14.ギルド協会登場!、ですっ
少しづつ外の世界にも触れ始めますよ〜(ノ*°▽°)ノ
・お便り箱,
説明:ダンジョンの入り口に設置する事で侵入者が自由に意見を述べる事が出来る様になる。これを元にダンジョンマスターにはより経営に励んで貰いたいという、アイテム作成者からの粋な計らいである。レア度はSR。
「……こんなのあるの?」
朝一、日々のボーナスでガチャを引いた蒼汰は、銀色のカプセルを獲得していた。そしてその中身がこの謎のアイテムだった。
『マスター。これは重要なアイテムです。早速設置してみては如何でしょうか』
「まぁ、設置はするけどさ。どういうものなの、これ?」
『はい。説明通りになりますが、私達のダンジョンを訪れた者が、ダンジョンについて自由に意見を述べる場を設けるアイテムです。匿名性であるために誰でも気軽にこのポスト内に投函出来、その上私と直接連携している為、わざわざ投函された物を取りに行く必要もありません』
「……シスの説明を聞いてると本当に便利なアイテムだってのが良く分かるわ」
『お褒め頂き光栄です。では、設置いたします』
「ああ、頼むわ」
淡々とした流れではあるが、その間には確かな信頼があった。これで知り合ってまだ一ヶ月と少しだというのだから、驚きである。
そうしてダンジョンに新たな設備が追加された所でエリンから「ご飯が出来ましたよ」コールが飛んできた為、蒼汰はシスを置きいつもの三人が待つテーブルへと向かうのだった。
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『マスター。昨晩から今朝の間に届いていたお便りが三通あります』
お便り箱を設置してから数日が経過した。最初は「一日一通来ればいい方だろ」と楽観していた蒼汰だったが、これが思いの外人気を博していた。多い時には一日十数通もの便りが寄せられ、彼のダンジョンに足を運ぶ者は少なくないという事が窺えた。とはいえ、その内容の多くは「もっとドロップ率を上げてくれ」「階層を増やしてくれ」「探索で手に入るアイテムの種類を増やしてくれ」のどれかなのだが。
朝食は既に済ませている蒼汰はエリン達三人と共にソファで寛ぎながら、視線をシスに固定した。
「おっけ、順番に聞かせてくれ」
『かしこまりました。
一通目は”五階層の灯りが少し暗いから、明るくして欲しい”です』
「……ちょっと的確過ぎない? 何なの? 常連さん?」
『如何いたしましょう』
「そうだな。明るさの調節は自由に出来るんだったよな。少し明るくしてやってくれ」
『かしこまりました。
二通目は”そろそろゴブリン以外も見たい”です』
「あー、五階層まで全部ゴブリンで埋めてるもんな……」
『如何いたしましょう』
「いや、でもダンジョンの外には別のモンスターがいるんだろ?」
『はい。主にフォレストウルフやフォレストビー、タイラントアントとアンガスバードの四体がいます』
「うーん、だったら別に急いで作る必要もないか。第一、まだダンジョンに配置できるモンスターを把握しきれてないからな」
『ではこのお頼りはスルーさせて頂きます。
最後の三通目です。”初めまして。こちらは全国ギルド協会セルスト支部の者です。この度はセルスト国にギルド協会が設立しました事でのご挨拶とご相談をしたく投函させて頂きました。しかしながら文面でお伝えするには少々長くなる為、直接対話出来る場を設けて頂きたく思います。時間は本日の正午でお願い致します”』
「「「「…………」」」」
今までのお便りとは全く異なる形質の内容に、四人共が唖然としてしまう。そして、一番最初に口を開いたのはエリンだった。
「し、失礼じゃないですかっ!?
普通、こっちが時間を指定するものでは無いですかっ!?」
エリンの怒りは最もで、対談のアポを取る際時間や場所の指定はアポを取られた側が指定するもの。その事を踏まえれば確かに無礼に感じるが、それはこの場においては誤解だった。
『エリン様、それは少し違います。このお便り箱はこちらから返答が出来ない為、時間の指定は必然的に相手側が行わなければなりません。そういう点を考慮すれば、このお便りを投函した者はダンジョンの事を良く知る者だと思われます』
「そ、そうだったんですか……」
「しかしセルスト国も随分と変わったものだ。まさかギルド協会まで設立される事になるとは」
「そう言えば元々無かったんだったっけ?」
「ああ。しかしこれであの国も漸く正常に機能し始める、といった所か。長かったな……」
どれだけ酷い目に逢った土地であろうとも母国であることに変わりはない。生まれの土地が改善していく事に微笑みを浮かべるギース。どうやらクラリスも同じ気持ちらしく、コクコク頷いていた。
「感動してる所悪いんだけど、俺はどうしたらいいんだ?」
『はい。まずは場所の確保です。ダンジョンマスターは基本供給者や同業者以外に顔を晒すのは良くない為、何かしらの工夫が必要かと思われます』
「……なら、いよいよアレを使う時が来たと言う訳だな」
『はい、いよいよですね』
「「「?」」」
何やら含みのある会話をする二人に首を傾げるエリン達。
実際、彼女達は全く知らなかった、忘れていたのだ。彼がダンジョン経営の初期という安定を最優先にする時期に、まるで廃課金者の如くCPを無駄遣いしていた事を……
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彼女、サリーシャ・メイバスタは非常に優秀なギルド職員である。当然、そう明言するだけの根拠を彼女は有していた。
十五までを冒険者稼業で食い繋いでいたサリーシャは自身の能力の限界に早々と見切りをつけ、転職口としてギルド協会の門を叩いていた。
様々な分野の試験の全てで及第点以上を叩き出し、かつ手厳しい上司による三か月間の研修期間を耐え抜いた者だけが名乗る事が許されるギルド職員は、多くの人々の憧れの存在であり、かつ給料制の職業の中で最高所得である為、競争倍率は三桁と四桁を常に彷徨う程だった。
そんな人生最大の山場とも言われるギルド職員試験を、何年もかけて勉学を積み立てた浪人達がいる中、彼女はたった数ヶ月の勉学を経て一発で合格した。これだけでも彼女の優秀さは窺い知れただろう、しかしまだ甘い。
試験に合格し、研修を難なくこなし終えた彼女はその勤勉さと知力の高さをギルド協会本部に認められ、たった一年で本部役員として迎えられる事となったのだ。その証拠に彼女の着る薄い赤茶のロングコートの胸襟の、ギルド本部役員のみが付ける事を許された銀鷹のピンバッジが悠然と輝いている。
だがしかし、ギルド本部役員を十数年続け、他の追随を許さない程に知恵の塔を築き上げた彼女は今、彼女ですら知り得ない事態に巻き込まれ────唖然としていた。
「……はっ?」
辛うじて口から漏れたのは、気の抜けた疑問だった。だがそれも仕方がない、何せダンジョンに足を踏み入れた途端、彼女は出口の見当たらない明かりの灯った洞窟内に転移していたのだから。
「……待って。朝来た時にはこんな罠なかったはず……」
たとえ回避不能な事態に巻き込まれたとしても、彼女は至って冷静だった。今朝の自身の行動と照らし合わせ、それが恐らく自身の為に用意された転移魔法陣なのだと推測を立て、そして天井へ向けて叫んだ。
「ちょっとダンジョンマスターっ!! 一体何のつもりなのよっ!!」
誰かがそこにいる前提で怒鳴り声をあげるサリーシャ。しかしダンジョンマスターはダンジョン内の事を常に監視する事が出来る、という事を彼女は経験で知っていた為、その様な行動を取っていた。そしてその彼女の考えは正しかったらしく、どこからともなく声が返って来た。
”いやいや、まさか見ていたのを見抜くとはね。驚いたよ”
「……それで? こんな大掛かりな行動を取った理由は何なのです?」
”理由はそちらの”対談する場を設けて欲しい”っていう要望に応えたまでさ。
……と言っても、転移魔法陣を使って移動するって案はうちの者が出したんだけど……”
「うちの者……供給者の事ね。
まぁいいです。早速本題に入らせて貰いたいのですがその前に……」
言いかけた所で彼女は何かを探し求めるかのように周囲を見渡したが、どうやら見つからなかったらしく、再び天井に焦点を合わせた。
「ダンジョンマスター、まずは机と椅子二脚を用意して頂いても?」
”……あー、面談式を望んでいるのか。分かった、とはいえダンジョンマスター自らそちらに赴くわけにはいかないから、代理の者を向かわせよう”
「代理の者?」
予想外の単語に思わず聞き返すサリーシャだったが、それに答える声は一向に聞こえなかった。その事に少し苛立ちを覚え、無意識に表情に現われていたのだが、当然それをダンジョンマスターは見ていない筈が無かった。
「……何なの、こんなダンジョンマスター初めて────きゃあっ!?」
悲鳴を上げる彼女の眼前で、突如として強烈な閃光が放出される。しかしそれも一瞬の事、腕で顔を覆っていた彼女が恐る恐るそれを下ろすと、既に光は消失し、その代わりとして彼女がいつの間にか出現していたテーブルに腰掛けていた。
「……ぁ」
声は、出る筈も無かった。何故ならそこでにこやかに座っているのが、彼女の知識では事実上存在しないと定義された者だから。存在していたとしても自分などが決して会える筈のない、生物ピラミッドで間違い無く頂点付近に位置する種だから。
「て、天使……?」
天使。神を信仰する者であろうがなかろうが殆どの者が一度は耳にする、神に仕えし者。背中から一対の純白の翼を生やし、赤の装飾が細やかに施された白無垢の正装に身を包み、森精人並みの肌の白さを持つ、古文書に「モンスター」として記載されていた、”神の代行者”。
そんな伝説上の生物を前に、全身の震えを抑えるので精一杯だった彼女は力の入らない足でじわじわと距離を詰めていった。
「ふふっ、そんなに怯えなくても良いんですよっ?
どうぞこちらにお掛けになって下さいっ」
「っ……」
顔色は変わらず、しかし部屋に良く響く声をぶつけられたサリーシャは、生物的に絶対的な力量差がある事を身体に叩き込まれた。最早、彼女の前にゆっくりと腰を下ろし、そこでじっとしている事さえも烏滸がましいと思い込み始める勢いだった。
血の気が干潮の如く一気に引き、冷や汗が止まらないサリーシャの心情を諭した彼女は、率先して声を発する事にした。
「初めまして、私の名前はエイリーン。旦那さ……ダンジョンマスターの代理人としてお話を伺いに来ました」
「……っひゃ、ひゃじめましてっ!?」
「……内なる強心」
彼女の威厳に完全に呑み込まれたサリーシャは、真面な挨拶をする事もままならない状態だった。これでは”秀才”と”冷静”の二つを武器にしてきた彼女の面子が丸潰れである。
流石に不憫だと感じた彼女はテーブルの下でそっと、彼女に魔法を掛ける。それは精神の安定を促進する魔法であり、それによってサリーシャの心は落ち着きを取り戻していった。
「……すみません。お見苦しい所を」
「いえいえ、お気になさらずっ」
「……サリーシャ・メイバスタです。以後お見知りおきを。
では早速ですが本題に入らせて────」
自身の心が平穏を取り戻せたのは目の前の天使のお陰だとは、サリーシャも気付いていた。しかし、腰に付けていた魔法鞄から資料を取り出しながら、彼女はさざ波の心の隅で切なる願いを必死に唱えていた。
(……お、お願いだから早く帰らせてッ!?)
何もかもが自身の持つ常識を逸していたその日の正午過ぎ、サリーシャは頭痛と胃痛の板挟みになりながらも必死に話を勧めようと奮闘するのだった。
この後サリーシャの体重が数キロ落ちたとか落ちてないとか……
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