1話目①
「…えーと、これは一体、どういうことなんだ?」
とある青年の一言が沈黙を破いた。
周りには家具と段ボールと本しかいない。
部屋の中には人……と人に見えて人ならざる者が向かい合っていた。
「……まあ、説明しにくいならゆっくりでいいからさあ…」
青年は明らかに不穏と焦燥感を混ぜ合わせた表情をしているが、初めて会った時みたいに優しく声を掛ける。
少しずつ、怖がらせないように。
今、怖がっているのは自分なのに。
それに対し、人ならざる者は俯き相変わらず沈黙を貫いている。
「ひ、人には誰しも秘密ってあるしさ…ね…ハハ……」
ありきたりな言葉をかけては、チラッと足元を見た。
大きさは顔ほどのプラスチックバッグ、切り口からは酸素に晒されて変色した液体がフローリングを赤黒く染めていた。
噎せかえるような鉄の匂いは今もなお、部屋を侵食している。
流石にこのままだといつか他の部屋にもここの異常が知れ渡るだろう。
「とっ、とりあえず!!これどうにかしよう!新しい教科書も汚れちゃうだろうし!!荷物整理しとくから雑巾もってきてもらっていい…?」
あからさまに明るく振る舞おうとして裏返った声が部屋に反響した。
人ならざる者は「ハイ」と聞き取れるか聞き取れないかくらいの声で部屋から出ていった。
小さく手をふる青年は先ほど部屋に入ってきたときのことを後悔した。
ちゃんとノックすればよかった。
入る前にちゃんと声かければよかった。
そして何より
「さっきの叫び声びっくりさせちゃったよなあ…」
大きくため息をついた。
違う、そこじゃないぞ青年。