5.奴隷を買おう!その一、ですっ♪
ちょっと投稿間隔が開きますがお許しを^^;
CPを抑えた割には豪勢な昼食を済ました午後、ギースが奴隷を買いに行くのにエリンも付いて行った為、LDKルームには蒼汰とクラリスの二人が残っていた。
「何か……こう、緊張するよな」
紺のハーフパンツに白シャツ、その上から薄灰のパーカを着るという、珍しくパジャマ以外を着てルーム内を過ごす蒼汰。いい歳した大人が人と会うにしては緊張のし過ぎな気もするが、一方のクラリスもまた同じ様に全身を強張らせていた。
「そ、そうですね……何人来るか分かりませんし、それにその人達とちゃんとお話出来るかどうか……」
「そうだよなぁ……大人数に囲まれたら間違いなく喋れなくなるよなぁ」
顔から笑顔が消える二人の溜息が、綺麗に重なり合う。クラリスはともかく、蒼汰がコミュニケーションに不安を持つ必要は無い筈なのだが、当の本人はそれに気が付いていないのだろうか。
そんな二人の元に、ギース達が帰って来る。
「帰ったぞ、アオタ殿」
「ただいまですっ旦那様っ♪」
「おっ、おうおかえり……って奴隷達は?」
蒼汰の目に映ったのはメイドと白ワンピの二名のみ。予想外の出来で素直な声を上げる彼に、ギースが言葉を付け加える。
「あぁ、それだが人数が多くてな。今トレーニングルームで待ってもらっているよ」
「なので旦那様達を迎えに来たんですっ♪」
「なるほど。なら皆で行こっか」
「そうですね。皆さんと一緒なら私も大丈夫な気がします」
シスを抱え立ち上がる蒼汰に続きクラリスも腰を上げた所で、四人はトレーニングルームへと向かった。
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トレーニングルームに入ると、中央付近で横一列に十数名が立ち並んでいた。
「……多くない?」
「それはだな。この前手に入れた金塊を売ったら所持金が倍以上になってしまって、買えるだけ買って来たらこうなってしまったんだ」
「金塊やべぇな……」
呆然とする蒼汰の隣で簡潔に事情を話すギース。エリンによる偽装魔法は未だに解けていない為、奴隷達には彼女が全く知らない一般エルフに見えている。だがこの偽装魔法、蒼汰達三人には発動しない様になっている。そのため彼の目には普段と変わらないギースが映っていた。
ギースとそんな雑談を交わす蒼汰はふと奴隷達の方に視線を向ける。どうやら突然現れた素知らぬ青年に戸惑っているらしく、左右の者とひそひそ話をしていた。よく見ると男女比では女性の方が倍以上いるらしく、性別関係なく全員麻のワンピースを着ていた。勿論全員エルフである。
「アオタ殿、取り敢えず自己紹介を」
「ああ、それもそうだな」
ギースの言葉に押された蒼汰は一歩前に出ると、大勢の視線がプレッシャーとなって襲い掛かって来る。手に溜まった汗を太股で拭った彼は、軽く息を整えると奴隷達を一瞥した。
「えっと、初めまして。俺はここのダンジョンを経営している大川田蒼汰って言います」
蒼汰が”ダンジョン”という言葉を発した瞬間、奴隷達のざわめきが一気に大きくなる。彼ら彼女らからすれば、自分がそんな所に来るとは思ってもみなかったのだろう。
「ほらっ、お前達静かにするんだ」
見かねたギースの声により、奴隷達が皆一斉に口を閉ざす。この態度を見るに、奴隷を買った際多くの者が、いや恐らく全員が彼女の事を主人だと思い込んだ筈。でなければここまで統率の取れた黙り込みは出来ない。
「……これ、俺よりギースから説明した方が早いんじゃね?」
「なっ、いやそれではアオタ殿が名乗った意味が無くなってしまわないか?」
「まぁそうなんだけどさ。でも手短に済むならそっちの方が良いからな、頼む」
「アオタ殿がそう言うのであれば仕方がないな。
……であれば先に偽装魔法も解除するべきかな。エリン、お願いして良いか?」
「分かりましたっ♪」
主人の言葉にやれやれと言った様子で前に出るギースは、ずっとニコやかにしていたエリンにそう声を掛ける。するとエリンの指から出た光球がギースを包み込み、それが弾け飛ぶと奴隷達の目の色が急変した。
「……ええっ!? あ、あの衛兵隊長様っ!?」
奴隷達の一人が、そう言葉を飛ばす。奴隷達には世情を知る術など無いため、その場に居た奴隷達の誰もがギースの件を知らなかった。その為、ギースは未だ衛兵隊長の地位にいるものだと誤認していたのだ。
久しく自身の元居た地位で呼ばれたギースは嬉し恥ずかしと言った様子で口元を緩ませたが、慌ててそれを戻すと通る声で言明した。
「皆静まれ。私は今はもう衛兵隊長ではない、今はここにいるアオタ殿のメイドとして仕えている身なのだ」
「そ、それでその様な格好を……」
「ああ。そしてこの方が、今この瞬間からお前達が仕える相手でもある。お前達を買ったのは私だが、基本的にはこの方の言う事を聞くように。良いな?」
「「「「は、はいっ!!」」」」
彼女の最後の一言に、奴隷達が口をそろえて返事する。この人数を相手にしてここまでハキハキと物を言えるギースも大したものだが、奴隷達の従順っぷりも中々のものである。
「さ、取り敢えずアオタ殿の話をよく聞くようには言っておいたから、後は任せたぞ?
正直これから何をするのか私は全く知らないからな」
「あぁ、十分だ。流石は衛兵隊長だけあっていい演説だったよ」
「そ、そうか? いやー、私もまだまだ衰えていないと言う訳だなっ」
蒼汰からの素直な褒め言葉にはにかむギースは、役目を終え一歩後ろへと下がる。下がった後でも嬉しそうに頬を朱く染める彼女から視線を外した蒼汰は、彼女から引き継いで話し始める。
「えー、今ギースから聞いた様に、基本的には俺の言う事を聞いて貰えればいいかな。
……で、何話せばいいんだっけ?」
「旦那様っ、目的ですよっ!!」
「ああ、そうだった。……それで、皆にはダンジョンの供給者としてここで生活して貰うんだけど、別にこれと言って酷い労働をさせるとかじゃ無いから安心して欲しい。それで……」
そこで言葉を打ち切って考え込んでしまう蒼汰。確かに、今回奴隷を買った目的というのが”一日当たりのCP供給量を増やす”である訳で、奴隷達にはダンジョンから供給者として認められて暮らすだけで十分なのである。彼ら彼女らがする事など皆無に等しい。
何を言うべきか悩んだ挙句、彼はまずその『ダンジョンに供給者として認められる』という部分を目指す事にした。
「ここでは大事なルールがあって、皆にはそれを守ってもらう必要がある」
「……何なのでしょうか、そのルールとは」
奴隷達の中からゆっくりと手が一つ伸びる。よく見ると先程ギースに声を掛けていた、奴隷達の中で最も背の高いエルフ女性である。年齢的にも最高齢である彼女は恐らく自分が先を切って話さないといけない、と感じているのだろう。他の者達は不安げな様子で彼女を見守っていた。
そんなエルフ奴隷達の光景にクラリスの時の光景を重ね見た蒼汰は、フッと微笑むと声を発した。
「心の底から楽しめ。不幸が100あったらその100倍幸せになれ。
これが、ここで暮らしていく為のルールなので憶えておいて欲しい」
「お兄さん……」
「「「「…………」」」」
彼のその言葉に目頭の熱くなるクラリス。奴隷達も、まさか自分達の事を思った言葉を聞けるなど思っても居なかった為、多くの者が言葉を失ってしまう。年頃の女の子達に至っては薄っすらと涙を浮かべてすらいた。
その感動が伝播し、一つの大きな感動の渦が出来上がる中、高身長の彼女が蒼汰に向けて突然頭を下げた。
「貴方の様な方に買われた事を、私達は幸福に思います。ここにいる皆を代表して言わせて下さい」
「い、いやいやそんな!! まだ何もしていないんだから、えっと、頭を上げて!!」
今まで生きてきた中で他人に頭を下げられるという行為を受けた事の無かった蒼汰は、女性のその言動にどうしていいか分からずオドオドしてしまう。
彼の言葉を受け頭を上げた女性の目には、喜びの蜜が溜め込まれていた。それが余計に蒼汰の思考を掻き混ぜてしまい、思い付いた事をそのまま口から零してしまう。
「そ、そうだ!! する事と言えば皆にはうちでメイドをして貰えばいいんじゃないか!!」
「えっ、め、メイドですかっ?」
蒼汰の言葉に、その女性が大きく目を見開いていた。他の奴隷達も同じ様に驚きを見せ、再びザワついてしまう。
その微妙な空気感の間に冷静さを取り戻した蒼汰は、自分の発言に更に付け足す。
「流石に何もしないで暮らす、ってのも変に気を遣うだろ? 俺は違うけど……
だから、皆には掃除とか自分達の食事の準備だとかをして貰いたいんだ。
エリン達も、それでいいよな?」
「当然ですっ♪ 旦那様のやりたいようにして下さいっ!!」
「私も、えっちな事をしないなら良いです」
「……俺ってそんなにエロい事してない気がするんだけど」
「目線がえっちです」
「そんなぁ!?」
「あんまりだぁ!?」と泣き崩れる蒼汰にギースが同情の手を掛ける。それに普段の何倍もの人が苦笑を浮かべ、何ともシュールな光景が完成してしまうのだった。
遂に奴隷を買うことになった蒼汰。完全に自分の趣味でメイド計画を打ち立てるとは……羨ましいっ!!
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