているかのような疾走感。




 そして、残り10分のタイミングで部長に確認のメールを送ることができた。


 5分間、部長が確認を行い、こちらに向かって笑顔で親指を立ててくれた。


「皆! 聞いてくれ! 今年度の仕事も無事に終わった」

「さすが俺たちだ!」

「無能を抱えてもイケるものね!」


「そして、一つ大事なお知らせがある。今日で鉛沢が退職になる。挨拶しとけ、充」

「あ、今までありがとうございました」


 部長に向かいお辞儀をする。


「やっとお荷物がいなくなるのね!」

「ついでに俺も他の部署に行くことになった。詳しい辞表は新年度に見てくれ」


『キーンコーンカーンコーン。本年度の最終就業時間となりました』


「よっしゃ! かえろかえろ!」

「飲みいくぞ!」

「「いえーい!」」


 アナウンスと同時に出て行って、残されたのは充と部長だけだった。


「はぁ……本当、ごめんな。最後までこんな感じで」

「いえ! 大丈夫です! 部長はなんも悪くないですし」

「……この後空いてる?」

「……飲みいきます?」

「よし行こう! いつものところ19時な!」

「はい!」



  それからは、デスクを綺麗にし、荷物を全て車に載せ、家に置いて、いつもの居酒屋のいつもの席に向かった。




「部長、早いですね」

「まぁな。それよりも飲むぞ!」


 席に着いた瞬間にウーロンハイが届いた。


「今日は奢りだ! いっぱい食え! 飲め!」

「ありがとうございます!!」


 実は入社して一番最初に仲良くなった先輩でもあり、新任指導もしてくたり、唯一の味方でいてくれたりと本当に良い先輩でいたのだ。


「ホント、まさか新任指導の担当が仕事ほっぽり出してるとは思わなかったけど……まぁ君が常識人で吸収の早い人で助かったよ……」

「……え? そうだったんですか!? どうりで最初の三日間誰も何も教えてくれないと思いましたよ……」




  宴もたけなわ。楽しい時間も終わりに向かう。


  帰り道、酔った部長を家に送り届ける。


「しごときまったらぁ、またぁのみいくぞぉ!」

「はい! その時までのお楽しみです」

「あ、あなた! もう! こんなになるまで酔っぱらって……すみませんね、わざわざ」

「いえ、いつもすごくよくさせてもらってるので!」

「あ!ももちゃーん!!」


 部長は奥さんに抱き付いた。


「キャッ! もう、危ないでしょ! もう」


 とても嬉しそうに注意していた。


(仲良し夫婦良いなぁ……)


「じゃあ、すいません。僕はここで」

「はい! ありがとうございますね!」


  家に帰る。

 とても静かだ。

 シャワーを浴び、作り置きしたカレーを食べながら、大手動画投稿サイトで推しだった人の生放送を見る。


 久しぶりに見れた推しは見たことない同業者と楽しそうにコラボしていた。


(そりゃ、1年経てば変わるよなぁ……)


 別に休日が無かったわけではない。


 親の元に行ったり、書類仕事をこなしていたりしただけだ。


 親には「結婚も考えなさい」なんて言われてしまったが、できたら苦労しないのだ。


(それもこれも転職先次第……か?)


 世間は結婚氷河期で、少子化も日に日に加速している。


 そんな中でも、充の高校時代までの仲の良い友達は6人中6人結婚したらしい。


 元野球部の充は嫉妬される側から嫉妬する側にシフトチェンジしたのだ。


 ……なお野球部時代から闇属性のような充は片想いはせども、春が来ることは一切なかったが。


 女性嫌いの激しい桜城(さくらぎ)という男も結婚したのは驚きだった。


 応援していた女性漫画家が希望通りの男性と結婚したらしいことも聞いた。


(……まぁ、僕には関係ない話なんだろうな)


 知らない話が画面の向こうからとめどなく溢れてくる。


(……まぁいいや)


  パソコンの電源を落とし、布団に入る。


  うさぎのぬいぐるみを抱いて眠る彼に明日の予測などできなかった。


 ---------------------------------------------------------------


  とある世界のある国のそこそこ大きい敷地に建つ学校。


 正門は王城に繋がり、反対側は森に面する。


 そこは『アルベルト皇軍学校』という、未来の軍人を育成する学校だった。


『アルベルト王国』にあるこの学校は国王陛下自ら理事長となっている。


 冒険者、騎士、軍人志望の若者が日々切磋琢磨したりしなかったりしている。


 この学校では生徒の士気を保つために、二年に一回成績が悪い生徒に『転生の儀』つまるところ、転生をさせられることになっている。


 この儀式に掛けられると、元の身体は消滅し、魂が他の誰かの身体に憑依(ひょうい)する仕組みになっている。


 そして、今年も一人『転生の儀』に掛けられる人物がいた。


 壇上に上がった彼、クロム・マンガンは観客から雨のように暴言を浴びせられた。


 実力主義のこの学校では強きものが弱きものをいじめることを黙認していた。


 それは生徒同士だけでなく、教師が生徒に差別的に接することも多々あった。


 例年、この儀式はこのように暴言を浴びせられて、()り行われるのが常だった。


  儀式に掛けられる生徒は、暴れたり、泣いたり、親への感謝を口にしたり、逆に暴言を吐いたりなど様々な様子らしい。


 担当教員は不安2期待8で儀式に挑んでいたりする。


  クロムは周りに一礼、担当教員に一礼をし、魔法陣の中心に自分の体の重心を預け、目を閉じた。


 教員が魔力を込めると魔法陣から光が出て、次第にクロムを包む。


 目を閉じて暗転していくさなか、最後に届いた声は「今年は平和だったな」という間の抜けた声だった。

ここでは用語の解説とかできると良いなと思います。

次の話に進んでいただいても何も問題ありません。


博士号:大学院の後期課程を修めると貰える奴。一般に5年以上取得にかかる。持ってるとすごい。

RTA:リアルタイムアタックの略。ゲームの遊び方の一種。いかに早くイベントを終わらせるかを競う。

大手動画投稿サイト:Y〇utubeを想定している。

応援していた女性漫画家:とても美人で才能にあふれている。結婚5か条なんて言っているが決して淫夢なんて知らないだろう。という人がモデルです。誰なんでしょう?

『転生の儀』:中2、高1の終わりに行う。成績が悪い生徒を対象に各学年1人が対象。魔法を使って執り行われる。


鉛沢充

29歳男性。

一般企業に勤めていて、よく仕事を押し付けられている。理学の博士号を持つ社会人2年目。リストラされてしまったが、今回の物語の主人公らしい。


クロム・マンガン

14歳男性。

アルベルト皇軍学校中等部所属で当代の序列最下位。『転生の儀』を掛けられてしまったが……

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