38.陰に生きる者、ですっ
おっと日付を跨いでしまったか。
まあいいでしょう、取り敢えず更新です(^-^)
今回も少し短い? でも話としては進みますよ~
「「「「あははははははっ!?」」」」
「くっ……」
腹を抱えて笑いこけるギース、クラリス、オルタナ、シュラに、蒼汰は苦虫を嚙み潰したような表情になっていた。
一体何が、と思うかもしれないが、その答えは四人の視線の先にある、蒼汰の衣服にあった。
蒼汰が授与式に着ていく為の正装というのが、見た所近世ヨーロッパの貴族の格好に酷似していた。
足に張り付くような灰色のスーツパンツに白の長袖シャツ、朱のベストの上からはパンツと同じ灰色のテイルコートを着用し、首元には赤の蝶ネクタイ。整髪料でオールバックにしている事も合わせてみると、まさしくボンボンのお坊ちゃんと言った所だろうか。
「ははははっ……いや、すまない。……ふっ」
「謝る気無いだろそれ……」
「で、でもっ、お兄さんが悪いんですよっ?
いきなりそんな恰好で……ふふっ」
「愉快愉快っ!! まさかお主がこんな大道芸を持っていたとはなっ!!」
「誰が大道芸人だっ!!」
「ふふっ……あははっ!? もう笑い過ぎて死にそうなんだけどっ!!
ちょっとその正装早く脱いできなさいよっ、ついでに整髪料も落としてきて……あははっ!!」
「……オルタナ、幾ら何でも酷過ぎじゃね……?
というかお前ら、あんまり悪く言ってると────」
四人の反応に一層げんなりする蒼汰だったが、まさかここでエリンの横やりが入るとは思ってもいなかった。
「むぅっ、笑い過ぎですっ!!
──せっかく私が選んだのにっ!!」
「「「「…………えっ?」」」」
「──ほら、言わんこっちゃない」
頬を膨らませて女児みたく怒りを表すエリンのその言葉に、四人は拍子抜けしたような顔になる。その様子に、蒼汰は思わずため息を漏らしていた。
顔を真っ赤にした彼女が言ったように、蒼汰の衣装にはエリンが一枚噛んでいた。衣装屋のハイテンションな店主を言葉巧みに誘導し、自分の着せたい衣装に仕立て上げたその一連の流れは、傍で見ていた蒼汰を震撼させたとか。
さて、普段はあまり怒りという怒りを見せないエリンだが、自分より大切な蒼汰の事となれば話は別。それも、自分の選んだ服で周囲の者に笑われたとなれば、自責の念と共に周囲への攻撃的な思いが沸々と湧き上がって来てしまう。
「むぅっ、こればかりは許しませんっ!!」
「ちょ、ちょっとエリン……?」
「旦那様以外、今晩のおかずは抜きですっ!!」
「「「「そんなぁ!?」」」」
……罰にしては優しい、と思われるかもしれないが、家事スキル最大という世界一の料理の腕前を持つエリンの、それも腕によりを掛けた夕食のおかずを抜かれるというのは、ものの数日で骨抜きにされている四人にとっては苦痛以外の何者でもなかった。
「あ、あんまりだ……」
「ひ、酷いです……」
「何故じゃ、何故我がこんなことに……」
「客人に対する扱いじゃない……」
「四人とも騒がしいですっ。
それとも……明日もおかず抜きですかっ?」
「「「「すいませんでした」」」」
(……エリンだけは絶対怒らせないようにしよう)
その日の夜、大量のパンだけしか配膳されなかった四人の悲鳴にならない声が止まる事は無かった。
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世間一般で言われる”極悪”というものは、大抵が人目につかない所で暗躍する。理由は明白、彼らが行うものはいつだって非道で、猟奇的で、異質で、残虐的だからだ。
しかし、彼らだって理由なく行動を起こす訳では無い。ある者は知に対する欲求の為、ある者は愛する者の為、またある者は世界の為だと主張する。
どこか日の当たらない空間の端で、椅子に腰掛けた男は深い溜息を落とした。
「はぁ……素材が足りない。まだ試していない事が山ほどあるというのに」
「くくくっ、ならば何時もの様に買収して来ればいいもンを」
「……いたのか。いや、いつでもいるんだったな」
周囲に彼以外の人影は見当たらない、しかし確かにその空間には二人分の声が響く。その不自然な状況下で、男はさもそれが当然であるかの様に話を続ける。
「それが、買収は少し先になるそうだ。
……近々授与式が行われるらしい。全く、こちらからすれば迷惑な話だ」
「あー、ユーフラストの席が空いたもンな。もう代わりの人間が見つかったノか?」
「上流階級の間ではその話で持ちきりだから、まず間違いないと思う。
……それも、ギルドが推薦した奴らしい」
「うわー、それは面倒なやつだナ。今の内に芽を摘んでおかないと、いつか絶対障害になるぞ?」
「分かっている、けど今動くのは愚策にも程があるだろ?
何か策でもあるのか?」
男のその言葉に返事はなかった。だが、長い付き合いから男には手に取るように分かっていた。声の主が、卑しい下種びた笑顔をしている事を。
乾いた空間に、椅子から立ち上がる音が響く。カツン、カツンと足音を鳴らし、男はその場から遠ざかろうとする。
「おい」
「分かっている。お前と交わした契約には、お前の言動に制限を掛けた物は無いからな、好きにしろ。
……ただし、絶対俺とお前の関係を悟られるなよ?」
「へいへい、分かってるよ。てか俺がそんなヘマやらかすかよ」
「分かっているならいい。俺に迷惑を掛けない範囲なら思う存分掻き回してくれ」
「ああ。その代わり」
「いつもの、だろ。一番左の金庫を開けておくから、好きに持って行け」
「ひひっ、気前がいいねェ。やっぱりアンタと組んで良かったよ」
嫌に甲高い笑い声が男の顔を歪ませる。
声の主とはあくまでも契約上の関係、その為男は表面上対等に接していても、心の奥底では酷く毛嫌いしていた。元より、心から分かり合える存在としては見ていなかった。
男は止まっていた足を再び動かし始める。その先がどこに向かっているのか、暗闇の中では彼にも分からない。
ただ、彼の脳の中を支配していたのは、自分がこれからすべき事と、背中を刺す冷徹な視線だけだった。
後半の怪しげな話は一体どうなるのか……?
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