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35.お偉いさん、ですっ♪

今回は少し短いかも?






「……ってな訳で、お前さんには貴族に名を連ねて欲しいんだ」


「「はい!?」」




 昼下がり、ギルドに呼び出されたとギースに言われた蒼汰は、二人でギルド協会を訪れていた。そして、ギルド長室で待っていたガーランドの開口一番がこれだった。




「い、いやいや。色々説明を省き過ぎじゃないですか!?」


「おっとすまないな。ついいつもの癖が出てしまった」




 はは、と豪快に笑い飛ばすガーランド。そんな彼が二人に伝えようとしたのは、例のユーフラスト家絡みの内容だった。




「有力なユーフラスト家が正式に処罰された事で、貴族側の地位が弱まってしまってな。代替、と言う訳じゃないんだがそれなりに名の売れて財力、腕力に定評のある者を貴族に押し上げよう、というのがこの国の偉いさん達が打ち立てた方針なんだわ」


「なるほど、事情は分かりました。でもどうして俺達が?」




 蒼汰の疑問は尤もで、最近国内に居を構えた者に持ち寄る話ではない。その事をギースも理解していた様で、隣で首を縦に振って同意を示している。

 しかし、彼の疑問が来るのが分かっていたかのように、ガーランドは考える素振りも無しに返答する。




「理由としてはまず、お前達の住んでいる屋敷だな。あれだけの敷地を持ってる人間が平民だってのも、変な話だろ?」


「……確かに」


「それに、そこにいるギース嬢は国民の大半に顔が売れてると来た。その主人であるお前さんが貴族になれば、国民もすんなりと受け入れてくれるだろう、ってな訳だ」


「…………」




 ガーランドの話す事柄は、そのどれもが納得のいく内容である。だが、蒼汰とギースは互いの顔を見合わせて渋い表情を浮かべていた。




「……幾つか質問が」


「おう、俺の答えられる範囲なら何でも聞いてくれ」


「まず、というか一番大事な事なんですけど、貴族になる事のメリットとデメリットは?」


「メリットはまぁ、権力だろうな。貴族限定の施設の利用だったり、ギルド協会で言えば特別な資料が見れたり、貴族御用達の商人の手配とか、そう言った類のことが出来るようになる。

デメリットは、貴族という立場だな。平民以上に納税が必要になるし、何より貴族としての立ち振る舞い、活動が必要になる」




 その回答で、二人は話の根端が見えたように感じた。何故このタイミングで貴族に名を連ねる話が来たのか、何故自分達なのか、何故その話を告げるガーランドの表情が曇っているのか(・・・・・・・)




「……本当の話を聞かせて下さいよ。何か頼み事があるんじゃないですか?」


「っ……」




 どうやら蒼汰の発言は核心を突いていたらしく、ガーランドははっと息を吞んで二人を見つめる。そして、観念したように溜息を吐きながら話し始めた。




「……分かったよ。お前さんの言う通り、受けて貰いたい依頼があるんだ」




 ガーランド曰く、依頼をこなす為の最低条件として貴族になる必要があるという。ただ、依頼の内容は内容なだけに受けると決めてからでないと話す事は出来ないようだ。

 一通り話を聞き終えた蒼汰は少し考え込み、そして、




「申し訳ないけど一晩だけ考えさせて貰えないですか?」




と答え、ギルド長室を後にするのだった。



















────────────────────






 屋敷へ戻った二人は二階の大部屋にエリン達を集め、ギルドで持ちかけられた案件を事細かに話した。




「……と言う訳で、返事だけ濁して帰って来た訳なんだけど」


「ふぅん……別に良いんじゃない?

居候の身の私が言うのも何だけど、貴方なら何とかなると思っているわ」


「随分投げやりな……」


「旦那様、私も貴族になる方が良いと思いますっ」


「……ちょっと不安ですけど、下級貴族ならお兄さんでもなれそうですね」




 オルタナやエリン、クラリスと皆が肯定する事に苦笑する蒼汰。

 元はただの一般市民である自分に貴族など務まる訳が無いだろ、と不満を吐きたくなるが、その反面期待されているという感覚が彼の頬を緩めていた。




「旦那様、どうされますかっ?

私としては旦那様がしたい事をして欲しいのですが……」


「うーん……貴族の振る舞いとか知らないしなぁ……」


「あら、その事なら心配はいらないと思うわよ?」


「ん? どういう事だ?」


「周りを見なさいよ」




 オルタナに言われ、蒼汰はぐるりと周囲を見渡す。そして、彼女の言いたい事を理解した。




「……なるほどな。クラリスとかギースとか、あとオルタナもそっち側の人間だったな」


「そう言う事。だから貴方が貴族になったとしても、それなりのフォロー体制は整っているのよ」




 彼女のその言葉に、他の者が首を縦に振る。

 元王女に王国衛兵隊長、王国お抱えの賢者と、圧倒的なまでの肩書きが揃っている事に素直に驚嘆する蒼汰は、ふっ、と短く微笑んだ直後に口角を振り切った(・・・・・)




「そうだな、せっかく貴族になるんだったら、肩書きを精一杯利用して楽しもうじゃあないかっ!!」


「おーっ、ですっ♪」


「……お願いだからトラブルだけは起こさないでくれよ」「ですね……」




 清々しい程に悪人面の蒼汰と絶対肯定するウーマンのエリンという、混ぜるな危険のタッグマッチに思わず周囲からため息が漏れ出てしまう。救いなのは、皆がこの二人に対して否定的でない事だろう。




 翌日、蒼汰はギースを連れてギルド長の元を訪れた。





貴族無双……? いやいや、そんな。アッハッハ。



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