40.発散、ですっ♪
さぁ久々に行きましょう、エリン無双回です!!(盛大なネタバレ)
まぁ、と言ってもちょっとしたイベントなのでさっさと終わらせていきたい所ですな。うむ。
あ、因みに作者は自分のペンネームを和名に変えたくて奮闘中なので、アドバイスくれると嬉しかったり~( ̄▽ ̄)笑
「悲鳴!? 警備はどうなっている!!」
「イルミナ様っ、地面から屍人が沸き上がってきていますっ!!」
「グールだとっ!? ……総隊、対悪霊用武器に切り替え、迎え撃てっ!!」
「はっ!!」
街中の至る所で上がる悲鳴や絶叫に負けない程の大声で、イルミナが的確な指示を送っていく。
逃げ惑う者を安全な場所に避難誘導する者、行動が間に合わず敵の餌食になる者、独自に対処する者……警備隊の行動が少し遅れたせいか、一瞬にして会場周辺は血肉に塗れてしまう。
「うわ……ひでぇ……」
冷涼な風に運ばれてくる血生臭いニオイに、蒼汰は鼻を手で覆ってしまう。しかし、その程度では既にこびり付いた臭いを誤魔化せる訳も無く、彼の表情はみるみる青ざめていく。
過去のギースの一件以来、こういった血みどろの光景を見る機会がそう無かったため、蒼汰にはまるで耐性が無かった。彼の元いた世界を基準にして考えればそれは普通なのだろうが、今いるのはそんな生易しい世界ではない。
「……大丈夫ですか、旦那様っ?」
「え、エリン……」
目の前の惨状から目を背ける蒼汰に、隣からエリンが声を掛ける。
心配してくれているのだろう、余り心配させたくないなと出来るだけ顔を作って振り向く蒼汰だったが、そんな彼が見たエリンの顔は膨れ上がっていた。
「え、エリン……?」
「む~っ、折角の晴れ舞台が台無しですっ!!
私は、私は今物凄くお怒りですっ!!」
「お、おう……それは見ればわかるかな、うん」
「旦那様っ!! 私、さっさと殲滅してやりたいですっ!!
あんな死体モドキ、存在ごと消して秒殺です秒殺っ!!」
「うんちょっと落ち着こうか!?
エリンみたいな美少女からそんな野蛮な言葉は聞きたくないかな!?」
どうやら彼女の頭の中は授与式を妨げられた事への怒りで満ち溢れていたらしく、玩具を取り上げられた子供のような怒り方をしていた。その光景に、蒼汰は思わず笑みがこぼれてしまう。
ふと、彼は先程までの異臭を感じない事に気が付いた。それどころか、風向きが変わっていた。
「……もしかして、エリンがやってくれたのか?」
一瞬にして風向きが変わるとは思えない、そうなればこのような超常現象的な事を起こせる者など、彼女以外に想像し難い話である。
蒼汰がそう尋ねると、エリンは優しく微笑み返し人々を襲うモンスター達の方に目を向け、不思議な事を呟き始めた。
「……眺めて楽しむなんて、悪趣味にも程がありますっ」
「え?」
「旦那様っ、この事態は誰かが意図的に起こしたものだと思いますっ。
しかも、自分の快楽のためだけにっ!!」
「そっ、それは本当か!?
というか良く分かったな!?」
「魔法で姿を隠しているみたいですけど、恐らく魔族で死霊使いだと思いますっ」
「そ、それは────」
「ソータ君ッ!!」
建物の先を睨み付けるエリンが告げる事実に冷や汗が止まらない蒼汰に、前線で指揮を執っていたイルミナが近付いて来る。その表情は険しくも少し俯きがちだった。
「……こんな事態になってしまって申し訳ないと思っているよ。
折角の授与式が、これでは台無しだ」
「いえ、そんな事よりも状況はどうなっているんですか!?」
「被害は甚大だ、周辺を警備していた者に討伐に当たらせているが……予想外の事態になって来た」
「ど、どういうことですか?」
「グールやスケルトンのような下級アンデッドだけでなく、リッチやリビングデッドのような中級アンデッドまで湧き始めている。装備の整っていない状態では、さすがにこちらに分が悪すぎると言う訳だ」
「それって結構マズいんじゃ……」
「ああ、マズい。今中級アンデッドを倒せる装備を取りに行って貰っているが、その間をどれだけ最小限の犠牲で凌げるか……」
「…………」
今出来る最善を尽くしても尚、犠牲が出る可能性を排除出来ないでいる事に歯軋りするイルミナ。国の代表がここまで苦悶の表情を浮かべなければならない程、状況は最悪だという事はただの一般人の蒼汰でも悟ることが出来る。
話は変わるが、ダンジョンマスターである以上余り目立つ行動をするのは極力避けるべきである。その事は蒼汰も重々承知しているし、同じ事が世界最強レベルのエリンにも言える。
しかし蒼汰は、蒼汰の中にある正義は、こう考えていた────この状況を打破できるのは自分達だけなのでは、と。
「……一つ、提案というか交渉なんですが」
「何だい?」
「俺達ならこの状況を打開できます。ただ、その代わりその方法については触れないで下さい」
「むぅ……」
幸い、周囲には蒼汰達三人以外に人影はない。街中に出没しているモンスターの対処や避難やらで、既に人が移動を終えた後だった。つまりは騒ぎを起こしたとしても誰の仕業かは特定され難いという事である。
提示された条件に唸るイルミナ。平民から成り上がったばかりの貴族に何とか出来るような問題ではない、そう考えたのだ。
しかし、彼の知る由のない事だが、そんな常識がこの二人に通用するはずがない。その事を知らずとも、彼は渋々首を縦に振った。背に腹は代えられなかった。
「何をするかは分からないが、条件を呑もう。
ただし、危険だと思ったらすぐに避難する様に」
「はい、分かりました。
……ってな訳で好きに暴れて良い許可は出たぞ、エリン」
「ありがとうございますっ♪
────では、少し本気で殲滅させて貰いますっ」
蒼汰の言葉にそう返事したエリンはパンッ、と胸の前で手のひらを合わせる。直後、彼女の足元に白色の魔法陣が展開されていく。
魔法陣の色は使用される魔法の属性を表す。赤は火属性、青は水属性……といった具合に。そして、彼女の使用した白色の魔法陣は聖属性、所謂光属性の魔法を使用した事を表していた。
魔法陣に効率良く魔力を送る為、目を閉じて意識を集中していたエリンだったが、その状態のまま蒼汰に話しかける。
「旦那様っ、殲滅する際にモンスターは残した方が良いですかっ?
私としては完膚なきまでに消し去りたいんですけどっ!!」
「お、落ち着けって……どうなんですか、イルミナさん?」
「そうだね、原因究明の為にもその選択肢があるのなら是非お願いしたい所だね。……そんな事が可能なのかい?」
「出来ますよっ……では、いきますっ!!」
尋常ではない大きさに広がった魔法陣が徐々に光を放っていく。魔法発動直前のモーションなのだが、それにしては随分と華やかな光景である。
彼女の使用する魔法は大きく分けて二つ、”通常の魔法”か”それ以外”かである。
通常の魔法というのは、火魔法や水魔法などの属性魔法に加え、付与魔法や回復魔法などの補助系魔法といった、習得方法のある魔法の事で、これは詠唱破棄というスキルによって言葉の詠唱をせずに発動が可能になる。
対して、彼女が使用可能な古代魔法や、精霊魔法、龍魔法などの、先の通常の魔法に入らないそれ以外は、詠唱破棄が出来ない代わりに非常に強力な威力を発揮する。
今回エリンが使用したのは前者で、魔法発動中に蒼汰と短い会話が出来たのはこの詠唱破棄を行ったからである。
「────”セイクリッド・シャワー”!!」
「なっ!?」
彼女が魔法名を発したと同時に、足元の魔法陣が空へと飛んで行き、それは街全体を覆い尽くすまでに拡大していく。そして────文字通り光の雨が至る所へと降り注ぎはじめた。
雨、というより厳密には光の矢に近いそれは、無差別に撒き散らされ、人々やモンスターに突き刺さっていく。
人に当たって大丈夫なのかと思うが、この魔法は光の雨に触れた者が味方なら傷の回復を、敵なら聖属性の浄化魔法(高威力)をそれぞれ与えられるという、至れり尽くせりの魔法だった。
「グガァァァァァァ────」
「き、傷が癒えてる!? それにグール達が次々に倒されていく、だと……!?」
「奇跡よ!! これこそ天の恵みなのよ!!」
「おぉ神よ!! 貴方は私達を見捨てなかったのですね!!」
当然だがこの状況の発端を知らない人々からすれば、まさに天からの裁きの光が降り注ぐように見えるのだろう。しかし、その実態はただの美少女妖精が放った魔法に過ぎないのだが。
「久々にスッキリする魔法を放てましたっ!!
見てましたかっ、旦那様っ!!」
「お、おう……」
「……エルフがこれ程の魔法を放てるなど、前代未聞なんだが……」
ゆっくりと魔法陣を霧散させ、清々しい程の笑顔を見せるエリン。その眩しさに隠されてしまいそうになる彼女の絶対的強者さに、蒼汰は「何があっても彼女を怒らせてはいけない」と心に誓うのだった。
偶に見せる美女エリンも、普段の美少女エリンも、どちらも捨てがたいなぁ……可愛い。うん、可愛い。
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