22.意外と知らなかった事ですっ♪
今回はダンジョン経営のお話です。
……寧ろこっちをメインで書くべきなんだけどなぁ(^-^;
『……はい、これで全員退去出来ました』
「さんきゅ、じゃあ始めていこうか」
ダンジョンを訪れていた冒険者達に封鎖する旨を伝える手段は、主に二つ。ダンジョン内に警告音を出す事とモンスターを狩った時のドロップ素材に『今から十分後にダンジョンを封鎖します。これを見たらなるべく早く退去する様にお願いします』等のメモを混ぜる事である。
今回は後者を選んだ蒼汰達は三十分程で全員の退去を終え、珍しく自らキーボードに触れていた。
「でも本当なのか? シスがやるより俺が手動でやった方が良いってのは」
『はい。私ではマスターの意図を大まかにしか解釈出来ませんので、細かい作業になりますとマスター自らやる方が効率は良いです』
「そっか、言われてみればそうだよな。
えっと、取り敢えず『ダンジョン』をクリックしてっと」
マウスを動かし、カーソルを合わせて左クリック。たったこれだけの作業なのに、蒼汰は懐かしく感じてしまう───自分が動かしたのっていつ以来だっけ、と。
そんな事を考えていると、画面には3D表示された全十階層のダンジョンが半透過されて映し出されていた。
「……この後どうしたらよかったんだっけ?」
『はい、今開かれているページの下端の方に幾つか青色で文字が書かれていると思います』
「ええっと……あぁ、この”追加”、”変更”、”モンスター”、”罠”って書かれてるヤツだよな。この”変更”ってのを押せばいいのか?」
『その通りです。それをクリックしますと、一階層の平面図が表示されたエディット画面が表示されるはずです』
「……お、本当に出て来た」
シスの言葉通り初期に構造を決めた懐かしの一階層の平面図が映し出され、蒼汰の口から小さな感嘆が漏れ出た。
「ほぅ、これがダンジョンの仕組みなのか」
「シュラ、理解出来るのか?」
「いや、全くじゃ」
「お、おぅ……そんなにハッキリ言うなよ……」
堂々と胸を張って言い張るシュラに冷ややかな目線を浴びせる蒼汰。どうやら彼女、未知に対しては余り深追いしない性格らしい。
『マスター、一階層は変更なさいますか』
「……いや、一階層と二階層ぐらいはシンプルで良いだろ。あんまり難しくすると駆け出しの冒険者とかが困るだろうし」
「あくまで集客が大事」と呟き画面右下の”次へ”ボタンを二回押す。そうして三階層の平面図を表示した時に、蒼汰は改造の案を出す為幾つか問いかけながらマウスを動かしていく。
「これさ、変更ってどうやってするの?」
『はい、例えばこのパソコンを使って階層を広げる場合は広げる体積に応じてCPが必要となります。既にCPを支払って拡張している空間に関しましては、何も無い空間に壁を増やしたり、逆に壁を消したりすることは可能です。
こういった基本的な作業はマウスの右クリックで全て行えます』
「あー、つまりこの平面図の上で変更したい場所を右クリックして、何をするのか選択しろって事で良いんだよな?」
『はい。そういう事です』
空間がある所は白、壁で埋まっている所は黒で塗り分けられている平面図の上を縦横無尽にカーソルが動く。ただ、それ以外にも青色の円や茶色い箱の様な物も平面図上には描かれていて、それの近くにカーソルが寄るとピタリと動きを止める。
「シス、これは?」
『この青色の円が自動POPサークルとなっています。そしてこちらの茶色の箱が宝箱です』
「なるほど……そう言えばあの時はシスに全部任せっぱなしでちゃんと見てなかったな……」
ははは、と乾いた笑みを浮かべる蒼汰は一通り見終えると、短く息を吐く。
「ふぅ……確かに最初っから最後まで同じ形のダンジョンは飽きるわな」
『はい。ですから大幅な改変が必要になるかと』
「うーん……でも複雑な構造なんてそんな大量に思いつかないけどなぁ」
『幾つかテンプレートがございますが、ご覧になりますか?』
「えっそんなのあるの!? 見る見るっ!!」
『かしこまりました、では画面に表示されますので』
その言葉の直後、画面には幾つかのウインドウが勝手に開かれる。正方直交型の構造や二重楕円型、アリの巣断面型など、約十数種類のテンプレートが用意されていた。だが、三人は全く気にしていない様だが、そもそもダンジョン内構造のテンプレートとは一体何なのだろうか。
「へぇ……この方眼紙みたいなのもいいかもな」
『直交型ですね。それに致しますか?』
「そうだな、どうせこの後も大量に変えなきゃいけないんだろうし、それに変更してくれ」
『かしこまりました。こちらで変更しますがよろしいですか?』
「頼むわ」
『かしこまりました』
表示されていたテンプレートのページを閉じると、画面上をカーソルが走り回る。当然、蒼汰のマウスはピクリとも動いていない。と言っても蒼汰やエリンからすれば日常茶飯事、関心はすれど驚きはしなかった。
元々の平面図を白紙にし、直交型の構造に書き換えた後、その上にPOPサークルや宝箱を配置していく。その工程が全て終わった所で蒼汰が声を発した。
「……思ったんだけどさ、モンスターってゴブリンとかスライム以外だと何があるんだ?」
『はい、初期から配置できるモンスターでしたらフォレストウルフ、マンイーター、ビックスパイダーの森林系モンスターやロードランナー、ライノホグ、ニードルラビットの草原系モンスター、マーマンやスピアシャーク、サンドカッターの水辺系モンスター、そしてどこにでも生息するゴブリンやスケルトン、スライムの計十二体のFランクモンスターがいます』
「あー、そう言えば最初の時ってゴブリンとスケルトンで迷ったんだっけ」
『そうです。そしてマスター、このタイミングで言うのも何なのですが、報告すべき事が一つあります』
「どうした?」
『先月と今月のゴブリン討伐数が一万体を超えた事により、実績が解除されました』
「一万も……ってそれよりも実績?」
先月が約1,439体討伐されている為、それからまだ二十日程しか経過していない内に残りの約8,600体が狩られた事になる。その異常な速度にも気になった蒼汰だったが、何より聞き慣れない単語の方に意識が持っていかれた様だ。
『はい。実績とは何かを達成した時に解除される新機能の事であり、特典とは異なります。主な例としましては、特定のモンスターの討伐数が一定値を超えた際、新たなモンスターが召喚可能になります』
「なるほど……それで、今回はゴブリンが一万体も倒されたから実績が解除された訳か。何が新たに召喚できるようになった?」
『今回新たに召喚可能になったモンスターは二体です。アークゴブリンとオークです。どちらもEランクのモンスターとなっています』
「その二体ともゴブリンの派生形、だと思えばいいのか?」
『基本的にはそう思って頂いて問題ありません』
理解を示す様頷いた蒼汰は三階層の変更を完了し、四階層もまた同じ様にテンプレートから一つ選択してはシスに変更してもらう。そしてまた完了ボタンをクリック、やはりシスの居る居ないでは作業効率に大幅な差が出るらしい。
五階層の平面図を出した所で、蒼汰はテンプレを選ぶ前に別のページを開いた。
「五階層と六階層がちょうど境目になってる訳だし、ここら辺でさっきの新モンスターを登場させても良いんじゃないか?」
『よろしいかと思います。冒険者の戦闘力を考慮しても、まず問題は無いでしょう』
「おっけ。ならこの階層にアークゴブリンとオークを一体ずつ自動POPする様にしておこうかな。オークは六階層に上がる階段の前辺りに、アークゴブリンはそこから遠い所に置いておけば丁度いいバランスになるだろ」
『アークゴブリンの自動POPは一体につき25,000CP、オークは40,000CP必要となります』
「まぁ、それぐらいなら払える額ではあるか……どこから召喚サークルを配置するんだ?」
『画面左下に”モンスター”、”罠”、”その他”というのが見えていると思いますので、その”モンスター”をクリック、新たに開くページの上端付近に”通常”と”自動POPサークル”というのがあると思いますので、”自動POPサークル”をクリックしてください』
「おっけ……うん、出来た」
『最後に置くモンスターをダブルクリックするとそのモンスターサークルがカーソルに張り付いていますので、平面図上の置きたい箇所にカーソルを合わせ、そこでもう一度クリックしてください。そこでモンスター名と必要CPの確認に入りますので、”はい”を選択すると購入、配置完了になります。途中でやめる場合は右クリックから”キャンセル”を選択してください』
シスの説明に沿ってマウスをカチカチと何度も鳴らし、そうして二体のモンスターの設置を完了させる。文章で説明するには少々長ったらしくなるが、実際は数手で終わってしまう簡単な作業である。
『マスター、先に”罠”の説明だけさせて頂きます。画面左下の”罠”アイコンをクリックして下さい』
「ん、了解」
シスに言われた通りにカーソルを動かしていく。クリックしてすぐに画面に現われたのは商品カタログに似たページだった。
『ここにはダンジョン内に設置可能な罠が数多く掲載されます。効果や可動範囲、速度や命中精度等の細かな情報を見たい場合は罠を一度だけクリックして下さい。そこに設置に必要なCPも掲載されています。試しに一番最初の”落とし穴”をクリックしてみて下さい』
「あいよ……へぇ、メチャクチャ詳しく書かれてるのな」
表示された説明文は様々な数値が表に纏められていて、更にはおススメの設置箇所や合わせて使いたい罠等、罠に堪能ではない者が見ても分かる様に工夫されていた。
『これらも十全に使いこなしてこそダンジョンマスターだと思われますので、ぜひマスターも活用してみて下さい。因みに”モンスター”の情報を見たい時も一度クリックすれば確認可能です』
「ありがと、これだけやれる事があるんだったらもう少し色んな事が出来そうだな。ちょっと頑張ってみるか」
『何かあればお申し付けください。出来る範囲でサポートさせて頂きます』
実績解除とかってゲームであったら嬉しくないですか?
私はそういうの好きなんですよね~
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