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17.外の世界へ!、ですっ♪






・時空の扉,

説明:二枚一組のこの扉の片方を潜ると、もう片方の扉へとワープする事が可能になるURアイテム。通常で使用する際はドアノブを右回し、ワープとして使用する際は左回しである。



「き、金ですよお兄さんっ」


「……すげぇ、マジかよ。ドラ〇もんじゃねーかよっ」


『はい。URアイテムの中では当たりの方に属していると思われます』




 朝、いつもの如くデイリーボーナスのガチャを引いていた蒼汰達の前に出現したのは、見た目はただの木製の扉だった。

 引き当てたクラリスが嬉しそうに声を上げる中、蒼汰は既視感のあるそのアイテムに目を奪われていた。少年期の彼はよく考えていたのだ。「玄関を開けたら学校だったらいいのになぁ~」と。今となっては遅いが、その夢が叶うアイテムが目の前にある、その事に蒼汰は堪らなく興奮した。




「これさ、上手い事使えば外の世界でも暮らしていけるんじゃね?」


『はい、恐らく可能かと思われます』




 外の世界で家を買い、その中にこの扉の片方を設置する。もう片方をダンジョンルーム内のどこかに設置しておけば、楽にダンジョン内外を行き来が出来る。基本的にダンジョン内に居るべきであるダンジョンマスターからすれば、これ程にまで有難いアイテムは無いだろう。

 蒼汰とシスのそんな会話を聞いていたエリンが、ふと思った事を口にした。




「……あっ、旦那様っ。それでしたら奴隷達を冒険者にしてはどうでしょう?」


「ん? どういう事?」


「奴隷達に冒険者をさせて、私達のダンジョンに向かわせるんですっ。そこでいっぱいモンスターを狩ってもらえれば、私達も潤いますし、奴隷達も仕事を貰えるしで一石二鳥じゃないですかっ?」




 エリンの提案は合理的であり、かつ理想的なものだった。しかし、そんな彼女の案にシスが致命的な反論をする。




『残念ですがエリン様。もし仮にダンジョン供給者が供給元のダンジョンのモンスターを倒したとしても、獲得するCPは一割に減少します』


「ええっ!? そんなぁ……」


「いや、エリンのその案を頂こう。要は数を狩れば問題ない訳だから、複数チーム編成して周回効率を上げればいいさ」




 周回効率などというゲーム脳的な発言をする蒼汰。しかし、彼のこの案にも反論が飛んでくる。




『マスター、周回効率と申されるのは宜しいのですが、余り大々的にされると勘の良い者にダンジョン関係者だと悟られる恐れがあります』


「あー、もしかしてパーティー組んでダンジョンを周回するメリットって、こっちの世界の人にはあんまりない感じ?」


『はい。場所によってはダンジョンで稼ぐより野生のモンスターを狩る方が稼げます。その為ギルド協会が定期的にダンジョンに赴くような依頼を幾つか用意しているのです』


「まぁそうだろうな。じゃないとこの前みたいにわざわざギルドマスターがダンジョンまで来る筈がないし」


『ですから、周回効率を考える必要は無いかと思われます。外の世界の人の多くはダンジョン関係者だと悟っても何もしないでしょうが、中にはその事を悪用しようとする者もいますので』


「分かってる、出来るだけ用心はするよ」


「ではアオタ殿。奴隷達を連れて外へ向かうのか?」


「ああ……いや、最初は俺とエリンで行こうと思う。何かあった時に大人数だと色々ゴタつくからな」




 「他の皆は扉を設置出来てからな」とギース達に伝えると、蒼汰は徐にソファを立ち上がる。




「取り敢えずの行き先はツーベル国にしよう。目的はこの扉の設置、ついでに観光でもしようか。今から一時間後ぐらいでいいよな?」


「はいっ。

……という事は、いよいよ旦那様との初デートですねっ♪」


「えっ、あっ、あぁそうだな……」


「……クラリス様、どうやらアオタ殿はヘタレのようだ」

「情けないですね……」


「お前ら聞こえてるからなっ!?」





















────────────────────────








 蒼汰達のダンジョン”悠久の塔”を挟んでセルスト国と反対側にあるツーベル国は、世界的に見ても温厚な国である。資源、財源こそ乏しいものの、様々な種族の人々で賑わいを見せるその国は主に混血エルフが統治している。セルスト国からの混血迫害という凄惨な歴史的背景を持つ彼らの政治は、やはりその時の経験を反面教師としているのだろう、各国との貿易を中心としていた。それが功を奏し、現在では大きな貿易国として発展したのである。

 そんなツーベル国の一角、少し人通りの少ない路地を蒼汰とエリンはゆったりと歩いていた。




「しっかし、来たはいいものの、何から手を付ければ良いんだろうなぁ……」


「お金はギースちゃんから沢山貰ってきてますから、多分なんでも出来ますよっ?」


「……思ったんだけど、あいつ何気に裕福だよな」


「今度お嬢様みたいな服を着せてみましょうかっ?」


「おっ、それ面白そうだな!!」




 その場に居ない彼女で話を弾ませる二人は、話題を自分達の行動に変更した。




「えっと、確認なんだけど目的は家を買う事で良いんだよな?」


「はいっ。ついでにギルドの位置も確認して、皆にお土産も買いたいですねっ♪」


「しかし問題はその不動産屋がどこにあるかだよなぁ……」


「不動産屋は地域によって目印が変わりますから、私にも分かりません……」




 目的は分かっていても行動に移せないもどかしさにその場に立ち止まってしまう二人。そんな時、救いの声が響いた。




「ちょっとそこのお二人さん!!」


「「えっ?」」




 声が聞こえて来た方に振り向くと、そこには恰幅の良い人間の中年女性が立っていた。その周囲には木製の台の上に様々な種類の野菜らしきものが置かれている事から、そこが八百屋だということが窺える。

 女性は二人を手招きする。




「ほらほらっ、そんな所で突っ立ってると通行者の邪魔になるからこっちにおいでっ」


「「はっ、はいっ」」




 言われるがままに行動する二人に満足そうに微笑む女性は、一人でに話し始める。




「お二人さん、見たところこの国には観光に来てるみたいだけど、夫婦旅行か何かかい?」


「ぅえっ!? え、え~っとそ「はいっ新婚旅行ですっ!!」……ってエリン何言ってんのっ!?」


「ははっ、どうやら旦那の方は恥ずかしがり屋みたいだねぇ」


「ちょ、だから違うんですって!?」


「まぁ、そこは何だっていいさ。それより、お二人さんは場所屋を探しているのかい?」




 場所屋、というのがこちらの世界での不動産会社の呼び方であり、どちらかと言えばローカルな呼び方である。

 二人がその言葉に頷いたのを視認すると、何が嬉しいのか女性は口角をつり上げた。




「だったらこの先を真っ直ぐ行った所の大広場を右に曲がって進んだ所にある場所屋がおススメだよ。派手な赤い屋根の建物だから、行けばすぐ分かるさ」


「そうなんですかっ? それは良い事を聞きましたっ♪」


「えっと、ご親切にどうも……」




 女性の言葉に片や素直に喜び、片や疑心暗鬼を表に出しつつも形だけの感謝を述べていた。見知らぬ人に急に話し掛けられた事と、普段からこういった親切を向けられる機会の少なかった為、蒼汰のその反応は寧ろ正常なものである。

 彼の態度から内心を感じ取ったのか、女性はにこやかに微笑み、諭す様に声を掛けた。




「大丈夫だよ。何もアンタ達を食って取ろうって訳じゃないさ。

この歳になると店を構えるか、こうやってお節介を焼くぐらいしかする事が無いんだよ。だから人助けだと思ってこんなオバちゃんのお節介を受け取っておくれよ」


「い、いや人助けは大げさすぎませんかね?」


「そんなこたぁ無いよ。

でもまぁそうだね……それじゃあうちで野菜でも買って行ってくれるかい?」


「……それはズルいですね」




 ニヤリと笑う女性に苦笑いを浮かべる蒼汰。確かに、こんな言い回しをされてしまえば誰だって買わざるを得なくなってしまう。

 内心「商売上手過ぎるだろっ!?」と叫びつつも、結局幾つかの野菜を買ってしまった蒼汰はエリンと礼を述べると、教えて貰った方向に歩きだしていく。




「……こりゃあ面白そうな奴がこの国に来たもんだ。急いでゲイルと……後バックスに連絡でも入れておくかね」




 離れていく二人の背中を見届ける女性は、ポツリとそんな事を呟いた。



このオバちゃん……一体何者?

ここら辺りからストーリーが動いていきますよ~



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