18.結局は金ですっ♪
中々思うように書けないですねぇ……(^-^;
更新遅いと感じるかもしれませんが、ご了承ください(^-^;
八百屋の女性店長に教えられた情報を元に、二人は明るい赤色の屋根を持つ二階建ての一軒家の元までやって来ていた。
「えっと……ここで合ってんのかな」
「特徴を見れば合っている筈なんですけど……取り敢えず入ってみましょうかっ?」
「まぁそうだな」
石段を数段上った先にある扉に手を掛け、そしてゆっくりと押し開く。
カランカラン、という軽快な音が店内にも店外にも響く中、二人の元へ一人の青年が駆け寄って来る。
「い、いらっしゃいませ、こちらへどうぞ……」
二人がギリギリ聞き取れる程の小さい声でそう告げると、青年は右奥の通路の方へと歩いていく。
「……なぁエリン、ここもしかしたらハズレなんじゃ……」
「ま、まだ分かりませんよっ……?」
誰の目から見ても分かる程の気弱な青年に、蒼汰もエリンも拭えない不安が募ってしまう。しかし彼に置いて行かれる訳にもいかない為、二人は互いに顔を見合わせ苦笑しつつ、彼の後を追いかけた。
青年と二人が入った部屋は、書類棚と方形テーブルを挟み二つのソファがあるだけの、簡素な部屋だった。窓から差し込む光が丁度テーブルの上に当たるように配置されている為なのか、天井から吊り下げられているシャンデリアに明かりは灯っていなかった。
「で、ではこちらにお掛け下さい……」
言われるままに二人が並んで腰を下ろしている間、青年は書類棚から一枚の紙を抜き取り、それをペンと共に二人の前に差し出す。そこには希望の物件の条件を絞っていく為の質問が幾つか書かれていた、。所謂”チェックシート”という物である。
「希望物件かぁ。エリンはどんな家が良い?」
「そうですね……やはり皆が暮らせるような大きい家ですねっ」
「……流石に二十人近くが暮らせる家は無いと思うぞ?」
「あ、ありますよ……?」
「あるの!?」
「は、はい……最大五十人までなら住む事の出来る大豪邸が一軒だけございます……」
「おおっ!! そこにしましょう旦那様っ?」
「い、いや流石にそんなに広いのは要らないからっ!?」
何とも豪胆な買い物をしようとするエリンを宥め、蒼汰はチェック項目に希望を書き込んでいく。部屋数、設備、窓の数、玄関の向き、庭の広さ、予算……
「ふぅ……こんなところかな」
「あ、はい問題ないと思いますので、こちらでお預かりさせて頂きますね……」
彼からチェックシートを受け取った青年はそれと睨めっこをしながら、書類棚の中から数枚の紙を引き抜く。そうして三枚の紙を引き抜いた所で二人の対面に戻って来ると、テーブルにそれらを並べた。
「えっと……お客様の提示した条件に合う家屋はこの三件です。ひ、左手の方から順に説明させて頂きますね……」
たどたどしくはあったが、丁寧で且つ要点をしっかり押さえた彼の説明に蒼汰とエリンは舌を巻く。声が弱々しいからダメだ、などという偏見がこうして覆された訳だから、人は見た目に依らないというのは全く以てその通りなのだろう。
だがしかし、二枚目の説明を終え、最後の一件に差し掛かったタイミングで彼の様子が急変した。
「……さ、最後の一件なんですが……」
「? 何か?」
「えっと、その……条件にはピッタリ合うんですが、余りお勧め出来ない物件なんですよ……」
「……だったら、どうして紹介しようと?」
「は、はい……一応、”物件”として登録されていますので……登録されている以上、こちらも紹介しない訳にはいかないのです……」
不動産側の事情などには全く精通していない蒼汰からすれば、彼の言葉に「へぇ……」としか言いようが無かった。彼の元居た世界でも、「事故物件」と呼ばれる勧められない物件が存在しているのだから、別にこちらの世界にそれと似た物があってもおかしくは無い、その程度の感情しか湧いてこなかった。
「因みに、お勧めできない理由は?」
「あ、はい……この物件を以前ご購入された方からの話によりますと、どうやら夜な夜な呻き声が聞こえたり、何かを引っ掻く音が聞こえて来たりするらしいんです。ギルドの方にも掛け合って、調査隊を組んで貰ったんですがそれでも原因は分からなくって……」
「なるほど……」
「えっと、その、勿論この家屋を無理矢理買わせるつもりはありませんし、もしご購入なさっても、土地の利権書さえ返却して頂ければ家屋の返還も可能です……
そ、それに……特殊物件ですので、値段の方も元値の一分程に下がっています……」
「……何ですと?」
青年の説明を聞いている最中、突如として蒼汰の目の色が変わった。それはまるで、目の前に生肉を放り投げられた猛禽類の様な目の鋭さである。
「ふぇっ……?」
「今、一分程と言ったな? 二言は無いな?」
「えっ、は、はいそうですが……」
「なら買った!! 今すぐその家を買おうではないかっ!!」
「えっ……ふぇぇっ!? しょ、正気ですかっ!?」
「もちろん、正気だとも。
それで? 一体幾らなんだ?」
「は、はいっ……えっと、金貨二枚になっています……」
この世界の通貨としては銅貨、銀貨、金貨、白金貨、皇金貨の五種類が存在し、百枚毎に次の貨幣と等価になる。銅貨百枚が銀貨一枚と等価である、といった具合である。因みに銅貨一枚が日本円で言う所の一円程。
二百万円という破格の金額を提示され、口元がニヤケるのを必死に抑える蒼汰は無限収納ポーチから金貨二枚を取り出し、それをテーブルの上に置く。
「……えっと、先に物件を見てから決めても宜しいのでは……」
「あーいや、面倒だからいいや」
「そ、そうですか……はい、確かに金貨二枚丁度いただきました……こちらが土地の利権書になりますので、無くさない様よろしくお願いしますね……」
「ん」
「こ、この後なんですが、早速物件の方へと案内し、そこで鍵を渡したいと思います……」
「おっけー、エリンもそれでいいよな?」
「はいっ、特に問題ないですっ」
「……ほ、本当によろしいんですか……?
見た所、お客様方は観光客の様ですし、な、何もこんな危険な場所に住まなくても……」
話も終わりが見えたからか立ち上がろうとする二人に、青年は眉間に一筋の汗を伝わせる。
先程から物件の購入に反対的な意見ばかり述べている彼に訝しげな目を向ける蒼汰だったが、その表情から本心で心配しての発言なのだと感じ取った。その為、返事として蒼汰は彼には理解出来ない言葉を投げかけた。
「大丈夫。何せうちにはエリンがいるからなっ」
「はいっ♪」
「……?」
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「えっと、ここになります……」
「「おぉ……」」
例の店を出て歩く事二十と数分、蒼汰達はツーベル国の中でも一際閑静な住宅街を抜け、その先に隔離されているかの様に佇む一軒の屋敷に到着していた。
屋敷そのものは、傍目から見ても十分に豪勢な物であった。呼び鈴付きの堅牢な門を始め、噴水台のある中庭、そしてどっしりと構える屋敷。貴族の邸宅そのものに、蒼汰達二人は思わず口から感嘆を漏らしていた。
「そ、それではこちらが玄関の鍵と門の鍵となります……
もし、もし何かありましたら私ことゲイルにお申し付けください……」
服の内ポケットから二種類の鍵を取り出すとそれを蒼汰に押し付け、ゲイルは元来た道を帰っていってしまう。余程この場から離れたいのだろう、その足取りはどこか軽々としていた。
「うーん、そんなにヤバそうな雰囲気はしてないけどなぁ」
「そんな事よりも旦那様っ、早く中を探索しましょうっ?」
「ああそうだな。これだけ広ければ扉を置く場所もあるだろうしな」
ゲイルがあれ程までに恐れる理由など露知らず、二人もまた軽快な足取りで屋敷の方へと向かう。そして貰った鍵で解錠した木製の大きな玄関扉を力強く引き開く。
「わあっ、素敵ですっ!!」
「おぉ……すげぇ……」
天井から吊り下がる金色に輝くシャンデリア、壁に備え付けられているレトロ感溢れる時計、二階に続く階段に敷かれた、高貴を表しているかのような幾何学的模様の施された深紅の絨毯……
両目に飛び込んで来た扉の奥の景色に、二人はまたしても感動を口にしていた。恐らく以前には名の知れた貴族や有力者が住んでいたのだろう、そうでなかったとしても、その光景は己の身分を改めて考えさせられる程に圧倒的なものであった。
「こ、これが金貨二枚って……」
「た、確かに破格過ぎますね……」
感動の後から押し寄せてくるリアルな現実に、二人は唾を飲み込んでしまう。この家の元値が、並の人間が一生掛かって手にする財ですら届くのか怪しい程の額である事を考慮するならば、元引きこもりニートを営んでいた蒼汰がその地に立っている事は最早奇跡の類だろう。
しばらくその場に立って余韻に浸りたいと感じた二人。しかし、どうやらそれは誰かにとっては都合の良くない事らしい。
「……ゥォォォォ……」
「……今、何か聞こえたよな?」
「はいっ、二階からですね」
獰猛な獣の唸り声に似た何かを微かに聞き取った蒼汰とエリンは、それが聞こえて来た先、二階の方へと視線を遣る。そして、勇敢にもその原因を突き止めるべく足を動かし始めた。
蒼汰は意外と怖いもの知らず……?
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