4.新たな仲間?ですっ
CP。ダンジョン経営において最も価値の高い物であり、ダンジョンの防衛はもちろんの事ダンジョンやマスタールームの改築と増築、更にはアイテムの購入など様々な用途がある。だからこそ、画面に映るそれを目にした時、蒼汰は言葉が出なかった。
「…………」
「えっと……旦那様? 一体どうしてそこまで絶句しているのですか?」
36,526,927CP。これがPCに表示された、彼の今持つポイントである。未だこれと言った判断材料が無いにしろ初期にしては余りに膨大過ぎる事は一目瞭然だった。
しかし、それ以上に彼をあんぐりさせたのが所持CPの下に書かれていた、『CP供給者と一日当たりの供給量』の項目の内容だった。
・供給者:エイリーン,供給量:1CP(/日)
(……これってつまり、あのCPの日数だけエリンはここで過ごしていたって事だよな?
同族どころか生き物一匹すらいない、この世界で……)
自分が来る前の彼女の事を考えると、何か悍ましいものが背中を這いずるような感覚が彼を襲った。
年数にして十万と数年。地球で考えるならようやく人類が世界中に散らばり始めた所である、因みに日本はまだ今の形にすらなっていない。
「……エリン、お前やっぱすごいよ」
「えっ、い、いきなり何ですか?」
何の脈絡もなくそう告げられ、どう反応して良いのかとアタフタするエリン。たとえ妖精であったとしても、その様子を見ると十万年もの時を一人で過ごしてきたなどとは到底思えない子供っぽさだった。だからこそ、蒼汰はそれ以上彼女に問う事が出来なかった。問う資格など無いと、本能が判断した。
「……何でもない」
「ええっ!?
そんな事言われたら気になります~!!」
「まぁまぁ。……それより、この大量のポイントをどうしようかな」
今現在大量にCPがあるからと言って、一日1CPしか増えない状態では底を付きかけた時に困窮してしまう。
まずどんな物がCPで買えるのかを知る為、蒼汰は一度『CP管理』のページを閉じて『カタログ』をダブルクリックする。すると開いたサイトには検索バーはもちろんの事、家具から食材、衣類まで幅広くジャンル選択項目が存在していた。
「ははっ、まるで大手の通販サイトだな」
「つーはん、って何ですか? 旦那様」
「簡単に言ってしまえば自分が欲しい物を送り届けてもらえるサービスみたいなものかな」
「おお~、それは便利ですねっ!!」
「っ……」
自分の説明を受け、無邪気な笑顔で返事をするエリンに蒼汰は思わずドキッとしてしまう。そこに純粋な気持ちしか含まれていない事は分かっていても、つい反応してしまうのは恋愛経験の少ない男の性なのだろうか。
ほんの少し頬を赤く染めてしまった蒼汰が気を逸らすようにして画面に向かうその時だった。
”メールを受信しました。プレゼントボックスを開きますか?”
「……メール?
そんな機能これに備わってたっけ?」
テロップに表示される新たな言葉に目を細める蒼汰。好奇心のままに『はい』をクリックすると、携帯メールの様な『受信ボックス』『送信ボックス』『下書き』『新規作成』の四つのアイコンが現れ、『受信ボックス』のアイコンの右肩に3の数字が付いていた。それをクリックし、陳列する三つのメールには共通して”新規ダンジョンマスター特典”というタイトルが付いているのを確認すると、早速一番上から開いてみる。
「えーっと何々……
”新規ダンジョンマスター特典として1,000CPをプレゼント!!
今すぐ受け取りますか?───はい/いいえ”
……一体どこのソシャゲだよっ!?」
「だ、旦那様っ!?」
関西人張りの声量で清々しいツッコミが室内に響く。その行動は傍から見れば気が狂ったようにしか見えず、何が起きているのか全く理解できないエリンがこうして反応してしまう。
「あ、ああ何でもない……取り合えず”はい”を選択してっと」
平静を装いつつCPを回収し、何となく嫌な気を感じながら次のメールを開く。すると今度は”新規ダンジョンマスター特典として無料十連ガチャ券をプレゼント!! 今すぐ受け取りますか?───はい/いいえ”と書かれていた。
流石に何度も同じ反応をする事はなかった彼は、ガチャ券である以上貰ってすぐに引くという事は無いだろうと考えそのまま受け取り、最後のメールを開いた。
「これで最後か、何々……
”新規ダンジョンマスター特典として多機能擬人思考回路システムをプレゼント!!
今すぐダウンロードしますか?───はい/いいえ”
……ふぇっ?」
先程とは異なり全くソシャゲ感が無くなったその特典に、蒼汰はつい拍子抜けた声を出してしまう。内容からするにPC用のソフトウェアの様なものなのだろうと予測を立て、恐る恐るそれをダウンロードしてみる。すると”ダウンロード完了”の文字が画面に表示された。
「……ってはえーよ!?」
「旦那様っ!? 今度はどうなさいましたかっ!?」
どうやら一秒もかからない内に作業が終了してしまったらしく、またしてもツッコミを入れてしまう。そうして彼と彼女が大げさな反応をしている間にもPCの画面には様々な変化が起き始め───
『解析完了。本日よりよろしくお願いします、マスター』
という、無機質な声が二人の意識を集めた。
「……え? まさか、PCが喋ったのか?」
『はい、マスター。その通りです』
「す、凄いですっ!!」
『その声はエリン様ですね。お褒め頂き光栄です』
「何で分かったんだ?」
『PC内の供給者の所に一名のみお名前がございましたので』
「なるほど」
意思疎通の出来るPC。蒼太は人工知能というものを知っている為、それに近いものなのだろうと考え大した驚きを見せなかったが、対照的にエリンは大はしゃぎである。彼女にしてみれば今日だけで対話出来る者と二回も会えた訳で、致し方ないと言えばそうなのだろうが。
「で、一体どんな機能が追加されたんだ?」
『はい。簡潔に言ってしまいますとマスターの要望に出来るだけ答えるシステムが追加されました。
例えばマスターが何か欲しい物がある時、言って頂ければこちらで検索、適切な品をリストアップさせて頂きます。
その他にもダンジョンの管理やマスタールームの配置など、言って頂ければこちらでさせて頂きます』
「……いやいや、便利すぎるにも程があるだろ……」
規格外の高性能システムに、ツッコむどころか嘆く形に近くなってしまう。ダンジョン管理までやって貰えるとなると、最早蒼汰の存在意義がどんどん無くなってしまっている気がするが、その事に本人はまだ気付いていない。
呆然とする蒼汰とエリンに対し、PCからとある提案がなされた。
『所で、お二方は発音は同じでも違う言語を使っているように思われます。この際ですから言語理解のスクロールをご購入されてはどうですか?』
「言語理解のスクロール?」
『はい。言ってしまえばどんな言語でも読み聞きが出来るようになるスキルです。CPこそ結構な量必要ですが、早いうちに手に入れておいて損はありません』
「まぁ、確かにな。現にエリンも今PCの文字が読めてないし……
分かった、購入しておいてくれ」
『かしこまりました。早速出現させますので急な出現にご注意ください』
PCからの案内の直後、そのちょうど真上辺りの空間が一瞬発光したかと思うと、少し厚めの二枚の紙が不規則に揺れながらゆったりと落ちてくる。それを器用にキャッチした蒼汰は片方をエリンに渡し、PCに話しかける。
「で、これをどうすればいいんだ?」
『最初から最後まで目を通してください。文字は読めないでしょうが目を通すだけで問題ありません』
「……だって。早速始めようか」
「はいっ旦那様っ♪」
頷き合う二人はすぐさま手元の厚紙を一瞥し始める。終始見た事も無いような、文字かどうかすら判断できない記号の様なものを眺め続け、約1~2分ほどで二人共見終えることができた。
「ふぅ。これでいいのか?」
「そのはずですが───っ!?」
「どうした───っ!!」
”常時発動型スキル『言語理解』を習得しました”
突如として脳内に流れてくるアナウンス音。先程まで会話していたPCとは違い直接脳に響くそれは、二人の表情を焦燥に変えた。しかしそれ以上のアナウンス音は聞こえてこなかった為、二人が警戒を解くのにさほどの時間はかからなかった。
「……ったく、心臓に悪いって。直接脳内に話しかけるとかどんな神経してるんだよ」
「私もこんな体験は初めてだったので驚きました……」
『無事習得出来たみたいですね。ではエリン様、確認の為画面の文字を読んで見て下さい』
「はい。えっと……よ、読めます!! ”宜しくお願いします”ですよね!?」
『はい、合ってます。問題なさそうですね』
PCに表示された日本語を読めるようになり、感極まったエリンがその場で兎のごとく跳ね始めた。豊かな体型の彼女がそんな事をすれば当然揺れる、揺れる。大きくスイングするそれに目を奪われそうになる既の所で耐えた蒼汰は、大きく咳払いをしてPCに話しかける。
「え、えっと……話は変わるけど、何て呼べばいい?」
『それは私の事でしょうか?』
「ああ。名前が無いのはやっぱり不便だろ?」
彼のその言葉にエリンの顔が優しく緩む。名前を貰えるという事がどれ程喜ばしいモノなのかは、あの時の彼女の態度で十分に分かっていた為、それが正しいのだろうという彼の好意である。
『……宜しいのですか?
ただのシステムごときに名前などを授けて頂いても……』
「いやいや、そこまで蔑む必要もないって。
……そうだな、安直かもしれないけど”シス”って名前はどうだ?」
システムの前二文字を取っただけという、確かに安直すぎる名前ではあったがPC───シスにとってはそれはかけがえのないもので───
『シス……シス。では、私の事は今後”シス”とお呼び下さい』
喜びの表現なのだろう、画面を点滅させるのだった。
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「王妃様、王妃様っ!!」
「何、どうしたの騒々しい」
ベッドで寛ぎつつ読書に熱を注いでいた美麗な女性の下に、一人の兵士が駆け込んでくる。普段なら冷やかして追い返す彼女だが、その兵士の異常なまでの慌てようが胸に引っかかり、短く息を吐き仕方ないと言った様子で視線を兵士に移した。
「それで、何が起きたの?」
「そ、それが……誠に申し上げにくいのですが」
「勿体ぶらずに早く言いなさい」
「……はっ。
先程ブレストリー奴隷商館から連絡がございまして、どうやら商館を賊に荒らされ、クラリス様が攫われたと……」
「な、何ですって!!?」
兵士のその言葉に王妃───アリシア・リィン=ヨースガルドの顔はみるみる青ざめ、貧血状態に陥ったかのようによろよろと壁に倒れ掛かった。
「だ、大丈夫ですか王妃様っ!?」
「え、ええ……それは本当の事、なんですよね?」
「は、はい……」
「……今後の事を考えます。隊員達ををここに招集、それとブレストリー奴隷商館に至急王城に来るように
伝達を。くれぐれも国王にはバレない様に内密に動いて下さい」
「はっ」