8.遂にアレが……!!ですっ♪
奴隷達を購入したその翌日。朝早くから蒼汰はシスに向かっていた。
「そう言えば、供給量は増えたのか?」
『はい。今現在では一日当たり901CPとなっています』
「増えたのは700CPか。もしかして、奴隷達の中から七人だけしか供給者として認められてない?」
『その通りです。この七名が供給者として登録されています』
PCの画面に表示されたのはメイド十二人の中でも年長組と年少組の計六名と、ボーイ三名の中で最も若い少年の七名の顔写真。その多くが、昨日の蒼汰の話に好印象を感じていた者である。
「う~ん、やっぱりそう簡単に供給者には認められないっぽいなぁ」
『供給者として認められるには、この場所で過ごしていく事に前向きでないといけませんので、供給者でない残りの八名は何かしら不安や不満を抱えているのかと思われます』
「そうなのか?」
『はい。昨日の夜中にそんな会話をされていましたので』
「盗み聞きとは悪趣味な……」
『……そう言う事を仰るのですね、マスターは』
「な、何だよ……」
『私が盗み聞いているのが悪趣味だと言うのであれば、今後一切彼ら彼女らの監視をしませんが宜しいのですね?
扉を完全に施錠している深夜帯にもし私が盗み聞きや盗み見をしていなければ、私を持つ者以外の全員が部屋の移動を出来ませんが。これがどういう意味を持つか……分かりますよね?』
「わ、分かったからそんな一気に喋るなよ……」
朝一番の皮肉をたっぷりと頂きげんなりする蒼太。低いテンションのまま、彼はもう一つの新たな日課の方をシスに尋ねる。
「そう言えばシス、今日もデイリーボーナス届いてるんだよな?」
『はい。内容は確認出来ませんでしたが確かに届いています。開きますか?』
「そうだな、頼む」
『かしこまりました───どうやらレアガチャだったようです』
シスの言葉と同時に、彼の足元に例の赤い箱が出現する。不意に現れる事が最早日常茶飯事となりつつある為、蒼汰もこれと言った反応を示す事はない。
と、丁度そのタイミングで彼らのいるLDKルームの扉が開かれる。エリン達女性陣三人だった。
「あっおはようございます旦那様っ♪」
「おはようアオタ殿」
「おはようございます、お兄さん」
「おはよう」
「旦那様っ、それってもしかしてっ?」
「ああ、今日もガチャだった」
「おおっ!! やりましたねっ!!」
赤い箱を目にした途端明るかった表情を更に輝かせるエリン。その後ろで「今日こそ私が……」などと言う怨念がかった声が聞こえてくるが、彼女の耳には届いていないらしい。
丁度四人掛けのソファである為、蒼汰の左右に分かれて座った三人は彼の顔を窺う。
「さぁアオタ殿っ、今日もジャンケンをしようではないか!!」
「いや、今日はしないけど?」
「なぁっ!? ど、どうしてっ!?」
「昨日勝った順番に引けばいいだろ? 一々ジャンケンしたがるとか、どんだけ負けず嫌いなんだよ……」
「じゃあ今日はお兄さんが引くんですか?」
「いや、先にクラリスが引いていいよ。昨日の勝ち順からすれば次クラリスだし」
実際は蒼汰とクラリスが同時に負けている為どちらが先でもいい筈だが、大人として先を譲ったというのが彼の内心。蒼汰はクラリスに対し少し甘い所が多々見受けられる。
「じゃあ私が引きますね……ギースさん、色々邪魔です」
「じゃ、邪魔っ!? というか、色々って!?」
「はいはい。ほら早くどいてあげろって」
「うぅ……どんどん私の扱いが酷くなっていく……」
クラリスに言葉の洗礼を受け、蒼汰に催促されるギースは酷く肩を落としながらも席を立ち、クラリスが通れるように反対側のソファへトボトボ歩いていく。そうして蒼汰の足元にある赤箱のレバーに手を掛ける。
「いきますよ……えいっ」
力の抜けるような掛け声と共にレバーが下ろされる。そうして取り出し口に落ちて来たカプセルの色は────銀。
「や、やった!! やりましたよお兄さんっ!!」
「おおっ!! よくやったぞクラリス!!」
まだ中身の確認すらしていないのに、銀色のカプセルが出たというだけで大袈裟に喜ぶクラリスと蒼汰。
ハイテンションのまま少女はカプセルを拾い上げ、それを光の球へと変え溢れ返らせる。ただ、その球の量が異常だった。
「こ、これマズくないか……?」
「お、お兄さん止めてくださいっ!?」
「ムリムリ!! え、エリンどうにか出来ないか!?」
「わ、私にも無理ですよっ!?」
「お兄さんっ!? まだ止まらないですっ!?」
「おおお落ち着くのだクラリス様ぁ!?」
クラリスの手からとめどなく溢れ出す光球は地面を這い、何かを探し求めるように蠢いている。明らかに、普段とは全く異なった現象がそこで起きてしまっていた。
そうして蒼汰達のいるソファから少し離れた所、テーブルとの間の開けた所に光が集まり出し、そうして何やらドラム式洗濯機の様な見た目の機械らしき物体が現れた。
「……何だこれ?」
『マスター。大当たりです。これがあの”CP変換器”です』
「……マジで?」
『マジです。大マジです』
「…………ぅ」
『ぅ?』
「ぅおっしゃぁぁぁぁぁぁぁ~~~~っ!!!!!!」
シスの言葉を聞いた蒼汰は、ただただぶっ壊れた。
「マジか!? 漸くキターーーーーーーッ!!!!」
「す、凄いテンションですね……」
「あ、あぁ……こんなアオタ殿、初めて見たな……」
「……旦那様っ!!」
「おおっ、どうしたエリン!!」
「こういう時は皆で喜びを分かち合いましょうっ!!
全員でハイタッチしましょうっ!!」
「ハイタッチか!! おしやろう、今すぐやろう!!」
「えぇ……やるんですか……」
「いいではないかクラリス様。さあっ、こっちへどうぞ」
「おし、じゃあせ~のっ!!」
「「「いえ~いっ!!!!」」」「い、いえ~いっ……」
いい歳した大人達(一名は違う)が謎の機械を囲みその上で全力のハイタッチをするという、何ともカオスな状況が生み出される。ノリノリでやる大人達が少女から浴びせられる冷ややかな視線に気付かないまま、暫くの間その愉悦に浸るのだった。
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CP変換器という魔法のアイテムを手に入れてから、蒼汰達は食事よりもまず先に奴隷メイド達を引き連れ世界樹へとやって来ていた。シスにCP変換器を運ばせた先でする事など、たった一つ。そう、変換である。
「ご主人様。言われた様に花を百本摘んで来ましたっ」
「おし、確認するからちょっと待ってろ」
奴隷メイドの一人、年齢の割に小柄で服を押し上げる程の豊満な胸を持つ少女が抱えていた大量の花を受け取ると、蒼汰はCP変換器の円形の蓋を開きその中に放り込み蓋を再度閉じる。見た目、使用方法共にドラム式洗濯機そのものであるそれは、名前の通りドラムの中にある物を分解しCPに変換するというダンジョンマスター全員が喉から手が出る超便利アイテムである。
変換自体は数秒もかからずに終わり、機械に取り付けられている赤ランプの点滅がその合図である。
「おっ、変換終わったみたいだな。どれどれ……」
点滅を確認した蒼汰は蓋を開け、花束の代わりとしてその中に置かれていた一枚の小さな紙切れを取り出す。そこには黒字で『変換素材:魔力草・百本,変換CP:3,000,000』と書かれていた。
「うん、問題無さそうだな。お疲れ様、中で休憩していいよ」
「はい、分かりましたっ」
主人からの合格の合図を貰いにこやかになる少女は、そのまま大樹の扉を通っていく。それを見送った後、周囲を見渡し人のいない事を確認した蒼汰は不敵な笑みを浮かべ始めた。
「ふっふっふ……こりゃボロ儲けじゃねーかっ!!」
確かに彼の言う通り、CP変換器で魔力草を変換するのは非常に効率が良かった。一本当たり30,000CPが変換される魔力草は、世界樹に数十万本近く咲いている(シス調べ)。その全てを変換すると兆単位のCPが獲得出来てしまう。その為蒼汰は奴隷メイド達とエリン達の計十八人に、一人百本ずつ摘んで来るように指示を出していた。それだけで合計54,000,000CPの変換になるのだ。
現在百本集めてきた奴隷メイドの人数は十三人。残り五人を悪人面で待つ蒼汰に、足元から諫める声が這い上がって来る。
『マスター。余り欲望に忠実ですと足元を掬われる恐れがあります』
「ん? そんな事分かってるけど?」
『でしたら』
「それでもな……近くにこんな大量のCPがあったら何としてでも手に入れるってのが筋だろっ!!」
それが正義だと言わんばかりに胸や声を張る蒼汰。強欲にも程があると言ったものだ。
『……はぁ。もう好きにして下さい』
口頭上で溜息を吐くシスは、どうかこのまま何事も起きませんようにと祈るのだった。




