19.真血、ですっ♪
こんな朝早くから何投稿してるんだ、って思うかもしれませんが許してつかぁさいm(_ _)m
「……ここで間違い無いか?」
「はいっ、僅かに何者かの気配を感じますっ」
唸り声の主を探すべく二階へと駆け上がって来た蒼汰とエリンは、彼女の持つ優れた感覚を頼りに発信源を探っていた。そうして辿り着いたのは、二階を上がってすぐの所にある、大扉の先の開けた空間だった。
家具も何も置かれていない状態の、物寂しげなその大広間は窓から差す日光に剥き出しの床が照らし出されているのみ。そもそも何か生き物が隠れられる様な隙間がそこには存在していなかった。
「大体どの辺りから感じられる?」
「そうですね……この部屋の中央辺り、ですっ」
そう口にし、中央付近に近寄っていくエリン。そして何の予兆も無く床に手を翳すと、彼の知識にない言葉を紡ぎ始めた。
「────”顕現せし誠の姿”」
直後、床から壁から天井から、ありとあらゆる場所から青白い光球が溢れ出る。それらは一点、詠唱者の足元に収束し、人に似た”何か”を形作っていく。
いつの間にか光球は溢れ出る事を止め、形成された”何か”は青白い光を弱めその内に秘めていた姿を現す。それは、二人を絶句させた。
「なっ……」
「えっ……」
「ヴゥゥゥゥ……」
鬼だった。いや、鬼と判断するには少し早計だった。
白い肌に浮かび上がる紅の紋様や額の角、異様に伸びた爪が鬼を想起させるが、全体的に見れば幼さの残る少女なのである。
そんな少女が、白銀の鎖で手足や胴を縛られ膝立ちになっている。それはまるで、罪人を拘束するかの様だった。
「……まさか、”真血”ですかっ?」
「”真血”?」
「はいっ、”真血”とは今から何千年も前、まだ魔族が人類種と敵対していた頃の魔王に仕えていた十三人の幹部の総称です。その十三人には共通して、この彼女の様な朱の紋様を体に刻んでいます」
「な、なるほど……?」
「……貴様、我の事を知っておるのか……?」
鎖に繋がれたまま、真血と呼ばれる少女は声を発する。声自体は今にでも消えてしまいそうなぐらいに弱々しくあったが、古風な話口調やこのような状態に陥っている事から相当な実力者である事は蒼汰にも理解出来た。
しかし予想外な事に、目の前の少女が強者だと理解したのにも関わらず彼は、エリンに全ての鎖を断つように指示した。
「なっ……き、貴様何をして……」
「何をしてって、鎖を切ってるんだよ。このままだと話しづらいだろ?」
「……」
明らかに怪しい者の束縛を自ら解くなど前代未聞、この言動には流石の彼女も唖然としてしまった。
と、返す言葉に困っているとエリンが全ての鎖を断ち終わっていた。だがそれは同時に、彼女が自信を縛り付けていた場所から脱出する絶好のチャンスでもあった。
「くくくっ、自ら敵の拘束を解くなど愚かにも程があるわっ。お主の様な頭の足りぬ人間如き、獲物など無くとも素手で十分っ!!」
ジャラジャラ、と鎖を鳴らしながら立ち上がる少女は不敵な笑みを浮かべると、握り拳を作り蒼汰との距離を一気に詰め寄った。そして彼の隙だらけの脇腹に全ての力を込めた一撃を拳に乗せ放つ。
「クハハッ、くたばれ小僧っ!!」
────ポスッ。
「……はっ? い、いや、今のは無しじゃっ!!
こ、今度は本気の二連撃を食らえっ!!」
────ポスッ、ポスッ。
「…………」
「「…………」」
気が付くと先程までの喧騒から一転、時が凍ったような静寂がその場を覆い尽くしていた。真血の彼女は薄着にも関わらず額から汗が止まらず、少し離れた所で二人の行動を見ていたエリンは、愉快そうに口元を緩めている。そして、攻撃対象だった筈の彼は、というと────
「はい、フラグ回収乙っと」
「~~~~っ!?」
とびっきり爽やかな笑みを浮かべ、彼女の頭を撫でまわしていた。
二重で羞恥に曝され顔を真っ赤に染める彼女はその手を乱雑に振り払うと、再び拳を蒼汰の身体に叩き込む。
「糞ッ、我を餓鬼扱いしよって!!」
羞恥とは別の感情も入り混じり更に顔を紅潮させる彼女は何度も何度も蒼汰に殴り掛かるが、被害はまるで皆無。傍目からすれば少女の戯れにしか見えなかった。
その後も無駄な足掻きは続き、彼女の体力が尽きるまで蒼汰はその腹に柔らかな衝撃を受け続けた。
「はぁーっ、はぁーっ……」
「ん? もうおしまいか?」
「うぅ……我、こんなに弱かったのか……?」
「あの~、そろそろ私喋っても良いですかっ?」
その場にへたり込む彼女を見て暴走が収まったのを確認した所で、エリンが蒼汰の方へと歩んで来る。そして、その場に屈むと彼女の手足に未だ嵌ったままの白銀の輪に軽く触れた。
「この腕輪は、装着している者が魔族の場合ステータスを全て人間の子供程度まで抑える効果があるんですっ。ですから、どれだけ頑張っても何も出来ませんよ、”シュラ”ちゃんっ?」
「なっ、何故我が名を知っておるのだ!?」
「知ってるも何も、真血の十三人の名はとある伝記に記されていましたからっ。
……今はもう焼却処分されたみたいですけどっ」
「くっ……じゃが、餓鬼の身でも出来る事はあるぞっ!!」
そう言い少女、シュラは右指二本を立てエリンの目を突こうと繰り出した。普通の人であればこの不意打ち目潰しをまともに食らい、地面をのたうち回り悶絶する所だろう。だからこれで逃げ出せると慢心ていた彼女だが、相手が悪かった。
「こーらっ♪」
「……はっ!?」
シュラの右手は、エリンの双眸に届くより遥か前に動きを止めた。いや、止められていたのだ、エリンの左手に手首をしっかり握られて。
まさか自分の不意打ちが止められると思っても見なかったシュラは、自分の目に映る、凍獄の笑みを浮かべる彼女に身体の奥底から震え上がった。
「ふふっ、悪戯は”めっ!”ですよっ?」
「ひぅっ!!?」
本能的に感じ取ってしまった恐怖に、言葉にならない悲鳴を上げたシュラは掴まれた手を必死に振り解き、逃げ隠れるようにして蒼汰の背後へしがみついた。これが過去数千年前に人々を恐怖のどん底に突き落とした魔族だと思うと、苦笑いしたくなる。
「ななな何じゃ此奴はっ!!?
微笑むだけでこの我を威圧するなど、貴様何者じゃっ!?」
「私はただの妖精族で、旦那様のお嫁さんですよっ?」
「そそそそんな筈なかろうっ!?
わ、我はお主が魔王だと言われても信ずるぞっ!?」
「……はぁ、落ち着けって」
自分の足にしがみつきブルブル震えながら異を唱えるシュラの頭に手を置き、蒼汰は深くため息を吐く。このままでは全く以て話が進まない。
「取り敢えずシュラ、お前何があってあんな事になってたんだ?」
「ぇう? あ、あぁいや、そんな大それた事はしとらんぞ?
ただ、あの当時の魔王様が『人間達の国を潰して回れ』と我ら真血に命じたから、それに応じてここにあった国を焼きに来ただけ。その時に返り討ちにおうて、この忌々しい鎖で縛られた挙句、高位の魔術でも視認不可になる魔法を掛けられ封印されていたのじゃ」
「うっわー、何そのありがちな設定。てかそんなんで良く生きてたな?」
「これでも魔族じゃからの、寿命は数万年あるから老衰する事はないし、大気中の魔力を体内に取り込めば飲食は要らぬ」
「なるほど、言ってしまえば妖精と同じ様な構造なのか」
「まぁそうじゃの。というかお主……何故……う精の事を……の……?」
「おっと」
恐らくここまで気力で耐えていたのだろう、話の途中で糸が切れたかのように倒れ込むシュラ。蒼汰は少女を素早く受け止めると、背と足の方に手を回し軽々と持ち上げる。
「まぁ、あんな状態でずっと縛られていたらこうなるよな……」
「旦那様っ、どうされるのですか?」
「う~ん、色々やる事はあるけどまずはコイツが最優先だろ。取り敢えず目が覚めるまではベッドにでも寝かしつけて置いてやろう」
「では、一旦ルームの方へと戻るのですかっ?」
「いや、せっかくこの家を買ったんだし、住み心地の調査も兼ねて一日ぐらいこっちで寝ても良いんじゃないか?
向こうにはいつでも帰れる訳だし、後でその事を言いに行けばいいだろ」
「じゃあ私、家具とか食材とか色々買ってきますねっ?」
「ああ頼む」と短く返事をし、無限収納ポーチを持たせたエリンを見送った後、蒼汰は自分の腕の中でスヤスヤと眠る少女に視線を落とし嘆く。
「はぁ……どうもこう、変なのに巻き込まれやすいなぁ……」
主人後体質の様な事を口にする蒼汰だったが、同時に「それも悪くない」と心の片隅で呟いていた。
幾ら眼前の少女が残虐な魔族だったとしても、力が封じられてしまった今はただの見目幼い少女には変わりない。そんな少女が目の前で倒れたのだ、助ける以外の選択肢など彼の脳裏に浮かぶ訳が無かった。
ただ、そんな優男を見せる彼だったが────
「……で、俺この状態からどうしたらいいの?」
どうやら知能の方は今一つ足りなかった様で、この後エリンが帰って来るまでの間、いたいけな少女を床に置くのかどうかで悩み続けるのだった。
新キャラは魔族のシュラちゃん!
彼女もまた、色々訳ありな様だが……?
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