23.偶には辛辣、ですっ♪
先に言っておきますと、今話には少々差別的発言が出て来ますがあくまでも作中の話上の事であって、現実的に特定の人物を貶すつもりはありません。その事を承知の上でお読みくださいm(__)m
後、恐らくですが二章はメチャクチャ長くなります(笑)
「……お」
「「「終わったぁぁぁ~~~」」」
画面と睨めっこする事数十分、蒼汰達は漸く十階層までの階層を終える事が出来た。途中からはエリンが構造の案を出したり、元魔王幹部のシュラがモンスターの配置を考えたりと、その場に居たメンバー総出で作業に取り掛かっていた。
『お疲れ様です。早速ダンジョンを開放いたしますか?』
「あぁそうだな。頼むわ」
「旦那様っ、デザートとか食べますかっ?」
「おおっいいじゃん!! 頼むわ」
「一体何なのだ? その”でざーと”とやらは」
疲れた様子の蒼汰に気を利かせてエリンが立ち上がるタイミングで、シュラの口からポッとそんな疑問が出る。魔王の下ではデザートを食べるという文化は無いらしい。
「デザートってのは甘い食べ物の事だ。疲れた時に食べるとメチャクチャ美味しいぞ?」
「なぬっ、そんな物がお主達の間では流行っておったのか!!
我も、我も食べたいぞっ!!」
「ふふっ、ちゃんと用意していますよっ♪」
蒼汰の説明を受け興奮気味になるシュラに、お盆をもったエリンが嬉しそうに微笑む。親心に近い何かなのか、その目はどこか温かなものが感じられる。
エリンがお盆をちゃぶ台の上に乗せると、白く甘々とした菓子が姿を見せる。ケーキだ。
「おおっ、こっちの世界にもケーキってあったんだな?」
「違いますよ旦那様っ?
私がシスさんから旦那様の世界のおやつのレシピを聞いて覚えたんですっ♪」
「……何か申し訳ないな」
「ええっ!?」
「お主らっ!! この白くて柔らかそうなものはどうやって食べるんじゃっ!!」
獲物を前に二人の会話などまるで耳に入っていないシュラがちゃぶ台を叩いて注意を引こうとする。だがまだ完全に少女の身体のままである彼女がどれだけ強く叩いても、可愛らしい音が出るだけで何の威圧行動にもなっていないのだが。
シュラにフォークの使い方を教え、三人仲良くケーキを食べようとしたその時だった。慌ただしくその部屋の扉が開け放たれたのは。
「はっ……はっ……ご主人様っ」
「おおぅ、ソリスか。そんなに慌ててどうかしたのか?」
「は、はい……屋敷の方に、客人が……」
「客人?」
身に覚えのない言葉に蒼汰とエリンは互いに顔を見合わせると、彼の方からソリスに返答する。
「取り敢えずすぐ向かうけど……客人ならそこまで慌てる必要は無いんじゃないか?」
「そ、それが……」
最もな蒼汰の質問に渋るソリス。その様子から何か厄介事が起きている事は想像の付いた二人だったが、その厄介事というのが、また面倒なものだった。
「お金と……女を要求してきました」
「「ええっ!?」」
───────────────────────────
「おいコラ早くしろよぉ!?」
「だから待てと言っておるのが分からんのか!!」
晴れ晴れとした空に似合う爽やかな庭から聞こえて来たのは、雰囲気ブチ壊しの男女の諍い声。その周囲では同じメイド服に身を包む少女や女性が焦燥感たっぷりの表情でオロオロと動き回っていた。
「……何、ケンカ?」
「珍しくギースちゃんがマジ切れしてます……」
普段あまり見せない怒り顔を見せるギースに戸惑う二人だったが、今問題視するべきなのはそちらではなく相手の、見るからに良い所育ちの男性。でっぷりとした体型に、見せ付ける様に付けられた輝く宝飾品類、そして何より露出の多い服を纏うギースに向けられた卑しい目線が、彼女の怒りのボルテージを最高潮まで高めていた。
「ギース様、呼んで参りました」
「あぁ!? ってソリスか、怒鳴ってしまって悪い……」
怒りに身を任せてしまった自分を恥じた事で全身に上っていた熱は少し冷め、そこでギースは漸く背後に蒼汰達が着ていた事に気が付いた。
未だに下種な視線を体に受けている事を感じつつも、それを無視して彼女は主の下へと駆け寄り耳打った。
「アオタ殿、どうやら奴はこの地域を牛耳っている貴族らしいんだ。この土地に住むならそれ相応の金品か、女を貢げと言って来ているのだ」
「んな無茶苦茶な……」
「横暴ですね……」
力や権力を持つと自分が偉くなったと勘違いする、よくある事である。それが特に与えられた物であれば。
好奇な身分である自分を放置して会話するのが気に食わないのか、貴族の男は三人の方へ向かって怒鳴り散らし始めた。
「オイそこの男!! 見た所お前がこの家の主人みたいだな!!
さっさと要求通りの物を用意せんか!!」
「…………(うっわ~バレた~行きたくね~)」
「…………(旦那様、でしたら私が片付けて来ましょうかっ?)」
「…………(それ物理的にって事だよな!?)」
「…………(で、出来るだけ穏便に済ませるべきだと思うぞ……)」
「…………(でも相手のあの豚さん、話聞いてくれますかっ?)」
「…………(ぶっ豚さ……いや、聞いてくれないだろうな)」
「…………(だったら物理的に言う事を聞かせるべきですっ♪)」
「…………(お願いだから話をややこしくしようとしないでくれないか!?)」
「は・な・し・を聞けいっ!!!!!!」
キレた。怒気を孕んだ呼びかけに全く応じようとせず、ひそひそと話し続ける三人に怒りが頂点にまで達した貴族男は、滴る汗を振り掛ける勢いで吠えた。
普通、ここまで相手が大声で怒鳴り散らしていたら何かしらの反応は絶対に見せるもの。三人もそこはちゃんと”普通”だった。だが、その後が”普通”では無かった。
「うっせーなこのデブが!! 今話してるのが見えないのかよっ!!」
「デブっ……」
「豚さんはそこでブヒブヒしてて下さいっ!!」
「豚っ……」
「大事な話の邪魔をするな不細工が!!」
「不細工っ……」
「ガルデマ様っ!?」
「……皆さん鬼畜過ぎませんか……?」
立て続けに外見を罵倒された事によるショックが大きすぎた様で、卒倒しそうになる貴族男が後ろから付き人に支えられる。児戯の様な悪口だが、この男にはまるで抵抗が無かったようだ。
大人げない姿を見せる、自分より地位の高い三人に思わず本音を漏らしてしまうソリス。そんな彼女に異議申し立てようとした三人だったが、それよりも先に奴の意識が還って来た。
「おおおお前らっ!?!! よよよよくもこの僕を馬鹿にしたなぁ!?!!
きょ、今日の所は勘弁してやるが憶えてろっ!?!! こっ、この恨みは必ず返させてもらうからなぁっ!?!!」
「何だよ、ボクもう帰っちゃうのかよ」
「ううううるひゃいっ!? こっ、こうなったらパパに言いつけてやるからなっ!?!!」
「……ぷっ、あはははははっ!!!! いい歳した男が”パパ”だってさ!!!!」
「ちょ、旦那様っ!! そんな馬鹿にした様な発言はいけませんよっ…………ぷっ」
「やっ、やめっ…………ひゃはははっ!! ……はぁお腹が痛い……」
「~~~~~~~~~っ!!!!!!」
「が、ガルデマ様っ!! 今日の所は引き下がって様子を見ましょうっ!?」
「……本当に良い歳した大人が何やってるんですか……」
必要のない煽りをする三人に頭痛がしてきたソリスは、怒り狂う客人が門の外へ出たのを確認するとそそくさと門鍵を閉める。何だかんだ言って彼女も貴族男の事を好いていなかった。
嵐が去り、全員の気が落ち着いた所で漸く、蒼汰達は自分達のやってしまった事を悔い始めた。
「……どうするよこれ……絶対目付けられたじゃん……」
「面倒ですね……」
「少々やりすぎたか……」
「……はぁ。エリン、ギース、今からちょっとだけ動き回ってくれるか?」
「はいっ」「ああ」
自らやってしまった事への尻拭い、とまでは言わないが自ら蒔いた種ぐらいはしっかり刈り取っておきたい。そう考えた蒼汰はエリンとギースにちょっとした”おつかい”を頼み、二人を見送ると他のメイド達を連れて早足で屋敷内へと戻っていくのだった。
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「糞ッ!! 糞ッ!! 糞がアッ!!」
「おおお落ち着いて下さいガルデマ様っ!?」
金色で模様が施された緋色の絨毯を、貴族男────ガルデマは乱暴に何度も蹴り擦る。それ以外に沸々とこみ上げる怒りの矛先が無いのが原因なのだろうが、だとしても貴族に似合わない足癖である。
荒々しい主人に困惑する付き人だったが、もう長い付き合いになる彼だからこそ「言っても無駄」だという事は分かっていた。それでもこうして反応を見せるのは、彼なりの優しさなのだろう。
そんな二人の声や足音は陽光の射す回廊に溶け込んでいたが、ふとした拍子に止んでしまう。それは同時に、二人が目的地に辿り着いた事への証明でもあった。
「……この時間帯はパパは仕事中のはずだから、粗相の無いようにな」
「心得ています」
「よし……なら行くぞ」
短く息を吐き捨てると、大扉を二度ノックする。少しして、返事が返って来る。
「……誰だ」
「ガルデマです」
「ガルデマか、入れ」
渋めの声に導かれるようにして、二人は扉の中へと入っていく。
大扉の先は、所謂書斎だった。人一人が使うにしては大き過ぎる机、壁と一体になっている本棚、それと天井からぶら下がるシャンデリア程しか目立った家具は無いのだが、大部屋にそれだけしかないという状況が逆に威圧的な雰囲気を纏っていた。
書斎の方に向かって歩いていく二人は、先客がいた事に気が付く。
「ユーフラスト卿、では私はこの辺で」
「ああ。では”北の魔女”の件、宜しく頼んだぞ」
椅子に腰掛ける中年の男性がそう告げると、客人の男は恭しく一礼し書斎を後にする。
「パパ、今の話って」
「あぁ。漸く”北の魔女”を排除する目途が立ってな。奴さえ排除すればあの手付かずの土地をユーフラスト家の私有地に変える事が出来る。昔からあそこには莫大な油が眠っていると言われていた土地……あれを手に入れればユーフラスト家は一国に劣らぬ財力を持つ事になる。そうなれば金の力でこの国を我が物にする事が出来るッ」
「それは素晴らしい!!」
「……それで、お前はどうしてここに?」
ガルデマの父であるベルグ・ユーフラストは眉をひそめ厳かな雰囲気を纏う。大事な仕事中に下らない用事で訪ねられた、とでも思っていそうだった。
「パパは、あの誰も住み着かない一等地の事は知ってるか?」
「当然知っている。それがどうした?」
「あの場所に新たな入居者が出たんだ。だから何時もの様に取り立てに行ったのだが……っ」
「……なるほど。お前らしいと言えばお前らしいか」
流石は親、とでも言うべきだろうか。ガルデマの表情から取り立てに失敗した事を悟ったベルグは視線を一度、手元の資料に落とすと再び彼を見据えて言葉を放った。
「暗夜隊を貸す。何時もの部屋で待機している筈だからそれで尻拭いでもして来い」
「あっ、ありがとう!!」
小さくため息を吐くベルグの耳から、無邪気な笑みを浮かべたガルデマの足音が遠ざかっていく。そうして二人の気配が消えた事を確認した彼は、先程とは違う、深い溜息をついた。
「はぁ…………どうしてうちの息子はああまで知の回らない男に育ってしまったのだ……」
誰かを欺く為に知識を使わない、力を見せ付ける為に知恵を振り絞らない、自身より力の強い近親者に頼りっきりになってしまう。これではまるで────────
「────傀儡、か。滑稽なもんだな」
ふと頭に浮かんだ単語を口にし、怪訝な表情を浮かべるベルグ。他人の意のままに操られる息子を想像でもしたのだろう。
たとえ能の無い者と分かっていても息子だという切っても切れない接点が苦悩の種を増やす、その事に顔を歪めずにはいられなかった彼は止まっていたペン先を動かしながらも、脳を蝕む悪しき考えを吐き捨てた。
「……頼むから面倒だけは起こさないでくれ、私の倅よ」
両者共に自業自得なんだよなぁ……
それはさておき、”北の魔女”とは一体?
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