24.分かりきった展開はご褒美タイム、ですっ♪
サブタイトル見れば気付く方も多いと思いますが、まぁその通りです。
今回はイチャイチャ回ですね、ではどうぞ(^-^)
夜。世界樹の空に広がる、宝石箱の様な空には若干見劣りするも、オルディシア大陸から見上げる景色は燦燦と輝く星々がどこまでも広がる暗闇を飾り付けていた。
そんな日本では中々お目にかかれない景色に包まれるツーベル国の一端、少し先に広がる住宅街とは明らかに規模の異なる豪勢な屋敷の裏手で蠢く影が────四つ。
「……お前達、準備は良いな?」
「「「はいっ」」」
罠探知は全て済まし、周囲に潜む人影も無く、屋敷内の人の位置まで特定し終えていた。侵入ルートも全員の頭の中に叩き込まれ、緊急時の一時避難場所も確保してある。
入念に入念を重ね、誰の目から見ても万全を期した状態まで準備を整えた四人は、隊列と無音を維持し、侵入口である木製縁の窓へと駆ける──────
「きゃあっ!?」
「のわっ!?」
「なっ!?」
「ぐぅっ!!」
────事は無かった。四人を、月光に晒された魔の手が絡め取っていたのだ。
「な、何が……」
「頭っ!! も、モンスターですっ!!」
「何ッ!?」
「……ど、ドリアード」
地面から這い出る蔦に宙吊りにされる四人の目に映るは、女性の身体に似た緑色の上半身を持ち、下半身を蕾の様な何かで覆い隠した、強さと妖艶さを兼ね備えたモンスター・”ドリアード”。
地面と体の一部である蕾を密接させている事からも、彼女が蔦を操っている事は四人共すぐに理解出来た。理解出来たが、その事と現状から脱出出来る事は全く別の話。
「くそっ!! 短剣すら通らない蔦って何なんだよっ!!」
「カラー!! 拘束解除系のスキルは!?」
「無いわよそんなのっ!!」
「皆落ち着けっ!!
……敵はまだこちらの様子を窺っているだけだ、隙を見て一気に畳み掛ければこの拘束も解ける筈だ」
頭に血が上る所為か気が立つ三人とは対称的に、冷静沈着に現状を打開する策を巡らせるリーダー格の男は、ドリアードに視線を固定する。そうして、彼は最も重要な事に気が付いてしまう。
「……っ!? このドリアード、まさか召喚魔なのかっ!?」
「と、という事はもしかしてっ!?」
「あぁ……相手は既に俺達の事に気付いていたらしいな。
ははっ、”詰み”じゃねーかよ……」
「「「か、頭……」」」
──────────────────────────────
「いやー、こうもあっさり捕まっちゃうとはねぇ」
屋敷の二階、ダブルベッドと木製のテーブルだけが置かれた寝室のそのベッドの上で、蒼汰のそんな声が聞こえてくる。
手には暗闇に包まれる筈の寝室全体を照らす程の光量を放つシスが開かれ、画面には庭で蔦に絡め取られた四人の侵入者が映し出されていた。
「しかしPCにこんな使い方があったとはなぁ」
『私もマスターに言われるまで気付きませんでした。あのマウスに内蔵カメラがあったなど、普通では想像しません』
「まぁそのお陰でこうして楽に侵入者の様子を見れるんだから良いじゃんっ」
今までカーソルの操作以外に用途の無かったマウスだったが、蒼汰の「このマウスとかがカメラになればなぁ」という一言によりシスが内部構造を確認、そしてPCと連動したカメラ機能があった事を発見した彼は早速監視カメラ代わりに使用していたのだ。
自身の発言がこうして意外な成果を上げた事に興奮気味になる蒼汰の声に触発されてか、その横でもぞもぞと何かが動いた。
「んん~……旦那、様?」
「あぁごめん、起こしちゃったか」
「んぅっ……あっ、敵襲、ですか……?」
上半身をユラリと起こし、未だ眠たそうに目を擦りながらそう呟くエリン。今ではこうして仲睦まじげに二人で一緒のベッドに寝ている為、彼女のこうした生活感溢れる姿を見る事に彼は慣れていた。
もう一つ、彼は慣れてしまっていた。寝惚けているのか素なのか不明なのだが、エリンが引きずる様に身体を彼の方へと持って行き、そうして彼の肩からシスに顔を見せる形で凭れ掛かって来る事も。
「んふふぅ……温かいですねぇ旦那様?」
「こういう時は甘えん坊なのな」
「ふふっ、いつも甘えた方が良いですかっ?」
「いや、それはそれで話が進まないから遠慮しとくよ……」
『……はぁ、いきなりイチャイチャしないで貰いたいんですが』
二、三回言葉を交わしただけで桃色空間を作り上げる二人に、シスは出ない溜息をつくしかなかった。
ドリアードによって侵入者四人が縛り上げられる過程を画面越しに見続ける二人は、ふと今日の昼間の事を思い出しながら言葉を交わす。
「まさかギースちゃんの召喚したドリアードがここまで役に立つとは思いませんでしたねっ?」
「ああ本当だよ。あいつの悪運も偶には幸運に変わるんだな」
「ふふっ、その言葉、ギースちゃんが聞いたら拗ねちゃいそうですねっ」
そう口にするエリンと目が合う蒼汰は、どちらからともなく噴き出してしまう。概ね拗ねるギースの事でも想像したのだろう、彼女からすれば何ともとばっちりな事である。
怒り狂ったガルデマが帰っていった後、街に繰り出していたエリンとギースが持ち帰った情報を元に対策を立て、念の為にとギースに召喚石(小)で従魔を召喚させていた。そうして現れたのがDランクモンスターであるドリアードだった。
「……思ったんだけど、召喚石って割と地形の影響を受けやすいのかもな」
「ですね、森林系のモンスターが多いような気がしますっ」
「今度、検証でもしてみようか」
「はいっ♪」
その後も暫くは侵入者の様子を監視しながら何て事の無い会話を繰り広げていると、エリンの両手が蒼汰の胴に回され、人形を抱き締める様な形で彼に身体を委ねていた。
「……エリン? 眠たいのか?」
「眠たい、ですけど……」
彼の問いかけに歯切れの悪い返答をするエリン。その事が不思議に感じた蒼汰だが振り向こうにも触れるか触れないかのギリギリの所に彼女の顔がある為、振り向けずに固まる事しか出来ない。
蒼汰が動けず仕舞いな事を分かっているのか、エリンは腕の力を少し強めると、彼の耳元に囁きかける。
「もう少し、このままでも良いですか?」
「っ……」
耳を燻ぶる息遣いに理性を誘惑する様な魅惑に満ちた言葉。恋する乙女の甘ったるい二連打に蒼汰は叫びたくなるのを必死に我慢した────────「そんなの反則だろっ!?」と。
「ふふっ、沈黙は肯定、ですよっ?」
「……ま、まぁ? 減るもんでもないし? 別に良いんじゃないか?」
「減りますよっ?」
「へっ?」
予想外の返答に思わず首を回して彼女の顔を窺ってしまう蒼汰。至近距離で見るエリンは普段とはまた違った魅力で溢れていたが、そんな彼女から発せられた言葉に、蒼汰は口をポカンと大きく開けてしまう。
「減るじゃないですか? 主に旦那様の精神がっ」
「…………」
楽し気に微笑む彼女は、どうやら彼の想像以上に小悪魔だったらしい。
仰け反らせようとする身体を逃がすまいと自身の方へと引き寄せ、そうして再び耳元へと吐息を掛ける。
「ふふっ──────言質は取りましたからねっ?」
「っ…………はぁ」
──────まるで敵う気がしない。そう言いたげに溜息をつく彼は自分の頬が朱く染まっている事には気が付かない。それに気が付くのは、彼を見る彼女だけだった。
結局エリンに何も言い返せなかった蒼汰は、彼女が眠りにつくまでヌイグルミ扱いを受け続けるのだった。
「「「「えっ放置!?」」」」
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