あたしの兄貴はTS錬金悪役令嬢
なろう内で別の作者様の、とある作品の感想欄でポロっと漏らした電波のひとつを発信。
ちなみに主人公から出るブレブレな兄の呼び方は、あえてブレさせております。乙女心とやらをそれで表現できていればなぁ~と狙ってみたのです。
外からはスズメのような姿をしている、可愛らしい鳥の鳴き声が響いてくる。と共に1日の始まりを爽やかに始めようとする朝の日差しも、カーテンの隙間からオハヨウゴザイマスしてくる。
「…………」
「……むふっ……まだ喰えるぜぇ」
そんなとても気持ちの良さそうな朝だけど、寝ているベッドから体を起こしたあたしは、とても混乱していた。
頭がグチャグチャするのだ。考え事を放棄したいぐらいに。
とりあえず現在の回想だ。どうしてこうなった……なんてぐるぐるしてる場合でもない。
□
あたしはいわゆる転生者。前世、流れで馬鹿兄の世話ばかりする人生を送り、天下の往来でもボンヤリ考え事をしてる馬鹿兄の世話を焼いていたら、何か車っぽいのに二人まとめてドカン。
気付けば前世やっていたファンタジー系乙女ゲームのヒロインの親友役“イモーティア子爵令嬢”に転生していた。
顔はかなり地味で、周囲に良く溶け込む平凡級。でも実は本気を出すと光る容姿をもつ、メカクレ系地味っ子の一種。
遺してきた両親や弟の事が心配になるものの、馬鹿兄の世話をしなくて良いんだと軽く浮かれながら成長し、運命のごとく乙女ゲームの舞台になる学園へ。
そのままヒロインと知り合って、ヒロインのサポートをさりげなくこなす日々。
そうしていたら出てくるのは、ヒロインの壁こと悪役令嬢の“アニキス侯爵令嬢”である。
だがそのアニキス様、どうも動きが怪しい。ゲーム通りじゃなく、ヒロインに婚約者を譲るような動きをなさるのだ。
そうなればピンと来るのがお仲間さん疑惑。
向こうも何かを感じていたのか、アッサリ接触に成功。
丁度翌日が休みだった事もあり会談場所を、泊まり込み予定でアニキス様の私室に移して、話し合って分かったのが。
「「兄貴(お前)の猫かぶり、スゲーな!」」
……アニキス様は馬鹿兄でした。っつーかなんだよ、あたしはイモーティアで馬鹿兄はアニキスって。ゲームのデフォルトネームなのは分かってるけど、酷いダジャレになってて笑えねーよ!
兄貴にもこのゲームを押し付けてやらせた事があったから、事情を察しているみたいで。
「この世界は錬金術が有るだろ?前世で研究者やってたし、錬金術の研究が面白過ぎて、学園へ来るのすら渋ったぞ」
そう、この馬鹿は研究馬鹿。前世の会社で、入社して研究室に入ったら丸々2ヶ月退社しないからどうにかしてくれ、と会社から家族に相談されるレベル。
それで助手……と言うか監視役みたいなものとして、馬鹿兄の会社へあたしが転職。その結果が二人仲良く転生。ふざけんなこら、あたしの前世は馬鹿兄に振り回されて終わったんだぞ。
……と、そんな愚痴は後にして。
「って事はだ、兄貴はゲーム中に出てきた錬金術に関係する物は、全部作ったの?」
「勿論。そんなの学園へ入る前に全部作って、改良品も幾つか作った」
さすが研究馬鹿。
「ヒロインと兄貴の婚約者様を酷いパニックにブチ込んだアレも?」
「そりゃあ。女に生まれちまった元男としては、あの薬は目標になるからな」
「ヒロインが1週間位男になる錬金薬なんて、シナリオライターも酷い発想したもんだわ」
「そのお陰で、俺が男に戻れる希望を持てたんだ。感謝だよ」
そう。性転換薬だ。
「アニキス製だとゲームでも分かってて、キャラ紹介にも錬金術の天才!って書いてあったからさ。それはもう頑張って研究した」
「研究馬鹿は死んでも治らなかったか」
皮肉もまぜて言ってみたが、言われた馬鹿兄はドヤ顔で無駄にある胸まで張る。けっ。
「褒めてくれ。効果の有効期間の調整だけじゃなく、なんと両性になれる物まで創れた!」
「馬鹿もここまで極まったか」
「ははは、まだまだ極めてないさ。だがコレで色々、世界が変わるぞ?」
ドヤ顔は止まらない。
「色々って何だよ、ここで兄貴がその変わった世界を見せるって言うの?」
このドヤ顔がウザいから、ちょっと喧嘩腰な売り言葉を言った。……言ってしまった。
すると馬鹿兄の目がギラリと光る。
「うむ!姿形が変わるのは確認している。だが男性機能がキチンと働くかはまだ確認していないのだ、一緒に実験しよう!」
ズズイと、下手に動いたらキスするんじゃないかって距離まで、ビビるあたしに気付かないクソ兄貴が迫る。
その迫ってくる顔は記憶の中の兄貴ではなく、ゲームでのドリルでは無く綺麗なブロンドのロングストレートの髪と碧眼。切れ長の涼しい目元と、透き通った白い肌に整った顔立ち。同性でもドキドキしてしまう。
――いやいや、こんな所でビビっておかしくなってる場合じゃない。この流れはヤバいのだ。前世からこの流れのまま流されて、良い思い出なんて一個もないのだ。
「なんでそれの手伝いを、あたしがやらなきゃならないのよ!」
まずった!これ前世からやって来たお決まりのセリフだった!!このままではまた流される!
心の中で汗をかくあたしに対して、なんか凄絶な破壊力を持つ笑みが浮かび上がってくる大馬鹿。
…………ああもう!目の前でスッゴく嬉しそうにしてる美人のせいで、ドキドキが酷くなってくる!落ち着けあたし!!無理なの、あたし!!?
「愛する家族だからこそ、頼める。信頼の無い相手にこんな事は頼める訳無いだろ」
「…………(こくり)」
これだよ。歯が浮きそうなこのセリフに、熱く求められるセリフに。いつも負けるんだよ、くそぅ。
しかも今世じゃ超美形。こんなのに真剣に口説かれてみなさい、勝てる奴なんて居ると思う?
■
長い回想を終え、両手で頭を抱える。抱えてもぐるぐるは止まらない。着ていた物が部屋に散らばっていても、それどころじゃない。顔が真っ赤で何でも良いから叫びだしたくもあるが、今は叫んでいる場合じゃない。
どうしてこうなった。どうしてこうなった。ドウシテコウナッタ……。いや、そんなのは言い訳だ分かってる。
「流されてヤっちゃった……兄妹(前世)でヤっちゃった」
しかもなんか「こんな事もあろうかと」とか言いながら、錬金術で作った道具を沢山出してきたりして。
かなり盛り上がったのだ。両性なんてキワモノだと思ってた。
「男のヒトって、あんな感じだったんだ……」
両方の性を同時に体感するのは壮絶だった。前世今世2つの人生で始めてがコレって、絶対アリエナイ。
そして男のヒトと言えば……と馬鹿兄を見るが。
「……酒が足りん、もっとくれぇ………」
ていっ。ペチンとおでこにチョップを当てるが、目覚める様子はない。
「どーすんのよコレ」
……まあ、まず着る物を着てからか?
あの少し後に起きてきた馬鹿兄貴と今後の話をしたが。
「責任はちゃんととるさ!」
自身の婚約者殿をヒロインに押し付ける気満々。あたしも役回り上そのつもりでいるから、協力してやれるけど……。
「まあ一度男になって女へ戻る際に、一緒に修復される事も確認済みだから、姦通してしまった心配は気にするな!」
――――グーパンした事は許されると思う。
この後に兄貴の家族と朝食を摂ったが、夜に何をヤっていたかはモロバレだったらしい。
朝食後に家族会議を開いたが、むしろ喜ばれた。
「男女の概念が無くなる世が来る、その象徴にお前達がなるんだ!」みたいなのを興奮気味に語られ、侯爵家は全員乗り気。
ぽつりと「基礎的な教育以外、趣味ばかりに傾倒している娘の将来が心配だったが、手綱を握れる……よくできた相手が居るなら、そっちとくっ付けた方が良いに決まってる」とか呟かれた気もするが、そんなものはキコエナイ。
と、そんな経緯もあってここであたしは今世でも、兄貴の世話係から逃げられなくなった。
しかも婚約解消計画はあたしの家も協力する事になった。
兄貴の婚約者は第二王子。ヒロインを徹底的にけしかけて、ラブラブになったのを見計らって婚約解消の打診。経緯と事情の説明。経緯となれば、避けて通れないあの薬の効果も併せて開示。
少しは何か有るんじゃないかと警戒していたが、あっさり承諾されたのには拍子抜けだった。
だが殿下も中々に強か。婚約関係の話は学園の卒業イベントの際に発表するまで伏せろ、あたしと兄貴の婚約の後ろ楯もしてやると。
その時に性転換薬の価値を始めに見出だしたのは私にして欲しいと。そうすれば先見の明がある有能な人物として、今の王太子を出し抜いて王になれたり、歴史に名を遺せるかもしれないと。
解消を持ち出したのはこちらからである以上、その負い目から断れる立場ではないあたし達だった。
ーーーー後の歴史書は記す。性別と言う概念を吹き飛ばし、世界の有り様を変えた偉大な錬金術士と、それを支えた伴侶の名前を。
そして、その錬金術士の産み出した物の価値を認め、広めた“性倒錯王”の名前を。
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以下は、服を着ている又は兄に着せている辺りのイモーティアの、力ずくで隠した心情
結局あたしは言い訳ばっかだ。
2つの人生含めて、あたしを真剣に見つめて求めてくるヒトなんて一人だけ、馬鹿兄貴のみ。
お互いがどんな関係になろうとも、この強く求められると言う行動に無上の喜びを感じてしまうのは変えられない性分だ。
だからあたしはコイツのお願いに流される。嬉しくて、応えてあげたくなる。
でも、それを素直に見せたら馬鹿は付け上がる。
だからあたしは被害者ぶる。本当はむしろもっと頼ってって言いたいけど。
この気持ちは、あの大馬鹿には、絶対に見せてあげないんだから。
※表情で、態度で、本人は隠しているつもりでも、実は兄にバレてます。モロモロでバレバレなんです。だから研究(好きな事)ばっかり、なんの心配もせずやってしまう馬鹿が育ったのです。