39.いよいよ授与式、ですっ♪
タイトル通りですが、私は貴族の爵位授与の手順などまるで無知ですのでかなり独自に進めております。
そう言った歴史学が大好きなお方には違和感があるかも知れませんが、作者から言えることは一つです。
……許してつかぁさい(^-^;
ガーランドに授与式の日程を告げられてからあっという間に五日が経過し、いよいよ授与式を迎える事になった朝。清々しい陽光が差し込む寝室で蒼汰達は、というと──
「エリン!! 授与式って何時からだっけ!?」
「えっと、九時からですっ!!」
「今何時!?」
「八時五十分ですっ!!」
「遅刻じゃねーかっ!! どうして起こしてくれなかったんだ!?」
「だ、だって旦那様の寝顔が気持ち良さそうだったんですっ!!
起こせる訳無いじゃないですかっ!!」
「何だその理不尽な理由はっ!?
──ってかそんな事言ってる場合じゃねぇ!! 急いで着替えて出発するぞっ!!」
「あっ、私は着替えていますよ旦那様っ」
「見たらわかるわコンチキショーッ!!」
──とまぁ、何とも緩い感じの朝を送っていた。
ベッドから飛び起き、無理やり目をこじ開けて洗面台に立った後、エリンに手渡された正装に袖を通していく。
ツーベル国がある地域は比較的温暖な気候で、かつ冷涼な東風がよく吹くため、少し厚手の記事を使用した正装であっても汗をかく事は無い。寧ろ薄着では肌寒く感じるので、正装ぐらいの厚着が丁度良いのかも知れない。
エリンに手伝って貰いつつ、全ての支度を終えた蒼汰が時計を見た頃には、既に九時を回っていた。
「はい遅刻確定。どうすんだよ……」
「旦那様旦那様っ、私に一つ案がありますっ」
「案?」
「はいっ、なのでこっちに寄って下さいっ」
良策があると手招きするエリンの元に素直に近寄る蒼汰。するとすかさず彼の肩に手を置き、彼には分からない言葉で詠唱を始めた。
「──光と影を用いて、時の狭間を生み出せ。”テレポート”」
「えっ、て、テレポートって────」
どこか覚えのある名前を耳にした蒼汰は、無抵抗のうちに視界を白で塗り潰されてしまう。
彼の声が聞こえなくなった頃には、部屋はまるでそこに誰も居なかったような静けさを取り戻していた。
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「……で、寝坊したから転移魔法で直接広場までやって来た、と?」
「ええ、まぁそうなりますね。はは……」
「バカ野郎ッ!! 幾ら古代魔法が使えるからって遅刻して良い事にはならないだろうがっ!!」
周囲に鳴り響く程の一喝。雷に打たれたかのような衝撃に周りの者達がざわつく中、ガーランドは目の前でバツの悪そうな顔をする二人を睨んでいた。
エリンが使った魔法は”テレポート”という、いわゆる転移魔法と呼ばれる古代魔法の一種である。時間軸を無視した瞬間移動という常識を逸した魔法から古代魔法の中でも特に有名であり、子供ですら知識を得ている。
その転移魔法で二人が転移したのは、授与式が行われる広場のステージの裏手に作られた仮設テントの中。ただ、運の悪い事に二人が転移したのは二人の遅刻にイラつくガーランドの前だった。
「ったく、何でこんなめでたい日に怒鳴らないといけないんだ……」
「す、すいません……」
「まあいい。偉いさん達を待たせているんだ、すぐに壇上に上がってくれ」
ガーランドのその言葉を聞いた途端、傍で控えていた職員がテントから出て行く。それを目で追った後、ガーランドは二人に尋ねた。
「二人共、授与式の手筈は憶えているな?」
授与式の手順は、ツーベル国代表の元まで歩いていく、司会の進行で代表が授与の言葉を演説し、代表から爵位授与の証として家紋の刻まれた旗を手渡され、集った群衆相手に貴族として公約を宣言する。これが終われば授与式は終了、二人は再び仮設テントの中に戻って来る。
予め教えられていた手順を頭の中で反芻した蒼汰は、自分の左腕に温かい感触を感じ取った。エリンの右手が絡んでいた。
「旦那様っ、頑張りましょうっ」
「恥ずかしいからドジだけはしたくないなぁ……
エリンは緊張してないのか?」
「旦那様がいれば大丈夫ですっ♪」
「そ、そうか……」
彼女らしい回答に苦笑する蒼汰だったが、ほんの少しだけ肩の力が緩んだように思えた。
一度、二度と深呼吸をしている間に、ガーランドが捲り上げる幕の先から大量の光が入り込んで来る。蒼汰にとって二度とない晴れ舞台かもしれない会場からの、大勢の人々の声も一緒に流れ込んで来た。
「観客もお待ちかねだ、ほらとっとと行ってこい」
「すぅーはぁー、すぅーはぁー……よし、行こうかエリン」
「はいっ♪」
意を決した蒼汰は、隣にいるエリンと合わせるようにして、ぎこちない一歩を踏み出した。
舞台裏の仮設テントから、目的地である代表の前まではレッドカーペットが敷いていある為、未知を間違える事は無い。しかし、だからといって障害がない訳では無い。
「……あっ!! 新しい貴族様が出て来たぞっ!!」
「隣を歩いてるのは奥様よね? すっごい美人じゃない!?」
「夫の方は人間なんだな。ふぅん……」
「噂では男爵様らしいわよ。どうなるのかしらね?」
(ヤバいヤバいヤバいッ!! 他人の視線を浴びるように感じるなんて一体何年ぶりだよ……
って言うか緊張がぁぁっ!!)
前を見ても衆人、横を見ても衆人、後ろにも衆人と、四方のどこに目を向けても人だかりが飛び込んでくるような状況に、蒼汰は結構やられていた。そのせいか、エリンとの歩幅が少しずれてしまう。そんな状況が人々の目にどう映るかなどは自明の理である。
「なぁ……なんか男爵様の動き変じゃないか?」
「少しもたついているというか、何と言うか……」
「もしかして緊張してるんじゃないか?」
「嘘だろ? 大丈夫かよおい……」
(っ~~~~!! やってしまったやってしまったぁぁぁぁっ!!
どうする!? ま、まずは足並みをそろえて、それから、それから──)
目に見て分かる程の動揺、混乱に冷静な対応が出来なくなってしまう蒼汰。衆人のざわめきが大きくなる度に彼の鼓動は大きく跳ね、それが脳内を掻き乱していた。
だが、一番恐れていたことが起こりそうになるその時。蒼汰の耳元で凛とした声が囁かれた。
「……落ち着いて。視線は人の髪の毛とおでこの間ぐらいに。足は見ないで自分の思うペースで歩いて。私が合わせます」
「え、エリン……?」
隣からハッキリと聞こえて来た落ち着いた声に、蒼汰はつい顔を向けそうになる。しかし、それも同じ質の声で宥められる。
「ダメです。今だけは、前だけを見つめていて下さい」
「……わ、分かった」
これ以上のミスは許されない。そう思った蒼汰は言われた通りに目を動かし、足幅を調整する。
この時、蒼汰はまるで雰囲気の違う一面を見せたエリンに戸惑っていた。しかし、顔を見れない今ではどうする事も出来ないので、こうして彼女の操り人形と化す選択肢以外存在しなかったのだ。
驚くべき事に、エリンのアドバイスが功を奏したらしく、自然と歩調が揃い堂々とした歩きになっていく。そうして、瞬く間にツーベル国代表の元まで辿りついてしまっていた。
ツーベル国の代表はクラリスと同じく人間とエルフのハーフの男性で、どこか魅惑的な雰囲気を纏っていた。それが彼の持つカリスマ性なのか、身に着けている数々の宝飾類によるものなのかは不明だが、代表を務めている以上それなりに知や力を持っている。
そんな代表による演説は淡々と行われ、その手際の良さや演説力に蒼汰が圧倒されている間に爵位授与の段取りまで進んでいた。
「……はい。ツーベル国代表イルミナ様による授与のお言葉でした。
では続きまして、代表からの家紋授与に移ります」
司会の進行に合わせ、背後で待機していた職員が綺麗に丸められた旗を代表・イルミナに献上する。それを持ったイルミナが蒼汰とエリンの前まで歩み寄って来る。
「……少しだけ家紋を見せて貰った。大々的に文字記号を取り込んだらしいが、素晴らしいアイデアだと思った」
「あ、ありがとうございます……?」
距離が縮まった途端手放しに褒められ、蒼汰は反応に困ってしまう。それを見て微笑むイルミナは視線を衆人に向ける。
「彼の者、ソータ・フェアリル=アンフィニに男爵の爵位を授与する」
イルミナがそう口にした直後、衆人のあちこちで大きな拍手が鳴り響く。それは隣へ、隣へと波紋を描くように広がっていき、いつしか拍手が会場全てを包むほどの大喝采へと成り変わっていた。
「……凄いです。こんな大勢の人に拍手されるなんて……」
ふと、蒼汰の隣でエリンが呟いた。その表情は凛々しくも、込み上げる思いを堪えようと唇が強く結ばれていた。それ程までに、この光景は彼女の心を揺らがせていた。
「ソータ君。国民や彼女の為にも、これを受け取ってくれ給え」
「……はい」
二度と浴びる事のないかもしれない拍手の雨に、名残惜しい気持ちになるのは分からないでもない。だが、蒼汰にはそれを振り切ってでも旗を受け取る義務があった。
イルギスに差し出される旗に、ゆっくりと手が伸びていく。
しかし、寝坊から始まった今日の彼は、不幸な事にとことんツイていなかった。
「────きゃあぁぁぁぁっ!?!!!?」
大喝采に劣らない強烈な悲鳴が、会場を駆け巡った。
不幸って何故か分かりませんけど連鎖しますよね(^-^;
気の持ちようだとか言われますが、絶対そんな事無いと言いたい。笑
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