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6.奴隷を買おう!その二、ですっ♪






 結局蒼汰の奴隷全員メイド計画は遂行される事となり、浴室前の更衣室にまず女性奴隷達が着替えを始めていた。




「ストッキングに下着にワンピース、エプロンとカチューシャを受け取った者から順次着替え始めていってくれ」




 一列に並ぶ奴隷達の先にいたギースはシス片手にテキパキと衣類を配る。蒼汰の指示で引率役に抜擢された彼女は、それ相応の役割を全うしている最中だった。




「あっ、これ服がピッタリ」

「この下着可愛いよね?」

「メイド服って思ってた以上に着心地良いね」




 端々の汚れ破れた麻のワンピースを脱ぎ捨て、雪の様な肌に包まれる裸体が更衣室に広がる。幼い少女から成熟した女性まで、色とりどりの女の子達がメイド服へと着替えていくその光景はまさに神のみぞ知る世界、といった所だろうか。

 そうして全ての奴隷達が着替え終え、再びギースの前へと整列する。




「よし、全員揃ったな。……ったく、どうして私だけこんな破廉恥なんだ……」


「あの、ギース様。どうかされましたか……?」




 奴隷達の着るメイド服の露出の少なさに苦笑を浮かべるギースに、一番近くにいた少女が声を掛ける。彼女の様子の変化に気が付いたのだろう、その目は不安を露わにしていた。




「あ、あぁ何でもない……よし、それではアオタ殿の所に戻るか」


「「「「はいっ」」」」




 彼女のその言葉に、奴隷達は健気に声を揃えて返事した。






















————————————————————————————————————







「おぉ……壮観だな……」




 目を見開く蒼汰の前に並ぶは、メイド服に身を包んだ大小様々な女性エルフ達と黒のタキシード姿の男性エルフ達。人数にこそ大差はあれど、見栄えとしては丁度いい具合に釣り合っていた。因みにだが、この衣装を揃えた事によりCP残量が底を尽きかけてしまったが、蒼汰はその事に気が付いていない。

 ちょっとした優越感に浸る蒼汰に、その隣からエリンが声を掛ける。




「旦那様っ、この後はどうされるつもりなんですか?」


「取り敢えずは皆の寝床を考えないといけないかな。男女を同じ場所で寝かせる訳にもいかないし、かと言ってこの人数分の部屋を用意しようと思うとCPが足りなくなるだろうし……」


「? 奴隷なんですから、このトレーニングルームで雑魚寝させれば良いんじゃないんですか?」


「えっ……」




 当然と言った表情で首を傾げるエリンに、蒼汰の口から思わず声が漏れてしまう。彼女の抱く奴隷の扱いと、彼の抱く奴隷の扱いが食い違ったのだ。




「あー、えっと……エリン、俺は出来れば皆を対等に扱いたいんだ」


「そ、そうだったんですねっ!! ごめんなさいっ。私、酷い事を言いましたよねっ?」


「いいよ、これは仕方ない。エリンの中にあった情報がそう言う風になってたんだろうし、そもそも奴隷の扱いってのが俺には良く分からないから」


「うぅ……本当にごめんなさいっ」


「大丈夫大丈夫。……でも、ここを使うってのは案外アリなのかもしれないな」




 普段からモンスターの召喚以外では余り用途のないこのトレーニングルームは、広さだけで言えば十分過ぎる。出来ればこの無駄になってしまっているスペースを有効活用したい、と言うのが蒼汰の意見であった。




「……あっ、そうか。無いなら作ればいいのか」


「えっ? 旦那様、何かいい案を思い付いたんですかっ?」




 先程まで自身の失言に耳を垂らして落ち込んでいたエリンだったが、蒼汰のその言葉に嬉々とした反応を見せる。彼の事となると、こうも感情を急変させられるのが驚きである。

 おやつを前にした子犬の様な態度を取る彼女に苦笑しつつ、蒼汰はエリンに、そしてその他の者に今後の予定を告げた。




「えーと、取り敢えず今から皆の寝床となるベッドを皆で作っていこうかなって思う。その為に今から役割分担をするので、ちゃんと聞いておいて。

まずはエリン、エリンとギースを除いた人数分だけスキルでレイピアを用意してくれないか?」


「はいっ♪」




 上機嫌な彼女は右手の平を地面に翳すと、そこから溢れる様にして白い光が漏れ出る。数多くのそれらはユラユラと地面に辿り着くと、その一つ一つが細剣の様な物を形作っていく。そしてその光球が弾け飛ぶと、地面には白輝する細剣が幾つも並べられていた。




「出来ました、旦那様っ♪」


「おおサンキュー。本当に、相変わらず超絶チートなスキルだな……」


「こ、これは私の黒銀剣を真っ二つにしたレイピア……

あ、アオタ殿、一体何に使うつもりなんだ……?」


「レイピアなのに切れ味が鋭いっていうのを利用して、世界樹の所から木を切ってこようかなって思ってな。それを木材に整えれば、ベッドの骨組みを作れるんじゃないかなって」


「なるほど、確かにそれならベッドを買う費用を抑えられるし、奴隷達にも仕事を与えられると言う訳か」




 蒼汰の説明に納得の意を示した彼女は、突然目の前に現れた細剣に動揺していたメイド服の奴隷達を一瞥すると、再び目の焦点を彼に戻す。




「しかし、どうして私とエリンの分を除いたんだ?」


「ああ。それは二人には悪いんだけどもう一度買い物に行って来て欲しいと思って。まだお金は残ってるんだろ?」


「まぁ確かに、あまり大きい買い物は出来ないが多少は残っているぞ。

……それで、私とエリンで何を買って来ればいいのだ?」


「主にはベッドを組み立てるための釘とトンカチかな。後は出来るだけ沢山食材を買い込んで来て欲しい。一応このポーチ渡しておくから、とにかく大量に買い込んで来てくれ」




 そう言うと彼はいつの間にか手にぶら下げていた、完全に名前詐欺である無限収納ポーチをギースに手渡す。




「ああ分かった。では早速行って来るとしようか」


「あっ待って下さいギースちゃんっ!! まだ偽装魔法掛けてませんよっ!!」




 勇み足でトレーニングルームを後にしようとするギースを追いかけるエリン。「仲良くなったなぁ」としみじみ感じながら二人を見送った蒼汰は、ふと気になった事を足元の万能機械に尋ねた。




「そう言えば、シス無しで向こうの世界にどうやって行くんだ?」


『今現在はマスタールーム、いえ、司令室からあちらの世界へと向かう事が出来ます。以前は私がダンジョンの入り口とルーム内の扉を直接繋げた為、何処からでも出ていく事が可能でしたが』


「へぇ、便利なもんだなぁ」


「お兄さん。そろそろ行動した方が良いんじゃないですか?」


「っとそうだったな。

えー、今から材料の木を伐りに行くので、そのレイピアを持って俺に付いて来て。レイピアは危ないから絶対に他人に向けない様に。

……クラリス、一番後ろから皆がはぐれない様に見ていてやってくれ」


「はい。分かりました」




 クラリスの頷きを確認すると、蒼汰は戸惑う奴隷達を差し置いて真っ先に細剣を拾い上げる。見た目以上に軽かったそれは筋力の少ない彼でもすんなりと持ち上がってしまう。

 彼が難なく持ち上げた事によって多少の安心感は得られたらしく、その直後から奴隷達も身体を強張らせながらもそれに近付き、危険物を取り扱う様にそれを両手でゆっくりと持ち上げると、切っ先を地面に向け大事そうに抱えた。そして、既に歩き出していた彼の後を追っていくのだった。





















—————————————————————————————






 世界樹での行動は思いの外スムーズにいった。最初こそ目の前に広がる神秘的な大草原に奴隷達は声にならない感嘆を漏らしていたり、生まれて初めて見るモンスター達に恐怖を抱いていたりしたが、いざ伐採作業に入ると皆真面目に作業に取り掛かっていた。




「狼さん、こっちの木が伐れたので運んで貰っても良いですか?」


「ガウッ」


「あっ、私の方もお願いします。って蝶さん達も運べるんですか、お願いしますっ」




 細剣片手に少女達が従魔にそう声を掛けていく。

 蒼汰の指示で奴隷達が木を伐り、伐り倒されたそれを従魔達が運ぶ、という作業分担になった為、奴隷達は一時恐怖を感じていた相手に半ば強制的に声を掛けなければならない状況を作らされてしまっていた。ここで暮らしていく以上、従魔に慣れてもらいたいというのが蒼汰の狙いであり、奴隷達の反応を見る限り少し厳しいと感じていたのだが、意外にもすぐに慣れたらしい。

 暫くして、蒼汰達全員が伐り倒した木を運び終え、世界樹に集合していた。




「えー、皆お疲れ様。次はこれを木材に整えていくので、まずは近くの人と三人組になって」




 その声を受け、奴隷達は近くの者と三人組を作っていく。元々奴隷達の構成は男三人に女十二人だったので、蒼汰とクラリスを除けば全員が三人組を作る事が出来た。

 全員が分かれた事を確認した蒼汰は、クラリスから受け取ったシスを片手に製材作りの手順を伝えていく。そして、一チーム当たり三本作る事をノルマとし作業が再開される。




「よし、俺達もやるか」


「頑張りましょう、お兄さんっ」




 彼の隣に立つクラリスが、空いている方の手でガッツポーズを作る。普段あまり手伝いを出来ていない事に引け目を感じていた彼女には、こうして仕事が出来るのは表面に現れる程に嬉しい事なのだろう。蒼汰の目にもそれが十分に映っていた。

 積み上げられていた木々から一本を引きずり出し、蒼汰とクラリスが細剣を器用に使いながらそれを四角く切り整えていく。そうしていると、大樹に取り付けられていた扉が開きエリンとギースが帰って来る。




「ただいまです旦那様っ♪」


「アオタ殿、頼まれていた物を買って来たぞ」


「おお、サンキュー」


「それで……私は何をすればいいのか?」


「取り敢えずエリンと二人であそこに残ってる木を一本製材してくれないか?」


「ああ、任せてくれ」


「私も頑張りますっ♪」




 荷物を全て彼に預けた二人は彼に言われた様に積み木の方へと駆け寄っていく。こうして二人が加わった事により、製材作りは捗りを見せる。

 そうして日が完全に落ちた頃に漸く、全ての木を加工する事に成功したのだった。



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