7.奴隷を買おう!その三、ですっ♪
「…………」
「ご主人様、釘を打ち終わりました」
明かりという明かりが星や月しかない世界樹の根本付近で、蒼汰と数名の奴隷達がベッドの骨組みを作るべくトンカチを振るっていた。因みに蒼汰が”ご主人様”呼びされるようになったのはギースの指示である。
「おっ、早い。じゃあこっちの二段ベッドを作るのを手伝ってくれると助かるかな」
「分かりました!」
彼の指示を聞いたタキシード姿の少年は素直に頷くと、蒼汰の制作している物より進捗の悪い所へと向かっていく。
トレーニングルームで寝泊まりする事となる奴隷メイド達のベッドは、蒼汰の意向で二段ベッドを六つ用意する事で決定した。元々十分な広さはあったのだが、やはりトレーニングルームという体裁だけは保っておく為、ちゃんとした寝室を用意出来るまではスペースの一角にベッドを固めておく、と言う事である。
そうして淡々と作業が続けられ、気が付けば六つの二段ベッドの骨組みが完成していた。
「ふー、皆お疲れ様。取り敢えずエリン達が夕食の準備をしていると思うから、それを邪魔しない様にベッドをトレーニングルームに運んでしまおう」
「「「「はいっ」」」」
─────────────────────────
「「「「おぉ…………」」」」
トレーニングルームにベッドを運ぶ蒼汰達が目にしたのは、巨大な長方形テーブルに並べられた豪勢な料理。ただ豪勢な訳では無く、サラダや肉料理が交互に並べられている事から健康面にまで配慮の為された、繊細さまで兼ね備えていた。
食欲を限りなく刺激するその空間に視線を寄せる蒼汰達に、皿を片手にギースが話しかけてくる。
「アオタ殿、無事にベッドは完成した様だな」
「まあな。それよりもうそろそろ完成する?」
「するぞ。これと後何皿か運べば終わりだからな」
「おっけ。じゃあこっちもさっさと終わらせるよ」
ギースと会話を終えた蒼汰はベッドの骨組みを持ち上げている奴隷達に指示を出し、テーブルのある方とは真逆の方へとそれを運んでいく。六つを等間隔に、短い面を壁にくっ付ける様にして置いた後、蒼汰はテーブルの上に置かれていたシスに向かって言葉を投げかけた。
「シス、トレーニングルームの横に何とか安くで小部屋を用意出来ないか?
三人ぐらいが寝れるぐらいの広さの」
『家具等を一切置かないのであれば、30,000CP程で作る事が出来ます』
「前のクラリスの部屋の十分の一か。随分安くなったな」
『はい。以前のクラリス様の部屋よりは狭くなりますので、三人分の布団を敷くと他に物を置けなくなります』
「そっか、じゃあそれで頼む。ついでに布団も一式敷いていてくれ」
『かしこまりました。布団一式は一人分で5,000CPですので、三人分で15,000CPとなります』
「なるほど……あぁ、あの骨組みの所にも全部布団一式を用意してやっておいてくれ」
『かしこまりました。全部で60,000CPです』
「……今のCP残高は?」
『5,329CPです』
「うっわ……マジのギリギリか……」
シスから聞かされた情報に胃がキリキリと痛む感覚を覚える蒼汰。そんな彼の後ろの方では、奴隷達が突然現れた布団に驚き声を上げていたのだが、どうにも気付く様子が無い。
「……あっ旦那様っ♪」
「……ん? エリンか、お疲れ様」
ふと声がした方に首を捻ると、台所の方の扉からエプロンを消しながらエリンが駆け込んで来る。魔法で自在に衣服を変えられる彼女のその光景に慣れていない奴隷達は、またしても定型的な驚嘆を見せてしまう。そんな中で唯一普通に返事を返した蒼汰は、同時に労いの言葉をかけていた。
「あの料理、エリン一人で作ったのか?」
「いえいえ、奴隷の中でも料理の上手な子達が手伝ってくれましたよっ。皆、中々良い手際だったので思っていたより早く終わったんですっ♪」
笑顔でそう言うエリンが通って来た扉からは、メイド姿の奴隷達がぞろぞろと入って来る。疲労を浮かべる者や満足感に満ちていた者など、その表情は様々である。
「そっかそっか、なら良かった。じゃあ早速皆で晩ご飯としようか」
「はいっ♪」
頷くエリンと蒼汰はテーブル席の一番壁側、皆を見渡しやすい位置に腰掛ける。それを見たギースやクラリスも同じ様に彼の隣の席に座る。そして今回の主役である奴隷達が座れば食事を始められる、はずだったが奴隷達はテーブルを挟み分かれて立っていた。
「……えーと」
「アオタ殿、奴隷達は命令されないと食事しないぞ。そう言う風に教え込まれているからな」
「マジか」
セルスト国で売買される奴隷は商館で奴隷としての振る舞い方を教え込まれる。大前提が「主人の命令無しに行動する事は禁止」というものであるため、こうして食事の際も許可が無ければ勝手に食べようとはしない。
ギースからその話を聞いた蒼汰は、改めて奴隷の扱いの現実を知らされ僅かばかりの嫌悪を感じてしまう。それを払拭する為、奴隷達に指示を出す。
「あー、皆も座って欲しいかな。食事は基本皆で食べるか、それか自分達で作って食べる様にして欲しいし」
「「「「えっ……」」」」
奴隷達の方から、驚嘆の息が多く漏れる。主人からそんな言葉を掛けられると思っても居なかったのだろう。
戸惑いが空間に伝播する中、それを打ち破るべくギースが声を上げた。
「ほらっ、お前達の主人であるアオタ殿がこう言っているのだ。ここは従うのが礼儀だというものだぞ?」
「「「「は、はいっ」」」」
彼女の鶴の一声によって奴隷達は次々と席へ座っていく。これでは傍から見ればギースが主人である。 これで漸く食事を取れると思った蒼汰だったが、これからの食事の際にこの様にして逐一指示を出すのは面倒だと感じ、先にその事について触れる事にした。
「えっと、食べる前に聞いて欲しいんだけど。明日からでいいから守って欲しいルールを追加するからしっかり覚えて欲しい」
無言で話を聞く奴隷達にアオタが提示したルールは
・食事、風呂、トイレ等生活に必要な行為は好きに行動して良い
というものだった。
「台所の場所はもう覚えたと思うから、そこの冷蔵庫の中の物は自由に使って貰って良いよ。
……って言っても、今月結構怪しいからあんまり大食いされると困るけどね。
あぁそれと、これも一番大事な事なんだけど、食事の時はこうやって手を合わせて”いただきます”っていうように」
「それを一番大事にするって……」
「アオタ殿は相変わらず変な拘りを持つのだな……」
食事前の挨拶を一番大事だと言い切る彼にため息交じりの言葉を吐き出すクラリスとギース。と言っても二人は以前からその事について彼から散々に聞かされて来た為、寧ろここでまた聞かされる事に関しては同情の余地があるだろう。
「っと、折角の料理が冷めたら勿体無いし、そろそろお喋りはここまでにしよう。
じゃあ早速、いただきます」
「「「「い、いただきます」」」」
蒼汰の合掌の後、ぎこちなくではあるが見よう見まねで続いた奴隷達は目の前の料理に箸を伸ばす。まだ状況に慣れていないからか、その箸に僅かながら震えが乗っていた。
「お、美味しいっ!!?!」
「凄いっ!! 噛んだら肉汁がジュワ~ッて!!」
「野菜がこんなにシャキシャキしてるなんて!!」
料理が皿から消え始めると同時に、各場所から歓喜の声が上がる。それは驚愕の面もかなり強かったが、嬉々として料理を口に運ぶ奴隷メイド達のその姿に蒼汰も、他の三人もつい微笑みを零してしまう。
「いいな、こういう光景」
「ですね、旦那様っ♪」
蒼汰の小さな呟きに素早く反応を示すエリン。そうして一層賑やかとなった食卓で、蒼汰達は舌を肥やしていくのだった。
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