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25.期待だけでモノを語る、ですっ♪

何度かお知らせしたかとは思いますけど、二章はメチャクチャ長くなります(^-^;

それだけ書きたい事が多いんですよ(笑)


ですので、気長にお付き合いくださいm(__)m









「おはようございます、旦那様っ♪」

「おはようアオタ殿」

「お兄さんおはようございます」


「おうおはようさん」




 何時もの様にLDKルームに集合する蒼汰は、先に来て朝食の準備を進めていた三人と挨拶を交わす。ただ、そこには一人、慣れない風景にたじろぐ者も鎮座していた。




「おはよう、シュラ」


「お、おはよう……?」


「何で疑問形なんだよ」


「し、仕方なかろう……まだこういうのに慣れておらぬのだから」


「旦那様っ、料理が出来ましたから座って下さいっ」


「ん、ああゴメンゴメン」




 僅かに頬を染めるシュラを一瞥していると両手に皿を持つエリンが着席を促す。それに従いシュラの隣に腰掛ける蒼汰は、目の前に並べられていくパンやスープを眺めながら昨夜の事を皆に語る。




「結局、予想通り襲撃があったよ」


「だろうな。奴の家はこの地域では有名な貴族だからな、大方私兵を起用してきたのだろう」


「私はその場に居なかったから良く分からないんですけど、あれだけ皆を苛立たせるなんてよっぽど悪い人だったんですね……」


「我もケーキ?とやらを食べるのに忙しかったからの。帰って来た時のお主の顔は中々に悪人面だったぞ?」


「……そんなにか?」


「お主の事を知らぬ子ならまず間違いなく泣いておったぞ」


「どれだけ怖いんだよ俺……」




 シュラの言葉に苦笑するしかなかった蒼汰は、全員分の料理が揃ったのを確認すると「いただきます」の音頭を取る。

 柔らかなパンを片手に、蒼汰が今日の予定を話していく。




「取り敢えず、外で縛られてる四人をどうするかなんだけど」


「それならギルド協会にでも連れて行けばいいのではないか?

あそこならばそう言った輩の引き取りも行ってくれるだろう」


「あー、そう言えば前貰った書類にそんな事書いてあったっけな……」




 以前サリーシャが渡した文面の中には、確かに世間におけるギルド協会の立ち位置について記されていた。曰く、「ギルド協会は外部からの脅威に対する冒険者の配属及び配属地の治安の維持を確約する」というものである。




「でもさ、その人が本当に犯罪をしたのかどうかって見分けられるのか?」


「あぁ、それも昨日聞いた話にあったぞ。

ええと、確か……そう、専用の魔法道具(マジックアイテム)があるらしい」


「へぇ……便利な物があるんだな」


「この国のギルド協会の場所は昨日の内に把握したから、私が連れて行こうか?」


「……いや、その話は一旦おいておこう。先にそれ以外の事を決めたいし」


「それ以外の事?」


「昨日、お前が言ってただろ? ”北の魔女”の話」




 昨晩、情報収集を終えたギースから知らされた”北の魔女”。その情報というのも、ツーベル国の北に広がる森林の奥深くでの目撃情報が多く、森の奥に近付こうとすると襲われるというものだった。




「確かにその話はしたが、それがどうしたというのだ?」


「いや、ちょっと気になってさ。どうしてそこまで森を守るんだろうな、って」


「言われてみれば、確かにそうですねっ。

……私も、少し気になって来ましたっ」


「それに、魔女って言う位だからきっと特殊な人なんだろ?

絶対面白い事が起きそうじゃん?」


「それが本心なのか……だからと言って、そう簡単に会えるものなのか?

昨日聞いた話によれば、以前ギルドの上位冒険者組でさえも簡単に撃退されたと聞くが……」


「そこは大丈夫だろ、だってエリンがいるんだぜ?」


「はいっ♪ 旦那様には傷一つ付けさせませんっ!!」


「思いっきり他人任せで威張らないで貰いたいな……」




 「間違ってはいないが」と、呆れつつも納得してしまう自分に苦笑いを浮かべるギース。ここまで堂々とされると、逆に反論しにくいのだろう。

 北の魔女に会うという方針で着々と話が進んで行く中、黙々と食事の手を進めていた少女の右手が小さく挙げられた。




「ん? どうしたクラリス」


「その……私も出来れば行きたいんですけど」


「全然いいけど……どうかしたのか?」




 セルスト国での一件以来、クラリスは戦闘が起こり得る外の世界へ余り行きたがらなかった為、今の発言には蒼汰も驚きを見せた。

 彼の疑問に対し、少女は俯きがちに話し始める。




「その……笑わないで下さいね?

私、森林をちゃんと見てみたいなって思って……」


「「「…………」」」




 クラリスのその言葉は、想像以上に重く深い沈黙を呼び起こした。

 生まれてからずっと王国の日の当たらない場所で身を隠していた為に生じる、常識的経験の不足。ダンジョンにある世界樹の、その付近の森林に近いモノを見たり、他国へと逃亡しようとした際にも見てはいるが、それを加味したとしてもこの世界の人としての経験の絶対量が少な過ぎる。その事が、絶句する三人(・・)の心をキリキリ締め付けた。




「だ、ダメですか?」


「……いや、ダメなんて言う訳無いだろ。寧ろ何があっても連れて行くっ!!」


「は、はぁ……」


「く、クラリスちゃんっ!! 私が全力で守りますからいっぱい森林を見て下さいねっ!!」


「そんな強気で背中を押されても……嫌です」


「そんなぁ!?」


「何を戯れているのだ……コホン。それでは、今日はその”北の魔女”がいると言われている深緑の森へ行くとして、アオタ殿とエリン、クラリス様と私と、それから……」




 そこまで言うとギースの視線は蒼汰から少し横に逸れる。その先では、こちらもまた無言で食事の手を進めていた者がいた。




「おいシュラ」


「ムグムグ……ん、何じゃ?」


「話ぐらい聞いておけよ……この後皆で魔女に会いに行くって話をしてたんだよ。

お前も来るか?」


「当然。そんな面白そうな事に我が行かぬ筈がなかろう」


「じゃあシュラ含めて五人だな……って総出じゃねーか」


「屋敷の事ならソリスに任せよう。奴が一番対人に慣れているからな。

有事の際はギルドに掛け合う様に手筈を整えておこう」


「お前、そういうのには頭回るよな?」


「サラッと酷くないか!?」


「まぁまぁ。じゃあ皆この後はそういう予定で行くから準備よろしくな?」


「「はいっ」」「ああ」「うむ」




















────────────────────────







 太陽が空高く昇り自然や街を照らす中、その陽光を浴びない薄暗い書斎で二人の男が向かい合っていた。




「……では、今から向かうのだな?」


「はい。ワイバーン二十騎に専用魔術師二十人、それと武器、火薬等は十全に揃えていますので、流石の魔女でもこれら全てを防ぐことは出来ないでしょう」


「……念の為”アレ”を持って行け」


「はっ……? そ、そこまで必要」


「二度も言わせるな、持って行け。確実に奴を仕留めて来い!!」


「は、はっ!!」




 低く、力のある怒声が室内を駆け回る。それには終始表情を崩さなかった客人の男の心は大きく揺さぶられたらしく、蟀谷(こめかみ)から頬へと汗が一筋流れていた。

 ベルグの威圧にやられ、逃げ帰る様に書斎を出て行く男。それを見送った後も扉の方に視線が向き続けていたベルグの口から漏れたのは、嘆きと焦り。




「はぁ……どうして素直に言う事が聞けんのだ。あれ程までに資金援助をしてやったというのに……

いや、本人の居ない所で愚痴る意味は無いか。

……ガルデマは、しっかりやれたのだろうか。あれから連絡はないが……」




 子を心配する親、と捉えれば良い美談だろう。だがベルグの最優先は常に自身の利益、心配なのは息子が不利益な行動を起こしていないか、という一点のみ。

 机の上で組まれた手が僅かに震える。それが歳の所為なのか悪寒の所為なのかは判別がつかなかったが、ベルグは何事も無く事が運ぶのを願うばかりだった。






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